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目指すは「攻防一体のスーパーロボット」
第11回「ROBO-ONE」大会総合優勝『ヨコヅナグレート不知火2代目』

Reported by 森山和道

夢と憧れ、技術の結晶

第11回ROBO-ONE大会で優勝したDr.GIYさん
 太い腕、細い腰、長い足。パワーとスピードを兼ね備え、第11回「ROBO-ONE」大会で見事に総合優勝した『ヨコヅナグレート不知火2代目』は、「ロボットらしい」ロボットだ。ここでいう「ロボット」とは、現実のロボットよりもむしろ、アニメの世界でお馴染みの巨大ロボットのことである。

 「不知火」を製作した「Dr.GIY(ドクター・ギイ)」こと萩原佳明さんは「ところどころに今の30代のお父さんのこだわりがあるんです」と笑う。GIYさん本人は、1971年生まれである。小中学校時代にプラモやラジコンにはまった世代だ。GIYさんもガンダムをフルスクラッチで作ったり、ラジコンの競技会に出ていたそうだ。

 いまの本業は、DCモーターの試作設計である。とある会社で主に業務用のモーターの試作を行なっている。専門はコアレスモーターで、工場で使われるステッパから歯医者用のリューターまで大小さまざまな用途のモーターを手がけているという。

 そして「不知火」シリーズの特徴は、改造サーボの生み出すパワーである。今回の「2代目」はスピードを重視した機体だが、それでも下半身にはトルク60kg・cmのサーボが使われている。

 いっぽう漫画家になりたいと思っていたこともあるというGIYさん。つまり「不知火」は、本業で培われた技術力と、子どもの頃からの憧れを一体化させたロボットなのだ。基本ポーズがすっくと立った仁王立ちなのも、アニメのロボットの影響である。シルエットだけではない。こだわりはディテールにまで及ぶ。たとえば膝部分は「太陽の牙ダグラム」の主人公メカのパイプバンパーのイメージだという。フレームはアルミとカーボン、ボディの外装にはプラ板、アクリル、塩ビ、ガチャポンのパーツなどが使われている。

 アニメに出てきたロボットを現実のものにしたい――。その思いの結晶が「不知火」なのだ。


ヨコヅナグレート不知火2代目とは

 「不知火」は身長40cm、重量2.9kg。23軸の自由度を持つ。サーボは主に近藤科学製で、KRS-2350HVが5個、残りは同じく4000番系が使われている。2350HVはほぼノーマルのまま使われているが、腕に関しては肩のピッチ軸と肘が改造されている。パンチの速度を上げ、パンチ力を高めるためだ。ノーマルサーボのおよそ1.5倍に回転数を引き上げているそうだ。運動エネルギーは質量×速度の2乗なので、速度を少し上げるだけでもパンチ力は全く変わってくるのである。モーターのブラシ部も貴金属ブラシからカーボンブラシに変え、耐久性を上げている。

 脚部のロール軸はノーマルサーボで、やはりピッチ軸にトルク60kg・cmの改造サーボが用いられている。不知火は腕も足も大きく振り上げながら歩く。もちろんこれはスーパーロボットのイメージを大事にしているからだ。

 肘部分は120度程度可動するようになっている。先端部分をひじ鉄として叩きおろすことで、低い姿勢を取ったロボットからも「ダウン」を奪えるようになっている。これは初代「不知火」から2代目「不知火」に至る過程で作った兄弟ロボット「旋風丸」で有用性を確認したものだ。


ヨコヅナグレート不知火2代目 こちらは不知火の兄弟ロボット「旋風丸」 ヨコヅナグレート不知火2代目の上半身。球状のパーツはガチャポンのカプセルを使っている

いかにも“ヒーローロボット”然とした頭部のデザイン 膝周りのデザインは、太陽の牙ダグラムを参考にしているそうだ

【動画】ヨコヅナグレート不知火2代目による“演武”。非常に安定した動き 【動画】サッカーのデモ。力強いキックが印象的

 コントロールボードはRCB3のバージョン1.03を使っている。GIYさんは京商のロボットキット「マノイ」の開発にも協力しているが、そのときに使い始めた。とっさのモーション変更が容易で、会場でのピット作業が楽であること、そして何より小型であることから不知火にも採用した。現在のバージョンになって速度も速くなった。

