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特別シンポジウム「FLY TO THE FUTURE 100年先の未来をつくろう!」レポート(前編)
~瀬名秀明特任教授が東北大機械系での3年間で描いた『100年先の未来』へのヴィジョンとは?


 1月24日、仙台市青葉区の東北大学百周年記念会館川内萩ホールにおいて、瀬名秀明氏と東北大学機械系による特別シンポジウム「FLY TO THE FUTURE 100年先の未来をつくろう!」が開催された。本シンポジウムは2006年1月に東北大学機械系・特任教授として着任した作家・瀬名秀明氏の、特任教授としての活動の集大成として開催されたものである。


会場となった東北大学百周年記念会館川内萩ホール 会場内には瀬名氏の特任教授としての活動や、登壇者を紹介するパネル展示が

 初めに、瀬名秀明氏が特任教授を務める東北大機械系の系長である和田仁教授から、「工学・機械の研究者は何らかの結果を出し、その次に何を創り出していくか日々模索しているが、なかなか50年、100年を見越したものを創造しにくい環境にある。そこで、作家であり、またサイエンスの素養もある瀬名先生と機械系の研究者が手を携え、それに向けてこれまで多くの活動をしてきた。ここに、その3年間の総決算を皆さんにお見せしたい」との挨拶があった。

 その後、瀬名氏より「私の特任教授としてのミッションは、50年~100年先の若い人たちに機械工学の面白さを伝えること。一昨年の2007年は東北大学の100周年であり、さらにその先の100年先の未来を創っていくシンポジウムにしたい」と、本シンポジウムの狙いが説明され、パネリストが紹介された。

 本シンポジウムでは、スペシャルトークである東京大学大学院・國吉康夫教授の講演、そしてマルチクリエーターの出渕裕氏と瀬名氏のトークセッションを皮切りに、東北大学機械系のロボット、航空宇宙、バイオ、サイボーグなどの研究者5名による講演、最後に登壇者全員によるパネルディスカッションが行なわれた。会場には一般の方々や東北大生が詰めかけ、機械工学が描く100年先の未来像に興味深げに耳を傾けていた。


会場内では、東北大の自然科学系部局の女子大学院生である、東北大学サイエンス・エンジェルの有志が受付やアナウンスを担当 総合司会を務めた瀬名秀明・東北大機械系特任教授 東北大学機械系の系長である和田仁教授

50年後のロボットの姿を示すのは、研究者としての意志表示

東京大学大学院の國吉康夫教授
 最初の講演者である國吉康夫教授は「ロボット、人間、情報システムの融合創発進化と未来社会」と題し、委員として作成に関わったロボット分野のアカデミックロードマップの、特に自身が担当した情報系複合領域のアカデミックロードマップについての解説と、そのロードマップに示された50年後のロボット像について講演を行なった。

 ロボット分野のアカデミックロードマップとは、2050年頃のロボット技術とそれを実現する社会を想像し、50年前から現在まで、そして現在から2050年の将来イメージに至るまでのロボット技術の100年を示したものである。また、情報学、工学、人間学の融合や展開によってロボット技術が発展していくさまを、ロボットの進化系統図として示している。さらに『ロボットチャレンジ30』として、50年後のロボットのためにこれから研究者が取り組むべき課題を挙げたものである。50年先の未来に向かって、どういう意志でロボット技術を発展させていくのか、傍観者としてではなく当事者として、研究者自身の意思表示となるものだという。

 國吉教授が担当した情報系領域では、2025年ごろに実現されると考えられている量子コンピュータや量子通信によって、50年(以上)後の情報学の世界をガラッと変えるであろうと予測している。さらにユビキタス社会の拡大によって物理世界と情報世界の融合が進み、計算結果をリアルタイムでロボットとして具現化でき、場面や状況によって相手に合わせて機能・形態を変えるハイパーパーソナライゼーションや義手などのサイボーグ技術へと展開されていく。それらのロボット技術における3つの出口イメージが、『人間の拡大』と『自律システム知』、そして『社会システム知』である。

