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通りすがりのロボットウォッチャー 自転車に乗ってゆっくりと未来へ
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Reported by
米田 裕
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今や、普通に考えることもなく自転車に乗っている人も、最初は乗れなかったはずである。はるか昔の記憶を思い出してもらいたい。練習してこけていた日々のことを。
● 自転車に乗れるまではなかなか大変
さて、自分の場合だが……。
公園の片隅で子供用の自転車にまたがる。後ろから兄が「それ、いくよー」と押してくれる。とろとろと前進し、フラフラと少し進んで転倒してしまう。
こうした練習を繰り返してもなかなか自転車には乗れない。そのうち、転倒すると痛いことが恐怖心に変わり、押されるとしばらくして転倒するという仕組みを学習すると、「もう押さなくていいよー」などと泣き声になってしまう。
こうして恐怖心でいっぱいになってしまうと補助輪をつけてもらうしかない。
後輪のハブ軸から左右へのびた小さな車輪がつけられる。そして、ガラガラガラと音を立てて走るガキとなるのだ。
走ればガラガラガラと音を立てているが、いつの間にかガラガラ音があまりしなくなっているのには気がつかない。補助輪があまり接地しなくなっているのである。
ガラガラ音を聞いている大人たちが、あまり音がしなくなってくると、そろそろだというので、補助輪をはずそうと言う。
しかし、怖いので片方は残して欲しいとごねて、補助輪の片方だけがはずされる。自転車をこいでいるガキは、転倒しそうになると補助輪のある側へ体重移動をして、補助輪を接地させ、転倒しないようにする。
そんな日々が続くが、まーったく補助輪が接地しなくなっていても、まだ補助輪がついていることで安心して走っていると、「もう外すぞ」という一言とともに残っている補助輪が取り除かれる。
さぁ怖い、どうしようとこわごわとペダルを踏むと倒れずに走れる自分に気づくわけだ。「あれれ?」と思いながら、うわーっと嬉しくなってくる。これが自転車に乗れた瞬間だ。
大部分の人は、こうした経験をして自転車に乗れるようになるのではないだろうか? 自転車にまたがり、いきなり乗れてしまう人はいないと思う。
そして、大人になるとバランスをとることも意識することなく自転車に乗るようになる。しかし、気をつけてもらいたいのは自転車は必ず「転倒」する乗り物であるということだ。ほっといては自立しない。人が乗って無意識のうちに体重移動をしてバランスをとっているので倒れずに走っているわけだ。
● 自転車に易々と乗るロボット
そうした自転車乗りをいとも簡単にこなしてしまうロボットがいる。村田製作所の『ムラタセイサク君』だ。
全高は50cmほどと小柄だが、小さな特別製自転車に乗って飄々と走っている。さらには停止しても倒れず、バックもできて、25度の坂道だって登ってしまう。これにはまいったね。
このムラタセイサク君、人型をしているが、ロボットが自転車に乗っているのではなく、その機能のほとんどは自転車側についている。人型の胴体には倒れないようにするための回転するおもり「モーメンタムウェイト」が大きくスペースをとっている。
このおもりを回転させてバランスをとっているわけだが、早い話が、ムラタセイサク君の胴体は倒立振子そのものといえる。
手のひらの上に棒やほうきなどをたてて、それが倒れないように手を動かしてバランスをとる遊びをしたことがあると思うが、倒立振子の理屈はそれと同じことだ。
普通は台座(手のひら)を移動させてバランスをとるが、傾きに対して、おもりを回転させて反動トルクを発生させ、それを利用してバランスをとっているのがムラタセイサク君なんである。
どれだけおもりを回転させてバランスをとるかは、センサーによって計測している。角速度をジャイロセンサーによって検知して、それの反動トルク量を計算して与えるというわけだ。
● センサー類はロボットの重要な裏方
このジャイロセンサーは、圧電セラミックスでできていて、可動部分はまったくない。
ジャイロと聞くと、回転するコマを思い浮かべた人はブッブーと間違いのブザーか鳴ることだろう。
「はい、赤の方、お立ち願います」と児玉清になる必要はないが、いまやジャイロセンサーも焼き物の時代なのだ。それもハイテクのだね。
この圧電セラミックスを振動させると上面にある複数の検出用電極には均一の電流が発生するという。
そして、その圧電セラミックスを回転させると、コリオリの力によって検出用電極からは異なる電圧が発生する。その電圧の違いが何度になるかわかっていれば、回転した角度がわかるということだ。
ああ、コリオリの力だ。かのゴルゴ13で、狙撃をするときに、あまりに遠距離なのでコリオリの力を計算して標的に当てたというエピソードがあった。地球は回転しているので、コリオリの力が働くのである。そのコリオリの力によって、圧電セラミックスはそれぞれの場所で異なる電圧を発生させる。