 初代「不知火」は第4回ROBO-ONEから参戦しているが、そのときからずっと攻撃技はパンチ、キックと立ち技主体である。スリップ2回でダウン1回と見なすなど、歩行の安定性などを重視したレギュレーションになった第11回大会で不知火が勝利を勝ち取ったのも、立ち技をずっと育ててきたことが大きい、という。

 ROBO-ONEはやはり競技会なので、技の流行がある。「勝ち」を強く意識するとその時々のレギュレーションに合わせて技や機体を設計するほうが有利である。そして有利だと見ると多くの参加者がそちらに流れる。ROBO-ONE参加者にはどちらかというと、先にまず自分が作りたいロボットがあり、それをコスト、時間、技術の許す範囲で実現しつつレギュレーションに合わせていく、そしていくらかは勝ちも意識する、といった感じの人が多いが、そのなかでも「不知火」は、「こういうロボットを作りたい」という気持ちが全面に押し出されたロボットである。


瞬発力を重視し、バッテリはリチウムポリマーを使っている
 いまでもROBO-ONEのロボットの多くは、しゃがみポーズからの攻撃を中心としているものが多い。しゃがんで重心が低いほうが転倒しにくいからである。だが不知火は「しゃがんでないで立って闘おうぜ」をポリシーとして、自分は立ったままの状態で、しゃがんでいる相手に打ち勝つ方法を磨いてきた。強烈なひじ鉄や下へのパンチ、小型ロボットならば蹴り出してしまえるほどのキック力は、その結果である。

 バッテリにはリチウムポリマーが使われている。ジャンプ時など瞬発力を必要とするときには最大110アンペアまで出せるようにしている。同じGIYさん製作の「旋風丸」の倍以上の容量だ。そこまでは実際には必要ないとは思うが「ヘビーユーザーのこだわり」だという。


実験の繰り返しと経験が生んだ自信

 とにかく性能ギリギリまで引き出すことを意識しているGIYさん。以前は機体に無理をさせてギアを多く壊してしまったこともあったが、4000番用の強化ギアが商品化されてからは壊していないという。周辺の環境もだいぶ揃ってきたようだ。

 不知火のほうも、これまでは勢い余って、という対戦シーンがたびたび見られた。製作者のGIYさんともども、力みすぎに見えたこともあった。だが今大会では最初から「のっていた」。ボルテージがあがっているのが傍目にも分かり、しかも全てがうまく噛み合っているように見えた。GIYさん自身も「負ける気がしなかった」という。「ボルテージが上がっていたのは優勝するの分かっていたからです。今日は調子がいい、勝てるぞと思ってました」。

 勝てるときは、そんなものなのかもしれない。ただ、「勝つためには何かきっかけが必要なんでしょうね」とGIYさんは語る。では、きっかけとはなんだろうか。

 ROBO-ONEには上位陣だけが出場する、興行イベント「ROBO-ONE GP」があるが、今年のGIYさんはそこでも「旋風丸」で優勝している。そこで身につけた圧倒的な場数と自信、それが今回の優勝を招き入れたのではないか。GIYさん自身は、そう分析している。

 自信を身につけるには、ある程度、勝ち馴れることが必要だ。勝つためには勝たなければならない。ではそもそも最初に勝つためにはどうすればいいのだろう。何がきっかけなのだろうか。


 GPで好調だった背景には実は理由がある。一時期、GIYさんは、体調不良で2週間ほど入院していた。第10回ROBO-ONEが終わった後だ。ベッドの上は暇だ。そこで、ドクターの許可を取り、「旋風丸」に改良を加えたのだという。ここでマシンに徹底的に向き合う時間を作ったことが、その後の好調を呼んだ。

