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日本科学未来館でメディアラボの第3期展示がスタート
~デバイスアートの第一人者、岩田洋夫教授による「博士の異常な創作」展レポート


メディアラボの展示スペース入口。読み物も複数ある
 東京・お台場の科学系ミュージアム「日本科学未来館」では、3階の「情報科学技術と社会」にある常設展示コーナー「メディアラボ」の展示内容を新たに第3期とし、21日(水)から一般公開を開始した。ゴールデンウィーク明けの5月11日(月)までの展示となる。

 第3期のタイトルは、「岩田洋夫:博士の異常な創作」。デバイスアート系の展示コーナーなので、展示物の複数がロボット系、もしくはロボット技術が含まれる展示となっている。一般公開に先立ち、前日の20日(火)にメディア・関係者向けの内覧会が実施されたので、その内容を紹介する。


岩田洋夫氏について

 岩田氏は、筑波大学大学院システム情報工学研究科の教授で、バーチャルリアリティ技術、なかでも触覚などの身体的な感覚(ハプティック)を活用するメディア技術、ロコモーション・インターフェイス、没入ディスプレイなどの研究を精力的に行なっている人物だ。独立行政法人科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業(CREST)の「デバイスアートにおける表現系科学技術の創成」研究代表者でもあり、またデバイスアートによる第5回文化庁メディア芸術祭優秀賞の受賞者でもある。さらに、CGの世界大会シーグラフ(SIGGRAPH)にも、1994年から14年連続で参加している。デバイスアートに力を入れるようになったきっかけは、学会という専門的な枠組みを超えて、もっと広く世間一般にアピールしたいと考え、メディアアートの芸術祭アルス・エレクトロニカのインタラクティブアート部門に出展し、1996年に入賞したことだそうだ(2001年にも受賞)。しかし、こうした創作活動は発表となると手間がかかるので、多くの人が懲りてしまうそうだが、岩田氏は我ながらよく続けており、その辺が「異常かな?」と話す。懇親会も開かれ、そこでは展示会のタイトルについて「博士の異常な創作」ではなくて、「異常な博士の創作」なのではないかという激しいツッコミもあり、参加者の爆笑を誘っていた。

 そのデバイスアートとは、岩田氏が中心となって展開している日本発の新たな芸術だ。科学や技術が融合した芸術というわけである。特徴は3つ。1つ目は部品や技術、ツールを隠さず、それらも含めてコンテンツとする、ということ。2つ目は、デバイス(装置)やガジェット(小物)の形で日常生活の中に入っていくこと。そして3つ目が、発想の背後に日本的な感性とものづくりの伝統があることだ。かつては生活の中に芸術が溶け込んでいた日本文化が、先端技術と出会ったことで、遊び心あふれる存在となって生まれたのがデバイスアートなのである。芸術であると同時に、新しい技術とつきあうコツを示すものでもあるそうだ。

 今回展示されたデバイスアートは、1点を除いてすべて岩田氏が研究室で学生と、そして岩田氏と同じ筑波大学大学院システム情報工学科に所属する准教授の矢野博明氏と共に開発・改良してきた作品だ。技術的な思想としては、現代の電子メディアが視覚と聴覚のみで、身体が経験する世界をすべて伝えられていないという点に端を発している。失われた身体性を獲得するため、体で感じる情報を人工的に作りだして表現することが重要ととらえているそうだ。また触覚メディアは、体験しないとその感覚を伝えにくいため、今回は極力来場者が触ったり試したりと、体感できるような展示にしたという。


