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通りすがりのロボットウォッチャー
ケータイがロボットになる?

Reported by 米田 裕


 まー、ちょいと前のことだが、新聞に携帯電話の新製品の写真が出ていた。なんと携帯に手足がついてロボット型になっているのだ。

 見た瞬間、マンガ的に表現すると、目が飛び出し、口をアガッと開けて、そのまま顎がカタンと下へ落ちた状態となった。

 「えらいもん作りよったなぁ」とインチキ関西人となって寄り目でゴキブリのように手足をバタバタとさせてしまった。

 その携帯電話とは、ソフトバンクモバイル株式会社の「フォンブレイバー SoftBank 815T PB」という機種だ。

 『ケータイ捜査官7』という番組とのタイアップ商品とのことだ。番組は、この3月の時点では始まってないのでどんなものだかはわからないけど。

 その昔、ライターがロボットに変形する『ゴールドライタン』というアニメがあったが、それ以来の携帯品ロボット変形モノといえるだろう。

 『ゴールドライタン』も変形する玩具が発売されていたが、ライターとしては使えなかったと思う。子供のおもちゃで火が点いてはあぶないしね。

 それが「フォンブレイバー815T PB」では、本当に携帯電話として使える。もっとも、ただの変形おもちゃも幼児向けに発売されるようだが、そちらは外見のカッコだけを模して、効果音なんかが鳴るものらしい。


ロボット型のケータイは誰に似合う

 さて、このロボットに変形するパーツ付の携帯電話は、いったい誰が持つとしっくりとするのだろうかと考えてしまう(悩むことでもないか)。

 携帯電話は常に持ち歩くものだから、それの外観は他人が見ることになる。

 ロボットの姿をした携帯電話だと、わしらのようなオッサンにはあわないだろうなぁ。

 電車のなかで、頭の毛も薄くなりかけたおっちゃんが、ロボットの形をしたケータイを持って、いろいろなポーズを作っていたら、他人はちょっと引くだろうしねぇ。

 または街中で、手足のついたケータイを耳に当てて会話をしていたらどーだろう? あんまりオトモダチにはなりたくない人に見えそうだ。

 『ケータイ捜査官7』の主人公は高校1年生とのことだから、ターゲット年齢はそこらへんかな? その年代の女子は、デコケータイなんて持っているだろうから、オトコノコはロボットケータイということで、あんまり無理はないか。

 これが小学生や中学生なら欲しいアイテムかもしれない。電話にも使えて、変形させて遊べるおもちゃだしね。

 どちらにしろ、子供にケータイを持たせる親もいるから、「あのロボットに変形するケータイが欲しいじょ~」と子供に言わせればプロデュース側の勝利かもしれない。


人工知能で広がるケータイの役割

 持ち歩く人を激しく選びそうなロボット型ケータイ「フォンブレイバー815T PB」だが、人工知能型待ちうけアプリを搭載していて、持ち主とのコミュニケーションをとるという。

 これはまだ遊び感覚のものかもしれないが、この先、人間のパートナーロボットを考えるといいところをついているかもしれない。

 ケータイに限らず、このごろの家電や携帯電気製品は多機能になっている。そして、操作はよりむずかしくなっている。

 簡単さをめざすことで、スイッチやボタンを減らしたり、階層メニューとすることでよけいに操作がむずかしくなったりしている場合もある。

 マニュアルをいつも持ち歩けるものでもないので、機械の側から「何をしたい?」と問いかけてもらえた方がいい。

 そうしたときに人工知能型インターフェイスを持ち、ロボット化した家電や機器が力を発揮しそうだ。

 高齢者向けの携帯電話は、メニュー類をいっさいなくして、声を判別して操作できるようになるものにしてはどうだろう。

 「息子へ電話」とか「家へ電話」など、電話番号を打たなくても電話がかかると便利だし、電話番号もカメラで自動判別して入力する。それらはロボット化したケータイが考えて動作する。

 使う側は、ケータイにしたいことだけを話せばいい。

 「ちょっとケータくん、電話番号を登録してもらいたいんだけど」

 「はい、わかりました。電話番号が書いてある名刺、ハガキなどをカメラの前に置いてください」

 「置いたわよ」

 「…………」

 ピピッ!

