「ジャパンロボットフェスティバル2009 in TOYAMA」レポート(前編)
~「ロボットの夢、いっしょにみよう」、来場者数は2日間で1万人超
ジャパンロボットフェスティバル ロゴ |
富山市にある富山産業展示館(テクノホール)にて9月26日(土)と27日(日)の日程で「ジャパンロボットフェスティバル2009 in TOYAMA」が開催された。富山地域のものづくり産業やロボット産業への期待を背景に、「こどもたちへの科学やものづくりへの興味・関心の育成」「ロボットインフォメーションテクノロジーの理解促進を通した地域と産業の活性化」「富山を中心とした地域産テクノロジーの世界への発信」を目的に掲げて「産官学が連携する新たな人づくり・地域づくり事業」として開催されたもの。主催は県内外の産・学・官連携メンバーにより構成されたジャパンロボットフェスティバル実行委員会。キャッチフレーズは「ロボットの夢、いっしょにみよう」。後援は中部経済産業局、富山県、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、独立行政法人産業技術総合研究所ほか。企画運営は地元のチューリップテレビが行なっている。
ALSOKの警備ロボット、復元された相澤ロボット、村田製作所の「ムラタセイサク君」と「ムラタセイコ」、産業技術総合研究所による女性型ロボット「HRP-4C(未夢)」など各種ロボットによるデモンストレーションのほか、二足歩行ロボットによるバトル大会「第16回ROBO-ONE」、アニメーション監督・河森正治氏らの出席するトークショーなどが行なわれた。なお「ジャパンロボットフェスティバルin TOYAMA」は2005年11月にも開催されており、今回が2回目。愛知万博直後だった前回は4日間の会期中に34,500人の来場者が訪れたが、今回の来場者数は2日間の会期で初日が3,741人、2日目が6,525人、合計10,266人だった。
前日の25日に行なわれたオープニングセレモニーには、富山県知事、富山県新世紀産業機構理事長でジャパンロボットフェスティバル実行委員会の名誉顧問を務める石井隆一氏、富山県商工会議所連合会会長、富山県新世紀産業機構副理事長で同実行委員会会長の犬島伸一郎氏のほか、アザラシ型メンタルコミットロボット「パロ」の開発者で、総合プロデューサーを務める柴田崇徳氏らが出席し、テープカットを行なった。
石井隆一・富山県知事も出席したオープニングセレモニーでのテープカット | 会場の富山産業展示館(テクノホール)。富山空港が近い | キャッチフレーズは「ロボットの夢、いっしょにみよう」 |
●展示 ロボットクロニクルゾーン
「第 16回ROBO-ONE」や、各セミナーの詳細は追ってレポートする。まずは「ジャパンロボットフェスティバル2009 in TOYAMA」の展示を紹介しよう。まず入り口入ってすぐの場所で迎えてくれたのはロボットの歴史と今日を知ることができる「ロボットクロニクルゾーン」だ。こちらでは経済産業省による「今年のロボット大賞」がパネルで紹介されていた。そして財団法人日本児童文化研究所と神奈川工科大学、そして有志によって復元された故・相澤次郎氏によって製作された相澤ロボットが4体並んでいた。
相澤ロボットは1970年の大阪万博に出展されたロボットで、目を光らせて喋るガイドロボット「一郎くん」、スタンプを押す「テッちゃん」のほか、「太郎くん」はインスタントカメラで写真を撮ってくれる。敢えてデジカメではなく、当時と同じくポラロイドで撮影することにこだわって復元された。写真はモデルロボット「五郎くん」と一緒にフレームにおさまることができた。
子供たちに一番人気だったのは、やはりスタンプロボット。子供と目線の高さがほぼ同じ、という点もポイントが高かったようだ。いっぽう「太郎くん」や「一郎くん」のほうは子供から見るとかなりの巨大ロボットであり、こわいという子もいたという。また、万博出展時のことを覚えている来場者や、実際に当時写真を撮ってもらったという来場者もやはりいらっしゃったそうだ。
●展示 富山の技術・地域の技術ゾーン
続けて地元である「富山の技術・地域の技術ゾーン」。まず富山県立大学のブースでは、同大・工学部知能デザイン工学科が、犬型の跳躍・着地ロボットを檻のなかで静展示。そのほか、聴覚テレプレゼンスやブレインマシーンインターフェイスなどをパネルで紹介していた。