岩田洋夫氏 岩田氏に関するQ&Aや活動年表などもパネルとして見られる

バーチャル空間を自分の足で歩く感覚を味わえる「ロボットタイル」

 続いては、展示作品の紹介。まずはRobot Watchらしく、名称にロボットとついた「ロボットタイル」からだ。2004年に発表され、今回は岩田氏の研究室に所属する、学生の真中勇太氏と館山慎吾氏が担当した。全方向の移動と、上下の昇降機能を備えた自律移動する床(タイル)型ロボットで、複数(今回は4~6機)で連携を取って使用する。現在、オンラインRPGや「セカンドライブ」など、3Dのバーチャル感の高いゲームやコミュニケーションツールが当たり前となってきている。しかし、キャラクターの移動は相変わらずマウスやキーボードを利用するのみで、なかなかバーチャル空間内にいるという臨場感を味わいにくいのが残念なところ。そこで、自分の足で実際に歩いてバーチャル空間内を移動できるような仕組みを目指して開発されたのが、このロボットタイルというわけだ。

 ロボットタイルのサイズは、一般的な家庭用の体重計より少し大きいぐらい。足のサイズが28cmの記者が両足で乗っても余裕がある。これが4機から6機程度で連携して動き、足場を作っていく。ユーザーが一歩踏み出すと、同時に現在乗っているロボットタイルと次の足場となるロボットタイルも合わせて後退し、歩いているけど座標的にはほとんどその場を動いていない、という仕組みだ。イメージとしては、スポーツジムによくある、その場で走り込むためのベルトコンベア式のトレッドミルと似たような理屈である。ただし、通り過ぎたロボットタイルは自律移動し、ユーザーの進む方向で待機し、次々と新たな足場となってくれるので、ベルトコンベアのように前後方向だけでなく、斜めや横でもOKというわけである。今回は安全性の面から、平均的な歩行速度の4分の1程度でロボットタイルを動かしているので、歩いているというよりは、飛び石を一歩一歩慎重に移っているという感じだったが、もっと速度を上げれば歩いている感覚が得られるという。

 また、現状ではあらかじめ決められた位置に動くよう設定されており、さすがにユーザーがその場で動きたい方向をセンサーで察知し、それに合わせてインタラクティブに動くという仕組みではなかった。ただし、レーザー測距機でユーザーの位置を把握しており、それを基に重心もPC上のコントロールソフトで算出している。次にどの方向に一歩を踏み出すかという予測に関する研究も進められているようである。

 また、ロボットタイルの足場は高さも変えられる仕組みで、階段を構成することも可能。これも、足を載せているロボットタイルの足場の高さがゆっくりと下がるので、延々と登り続けられるというわけだ(下りエスカレーターを登っていくイメージ)。ちなみに、階段機能の体験は体重80kgぐらいまでは問題ないという。記者は90kg以上あるのだが、無理して体験させてもらったところ、4台のうち×印のものが体重を支えきれなかった。なので、あまり体重がある人は無理をしないように(笑)。安定感という面では、記者の体重が本来は重量オーバーであること、撮影しながらということもあって、若干不安定に感じたりはしたが、体重的に問題ないような、特に子供などは十分楽しめるのではないだろうか。


ロボットタイル。内覧会では4機が稼動していた 【動画】ロボットタイルの上を歩いている様子 【動画】実際に記者が歩いてみたところ。まずは直進

【動画】今度は斜め方向に進んでみる 【動画】階段を登ってみているところ

利用者の位置を測定するためのレーザー測距機 コントロールソフトの画面

 ロボットタイルの展示・実演スペースは、後方に回ったロボットタイルたちが次の一歩に備えて前方に回り込むため、おおよそ5m四方の広さがある。よって、一般家庭への導入は物理的に難しそうだが、こうした科学系ミュージアムや、場合によってはネットカフェなど、ある程度面積を確保できる場所なら、バーチャルスペースで実際に体を動かしての体験、といったアトラクションに使用できそうだ。バーチャルリアリティ展などに見る、最近のヘッドマウントディスプレイを利用した没入感はものすごいものがあるので、それらと組み合わせればかなり面白いアトラクションができそうな感じである。バーチャルリアリティとはいっても、自分の足で移動すると、現状ではそれだけのスペースが必要になってしまうので、ロボットタイルはぜひ技術として磨きをかけて、実用化していただきたいところである。


