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サービスロボットの現状と課題
~「SEMICON JAPAN 2008」にてロボットビジネス推進協議会会長の竹中恭二氏が講演


富士重工業株式会社相談役およびロボットビジネス推進協議会会長 竹中恭二氏
 千葉県の幕張メッセにて半導体製造装置・材料に関する世界最大の国際展示会「SEMICON JAPAN 2008」が開催されている。会期は12月3日(水)~5日(金)まで。1,476社が出展しており、1~11ホールすべてとイベントホールを使った大規模な展示会だ。主催はSEMI。

 4日(木)には、特別企画コーナー特別講演として、富士重工業株式会社相談役(前代表取締役)でロボットビジネス推進協議会会長も務める竹中恭二氏が「サービスロボットの現状と課題~ロボティクス応用による新たな産業創造への期待と課題~」と題して講演を行なった。現在、自動車産業は厳しい状況にある。竹中氏はまずそのことについて触れ、「マネーがマネーを生むような経済だけではなくものづくりに投資してもらうことが大事だ」と講演をはじめた。付加価値の高い商品を作ることでしか厳しい状況は克服できないのではないか、そのための手段はハードウェアソフトウェア含めたエレクトロニクスが大きな役割を果たすという。

 ロボットはもともと戯曲のなかの言葉として始まった。その後、「ティーチングプレイバック」方式で動作する機械として産業界に登場した。ちょうど3K労働を人が嫌がるようになりはじめたころ、最初は人が持って機械に動きを教えて、そのとおりに動くことでスポット溶接などを行なっていた。その後ロボットは、単なる機械を越えて、自動車の品質を高めることに貢献した。自動車が世界のどこの工場で作ったものも同じ品質を持てるようになっているのには、ロボットが大いに貢献している。

 現在のロボット産業はおおよそ7,000億円程度の規模だ。産業用ロボットはさらに知能を高め、より高速な作業を行なうようになっている。より繊細な作業を行なう安川電機の双腕ロボットや、ファナックのビジョンを使った高速ハンドリングなど、産業用ロボットはより速く、より強く、より繊細にという形で今後も進歩していくと考えられる。

 いっぽう、本題であるサービスロボットは生活のなかで役立つことを目的としたロボットだ。日本は少子高齢化に直面している。若年労働力の不足だけでなく、高齢者医療介護、仕事の価値観の変化がある。そのなかで、ものづくり技術・技能を伝承し、国際競争力の確保などが、喫緊の課題となっている。それが同時に新しいロボット技術に期待されているものでもある。

 ロボット需要予測は人口動態予測に比べるとかなりいい加減なものである。だが日本ロボット工業会によれば、2025年には7兆円を超えるとされている。しかしながら現実にはなかなか市場は立ち上がっていない。


初期の産業用ロボット ロボット産業の推移 これからの産業用ロボット

ロボットの定義
 ここでいったんロボットの定義を振り返ると、ロボットとは自律的に自動作業を行なう機械だと捉えられる。センサーで認識し、コンピュータでデータを分析し、命令を下し、アクチュエータで動作を実行する1つのまとまったシステムである。「単独でシステムが完結しているところがロボットの1つの特徴だといえる」という。

 日本の二足歩行ロボット技術は進んでいる。だが市場化は進んでいない。竹中氏はロボットを生活支援技術として捉えたときに考え方を変えなければならないし、今はそのチャンスだと述べた。では生活支援ロボットは何をすればいいのか。利用者にとって価値あるアプリケーションを、生産者が見合うコストで作るにはどうすればいいのか。竹中氏は、現在のロボットはその両者の観点が抜け落ちていることが問題だと指摘した。

 愛知万博以降、いくつかのロボットが出てきた。またソニーのAIBOはある程度売れた。だが価格も決して安くはないし、コミュニケーションロボットには安全性の問題などもあり、一歩前へ踏み出せていないのが現状だ。

 介護支援もロボットの活用が期待されている領域だ。介護は心をケアするものでもあるが、肉体労働になってしまっているのが現状だ。そこをロボットで助けていきたいという。人を置き換えるのではなく、人を本来の仕事に集中できるようにするべきだと述べ、セコムの「マイスプーン」などを紹介した。リハビリ関係としては、筑波大学・山海教授の「HAL」やホンダの「歩行アシスト」などを紹介。電源そのほかの問題をモジュール化することでコストをいかに下げ、そして自らの足で多くの人を歩けるようにするといったビジネスサイクルの実現が重要だと述べた。

