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Transducers 2007レポート
原子時計をチップサイズで作る


会期:6月10~15日(現地時間)
会場:フランス リヨン市
   リヨン国際会議場(Centre de congres de Lyon)


 原子時計と言えば、最も精度の高い(誤差の少ない)時計技術として知られている。この原子時計をチップサイズで実現した成果が、マイクロマシン技術に関する国際学会「Transducers 2007(The 14th International Conference on Solid State Sensors, Actuators and Microsystems)」で披露された。

 原子時計は、金属蒸気が発生する電磁波の周波数を時間の定義に利用する(周波数の逆数が電磁波の周期、すなわち時間となる)。電磁波の周波数がきわめて安定なため、高精度の時計を実現できる。ただし通常の原子時計はそれほど小さくない。金属蒸気は高温であり、熱源の遮蔽などに、ある程度の大きさを必要とする。そのままでは、携帯型の電子機器に搭載することは難しい。

 「Transducers 2007」では、マイクロマシン技術を利用して非常に小さな原子時計を開発した成果が2件、発表された。本レポートでは、最初の原子時計の原理と小さくする技術について分かりやすく説明してくれた講演をまず紹介し、続いて米国におけるチップサイズの原子時計開発プロジェクトの講演を紹介する(なお、学会なので講演資料の公表が許可されておらず、レポートでは学会で配布された論文集の図面を引用しているので注意されたい)。


レーザー光で金属蒸気を励起

 原子時計に良く使われている金属はセシウム(Cs)である。フランスのFEMTO-ST(Franche-Comte Electronique, Mecanique, Thermique et Optique - Sciences et Technologies)とSYRTE(Systemes de Reference Temps-Espace)、ポーランドのWroclaw University of Technology、イタリアのSAES Gettersによる共同研究グループは、セシウム(Cs)を使ったチップサイズの原子時計を開発しており、その内容を発表した(講演番号1B4.2)。

 液体金属のセシウムを超小型の容器(セル)に垂らし、レーザー光を液体セシウムに集光することで蒸気に換える。超小型の容器はマイクロマシン(MEMS)技術で製作した。ガラス基板にシリコンの壁を接着した超小型容器である。

 この容器に波長1,455nmのラマンレーザーを集光し、セシウムを蒸気に換える。セシウム蒸気はレーザーのエネルギーによって励起状態(高エネルギー状態)となり、基底状態(低エネルギー状態)に戻る過程で9.192GHzのマイクロ波を発生する。ここでレーザーを2個使い、9.192GHzのマイクロ波で1個のレーザーに変調をかけると、セシウム蒸気のマイクロ波発振にロックがかかり、発振周波数がきわめて安定になる。

 FEMTO-STらのグループは簡単な実験装置でセシウム蒸気の発振にロックがかかることを確かめた。今後は表面発光型半導体レーザー(VCSEL)を使い、本格的な超小型原子時計モジュールの開発に取り組む予定である。


セシウム蒸気を入れる容器の製作方法。シリコン基板をエッチングでくりぬいて壁にする。シリコン基板の厚さは1.2mm。容器の底と蓋はガラス基板である 試作したセシウム容器の外観。右側は1欧州セント硬貨

レーザーに変調をかけて発振周波数にロックをかけたところ。中央の小さな突起が、周波数ロックの存在を示している 超小型原子時計モジュールの構想図。レーザーや光学部品、金属蒸気セル、ヒーター、検出器などの主要部品をすべて、シリコン基板上に搭載する

大きさ200分の1、消費電力400分の1の原子時計チップ

 ここで構想された超小型原子時計モジュールを製作済みなのが、米国Honeywell Internationalである。米国防総省DARPAの委託を受けてHoneywell Aerospace Research Labs.が「CSAC(Chip-Scale Atomic Clock)プロジェクト」の名称で開発してきた。「Transducers 2007」では、開発したモジュールの概要と主な性能が披露された(講演番号1B4.1)。

 モジュールの外形寸法は1.7cm3と非常に小さい。この小さなモジュールの中に、光源の表面発光型半導体レーザー(VCSEL)、光学系、金属蒸気セル、光検出器などをコンパクトにまとめてある。そしてモジュールの消費電力は、わずか57mWしかない。通常の原子時計に比べ、容積で200分の1、消費電力で400分の1に相当するという。

 このモジュールの大きさと消費電力は、デスクトップPCに組み込める仕様である。欲を言えば消費電力はもう少し低い方が望ましい(待機時消費電力なので)。それでも、コンセントからの電力で動く電子機器に組み込めるレベルにまで、小さく、低消費電力になってきたことが分かる。

 モジュールの構造は非常に複雑だ。パイレックスガラス基板を加工し、部品を搭載し、基板同士を接着する。底部のガラス基板(ベンチウエハー)の裏面にVCSELを配置して垂直上方にレーザービームを射出し、中央のシリコン基板(キャビティウエハー)の鏡面でレーザービームを水平方向に曲げる。水平になったレーザーが金属蒸気セルを通過し、シリコン基板の鏡面で垂直下方に曲がる。そしてガラス基板(ベンチウエハー)の裏面に取り付けた光検出器に当たる。

 金属材料には、ルビジウム(Rb)を用いた。ルビジウム蒸気の発振周波数は6.834683GHzである。この半分の周波数である3.417342GHzでVCSELの駆動電流を変調した。VCSELの発振波長は794.98nmである。ルビジウム蒸気セルには、加熱用ヒーターと温度センサーが備え付けられている。

 モジュール全体は、20端子のセラミックパッケージに封止される。パッケージの外観は、普通のLSIと変わらない。そしてマイクロコントローラや電圧制御発振器、温度制御回路などとともに、プリント基板に実装される。

 試作したボードで発振周波数の精度や時計としての誤差などを測定した。発振周波数のドリフトは1日当たりで0.06Hzと少ない。周波数の安定度(ゆらぎ)は、原子時計を起動後、1万秒で2.9×10のマイナス12乗に達する(原子時計は起動後、時間の経過とともに発振周波数が安定になる)。


チップサイズ原子時計モジュールの断面構造 ルビジウム(Rb)蒸気セルの外観写真 原子時計モジュールを封止したパッケージ(20ピンセラミックリードレスチップキャリア)の外観写真

原子時計モジュールと周辺回路のブロック図 プリント基板に原子時計モジュールと周辺回路を実装したところ 試作した原子時計ボードで実測した発振周波数

 Honeywellはさらに、GPSレシーバとのインターフェイスボードも開発した。GPSシステムに高精度のリアルタイムクロックを組み込むことで、電磁妨害(ジャミング)に強いGPSレシーバの実現を狙っている。

 開発したGPSインターフェイスボードは、原子時計ボードと直接接続する。GPSレシーバーの起動後にリアルタイムクロックが安定するまでにはしばらくの時間を要するが、原子時計の活用によって起動直後からリアルタイムクロックが安定するようになることを確かめた。


原子時計ボードとGPSインターフェイスボードのブロック図。左が原子時計、右がGPSインターフェイス 原子時計ボードとGPSインターフェイスボードを接続したところ 原子時計とGPSを接続したことによる効果。発振周波数(すなわちリアルタイムクロック)が素早く安定化する

URL
  Transducers 2007のホームページ(英文)
  http://www.transducers07.org/

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Transducers 2007 前日レポート
「ミクロの決死圏」を具現化するマイクロマシン技術(2007/06/12)



( 福田 昭 )
2007/06/14 00:01

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