独立行政法人 理化学研究所は7日、脳が複雑な行動パターンを学習するメカニズムとして、神経活動の多時間スケールによるメカニズムを考案、ヒューマノイドロボットによる実験に成功したことを発表した。
動物の複雑な行動や運動は、運動パーツ(運動プリミティブ)と呼ばれる、さまざまな行動と、その柔軟な組み合わせにより実現しているとされてきた。例えば、机の上にあるコップを取るという動作をする場合、「腕を伸ばす」「コップをつかむ」「コップを上下に動かす」などのそれぞれの動作が運動プリミティブに当たる。従来はこの運動プリミティブを「低次モジュール」、これら運動プリミティブを組み合わせる「高次モジュール」という空間的な階層(局所表現モデル)が脳に存在し、運動を実現すると仮定していた。しかし、解剖学的には局所表現モデルに対応する明確な空間的階層構造は発見されていなかった。
これに対して今回発表された「多時間スケールモデル」手法は、活動の時間スケールの異なる2種類のニューロン群を使って、運動を学習させるというもの。この神経回路モデルは、神経活動がゆっくり変化するニューロン20個、このニューロンよりも14倍速く変化するニューロン60個によって構成されている。ロボットはソニーの提供によるもので、上半身だけの10関節のみを使って行なわれた。
実験を行なった結果、物体をつかんだり、上下に動かしたりする動作を正確に実行することが確認できた。また、神経活動が速く変化するニューロン群が運動プリミティブに相当する情報を、活動がゆっくり変化するニューロンが運動プリミティブの組み合わせに相当する情報を司っていることが分かった。これにより、神経回路の変化速度の違いが、階層的な機能分化を自己組織的に実現していることが判明したという。
また、活動がゆっくり変化するニューロンの活動パターンを変化させることで、既知の運動プリミティブの組み合わせを変えることができる。これによって、ロボットを新しい行動パターンで動作させることにも成功。既存の運動プリミティブの組み合わせを状況や目的に応じて柔軟に変化させ、無数の行動パターンの作成も可能になる可能性があるという。
今回の研究成果は、神経システムの機能的な階層を実現するための一般原理を理解するために貢献すると見られている。今後は運動制御以外の一般的なシステムにも応用が可能なほか、ロボットが柔軟な行動学習が可能になることから、より高度な介護ロボットの実現についても期待できるという。
■URL
理化学研究所
http://www.riken.jp/
ニュースリリース
http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2008/081107/detail.html
実験の様子
http://www.bdc.brain.riken.go.jp/~tani/mov/PLoS08.html
( 清宮信志 )
2008/11/12 16:04
- ページの先頭へ-
|