北陸職業能力開発大学校ブースでは、学生たちの研修として開発された多機能警備ロボットを出展し、デモしていた。昨年度の卒業生が製作したロボットで、駆動輪は扁平なモータと遊星歯車を組み合わせたホイールインモーターで、リンク機構によって90度旋回するようになっている。また画像処理によって廊下の中心を割り出し、そこに向かって走行する。ブースでは子供たちに操縦もさせていた。
富山県立大学ブース | 跳躍・着地ロボット | 二関節筋のような仕組みを使って跳躍するという |
北陸職業能力開発大学校ブース | 多機能警備ロボットの開発を行なった | 子供たちに操縦体験もさせていた |
富山商船高専は「高専ロボコン」に出場したロボットを出展し、来場した子供たち向けに操縦体験などを実施していた。映画「ロボコン」の決勝戦で長沢まさみ演じる主人公たちのチームと戦ったロボットだ。そのほかロボットカーを用いた「持続発展教育」などを行なっているという。こちらも会場で子供たちに操縦させていた。金沢工業大学ブースでは第9回レスキューロボットコンテストに参加したロボットや、ロボカップヒューマノイドキッズサイズリーグに出場したロボットを出展し、デモを行なっていた。
デモ | 【動画】デモの様子 |
レスキューロボットコンテスト参加ロボット | ロボカップヒューマノイドキッズサイズリーグに出場したロボット | 【動画】デモの様子 |
富山大学ブースは富山大学大学院理工学研究部 石井雅博准教授、東京工業大学 精密工学研究所 佐藤誠教授らが開発したストリング型ハプティック・インターフェース「スパイダー(SPIDAR)」や、SLAM(Simultaneously Localization and Mapping)によって地図を作成するロボットなどを出展していた。レーザレンジファインダのデータとオドメトリによる自己位置推定によって環境内の2次元の地図を生成する。そのほか、ラットを使ったブレインマシーンインターフェイス研究などを紹介していた。
目立っていたのが富山工業高専のブースだ。こちらは超音波距離センサーを用いた3次元測位システムのほか、車椅子を操るロボットを出展。車椅子はちょっとした段差にぶつかっても駆動力が発生しにくくなってしまうことがある。それをサポートするためのロボットである。車椅子からの反力をパッシブな機構で受け流すようになっており、実用化にあたってのコストを抑えられるという。
独立行政法人産業技術総合研究所 知能システム研究部門ディペンダブルグループによって開発され、富山の南砥地方で作られているアザラシ型メンタルコミットロボット「パロ」も、ブースでふさふさの毛皮を多くの来場者になでられまくっていた。確かに来場者の一部を癒していたことは間違いない。これまでに国内外で約1,500体、約30カ国で利用されているという。立山科学グループはハンガリーのパーズマニィ大学と共同で開発している二足歩行ロボットのほか、全方位カメラを出展。全方位カメラでの撮影体験を無料で行なっていた。北陸電気工業株式会社は、3軸加速度センサーを使ったシステムや、同社の製品を使って高校生らが作成したロボット教材などを出展していた。
アザラシ型ロボット「パロ」ブース | 多くの人になでられていた | 開発者の柴田氏は富山出身 |
立山科学グループ | パーズマニィ大学と共同研究開発中の二足歩行ロボット。動きを計測する慣性測定ユニットを搭載 | 【動画】左右に体を揺らしていた |
全方位カメラを出展 |
北陸電気工業株式会社ブース | 【動画】3軸加速度センサーを使ったロボット | 【動画】倒立2輪ロボットに棒をつけたものでデモを行なっていた |
直流安定化電源の専業メーカーであるコーセル株式会社ブースは富山工業高等専門学校とのコラボレーション企画として学生の手作りロボット「Candy 6」を出展。6自由度を持つロボットで、制限時間内にキャンディをつかんでバスケットに入れる。入れたキャンディはプレゼントされていた。
デモンストレーションを始めるたびに黒山の人だかりとなっていたのが、株式会社富山村田製作所ブースだ。実際には「ムラタセイサク君」のほうはデモを行なっていないときにも不倒停止を行なっていた時間も少なくなかったのだが、問題ないときはホイール以外ほとんど動かないため、一般の方には説明がないと、電源が入っていることもなかなか分かりにくかったようだ。「ムラタセイコ」はイベント開催中に10月に開催される「CEATEC」で披露される新しいデモ内容がテレビ等で紹介されたため、ますます多くの人の関心を集めることになったようだ。