現実の乗り物とバーチャル世界用の疑似体験マシンが融合した「メディアビークル」

 今回の展示でメインとなっているのが、初公開となる作品の1つの「メディアビークル」だ。小林洋平氏、稲葉智明氏、出口朗大氏が担当した。これに乗ると、誰かの手の上でもてあそばれるような感覚を体験できる。実世界の移動手段とバーチャル世界の体験装置が合体したら? というコンセプトで生まれたのがこのメディアビークル。両世界を自由に動き回るための乗り物なのである。

 外見は、一見すると何かのキャラクターのような、丸みを帯びたくちばしを持った顔に見える。人が中に乗り込むことができ、そこは上半身を覆うような大型の球面ディスプレイとなっている。本体を支える4本の脚部は上下動を行なうことができ、映像に合わせてゆすったりできる仕組みだ。ディズニーランドの「スターツアーズ」のパーソナル版というようなイメージといえばいいだろうか。バーチャルな乗り物に乗っている臨場感をより感じられる仕組みというわけだ。今回は外部カメラがとらえた展示スペースの様子を映しており、メディアビークル本体も映り込んでいることから、幽体離脱体験的な視覚を得られるようになっている。


メディアビークル。ちょっと「攻殻機動隊」のタチコマに通じる雰囲気もある 【動画】メディアビークルが動作している様子 メディアビークルを正面から。なんとなくユーモラスな感じ

人が乗り込むため、このように開く シート 中では、上半身を覆う球面モニターに映像が映し出される

 ちなみに、メディアビークルはロボットタイルよりもさらに体重制限が厳しく、50~60kgまで。記者は乗り込むだけ乗り込ませてもらったが、まったく上下動しなかった(苦笑)。筐体を動かすことに関しては、アミューズメント系のコックピット型の大型ゲーム機の方が進んでいるように感じられたので、球面ディスプレイ技術をそういった企業とコラボすると、さらに臨場感あふれるバーチャルなビークルを造れることだろう。


バーチャルな物体の硬さや重さを感じられる「ハプティックユニット」

 近年、バーチャルリアリティ技術の研究で盛んになってきているのが、触覚=ハプティック分野。今回の展示でも、CGのボールの種類によって硬さの違いなどを実感できる「ハプティックユニット」が展示されていた。担当は根岸敦彦氏で、今回が一般への初公開となる。

 ハプティックユニットは、画面上をワイパーのように動かせるアームと、地面に水平に設置されたモニターという構成。画面前方にアームの付け根があり(要するに見た感じは自動車のフロントウィンドウとは上下逆で、天井側から見ているような感じ)、そこでアームの動きをコントロールしている。アームの手前側の先端には指を差し込める穴があり、孤を描く形でアームを自由に動かすことが可能だ。

 画面上に映し出されたCGごとにアームを通してバーチャルな物体の硬さや流体の流れといったものを感じられる仕組みで、例えば赤いボールは柔らか目。CG上のボールの縁よりもやや内側までそのアームを動かせる(へこむ感触)。一方、白いボールはかなり硬いらしく、勢いを付けてそのボールまでアームを動かしても、カツンと音を立てて縁で完全にとまってしまう。そしてレコードのようにグルグルと回る流体のCGの時は、放っておくと流されてアームが右端に行ってしまう。指を入れて左側に持っていこうとすると、流れを感じられるというわけだ。


ハプティックユニット 【動画】ハプティックユニットを実際に試してみたところ

力覚呈示装置「ジャイロマスター」とハプティックスクリーン「アノマロカリス」

 ハプティックユニットと並んで設置されているのが、「ジャイロマスター」(田村学司氏が担当)と「アノマロカリス」(佐藤亮太氏が担当)だ。ジャイロマスターは2005年に発表された、ジャイロモーメントを用いた力覚呈示装置。ジャイロモーメントが箱の中に3軸方向に回転できる形でセットされている。どんな角度で箱を持っても、ジャイロモーメントの回転によりまっすぐになろうとする力を感じられ、自然とまっすぐに持てるという仕組みだ。このバーチャルな手応えを利用して、携帯したり体に装着したりするなどして、道案内の誘導や、体操や運動などの動作の教示に利用することを目指しているという。


