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鹿野 司の「人生いろいろ、ロボットもいろいろ」
−BigDogの秘密にせまる−

Reported by 鹿野 司

(C)Boston Dynamics
 皆さんお久しぶりです。

 と、いうか連載するつもりだったこのコラム、たった2回で諸般の事情で中断しちゃってたんですが、今回からやっとこさ、再開したいと思います。

 しばらくは、週間ペースくらいのいきおいでやっていくつもりなので、どうかごひいきに、よろしくお願いします(でも、オレのことだから、すぐに息切れしちゃって月刊ペースくらいになるかもだけど)。

 さて、まず、復帰第一回目の話題は、最近ネットを賑わせている、ボストンダイナミクス(Boston Dynamics)社のビッグドッグ(BigDog)についての分析。

 見たことがない人はとりあえず、ようつべ(youtube)のビデオを見てみてね。そのすごさは、まさに百聞は一見に如かず。誰でも一目見ればわかると思う。

□youtube のURL
http://jp.youtube.com/watch?v=W1czBcnX1Ww
□ボストンダイナミクス社本家のビデオ
http://www.bostondynamics.com/content/sec.php?section=BigDog


 これをはじめて見た人は、キモイ、黒タイツ穿いた人が向かい合って荷物を運んでる、クモみたい、などなど、これまでのロボットに対する印象とは、全く違う感想をもったはず。余りに生き物っぽいので、蹴るのは可哀想という意見もあったりして。

 とくに凄いのは、1分30秒あたりからの氷の上でつるつる滑っているのに、なんとか復帰するところ。

 まあ、膝が床についちゃってはいるけど、瞬間的に二本の足が同時にジャンプしていたりもしている。これほど躍動的な動きのロボットを目にしたことがある人は、たぶん、あまりいないんじゃないだろうか。

 それから、ガレキを踏破しているときに、足を踏み外しても大丈夫とか、じゃり道や雪に足が埋まって歩いていけるというところ。

 このありとあらゆる外乱に耐えられる、超ロバストネスは凄すぎる。これは、素人だけじゃなく、ロボットの歩行を研究している全ての研究者が、驚嘆したんじゃないかなあ。

 ボストンダイナミクスは、もともとMITのレッグラボからスピンアウトした会社のようだ。

 レッグラボは20年以上前から、日本で馴染みのあるやり方とは違うアプローチで、歩行ロボットの研究をやってきている。

 特徴は、足のメカが関節ではなく、ピストンが伸び縮みする方式で、基本が走行というか、ぴょんぴょんジャンプで移動する。

 ただし静止することはできなくて、一ヶ所に留まるときもぴょんこぴょんこジャンプし続けていてせわしない感じ。そのあたりの動きが、ちょっと可愛いかったりして。

 1980年代には、走っていって空中回転するこんなロボットも作っていた。

http://www.ai.mit.edu/projects/leglab/robots/3D_biped/3D_biped_flip.mpeg

 このレッグラボのロボットを見ると、ビッグドッグもちょっと面影ある感じがするよね。

 ビッグドッグはスペックを見ると、時速4kmで歩行し、35度の傾斜を上り、150kgの荷物が運べるという。

 全長1m、高さ70cm、重量は75kgだ。

 もともと、軍用の荷物運搬ロボットとして開発されていて、以前にロボットのラバが作られたって話題になったことがある。

 荷物の運搬性能だけなら、ラバのような生き物のほうが、積載能力も上だろうし、燃料も簡単で、ロボットがそれを越えることはたぶん無理だろう。

 ただ、ラバは使わないときも生かし続けないといけない。その管理は大変で、そういう条件が厳しいところでは、この種のロボットが使えるのかな。


生き物っぽさのひみつ

 ビッグドッグの歩き方を見ると、生き物としか言いようがない動きで、明らかに、アシモなどで見慣れたロボットの歩行とは違う感じがすると思う。

 実際、制御やハードウェア的にも、これまでぼくらがよく知っているロボットとは、だいぶ違った感じのものになっているはずだ。

 あまり詳しいスペックは発表されていないけど、面白いのは、ガソリンエンジンを使って、水力アクチュエータを動かしているってところと、ものすごくたくさんのセンサを持っていることだ。

 ステレオビジョン、レーザージャイロ、接地接触、接地加重、関節位置、関節間力から水圧、油圧、エンジン温度など、外界の様子だけでなく、ロボットの体内の様子もかなり詳しくモニタしていることが伺える。