 ロボットには機体ごとにクセがある。たとえばロボットを素早く歩行させるためには足回りだけではなく上体を積極的に使う必要がある。GIYさんのロボットも歩行時にはまず上体をぐっと前へもって全体の荷重を移動させ、それに合わせて足を運んでいく。その移動量をどの程度にすればいいか、どのような姿勢、動かし方が最適か、それを見出すにはひたすら「実験あるのみ」だという。

 なにより、ROBO-ONEは3分間のバトルである。3分間、きちんと動き回れるかどうか、それは実際に、毎日毎日、実験して確かめるしかない。何より、機体の特性は動かしているうちにも変わっていく。動かしているうちに熱によって必ず足のサーボのトルクはたれてくるし、ジャイロのニュートラルの位置も変わってくる。どのくらいまで膝を曲げていられるか、どのくらい上半身を前にしておけば3分間こけずに耐えられるか。ひたすら実験を繰り返した。

 ちなみに不知火と旋風丸にはジャイロを較正するためのモーションが組み込まれている。立っている状態に起きあがりモーションのコマンドを入れるとジャイロのゲインを較正するようになっているのだという。スポットライトの熱が集中するため、試合中もリセットしてやらないといけないのだそうだ。


 ROBO-ONE委員会も、歩行中スリップ2回でダウンを取るというルール変更を導入、歩行の安定性を重視する方向へとユーザーたちを誘導している。何よりも3分間きちんと歩き回れるかどうか。これが勝つためには何より重要な条件の一つである。ちなみに今回、GIYさんも半分の試合は相手のスリップダウンで勝利をおさめている。相手のスリップダウンで勝利が決まってしまうのは必ずしも気持ちいいものではないだろうが、それ以前に自分がスリップで負けてしまっては話にならない。

 歩いているときだけではない。今回の大会で何よりすごかったのが、攻撃を受けたときの安定性だ。最初からGIYさんも強く意識していたという遊さん製作の「ivre」との決勝戦。直撃を受けたものの、がっしり受け止めてはじき飛ばしたときには、会場がどよめいた。

 実は「不知火」には防御モーションはない。ROBO-ONEのロボットは攻撃するときに機体が不安定になって倒れてしまうものが多いが、不知火は、通常は低めにジャイロのゲインを設定している。それを攻撃モーション実行中に跳ね上げることで、攻撃の最中でも機体を安定させている。

 サーボのゲインも同様で、普段はゲインを落としているのだが、攻撃のときには一気にゲインを上げる。普段は力をぬいてリラックスしているが、相手にパンチをあてる瞬間だけ、ガッと拳を固めるようなイメージだ。足回りも同じことをしている。つまり不知火は、攻撃を受けた瞬間、自分自身の攻撃モーションを実行させることで体を固めて防御しながら攻撃を行なうことができるのだ。攻防一体である。

 もちろん、下手な設定をすると逆に暴れるので調整は必要だ。不知火の場合は、攻撃のときは通常の倍くらい出すようにしているという。調整の「コツ」を見出すにはひたすら実験あるのみだという。


【動画】第11回ROBO-ONE 重量級決勝。対「Ivre(イーヴ)」戦の様子。Ivreの攻撃を何度も受け止めているのがわかる 【動画】第11回ROBO-ONE 総合優勝決定戦「ヨコヅナグレート不知火二代 vs クロムキッド」

「ロボットを作る」は昔からの夢

 GIYさんが不知火をひっさげて「ROBO-ONE」に出場したのは第4回のときだ。きっかけは本業のモーター開発だった。そちらの仕事である調査をしていたときに、たまたま第1回ROBO-ONEの情報を見つけたのだという。自作人間型ロボットによるバトル――。1971年生まれ、中学生のとき「いつかは鉄人28号を作るぞ」と日記に書いていたGIYさんは当然反応した。実は会社に入ったときも「いつかはロボットを作るぞ」と思っていたのだという。「ROBO-ONEが始まったのは絶好のチャンスだったんです」。