 『人間の拡大』とは、人体間通信やテレイクジスタンス、ネット上でパラレルライフを楽しめる全人間シミュレーションなどの実現を指す。まさに瀬名氏の著書である、『エヴリブレス』の世界である。『自律システム知』では、人工筋肉などの有機的材料や超多自由度の分散制御などにより、自己修復・配線が可能となる生物的ヒューマイノイドロボットや自律ロボットが、プログラムされた情報ではなく自身で認知・獲得した行動や判断が可能となる。『社会システム知』は多くの人間やセンサーなどで得られた情報が統合・自己組織化され、人類と世界の情報を統合し進化したものである。この『社会システム知』はあらゆるところに配置されたロボットによって使いこなされ、100%サービスロボットや以心伝心な形での人間へのサービス提供が実現される。

 このような50年後のロボット技術の出口イメージを示したあとで、國吉教授は「これは夢物語ではない」と述べた。それぞれの技術がどういう段階を追って発展・融合していくかは専門家の知見に立脚しており、技術革新によって劇的な進化を遂げる可能性がある。大胆な予測ではあるが妥当性はあるという。最後に國吉教授は50年先を描く意義として「受動的に見ている立場ではなく、精度は分からないけれど人類として我々として、どういう風に進んでいくべきなのかという議論と意思表示として捉えてやるべき」との考えを述べた。


ロボット分野の統合進化系統図。工学・情報学・人間学のそれぞれの技術が融合され発展していく様が示されている 情報系の1980年~2050年のロードマップ。3つの出口イメージに向けて、それぞれの技術がどう関わり合って展開していくのかが時系列で表現されている

サイエンスとアートの両輪によって創られる、夢から出た現実

マルチクリエーターの出渕裕氏と瀬名氏。トーク中の2人の背景では『機動警察パトレイバー』のDVDが放映されていた
 引き続き、マルチクリエーターである出渕裕氏と瀬名秀明氏が、「アカルイミライ」と題したトークセッションを行なった。出渕氏は『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』や『機動警察パトレイバー』などのロボットアニメでメカデザインを担当し、それらのロボットアニメに影響を受けてロボット研究者・技術者を志した人も少なくないが、出渕氏は「こんなにロボットが動くようになるとは思わなかった、ホンダのロボットが出た時には腰を抜かしました」と、現在のロボット技術に対する驚きをまず述べた。フィクションであるという前提のもとに提示していたロボットデザインが、現実のロボットとして登場し、「夢が現実になってしまった」と驚いたという。

 そのような夢を提示する側である出渕氏がデザインの道へ進むことになった背景には、1970年に大阪で開催された日本万国博覧会で受けたインパクトが非常に強いという。「万博は『空間』であり、いろんなアプローチのいろんなモノが変わった形で提示される、1つの未来都市」という出渕氏、2005年の愛・地球博にも1人で3日間通い詰め、すべてのパビリオンを回ったと言い「そのような『空間』では、童心に帰ってドキドキする。そのドキドキを提供するという心を持っていなければ、この仕事はやっていけない」と述べた。多感な時期にそのような『空間』に触れ、そこから得たイメージを自分のものにしてデザインとして提供することが、それを見た側に『夢を現実化させる仕事』に就こうと思わせる原動力となるとの考えを示した。瀬名氏も、小説内で登場人物に行なわせる架空の実験にかかる時間や実験を行なっている部屋の内部配置を設定しているといい、そのような設定をしっかり書き込むことで、未来や仮想の場面を描いていても『空気感』が生まれてくるのだという。「もしかしたらあるかもしれないなという現実感が必要。あまりにも嘘だと『それをやりたい! 作りたい!』と思われなくなる」という出渕氏の意見に双方納得の様子であった。

