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通りすがりのロボットウォッチャー
今年のロボット始めました

Reported by 米田 裕


 経済産業省が「『今年のロボット』大賞」というものを始めた。なんとも居酒屋の「本日のおすすめ」のようで楽しい賞タイトルだ。

 「えーと、今年のロボットは何があるの?」なんて訊くと、手書きの小さな黒板を持ってきて「今年は知能と認識を三枚におろして、裏ごしして蒸したものがございます」とていねいに説明してくれる。首をやや3度傾けて、7秒ほど考えたのちに「じゃ、それをひとつ」という気分になってくるね。

 大賞は21日の発表となるけど、優秀賞10点がこの12月1日に発表された。この中から大賞が決まるわけだけど、いろんなものをロボットと認めるにやぶさかではないという選考の方針のようだ。

 ロボットそのものだけでなく、ロボット技術までも含んでいるので、さまざまなものがある。


ロボットは自律するものだよね

 さて、こいつはロボットだよねと思えるものの要素というと、

・自律的行動をする
・人間とコミュニケーションがとれる。人間の働きかけに反応する
・操縦をして動かすことができて、本体からのフィードバックがある

 なんてことがあると思う。

 「今年のロボット」優秀賞を見ていくと、自律的行動をするタイプは、富士重工業と住友商事開発の「ロボットによるビルの清掃システム」とか、独立行政法人海洋研究開発機構の「うらしま」がそうだろう。

 「うらしま」は自律航行をして、3,500mの深海まで潜れて、燃料電池による動力で進み、航続距離は500km。将来的には6,000mまで潜れて、3,000kmを移動できるようにしたいとのことだ。

 この「うらしま」を見ていて、今年『日本沈没』がリメイクされたSF作家の小松左京さんの童話『“ぬし”になった潜水艦』を思い出した。

 戦争用に開発されたくせに戦争の嫌いなロボット潜水艦が、通信装置の故障で司令官と連絡が取れなくなり、海底で「戦争」の指示を待ち続けていたが、地殻変動で海底が山奥の湖になってしまっていた。知らずにいたロボット潜水艦は浮上して驚いた。そして近くの動物に話を訊くと、人間は宇宙へ出て行き、地球は動物たちの楽園となっている。そして、巨大なロボット潜水艦は動物たちに請われて湖の「ぬし」になるというお話だ。いい話でしょ?

 「うらしま」も海という未知の世界、それも深海をずーっと探査してまわる。鯨と出会うこともあるかもしれないし、未知の巨大生物と遭遇するかもしれない。そのときに「うらしま」が知能を持っていて、コミュニケーションがとれれば面白いけどなぁ。

 航続距離や最大潜航深度の性能をあげることとともに知能面でも進歩させてほしいものだ。


ロボットは愚痴も聞いてくれるしね

 コミュニケーションタイプといえば、知能システム、独立行政法人産業技術総合研究所、マイクロジェニックス開発のアザラシ型ロボットの「パロ」なんだけど、「パロ」ってかなり昔からあるので(今のは7代目だそうだ)、「今年のロボット」と言われると「うーん」と腕組みをして30秒ほど固まってしまう。「ま、いっかー」と思考停止状態とならないとその呪縛は解けない。

 「パロ」のコミュニケーションは言葉によらない部分がいいのかもしれない。人間側はさまざまな憶測で相手に自己投影ができる。そして、可愛いとか、いとおしいと思い込むことは人間の持つ大きな能力といえる。

 この能力で、無機物にも感情移入ができるし、少しでも反応をしてくれれば、それだけで嬉しくなってしまうのだろう。

 P.K.ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』でも書かれていたように、いつでも人間側の感情移入能力の方が大きい。そのためにロボットを使って人を癒すことができるのだろう。人は自分のために何かをされているときより、人に何かをしてあげることの方が、生きがいを感じるものだからね。

 相手が動けなければ、世話をする気持ちも強く働くのかもしれない。ちょっと前に地下鉄の車内で見た光景を思い出した。

 老齢のご婦人が席に座り、膝上にはペット用ケージを載せている。ケージの大部分は風呂敷で包まれていた。

 猫か小さな犬でも連れているのだろうと見ていた。時々、ケージの入り口に顔を近づけて何かを話している。動物好きな人ならよくやっている光景だ。

 やがて車内の人の移動とともに、こちらの位置も変わり、ケージの中が少し見えるようになった。「猫かな? 犬かな?」と注視してみると、ペットケージの中には、ぬいぐるみの子供型の人形が入っていた。それもたぶん、話をすると反応するタイプだと思う。

 地下鉄の車内で老婆は人形に語りかけ、人形の小さな声を聴くためにをケージに顔を近づけている。

 まわりの乗客は、携帯電話をいじったり、ヘッドフォンステレオを聴いたり、寝ていたり、新聞や本を読んでいる。

 ふいに21世紀に生きていることを実感してしまったね。ロボットを連れて歩く時代は、確実に近づいていると思った。


ロボットは人間にできないことをするよね

 その他、国土交通省九州地方整備局九州技術事務所とフジタの「遠隔操縦用建設ロボット」やセコムの「マイスプーン」は操縦系といっていいし、近藤科学の「KHR-2HV」はこれぞロボットというものだ。「KHR-2HV」のようなロボットがひとつしか入賞していないのは、2足歩行タイプのロボットは1つの形でしかないということなんだろうか?

 こうしたロボットに不可欠なのはセンサー類だ。北陽電機の小型軽量な「測域センサ URGシリーズ」はロボット技術に必要なものとして、わかりやすい。センサーがなければ、ロボットは動けないのだ。

 自動制御機械系としては安川電機の「人共生型上半身ロボット(DIA10)・腕ロボット(IA20)」やデンソーの「高速高信頼性検査ロボット」なんてのがある。こちらはロボットアームがついていて、少しはロボットらしいのだが、東和電機製作所の「はまで式全自動イカ釣り機」は、どこがロボットなんだろうという外観に、ちょっと悩んでしまった。

 「シャクリ」という漁業者の熟練技術を数値化して自動制御をするという。「シャクリ」って何だ?

 ロボットというからには、ただの全自動機械ではないはずだ。人間とコミュニケーションがとれるのだろうか? フィードバック機構があるのだろうか? 自律して動いちゃったりするのだろうか?

 形だけではわからない秘密があるのかもしれない。

 「『今年のロボット』大賞2006」の大賞は21日に発表され、優秀賞とともに東京青山のTEPIAで21日から23日まで展示されるという。

 「はまで式全自動イカ釣り機」の秘密をさぐりに行ってみるのも一興かと思う。


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米田 裕(よねだ ゆたか)
イラストライター。'57年川崎市生。'82年、小松左京総監督映画『さよならジュピター』にかかわったのをきっかけにSFイラストレーターとなる。その後ライター、編集業も兼務し、ROBODEX2000、2002オフィシャルガイドブックにも執筆。現在は専門学校講師も務める。日本SF作家クラブ会員。



2006/12/15 00:11

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