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通りすがりのロボットウォッチャー
脳とロボットを直接つなぐBMI
[00:10]

通りすがりのロボットウォッチャー
人は脳のみで生きられるか?

Reported by 米田 裕



 もう売られることもなくなったソニーの「QRIO」だが、自動車1台分の価格と言われていた。

 自動車といってもたくさんの種類があるので、数十万円~数千万円と幅があるが、一般にはなかなか買えない価格だ。

 自動車なら、目的がはっきりとしている。それに乗って自分と数人が時間を気にせず、自由にどこかへ行くことができるし、高級車となればステータスシンボルにもなる。

 ところが、小型の自律2足歩行ロボットでは、まだ何に使えるのかがわからないし、買ったからといって生活が劇的に変わることもない。

 乗用車と天秤にかけると、やはり不利な気がする。小型の2足歩行ロボットは、しばらくの間、何に使えるのかわからない時代が続くだろう。

 そんなロボットだが、ロボットそのものではなく、ロボットの技術を使った福祉や介護、または人の失った機能を補完してくれる機械だったらどうだろう?

 欲しいと思う気持ちは強くなるのではないだろうか。誰もが普通に動いて生活をしたいと思っているからだ。

 ところが、人は老いていくと、身体の自由が奪われていく。また、病気や事故によって身体の機能が奪われることもある。

 そうしたときに、失った身体の機能をおぎなってくれる機械や人工の身体があれば、誰もが欲しいと思うだろう。


機械で身体を強化したら

 身体の機能を機械や人工物に替えていくと、究極的には脳以外は全部人工物になるという考えは昔からある。

 古くは1940年代のSF『キャプテン・フューチャー』に出てくる「サイモン・ライト」だ。高名な科学者だったが、自分の死期を悟り、脳だけを摘出、以後は透明金属の箱の中の培養液で生きている。その箱には視聴覚センサーがついているといったぐあいだ。

 1950年代となると、アメリカのSFは黄金期となり、身体を機械で強化した人間が数多く登場する。

 その後、'50年代後半から始まる米ソの宇宙開発競争時代になると、人間の身体のままでは宇宙へ出て行くことはむずかしいと、1960年にアメリカの医学者マンフレッド・クラインズとネイザン・S・クラインがサイボーグという概念を提唱する。

 サイボーグはサイバネティク・オーガニズムの略で、生物と生命のない装置との結合であるとされている。

 1960年代といえば、日本のテレビアニメの創成期である。この時代にはヒーローが数多く求められた。ロボット、宇宙人、未来人、超能力者、妖怪などあらゆるヒーローが考えられた。

 当時、テレビアニメの脚本にかかわっていたのは、日本の若きSF作家たちだ。『鉄腕アトム』でシナリオデビューしていたSF作家、豊田有恒さんは、他の企画会議でサイボーグと発言したところ、「細胞具」とメモをとられて苦笑したというエピソードがある。

 それほど知られた言葉ではなかったサイボーグを、日本全国津々浦々にまで定着させたのは故石ノ森章太郎さんの『サイボーグ009』だろう。『サイボーグ009』のマンガやアニメで、当時小学生だった僕たちでもサイボーグという言葉と、それがどのようなものなのかを知ることになった。

 サイボーグは超人ヒーローのひとつとして、遊びに取り入れられた。

 009ごっこをするときには、009の特殊能力のひとつ、奥歯を噛みしめるとスイッチが入り、マッハ5で動ける加速装置の真似をした。

 しかし、本当に早く動けるわけではないから、「加速装置!」と叫び、奥歯をかみ締めると、009役以外の者は、ゆーっくりと動くというルールだった。

 何度もやっていると、瞬間的にゆっくりになるだけで、その時間はどんどん少なくなっていった。ガキどもは自分が不利になることは大嫌いなのである(笑)。

 それでも、捕まりそうになったり、ピンチのときの一瞬だけでも「加速装置!」は有効なものだった。

 脱線したが、こうしてサイボーグはアニメのヒーローとして定着した。

 日本アニメの創成期に育った人間は、SFファンでもなく、科学マニアでなくても、ロボット、サイボーグなど、先端の科学用語や概念を頭にインプットされたわけである。

 その頃からほぼ50年。50年後の世界といえば科学が発達して、すごーい未来になっていてもよさそうだが、まだ人類は他の惑星へすら行ってない。

 ロボットやサイボーグもまだまだで、サイボーグが「生物と生命のない装置との結合」だとすると、そのインターフェイスはどーするのよ? とますますその難しさに気づくばかりだ。


生物と機械をつなぐインターフェイスは?