 だが、第2回までは様子見していた。モーターは作れるけどマイコンによる制御は専門外だった。ところが第2回のあと、有限会社姫路ソフトワークスの中村さんがボードを発表してツクモで買えるようになった。それがきっかけで早速ロボットを作りはじめた。イトーレイネツ製のキットを購入、歩行実験を始めた。最初は秒速2歩だったが、これで行けるぞと思った。

 不知火は第3回前に設計し始め、半年後の第4回がデビュー戦となった。このとき、ボディの色は真っ白だった。まだ色も考えてなかったという。ただ、全体のイメージは当時からほとんど変わっていない。「仁王立ちしてかっこよく戦ってこそ、スーパーロボット」だと思っていたし、いまもそう思っているという。成績は予選8位、しかし最初のバトルで九州大学「2325RR」に敗れた。このあと、ROBO-ONEスペシャルなどでは優れた成績を残しながらも、ROBO-ONE大会そのものでの優勝までの道は、険しかった。


第4回大会での不知火。ボディはまだ真っ白の状態 当時のGIYさん。操縦はタブレットで行なっていた

【動画】第2回ROBO-ONEスペシャルでの様子。階段を降りる「ヨコヅナグレート不知火(しらぬい)」 【動画】同じく第2回ROBO-ONEスペシャルにて。ボールを的に投げる競技では、見事に的の中心に命中させた

 だがロボットらしいシルエットと安定した動き、そして「瓦割り」や「電車道」など不知火の持ち味をいかした独自技の数々はメディアにも好まれ、GIYさんは多くのメディアにロボットともども登場するようになる。テレビ出演などを繰り返しているうちに、やがて、独特の雰囲気に包まれた会場に飲まれたり、緊張することもなくなった。これが勝利を呼ぶ一つの理由となったことは間違いない。

 これからの人たちには、いきなりROBO-ONEは難しい時代なので、徐々に増えつつある地元の練習会で場数を踏みつつ、徐々にレベルアップするのがいいのではないかという。ではディフェンディング・チャンピオンとしては、今後はどのような展開を目指すのか。


「観客が「かっこいい」と思ってくれるような試合がしたい」というGIYさん
 「俺としては、見ている人が『かっこいい』と思うような『試合』を目指したいんですよ。たとえば、アニメヒーローみたいな必殺技を現実に出したいんです。跳び蹴りとか百烈拳とか、相手が確実に倒れる技です。一撃必殺の技ですね。漫画みたいな戦い方を再現したいんです。だから、『勝ちを意識した戦い方』じゃなくて、『面白さを意識した戦い方』をしようぜと言いたい。『しゃがんでないで、立って戦おうぜ』ということです」

 ROBO-ONE以外の遊び方もしてみたいという。たとえばリングの上にジオラマを置いて、巨大ロボット同士の闘いをミニチュアで実現したい、という。また大阪の「ロボットフォース」の「発射体ルール」も面白い、という。

 「特撮ロボットも飛び道具を持ってるし。発射体が受け止められたらもっと面白いだろうなあ。旋風丸では手裏剣を飛ばしたいんです。忍者がモチーフだから手裏剣で相手からダウンを取りたいなと思って」

 「不知火」はしばらくは現状のまま維持しつつ、兄弟機「旋風丸」は通常の市販サーボのまま、進化させていきたいと考えているという。また、サッカー専用機も構想中だ。「不知火」の流れは汲みつつ、軸数を減らして軽量化させたいという。つま先形状を変えて「ドリブルもしたいし、オーバーヘッドキックもしたい。誰も考えたことのないようなつま先ギミックを考えたい。できたら格好いいですよね」

 これからも格好いいロボットを目指してもらいたい。


URL
  ROBO-ONE
  http://www.robo-one.com/
  【2004年11月9日】「第2回ROBO-ONEスペシャル」開催(PC)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1109/roboone.htm

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2007/05/31 00:31

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