 「電話番号はゼロサン××××××ですね。住所はトーキョート……。○○○○さんでいいですか?」

 「あら電話番号が違うわよ」

 「失礼しました。正しい電話番号を読み上げてください」

 なんてね。

 ケータイのロボット化は、外見はともかく、コミュニケーションパートナーとして進化していくと便利そうだ。


ケータイはすでに電話ではない?

 僕個人としては携帯電話が嫌いで、なかなか持たなかった。しかし、日本人口の8割以上が携帯電話を持ち、おさいふケータイといった電子マネー端末となったときに、これは電話を超えた物になると予感して購入したのだった。

 現実には、電話としてはほとんど使ってない。ワンセグやインターネット使用での情報収集、モバイルSUICA、電子マネー、記録としてのカメラ使用といったなんでもありの小さな機械として使っている。

 先日も出かけるときにうっかりとして、財布を持たずに出てしまった。気づいたのはほとんど駅につく頃になってからだ。

 以前なら財布を取りに家まで戻るしかなかっただろう。しかし、今はケータイを持っているおかげで、交通機関はどうにでもなるし、電子マネーの使える店なら現金を使うこともない。

 ま、いっかーとそのまま出かけてしまった。

 JR、私鉄の電車、地下鉄、バスもケータイでOKだし、買い物もSUICAが使える店を選んで、本やパソコンサプライなどを買い、途中で小腹がすいたので、駅ナカで立ち食いそばを食って帰ってきた。

 まだ限定されているが、財布なしでもなんとかなるものだ。モバイルSUICAにしているおかげで、電子マネーが足りなくなってもネットでチャージできる。これのおかげで財布なしでもなんとかなったわけだ。


連れ歩けるロボットにケータイは進化する?

 脱線したが、人のパートナーとして、人型ロボットを連れて歩くのはなかなか実現しないだろう。子供サイズのロボットといっても、それが人の後ろをついて歩いていたら、やはりじゃまになる。

 ロボットとして連れ歩くのは、コミュニケーション能力をに特化した小さな携行品になるだろう。

 などと書いていたら、星新一さんのショートショートを思い出した。『悪魔のいる天国』という文庫に収録されている『肩の上の秘書』という作品だ。

 近未来? かどうか、時代はぼかしてあるが、すべての人の肩にロボットインコが乗っている時代の話だ。

 人は簡単にしか喋らない。しかもつぶやくだけだ。すると肩のインコが丁寧にくわしく話してくれる。また相手側のインコの話を聞き、内容を要約してくれるというものだ。

 人は「買え」だの「いらない」といった簡単な言葉しか発しなくなっている。コミュニケーションをとるのはロボットインコなのだ。

 いつかはケータイがこうした役割を持っていくようになるだろう。

 現在、ビジネスで人と会うときに、最初にするのは名刺交換だ。名刺をもらっても、最近の会社の肩書きはやたらと長い。あとで連絡をするにも電子メールを使うことの方が多いが、印刷のメールアドレスは打ち間違いしやすい。

 近い将来、ケータイを向き合わせるだけという時代になるかもしれない。

 「初めまして、商品開発化第2部商品開発チーム1課新商品企画担当課長代理補佐の○○でございます」

 「通りすがり出版第3編集部新雑誌企画室デスク代理の○○でございます。本日はよろしくお願いいたします」

 とケータイ同士が話し、アドレス類を交換する。人間同士は「どうも」と話すぐらいだ。

 会話は要約してメモとして取ってくれる。予定も覚えておいてくれる。

 わからないことがあれば、ネットに接続して調べてくれる。


 ど忘れをして思い出せずに気分がもやもやとして困ることがある。電車の中なんかでこの状態になると、知らないうちに「う~」とか溜息をついて、あわてて咳払いをするといった恥ずかしい状態になったりする。