 サイバーダイン株式会社で外骨格型ロボットスーツ「HAL」が開発されているが、作動部分は全て身体の外側にあり、その制御には皮膚表面から生体電位差を検出して使っている。

 各部の筋肉を動かそうと思うと、脳から神経を通り電気信号となって伝えられる。

 それを皮膚の表面から、わずかな電位差として検出し、コンピュータに送りこんで解析して、どのように動くのかをHALのアクチュエーターに伝えるという仕組みだそうだ。

 身体の一部が欠損したり、脊椎を損傷して下半身が動かないといった場合にはどうなるのだろう。

 まだ神経へ電気信号が流れているなら、その神経の末端部のある身体の部位から指令を解析できそうだ。

 脊椎の途中までしか流れず、下半身まで流れない信号の場合、上半身で検出し、それが下半身をどのように動かすかを解析できれば、まだ動かすことができそうだ。

 それでは、身体へ命令を出す根源的な部分、脳にダメージを受けた場合には、どのようなインターフェイスが使えるのだろうか?

 脳卒中は脳梗塞や脳出血の総称だが、こうした病気になると、脳の細胞が部分的に死んでしまい、その部分によって身体のあちこちに障害が出る。

 半身不随が代表的だが、言語障害や視野障害、ふるえなどの症状が出ることもあるという。

 こうした半身不随が、ロボット技術で克服できればいいが、動作の命令を出す元になる脳から信号が出なければ、それを検出することもできないのではないだろうか?

 脳にはニューロンという神経細胞と、隙間であるシナプスがある。ニューロンは電気的に信号を伝達し、シナプスは化学物質で信号を伝達する。

 意識や思考、身体の動きは、脳の神経細胞の発火(インパルスとも言う)によって行なわれている。

 脳の神経細胞の軸索小丘で発火した電気信号は、軸索で次々に発火し、末端神経へと流れていく。その先にある筋肉を動かすことによって、身体の各部が動くわけだ。

 脳梗塞、脳出血で損傷を受けた領域では、神経細胞が死んでしまったわけだから、そこで発火は起こらない。したがって、その部分が受け持っていた身体の機能がなくなってしまう。

 では、外部にあるロボットスーツを動かすとすれば、何の信号を受け取ればいいのだろう?

 これは専門の研究者に聞いてみたいことのひとつだ。


サイボーグの明日はどっちだ

 ATR(株式会社国際電気通信基礎技術研究所)とホンダでは、脳活動を計測することでロボットを動かす基礎技術を開発しているが、これは脳の血流を測るものらしいので、脳梗塞患者には使えないと思える。

 となると、すでにプログラムされている歩行などの動作を、動く側の人の半身が行なうことで、それを検出し、動かない半身のロボットスーツを付随的に動かして、自律した行動をさせることになるという方法も考えられるが、自分では動かすつもりのない身体が、勝手に動くと、どのように感じるのだろうか。

 自分の意思とは関係なく身体が動くというのは、落語『らくだ』に出てくるように、死体に「かんかんのう」を踊らせるようなものだろうか。

 「かんかんのう きうれんす~♪」

 えらいもんですな。

 または、猫をかかえて手足を動かして遊ぶようなものだろうか。自分の意図しない外部からの力で身体を動かされるのは、どんな感じがするのだろうね。

 などと書いていたら、松下電器産業からリハビリ用グローブが発表された。やはり、動く側の手の動きをトレースして、動かない側の手を動かすものだった。

 同じ理屈で、半身を動かすロボットスーツも開発中とのことだ。

 サイボーグは、究極的には脳以外が人工物になってしまうらしいので、人工の身体からのフィードバックが脳に伝わらないと成り立たないように思う。

 ロボットの研究は人を研究することだという。その研究成果は、人が機械と融合していくのに使えるのだろうか?

 そして、サイボーグの技術は、人の生活に役立つものであってほしい。戦争やテロに使われるのはまっぴら御免だ。

 おあとがよろしいようで……。


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米田 裕(よねだ ゆたか)
イラストライター。'57年川崎市生。'82年、小松左京総監督映画『さよならジュピター』にかかわったのをきっかけにSFイラストレーターとなる。その後ライター、編集業も兼務し、ROBODEX2000、2002オフィシャルガイドブックにも執筆。現在は専門学校講師も務める。日本SF作家クラブ会員



2007/09/28 00:20

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