「ロボパピィ」、読者のみなさまはご存知だろうか。アメリカでは約3ヶ月で50万台も売ったという、ペットロボットである。国内では、日本トイザらスが同社の店舗とオンラインショップで販売している。販売されている場所が限られているので、あまり目にする機会のないロボットだ。今回、ROBOT Watchで一台購入したので、ROBOT Watch的(というよりロボットマニアな筆者の)視点からレビューをお送りしたい。
● まずは構造。独特なデザインだが、実は機能的
|
右側面から。全体的に、あまり生物的ではないが、ロボット的とも少し違う気がする
|
まず目を引くのが、そのデザインだ。ロボパピィは名前の通り(puppy=子犬)、犬をモチーフとしているのだが、細い足はリンク機構そのもので、一見すると少々異質な印象を受ける。それもAIBOのような「ロボット的」な印象ではなく、細い足はむしろ、ギーガーデザインのエイリアンを彷彿とさせる。
しかし、電源を入れてしまうと印象は変わってくる。ロボパピィは倒れる、起き上がる、お手をする、おしっこする、といった実際の犬のように動くので、停止時に見られた非動物的な印象は、徐々に薄れ、ペットらしく感じられてくる。
ロボットマニアの視点で構造を見てみると、合理的なデザインであるとも感じられる。足が細いのは、太くする必要がないからだ。リンク機構を動かすモーターは胴体内に入っているので、足が太くなる必要はない。体重を支えるだけならば、骨組みだけで十分だ。むしろ足が細いことで、可動範囲が広がっている。
モーターの数は、足に各1自由度、腰(頭も連動する)に1自由度の合計5自由度がある。それぞれ、ちゃんと角度制御されているようで、電源を切っているときに強引に足を動かしても、電源を入れると正しい角度初期位置を補正する。
それぞれの足は1自由度しかないため、1次元的な動きしかしないが、前足・後ろ足ともにかなり前方にまで振り上げることができる。リンク機構によって動く足先は、緩やかな曲線を描く感じで、近似直線を描くといった複雑なものではない。別にリンク機構でなくても良さそうにも見えるが、あえてリンク機構を採用したのは、デザイン上の問題が大きそうだ。
自由度(=モーターの数)は少ないが、アクションは豊富だ。たった5自由度で、前後に歩く、左右に方向転換する、転がる、起き上がるといったアクションができる。なるほど、ロボットは自由度数が多ければ良いというものではないのだな、と感じさせるデザインだ。
● そして知能。「操縦」するではなく「一緒に遊ぶ」のがロボパピィ流
ロボパピィにはリモコンがあり、前後左右への移動や芸(ワザ)などのコマンドを送ることができる。このコントローラーを使ってロボパピィを自由に動かすこともできるが、ロボパピィは操縦して楽しむタイプのロボットではない。ロボパピィは基本的に、電源が入っている限り、自動で動き続ける。飼い主はそれに対して、「褒める」や「叱る」といったコマンドを送ることで、コミュニケーションと成長を楽しむ、というイメージだ。
|
|
ロボパピィのリモコン。わりとデカイ
|
【動画】ロボパピィの動作。リモコンからも操作しているが、一部、自律動作も行なっている
|
ここが日本のペットロボットだと、人間の反応を見るためのCCDや各種センサをどっさり積んでしまうところだが、ロボパピィはそのインターフェイスをリモコンにすることで、簡略化している。アメリカらしい合理性だ。
リモコンがメインのインターフェイスとはなっているが、ちゃんとセンサーも搭載している。胴体にはサウンドセンサーがあり、周囲の音に反応することもできる。頭部全面には赤外線センサーがあり、前方にかざされた手を認識してお手をしたり、歩行中は障害物を認識して停止もできる。あごには机などの端を認識するエッジセンサーも搭載している。さらに、マニュアルには明記されていないが、傾きセンサ(おそらく加速度センサ?)も搭載しているようで、横倒し状態を認識して起き上がったりもする。
もっとも、ロボパピィはかなり勝手に動くので、それらのセンサーがちゃんと働いているかはちょっとわかりにくい。とくにエッジセンサーについては、後ろに進んだり横に転げたりするロボパピィにとっては、卓上などからの転落防止の役に立たない。勝手に動かす場合は、転落の危険のない床面でやった方が良さそうだ。
あと、ちょっとお間抜けなのはこのロボパピィ、電源を切ると学習内容を忘れてしまう。毎回過去を忘れてしまうペットというのも寂しい限りだが、長期学習させても、9個の芸の優先度パラメータが上下するだけであろうから、あまり賢くなるというほどではない。むしろ毎回新鮮な気分で遊んでやってくれ、ということだろう。