 ぼくらが今まで見慣れてきたロボットは、ホンダのアシモに代表できるだろう。

 ホンダが1996年末にP2を発表したとき、ロボットがあれほどしっかりと歩けることに、みんなが衝撃を受けたことは間違いない。

 あれも、当時は、中に人が入っているんじゃないかと冗談がいわれたものだ。

 ただ、今の見慣れた目で見てみると、アシモの動きはは、やっぱりどことなく機械っぽい。

 一方、ビッグドッグは、どっからどうみても生き物にしかみえない。

 余談だけど、youtubeには、こんなベータバージョンの動画がアップされていたりして。

http://www.youtube.com/watch?v=VXJZVZFRFJc

 性能はこっちの方が上ではないか( ・∀・ )

 それはともかく、この生き物っぽさは、ビッグドッグのことをどんなに見慣れたとしても、P2やアシモの時のように、印象が変わることはないだろう。

 なぜこんな違いがあるのかというと、おそらく制御技術やハードウェアにも、根本的な違いがあるからだ。

 まず、アシモなどがやっている方法を、ここでは、王道的な制御と呼んでみる。

 このやりかたは、大雑把にいうと、ある正しい歩き方というか、歩き方の「軌道」というものが最初にがっちり決まっている。プログラムされている。

 そして、床面の状態が変わるとかの外乱に対しては、決められた軌道に補正をかけることで対応しようとする。

 だから、外部からの乱れがない場所を歩くと、全く同じ形で、同じリズムで歩き続ける。

 その揺らぎのなさが、いかにもメカニカルな感じで、無意識に、ロボットやねえと感じさせるわけね。

 また、この王道だと、普通の地面、滑る地面、雪の中、じゃり道、がれきの上、蹴られたときなどなど、条件が激しく違う時は、それに適する正しい歩き方の軌道を、あらかじめプログラムで与えておいて、状況が変わる都度、いちいちモードを切り替える必要がある。

 ただ、雪にずぼっと足が埋まって、それでも足を引き上げてきちんと歩くとか、ガレキを踏破しているときに踏み外しても平気、なんて歩き方を、こういうあらかじめプログラムを与えておく方法で実現するのは、極めて難しい。


 一方ビッグドッグには、たぶん最初から正しい歩き方などというものは、与えられていないはずだ。

 転びかけたとき、あんなふうに足がよれよれになっても、見事にバランスを取るなんて軌道を、事前にプログラムしておくことは、まあ今の技術では不可能といって良いと思う。

 では、一体どうやってあの動きができているのか。

 推定だけど、おそらく4本の足が、とりあえずハードウェアが許す動ける限りの適当な動き方をしてみて、その動いた結果どうなったかの情報をもとに、4本の足が相談して、次はオレはこう動いたらいいかな〜みたいなことを繰り返していく感じじゃないかと思う。

 これは東大の多賀源太朗さんの、グローバルエントレインメントという考えと一致する原理だ。

 グローバルエントレインメントとは、ある振動子が環境と相互作用しながら動きを作っていくもので、2次元平面でのシミュレーションでは、まさにビッグドッグみたいな感じのロバストな歩き方を実現できていた。

 まあ、説明は長くなるので、今回はこれ以上は触れないけど、詳しくは次回以降の話題で説明することになると思います。

 いずれにしても、生物はたぶん、こういう方法で歩いていて、だから一歩一歩の歩き方が、アシモほど規則的にならない。というか、できない。

 地面に触った足裏の感じとか、風の影響とか、まわりの環境要因や内的な要因が、歩き方に強い影響を与え、なんとなくふらふらしていて、この規則的じゃない感じを、ぼくたちは生き物っぽさとして受け取るわけね。

 また、こういうやり方だと、蹴られたとき、雪に足が埋まった時、滑ったとき、がれきの踏破、走行とジャンプなどなども、全て同じやり方で対応して動くことができる。

 アシモ的、王道的制御では必要なモードチェンジなんてのも必要ない。

 走るのも、おそらくは基本的にリズム(歩行周期)を変えるだけで実現しているのだろう。

 まあ、トロット(斜めの足が着地)とギャロップ(前2本後ろ2本が同時に着地するけど、全ての足浮いている瞬間がある)という二通りの歩容をやっているので、ある程度のプログラムの作り込みはあるかもしれないけれど。

 グローバルエントレインメント方式は、制御という点では、アシモほど複雑なやり方は必要ない。そのかわり、外界、内界のセンサ情報をなるべく詳しく、たくさん得る必要がある。