 「あれ、あれは何だっけ? あの『オーケストラの少女』の子役はなんと言ったっけ?」

 昔、とあるバーで、大の男が5人集まって飲んでいるときに、こんな会話となった。誰1人思い出せずに、全員にフラストレーションがたまった。

 「ジュディ・ガーランド」

 「ちがう!」

 「えーと」

 とうとう、真夜中だというのに知ってそうな知人へ電話(もちろんケータイのない時代ね)するという、ただの酔っ払い迷惑者となった。

 店の公衆電話に硬貨を入れ、出た相手にいきなり「オーケストラの少女の子役は?」と聞く。真夜中に迷惑千番な話だ。

 「それだー!」

 大人4人がわくわくとして待っているところへ、電話をした男が戻ってきて、「ダイアナ・ダーヴィン!」

 「ああー!」

 皆の顔が笑顔となり、「スッキリした~」と口々に言い、さらに酒が進むといった具合だ。

 ケータイがロボット化し、ネットと連携していれば、こんなことはなくなるだろう。小松左京さんの小説『果てしなき流れの果てに』では、地球の静止軌道に3つコンピューター衛星があり、全地球規模で瞬時に通信で情報が取り出せる未来が描かれていたが、今やインターネットとケータイによって同様のことができる。

 ただ、これだけネット上の情報が増えてくると、有用な情報の選別は人間のオペレーションではむずかしくなっていくだろう。

 世の中の90%はクズである。というスタージョンの法則が働くからだ。ここでは一部だけしか引用してないが、全部を知りたい人はネットで検索してみよう(笑)。


ケータイが相棒(バディ)となる日に期待する

 コミュニケーションパートナーとしてのケータイがもっと進化をすると、身体の異変にも気づいてくれるようになるだろう。

 高齢で1人暮らしだったり、持病を持つ1人暮らしだと、突然の身体の不調が怖い。

 家のなかで倒れたときに、早期に誰かに発見してもらい、救急車を手配してもらえば助かる場合もある。

 それができないから1人暮らしには不安がある。しかし、日本の都市部では高齢化と核家族化が進み、1人暮らし者は多い。

 電気ポットで安否確認をするとか、ぬいぐるみに監視カメラを入れておくとか、いろいろな試みがされているが、ロボットケータイにまかせる手もあるのではないだろうか。

 脈拍や血圧などは簡単なセンサーで監視できるし、知能とコミュニケーション能力とネット、電話機能を持ったケータイとの組み合わせなら、かなりなことができそうだ。

 持ち主の異変を感じたら、その度合いによって、救急車の手配、離れた家族への連絡、もしくは近くの知人への連絡なんかをしてくれる。こうした方面へのアプリケーション開発にも注力してもらいたい。

 5年、10年後、相棒ロボットとしてのケータイを実現してもらいたい。人-機械、人-人コミュニケーションのインターフェイスとなる可能性を持つのはケータイだからだ。

 ケータイに手足をつけて、ロボットというのには、持つ人間を著しく限定するわなぁと思うが、人工知能を持ち、コミュニケーションパートナーとなっていくことには大賛成だ。

 知能や認識といったロボット技術がケータイに取り込まれていき、ケータイがロボットとなる日に期待したい。


URL
  【2008年2月28日】ソフトバンク、ドラマと連携した「フォンブレイバー 815T PB」(ケータイ)
  http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/38716.html

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米田 裕(よねだ ゆたか)
イラストライター。'57年川崎市生。'82年、小松左京総監督映画『さよならジュピター』にかかわったのをきっかけにSFイラストレーターとなる。その後ライター、編集業も兼務し、ROBODEX2000、2002オフィシャルガイドブックにも執筆。現在は専門学校講師も務める。日本SF作家クラブ会員



2008/03/28 00:58

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