ついでに気になったのは、コントローラーの移動ボタンのアサインだ。ロボパピィは、向かい合って操作するようにデザインされている。そのため、例えば右ボタンは「向かって右、すなわちロボパピィからすると左に進む」となっている。しかし、なぜか前後ボタンはロボパピィから見た前後になっている。意図的に操作しにくくしているのかもしれないが、ちょっと戸惑いを感じた。
● もちろんマニアックに分解調査。中身はシンプル・低コスト
ひとしきりロボパピィと遊んだところで、お約束の分解をしてみた。もちろん、こうした分解は保証の範囲外になるので、自己責任で行なって欲しい。分解の難易度はそれほど高くないが、ロボット製作の経験がない人には、壊さずに分解するのは難しいだろう。そもそもペットロボットを腑分けするというのは、あまり気持ちがよい行為でもないので、あまりおすすめしたくない。
|
背中(と頭)を外した状態。右側が前
|
ロボパピィの胴体は、胸部と腹部に分かれている。ネジを外すことで、それぞれの背面を取り外すことができる。胸部側に主基盤があり、そこから足や腰のモーター、センサーなどに繋がる配線が内部に張り巡らされている。
各足のモーターユニットは、モーターとギアボックス、そして角度センサーが一体となっている。そこから5本の配線が基盤に向かって伸びている。見たところ、2本がモーターに繋がっていて、あとの3本は、角度センサーと見られる部分に繋がっている。
角度センサーのピンを調べてみると、筆者の手持ちのテスターでは、角度に従って抵抗値が変わるといったことは検知できなかった。ある角度になると通電して、ある角度では通電しなくなる、というようにも見られたので、角度は3端子(1端子がグラウンドで2端子のON/OFF)で検知しているのかもしれない。だとすると、かなり大雑把ではあるが、アナログ・デジタル変換が不要となり、かなりシンプルな作りということになる。
|
|
後ろ左右足のユニット。中央は角度センサーで3本の電極がついている。写真手前側にモーターが入っているようで、側面側にモーターの電極がついている
|
モーターユニットに伸びる端子。オレンジの端子は後ろ左足で、そのとなりの白い端子は腰関節。腰関節のみ、なぜかセンサーの端子が一本多い
|
主基盤の裏側には、頭脳部のチップとおぼしきプリントパターンが見られた。しかし肝心のチップ部分は、黒い樹脂に覆われて見ることができなかった。チップは40ピンで、パラレルIOと見られるピンが30本以上ある。ワンチップマイコンとして有名なPICシリーズに、そのような製品があるので、その辺りを利用しているのだろう。秋葉原で個人が1個単位で買っても500円以下のシロモノだが、ロボパピィには十分な性能だ。
|
|
主基盤裏面。マイコンチップ部だけドーターボードのようになっている。これは工作上の問題だろう(フラットパッケージは手作業でハンダ付けするのが大変だ)
|
主基盤表面。こちらのフラットパッケージのチップがナニかよくわからないが、型番的にはモータードライバーと予想される
|
全体的に作りはシンプルだ。自由度(モーター数)が少ないので、一個のワンチップマイコンで、すべてを制御している。コストを考えると、このくらいシンプルになるのは当然ではあるが、それだけに分解してみると、ロボットの知識が少しあるだけで、仕組みが理解できるのが面白い。
|
腹部底面。とって付けたようなウェイトやスピーカーに直結している抵抗器など、あとから調整しました的な要素が見られる
|
● 価格の割には良く動く!
正直、それほど奥の深いオモチャでもない。単4電池4本で2時間ほど動くようだが、2時間遊べるかも怪しい。子どもならそれなりに楽しめそうだが、この細い手足は、子どもが扱うとすぐに壊してしまいそうな印象も受ける。
しかし、ロボットマニア的視点で見ると、7,000円という価格の割には良くできていると思う。むしろ、これだけの動きをさせながら7,000円に収めるための工夫、モーターを減らしたりリモコンを活用する点などが、むしろ面白い。少々うがった視点ではあるが、ロボットホビイスト的には、自作ロボットの参考になるという意味で、7,000円の価値が十分にあるだろう。
■ 関連記事
・ 日本トイザらス、犬型ロボットトイ「ロボパピィ」(2006/06/02)
2006/08/22 00:06
- ページの先頭へ-
|