ジャイロマスター。中のジャイロモーメントは3軸で角度が変化する仕組み 【動画】ジャイロマスターを実際に持ってみた様子

 アノマロカリスは、物理的な形や硬さ、動きなどを感じられるハプティック系のスクリーン「FEELEX」を使用した作品で、1998年の発表。スクリーンの下に動作装置を碁盤の目状に配置してあり、個別に上下運動を制御することにより、CGに凹凸や硬さを与えるという仕組みだ。アノマロカリスとは、バージェス動物群と呼ばれる、すでに絶滅した古代生物の一種。イメージ的には甲殻類の先祖のような、エイリアンチックな感じも有する動物で、それがガサゴソとスクリーン上をはい回る。スクリーンを押すと、ボコボコ動くので、もこもことアノマロカリスが動いているような感触を味わえるというわけだ。なお、うっかりアノマロカリスが出現していない瞬間を撮影してしまったので、その様子に興味がある人は感触を確かめることもできるので、ぜひ会場に足を運んでみてほしい。


そばに立つとセンサーが感知して、アノマリカスが出現する仕組み 左からアノマロカリス、ジャイロマスター、ハプティックユニットの順で並んでいる

幽体離脱体験(?)ができる「フローティングアイ」と3次元ディスプレイ

 ロボット技術とはあまり関連がないのだが、メディアビークルのコンセプトの前身といえそうなのが、「フローティングアイ」(2001年発表)。頭上に浮かぶ飛行船に設置されたカメラからの映像が球面ディスプレイに投影され、ディスプレイ中央に立つことで、幽体離脱したかのような視点を得られるという作品だ。担当は棚橋新七氏。


フローティングアイの本体。前後に動かせる 飛行船につり下げられたカメラからの視点が球面モニターに映し出される

球面モニターの内側 球面モニターにはこの半球状のミラーに反射させて投影している

 また、岩田氏以外の作品として唯一展示されていたのが、アーティストのジェームス・クラー氏による、「3Dディスプレイキューブ」。メガネなどを利用した立体映像ではなく、格子状に1,000個の白色LEDを配し、ディスプレイそのものが立体的に作られているという作品だ。3次元CGによる光の乱舞を映しており、どの角度からでも見られるようになっている。一般的にイメージされるような、現在の2次元の映像を立体化して表示するようなことは難しいディスプレイだが、アートとしてはとても美しいのがわかることだろう。


【動画】3Dディスプレイキューブ。まずは1点から撮影 【動画】続いて、角度をずらしながら撮影

 今回の作品を観させてもらった感想は、「異常な創作」という言葉が醸し出す、気持ち悪さのようなものはまったくなく、どちらかというと「面白いテクノロジーを利用した創作」だ。異常な創作というと、製作者の執念や怨念の含まれた、何かおどろおどろしく、受け付けられない異質さを持った、寒気を覚えてしまう作品のようなイメージに感じてしまうのだが、まったくもってそんなことはない。どちらかというとその逆で、岩田氏や学生たちの熱意を感じる作品ばかりである。

 ぜひとも商用化してほしいと思うような技術による、夢や楽しさにあふれた作品群である。正直なところ、もっともっと岩田氏の作品やデバイスアートをまとめて見たい! と思ったほど。ハプティック系は、言葉に加えて画像やムービーを駆使しても、どうしても伝えきれないものなので、ぜひとも足を運んで、自分で確かめてほしい。


URL
  日本科学未来館
  http://www.miraikan.jst.go.jp/
  「岩田洋夫:博士の異常な創作」に関するリリース
  http://www.miraikan.jst.go.jp/info/090108102722.html
  筑波大学大学院システム情報工学研究科
  http://www.sie.tsukuba.ac.jp/
  デバイスアート
  http://www.deviceart.org/


( デイビー日高 )
2009/01/22 21:09

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