 そのセンサ情報を使って、ロボットの体と環境の相互作用のループをコントロールすることで、激変する環境の中でも転ばず歩いていけるわけだ。


アシモとBigDog、そのベクトルの違い

 BigDogはハードウェア的にも、僕たちに馴染みのあるものとは、ちょっと違っていると思う。

 上でも書いたけど、Webページにあるスペックには、ガソリンエンジンで水圧アクチュエータを動かしているという記述がある。

【お詫びと訂正】水圧アクチュエータに関しては認識に誤りがありました。こちらの記事の最後に詳細が掲載されておりますので、ご一読ください。

 初期型のボディの足の付け根付近を見ると、シリンダーのようなものがある。それがたぶん水圧アクチュエータだろう。

 水圧アクチュエータは、油圧と同じように力を伝えるものだけど、油よりさらさらした液体を使うので、漏れないようにするには高い加工精度が必要になる。その代わり、小型で力の伝達が早く、かつ強い力が出せるんじゃないかな。

 もっとも、これはぼくの当て推量なので、みなさんは眉につばを付けておいてね。

 日本でも、1980年代の極限作業ロボットプロジェクトで、水中ロボット用に試作されたことがあった。

 アシモなどに見られる日本のロボットは、関節に回転式のサーボモータが入っているのがほとんどだ。

 でも、ビッグドッグは、この水圧アクチュエータを使って、ボディー内から、各関節を通る腱を引っ張ることで、多関節筋を構成しているのではないかと思う。

 もちろん、一つの関節だけを駆動する腱が動作の基本を担っているだろうけど、多関節筋も仕組の中に入っているように思う。

 多関節筋とは、複数の関節をまたいで繋がっている筋肉のことで、人間はもちろん、動物の体には必ずこういうしくみがある。

 この多関節筋がどういう役割を果たしているかが近年明らかになってきていて、その一つは外乱に非常に強いということだ。

 たとえば足首、膝、腰の関節をまたいで一つの筋肉が繋がっていると、足裏が変な角度でぐにゃっと地面に付いたりしたときでも、その力の加減が、自動的にふくらはぎや太ももの筋肉全体に伝わって調整されたりする。

 それから、ボストンダイナミクス社にあるビデオを見ると、急坂を上っているビッグドッグの前側の足の関節の向きが逆になっている。

 通常は、二人の黒子が向き合って荷物を運んでいる形だけど、このときは、二人の黒子は進行方向に向いている。

 たぶん、これは足の向きを付け替えているか、膝のロックを逆向きに切り替えるメカがあるのだろう。


 もし、膝のロックの向きを切り替えて、足の曲がる方向を変えても同じように歩けるとするなら、それも王道的な制御ではかなり難しくて、グローバルエントレインメント系の制御の証拠になる。

 さて、それでは、BigDogのようなロボットが、これからのロボットの方向性なのだろうか。アシモのようなロボットは、もうお払い箱なのか。

 これは必ずしもそうとは言えない。

 なぜなら、BigDogにも苦手なことがあるからだ。

 たとえば、アシモならミリ単位で、決められた場所にぴたっととまることができる。センサの精度を上げれば、もっと細かな動きもできるだろう。

 でもビッグドッグは、だいたい適当なかんじで、ミリ単位の正確さはたぶん無理。

 アシモは外乱には弱いけど、機械のような正確さは実現できる。

 ビッグドッグは外乱に強いけど、機械のような正確さはできない。

 ビッグドッグの氷の上で滑っているところのビデオを見ると、立ち直った後もふらふらして、あらぬ方向に曲がって行きかけている。

 雪道などを歩いているときも、かなりふらふらしていて、いつ道を踏み外すか、はらはらするような感じもある。

 つまり、人間の意志通りに、きちんと、ある場所で、指定したタイミングで、指定した方向に曲がるとかは、この制御方法だとやりにくいと予想できる。

 まあ重心を変えるとか、平衡感覚を制御することで左右の方向付けなどはコントロールできるだろうけれど、軌道が決められているわけではないので、大雑把にしかやれないはずだ。

 人間には、古くから機械というものに抱いてきたイメージとして、人には真似のできない正確さというのがある。

 そして、ロボットに対しても、機械のような正確さや失敗しないことを求めている。

 アシモなどは、そういうイメージのロボットと言えるかも知れない。

 だけど、それを達成しようとすると、融通が利かず、外乱に弱くなる。

 一方、ビッグドッグのように、大きな外乱にも耐えられるようにすると、機械のような正確さは失われ、生き物のように失敗したり間違えたりもするようになる。

 機械のように正確さと、外乱への耐性(ロバストネス)は、おそらくお互いに矛盾する要素なのだろう。

 その妥協点をどこに持ってくるかが、実用的なロボットの課題といえる。

 用途によって、正確さを取るか、ロバストネスを取るか、そのバランスの取り方の判断は、色々ありえるはずだ。

 だから、アシモ的、王道的制御は今後も必要とされるし、かなり長い間、主流であり続けるとは思う。

 ただ、人並みに融通が利いて何でもやれるロボットは、どうしたって、人並みにドジっ娘になる宿命があるんじゃないかなぁ。

 娘?


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2008/04/04 00:05

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