すばらしい! 微弱な電圧差を測ることもできるセンサーというわけだ。
こうしたセンサーは、最近ではデジカメの手ぶれ検出やカーナビの自律航法用に使われている。
村田製作所はもともと、京都で焼き物を作っていたところから出発しているので、セラミックスについては強い。なんたって、セラミックスは焼き物だからね。その技術を応用して各種センサーを作っている会社だ。
ムラタセイサク君にも、ジャイロセンサーの他に、超音波センサー、ショックセンサーが搭載されているし、ガラスレンズのかわりにセラミックスのレンズも使われている。
こうしたデバイス類は、ロボットが自分の位置や姿勢を知るために不可欠なものだ。しかし、裏方というべき機器なので、ロボットそのものでもなく、ロボット製作に携わる関係者には有名だが、一般の認知度は低かった。
20世紀末のロボットブームのころ、村田製作所へ取材に行ったときに「ウチでもロボットを作っていればいいんですけど」と言われたのが印象に残っている。
その後、ムラタセイサク君が作られ、テレビCMに登場したときには、よかったなぁと画面に見入ってしまった。ロボットという形にすることによって、自社のセンサー技術をアピールする環境ができたといえる。自転車に乗るロボットを作っている会社として認知されたといえるだろう。
そして2006年、走るだけではなく、パワーアップした2代目ムラタセイサク君となって登場したのだ。
● 実物大の電動アシスト自転車は無理かな?
人型のロボットらしい姿としたことで、注目度も大きいが、本来はセンサー技術のデモストレーション用として生まれてきたものだ。駆動用モーターやセンサー類も大半は自転車側についている。ロボット単体で自転車に乗っているのではなく、自転車とロボット型のパーツとで構成されているといえる。
となれば、いまや駆動力を補助する電動アシスト自転車があるので、「倒れない」電動アシスト自転車はできないものかと考えてしまう。
現在の電動アシスト自転車は、坂道を登る場合や発進時の脚力不足をおぎなうものだ。駆動力の補助をするものといえる。
自転車は通常2輪であるので、そのままでは倒れてしまう。必ず倒れる乗り物と考えていたほうがいいだろう。
そうした不安定なものに子供を乗せたり、バランス感覚が衰えたお年寄りが乗ったりすると転倒という危険性がある。健常者でさえ、路面の状況によっては転倒することがある。
そうした場合、倒れ方が悪いと怪我をするし、頭部にダメージを受ければ生死にも関係する。だからヘルメットをかぶることを推奨されているが、ほとんどの人はヘルメットをかぶらない。あれはレースをするなどの特別な場合にだけ必要と思っているのだ。だが、自転車が2輪である以上、必ず転倒するものだと思っていた方がいいだろう。自転車に乗れなかった子供の日々を思い出してもらいたいものだ。
さて、ムラタセイサク君だが、現在のように小さなサイズではなく、実物大の自転車サイズとして、胴体部分を自転車のフレームと一体化することはできるのだろうか?
つまりは現在のロボットと自転車という姿ではなく、自転車そのものが不倒停止の機能を持つようにしようというのだ。
電動アシスト自転車のように駆動力を補助するだけでなく、転倒しそうになったときに倒れないように補助する自転車になれるかどうかと考えてしまう。停止していても倒れない自転車ができれば画期的だろう。
でもまぁ、むずかしいかな。不特定の人間が乗るとすると、体重や身長も違うだろうから、重心の位置も変わってくるだろうし、個々に条件が変わってくる。さらには荷物を載せたり、子供を乗せたりすると、条件がさまざまに変化してしまう。
センサーと制御技術でカバーできるものかどうかはよくわからない。そして、人間という要素が加わってくると、安全性が求められるようになってくる。
展示会でのムラタセイサク君が、もしS字コースから落ちても、まわりで付き添っている研究員が助けるだろうし、ロボットがときに失敗するのはご愛嬌で済む。やっぱり機械のすることだと笑って見てしまうのだ。
しかし、そこに人間へ危害が及ぶかどうかという部分が出てくると、一気にハードルが高くなってしまう。
小さなおもちゃのようなロボットならいいが、人間と等身大になるとむずかしい部分がそこにある。
しばらくの間は、人間を守るロボットではなく、人間に守られるロボットが普及していくんでしょうな。
それでも、ロボットが外界を知ることができるさまざまなセンサーは必要だ。センサー技術の固まりといったムラタセイサク君には、もっともっとバージョンアップを続けてもらいたいものだ。
自転車でもトライアルという競技では、不倒停止、すなわちスタンディングは、基礎テクニックの第1歩だ。中級、上級にはまだまだすごい技がある。精進せいよセイサク君(笑)。
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