 サービスロボットはビジネスとして成功しているものがほとんどないが、富士重工業の「ビル清掃ロボット」は数少ない成功例の1つだ。エレベーターを自分で制御し、高層ビルを深夜に自動で掃除できるロボットである。ところがこれまでの法律はロボットというプロダクトのことを考えずに作られている。たとえばエレベーターは人が乗るものだとされており、ロボットを載せるためには工夫が必要で許可をとるのが大変だったと紹介した。深夜の掃除は労働条件が悪く、またセキュリティの問題や電気代の問題もあった。だがロボットは照明が必要ないし、清掃品質も保証できる。そのためビジネスとして成立したのだという。

 だがスタートしたときには苦労した。成功したポイントは、ビル清掃のニーズに対して、一緒に開発していったからだという。技術者があれもこれもやろうと考えるのではなく、「これだけやればいい」というポイントを聞いて、機能を逆に省いていったという。竹中氏はロボットを作ってみたが、どうしようという時代はもう終わり、これからはユーザーの目線からニーズを引き上げていくこと、つまり「ロボットに何をさせるか?」ではなく「その仕事に最適のロボットをどう作るか!」が重要だと強調した。

 生活支援ロボットの成功例としてiRobotのRoombaほか、KarcherやLG電子など各社の掃除ロボットを紹介した。これも機能を割り切って、目的を達成することでビジネスが発生するのだという。


ビル清掃ロボット 掃除ロボットがビジネス足りえた理由は「機能の凝縮」 「ロボットに何をさせるか?」ではなく「その仕事に最適のロボットをどう作るか!」が重要

 続けて竹中氏は移動体とロボット技術の融合、つまりRT応用で自動車をより安全にする研究について述べた。CCDステレオカメラを使って専用LSIで画像認識し、障害物を連続認識する。そして衝突回避のブレーキングを制御するというものだ。今は激しくふる雪のなかでも障害物を認識できるという。既に「EyeSight」としてレガシィシリーズに搭載されて発売されている技術だ。なお現在の車では、ぴったり止めることもできるのだが止めないようにしているという。止まるようにしてしまうと、ドライバーが逆にさぼるようになってしまうからだそうだ。そのほか、渋滞時に前の車に追随走行する様子や、突然の障害物にも対応する様子などをデモ映像で示した。センサーと制御を使うことでより安全な技術を作ることができるだろう。


RT応用による車のプリクラッシュセーフティ さらなる知能化の可能性 【動画】さまざまな外界環境下でも画像認識が可能

【動画】障害物認識でブレーキをかける 【動画】渋滞時に前の車についていく機能

ロボットタウン
 さらにナビゲーションと組み合わせれば、自動運転も技術的には夢ではないという。ただそれらすべてを1台の車に凝集すると非常にコストが高くなる。そこでそのコストを環境のインフラ側に出すことで、安価に安全な自動車やロボットを実現することができるのではないかと述べ、将来の人とロボットが共生する「ロボットタウン」のビジョンを紹介した。電子タグや埋め込みセンサー、分散ビジョンシステム、そして制御技術によって、より知的になった車椅子やシニアカーも安全に街中を移動できるようになるという。

 トヨタが発表しているような、新しいモビリティロボットが登場する可能性もある。倒立二輪だとその場旋回が容易だったり斜面での安定性での利点がある。竹中氏はトヨタの「モビロ」などを「セグウェイ」を交えて紹介し、これらとGPSそのほかが組み合わされば素晴らしいものができるのではないかと述べた。これらの技術が高齢者による社会への再チャレンジなどを促す効果もあるのではないかという。

 いっぽう米国ではある目的地から目的地までロボットカーを自律で走らせる、DARPA(国防総省高等研究計画局)グランドチャレンジ、アーバンチャレンジが行なわれている。竹中氏は「日本のロボコンは教育面では有効だが、産業寄りの目から見るとやや子供の遊びの延長的なものが多い」と指摘。対してDARPAグランドチャレンジは技術的にもきわめて高度なチャレンジで、賞金も2億円出る。もっとも現状では相当に高度な技術を使っていても、ロボットカーは十分な速度を出せない。だが目標地に到着することができたロボットカーも多かった。本格的なチャレンジで実用化を本気で考えているところがすごいと紹介した。