コーセル株式会社ブース | 直流安定化電源の専業メーカー |
「Candy 6」 | 【動画】キャンディをつかんで入れる |
「ムラタセイサク君」のデモを行なった富山村田製作所ブース | デモを始めるとあっという間に人垣ができる | 【動画】不倒停止している「ムラタセイサク君」と一輪車ロボ「ムラタセイコ」 |
【動画】加速度センサー付きのBluetoothリモコンで操作できる | 一輪車ロボット「ムラタセイコ」 | 頭部の黄色い模様は以前マーカーとして使われていたもの |
変わったところでは、自動マージャン卓の会社である大洋化学株式会社や、ラジコンの会社である株式会社日本橋模型RCセンターなども出展していた。昭和62年より全自動麻雀卓機を製造している大洋化学株式会社は、一発自動配牌・ドラ出し機能を備えた機種を出展。
日本橋模型RCセンターのラジコンはフレームそのものがグニャリと曲がる機構を持ち、「走れないところはない」というほど、不整地上を巧みに動くことができる。レスキューロボットにも十分使うことができそうだ。現在、その辺りは特許出願中であるとのことだった。
会場内で一際異彩を放っていたのが「歯みがきロボコン」の体験ブースだ。これは福井県歯科医師会が主催しているロボコンで、今年、3回目が行なわれる。歯にくっついた食物カスに見立てたマグネットを貼り付けた大仏の歯を綺麗にするロボコンである。なぜ大仏かというと、釈迦が歯みがきの習慣を励行したという言い伝えがあるからだそうだ。リモコンで操縦するリモコン部門と、プログラムで制御する自律部門があるそうだ。またデザインコンペなどもあるという。
大洋化学株式会社 | 自動マージャン卓の会社 | |
【動画】動作の様子。車輪ならではの動きを見せる |
歯みがきロボコン体験ブース | マグネットを付けた歯でにっこり笑う大仏が会場で一際異彩を放っていた | 歯みがきロボコンを開催しているそうだ |
大仏の歯についたマグネットを落とすのが歯みがきロボコン。主催は福井県歯科医師会 | 出場したロボット | 【動画】ロボコン体験の様子 |
行列を作っていたのがウォータージェットの会社、スギノマシンのブースだ。数MPa~数百MPaに加圧した超高圧水を小さなノズルから噴射し、高速水ジェットの運動エネルギーを利用して切断を行なう。水でモノを切断するウォータージェット使用体験に多くの親子連れや学生たちが列をなしていた。カットしたものをお土産に持って帰ることができた点も人気だったようだ。またセト電子工業株式会社は、時間が来ると「お知らせ」を声で伝えてくれる「おしゃべり時計」などを展示し、LEDの活用状況をアピールしていた。
スギノマシンブース | ウォータージェット体験用ロボ | ウォータージェットで材料を切って作った羅針盤 |
セト電子工業株式会社 | アップ | LEDの活用状況を解説 |
●「HRP-2 Promet」と「HRP-4C 未夢」
川田工業株式会社と独立行政法人産業技術研究所(産総研)は共同ブースという形で、研究用プラットフォームとして開発されたヒューマノイドロボット「HRP-2 Promet」と「HRP-4C 未夢」のデモを1日3回実施。こちらもデモを行なうたびに通路がすっかり埋まってしまうほどのものすごい人垣ができていた。デモの内容そのものは産総研での一般公開時と同じだが、HRP-4Cのデモが一般公開されるのはまだこれが2回目。多くの人が「HRP-4C」の姿と「HRP-2」の動きに感嘆の声をあげていた。「HRP-4C」と「HRP-2」は常時、静展示もされており、多くの人が2台のロボットを撮ったり、一緒に記念写真を撮ったりしていた。
「HRP-4C」開発にあたった産総研の金広文男主任研究員が富山出身である事も今回の出展の理由の一つだという。なおこのときのデモのナレーションによれば「未夢(ミーム)」という愛称をつけたのは産総研の理事の一人とのこと。「未来の夢を叶えてほしい」という気持ちが込められているそうだ。「HRP-4C」については本誌でも開発者座談会を実施しているので、そちらも合わせてお読み頂きたい。(前編、後編)
(後編へ続く)
2009/9/29 20:38