 話題は変わって瀬名氏が機械系特任教授に着任した動機について出渕氏が尋ねると、ロボット系の先生方から声を掛けられて特任教授に着任する際に、作家と特任教授のどちらかだけでは面白くない、2つの両輪で面白いことができればと考えたと瀬名氏は述べた。作家と特任教授の両輪はサイエンスとアートの両輪ともなり、その両輪をうまく本にできればいいと思って作ったのが瀬名氏の編集したアンソロジー『ロボット・オペラ』であり、その両輪をうまく使える素材が『ロボット』ではないかという。出渕氏も「ドラマが書ける」と賛成し、特に普通の人間同士では不自然なシチュエーションでも、ロボットというファクターを取り入れることで例えば異人種間・差別問題などの扱いにくいテーマもすんなり入っていくことができると述べた。そのようにサイエンスとアートの両輪が、らせん構造となって影響を及ぼし合っているところで、現在のロボット技術から出渕氏の作品に次にフィードバックされるものは? との問いには、出渕氏は悩みつつも「ロボットの心の問題の部分、アシモフのロボット三原則は続くのか改正の必要があるのか」と答えた。


HRP-2のデザインを出渕氏が担当したのは有名であるが、実はHRP-3のデザインも出渕氏の手によるもの。「2では遊びすぎたから、3は現実に即した形で」と、比較的大人しいデザインに HRP-2の耳(?)は「かっこいいから」という理由で特に機能はない。が、見学に来た女子高生が気に入り、この耳がサメっぽいから「シャッキー」と命名。シャッキーポーズも川田工業の協力により実現

 ロボットの心というキーワードにリンクして、瀬名氏は出渕氏の描くロボットの好きなところとして「線がすごくあったかい、ロボットを描いていてもぬくもりがある」という点を挙げ、50~60年後のロボットは出渕氏の書くようなあったかい線のロボットなのではないかとの考えを示した。それに対して出渕氏は自分の絵を自己分析した結果として「セクシャリティがあるようでない」という特徴に気付いたといい、HRP-2をデザインする際も中性的なデザイン・ラインを狙ったという。ロボットには性別がないのでジェンダー的なものにも囚われず、それを超えた存在であってほしいとの思いが籠っているそうだ。「でもHRP-2には(出渕)穴が開いているじゃないですか」との瀬名氏の突っ込みに対し、出渕氏から実はHRP-2のデザイン画には出渕穴はないこと、しかし空気穴をあける必要もあったことから現場の技術者が「出渕さんといえば穴ですよね、開けておきました!」と実際のHRP-2には出渕穴が開いたという裏話が披露された。

 対して出渕氏が監督した『ラーゼフォン』に登場する巨大兵器は、ロボットというよりは石像や仏像、土偶のようなものである。その理由を出渕氏は、もっと人の根源に迫るようなデザインに転換して表現してみたかったとして「ロボットを人型と規定するならば、人が作った最初の人型はこんな感じでしょ?」と述べた。さらにデザインとセクシュアリティに関して、瀬名氏は自身が審査員を務める知能ロボットコンテストで女子学生が作ってくるロボットの形は、従来の男性向けのロボットアニメに登場するロボットとは全然違うという例から、「これからは女性ロボットアニメがもっと増えるかもしれない」と言うと、出渕氏も「それを見て『これを作りたい!』と技術を志す女性が増えるかも。『あたしのアカルイミライはこんな形!』って」と応えた。

 最後に小説家やアニメーター、デザイナーのイメージする100年後は? との問いに出渕氏は「現実に即して、今未来予想すると、あんまり明るい未来にならない」と言いつつも、どこかにポジティブ/ネガティブの分岐点があるとして「ネガティブになるというシミュレーションを踏まえつつ、ポジティブシンキングでいきたい」との考えを示した。さらにサイエンス・フィクションが技術や社会に及ぼす影響として「Ifの世界だけど、フラッグを立てておくのが僕たち。10年後、そのフラッグが間違っていたか当たっていたかがばれてしまうのは怖いけど、フラッグを立てることは必要」として、サイエンス・フィクションの重要性を述べた。さらに「技術・科学・サイエンスとアート・カルチャーは対となっており、どちらか一方ではいけない、壁を超えて両輪になってらせん構造になってこそ、乗り越えられるものがある」と、将来・未来の技術やアートへの指針を示した。

(後編へ続く)


URL
  東北大学
  http://www.tohoku.ac.jp/
  東北大学機械系
  http://www.mech.tohoku.ac.jp/j/
  瀬名秀明がゆく!
  http://www.mech.tohoku.ac.jp/sena/index.html

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( せとふみ )
2009/02/17 18:47

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