 ただしこれは国防総省高等研究計画局のコンテストである。またiRobotは軍事アプリケーションも多い。そのようにロボット技術が使われる危険性があるとも指摘した。ロボット技術は宇宙開発でも大いに使われている。しかしその次の応用は軍事というのが現実だし、彼らの多くは民生化はほとんど考えていないのではないかと感じているという。だから逆に日本人は、民生用に絞ってロボットの用途開発を続けていくことで、世界をリードしていけるのではないかと述べた。


 竹中氏は最後に経済産業省の新経済成長戦略を紹介。そのなかには次世代ロボット実用化のための革新的技術特区を作る、介護者支援等生活支援ロボットの技術開発といったことが描かれている。ほとんどが現場技術者である来場者に対して、「ぜひ皆さんもロボット開発にチャレンジしてもらいたい」と呼びかけた。

 ロボット技術は単なる制御だけではなく、情報工学、電気工学などの総合的知識が必要だし、ユーザー目線での開発テーマ策定も重要だ。「生活技術のなかにロボット技術を組み合わせることで、新しいロボットが誕生する可能性があちこちにある。そのためにはロボットが働きやすいインフラ整備と安全整備が必要。事故が1つあっただけでロボットは悪だといわれかねない。プログラムのなかだけではなく、機械設計のなかでも統一した安全基準を作っていくことが重要」と述べた。

 いっぽう自動車は年間7,000人の交通事故死を出している。だが自動車は今日も走っている。社会が自動車のベネフィットに対するリスクを許容しているからだ。「ロボットにおいても同様の社会環境の整備が必要であり、ロボットビジネス協議会ではそのための活動をしている。ロボット技術を正しいことに使おう」と講演を締めくくった。


新経済成長戦略 安全基準が重要

楽墨堂のテーブルロボット、ロボテストなどもデモを披露

SEMI特別企画コーナー ~移動体制御技術がもたらすサステナビリティ~
 特別講演が行なわれたイベントホールでは「SEMI特別企画コーナー ~移動体制御技術がもたらすサステナビリティ~」というコーナーが中央に設置されており、サービスロボットの現状と課題をパネルで紹介していた。そのほか、竹中氏が取締役を務める株式会社ロボテストと、本誌でも何度かレポートさせてもらっている2輪倒立振子テーブルロボットで知られる京都の株式会社楽墨堂が小ブースを出展。デモンストレーションを行なっていた。

 3kg程度の外力になら耐えられるという楽墨堂のテーブルロボットは、ペットボトルなどを載せた状態でデモを行なっており、そのたびに人だかりができていた。楽墨堂ではロボット関連ハードウェア、ソフトウェアの研究開発のほか、CG、マルチメディアソフトウェアの研究開発受託販売などを行なっているという。ロボットに関しては、CANで繋がる各種ユニットを組み合わせることで目的に応じたロボットを迅速に創る「楽ロボunits」を展開している。

 また、ロボテストのほうもe-nuvoをテキストを含めて出展しており、そちらをパラパラめくる人も少なくなかった。竹中氏は、特に若い技術者に、なんとかして本物のものづくりに興味を持ってもらいたいと考えているという。なお竹中氏は「古典航空機と中島飛行機物語」というWebサイトを個人で制作している。

 展示会場は多くの半導体製造関係者でごった返し、熱気に包まれていた。ウェハ搬送ロボットもあちこちでうなりを立てて産業用ロボットらしい、素晴らしく正確無比な動きを繰り返していたが、そちらは割愛する。


ロボテストもロボット教材e-nuvoシリーズをアピール 【動画】楽墨堂のテーブルロボットのデモ 【動画】その場旋回も可能。操作してくれたのは同社取締役CTOの小倉康樹氏

URL
  SEMICON JAPAN 2008
  http://www.semiconjapan.org/sj-jp/index.htm
  富士重工業株式会社(スバル)
  http://www.subaru.jp/
  ロボットビジネス推進協議会
  http://www.roboness.jp/


( 森山和道 )
2008/12/04 19:11

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