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会場風景。発表会形式で行なわれる
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1月27日、川崎市産業振興会館にて「第一回ROBO-ONE on PC / Sat.」が開催された。「ROBO-ONE on PC / Sat.」は、2010年を目標にした宇宙空間での二足歩行ロボット格闘大会「ROBO-ONE宇宙大会」を見据えた、「ROBO-ONE on PC」の発展形。ホビーストによるロボットのモデルベース開発と、宇宙でのロボット制御技術の向上を目指している。
主催はROBO-ONE委員会。協賛はオートデスク株式会社、サイバネットシステム株式会社、双葉電子工業株式会社、株式会社ハイテックマルチプレックス、株式会社サンライズ。審査員は西村ROBO-ONE代表のほか、株式会社ベストテクノロジーの津藤 智氏、サイバネットシステム株式会社の三田宇洋氏、オートデスク株式会社の宇土和宏氏が務めた。
当日は参加者によるプレゼンテーションが行なわれた。優勝者はロバスト性もあるロボット制御を行なったことが評価された西 憲一郎氏、準優勝はshin1氏、3位はJester氏となった。なお優秀賞の副賞は50万円、準優勝は10万円、3位は5万円である。
● 3つのミッション
ミッションはコンピュータ・シミュレーションによって行なわれる。今回のミッションは3つ。
ミッション1は「ROBO-ONE衛星への搭載」。ROBO-ONE宇宙大会にて打ち上げを検討している「ROBO-ONE衛星」に搭載できるロボットを設計する。ロボットは打ち上げ時の加速度・衝撃(30G)に耐えられるように、1,000立方cm以内、1,000g以下で設計される必要がある。
ミッション2は「無重力空間での姿勢制御」。衛星軌道上でROBO-ONE衛星から放出されたロボットが1rad/secで回転していると仮定、この回転を何らかの姿勢制御技術で止めるというもの。
今回は回転するホイール、リアクションホイールを使って角運動量を相殺することを想定した人が多かった。しかし、中にはアニメのロボットのように、手足を振ることで何とか姿勢を制御しようとした人もいた。
ミッション3は「ロープを使った姿勢制御」。ROBO-ONE宇宙大会ではロボットのデブリ化防止とリングアウト判定のため(ROBO-ONE宇宙大会ではロープが伸びきってしまうとリングアウトになるというルールが採用される予定)、ロボットとROBO-ONE衛星はロープで繋がれている。このロープを使って機体を移動させ、ある座標位置に置かれた10cm角の四角形ターゲットをキックする、というもの。足がターゲット座標上を通過すれば「キックした」と見なされる。
エントリーした参加者は3カ月の間に、サンプルパッケージが提供されるオートデスクのInventorでロボットを設計、強度解析を行ない、サイバネットシステムのMatlab/Simlink、SimMechanicsを使ったシミュレーションによって、これらのミッションのクリアに挑戦する。
ROBO-ONE宇宙大会実行委員会では、この大会の結果をもとに、ROBO-ONE衛星のモックアップを作る。また宇宙へ送り出すロボットの試作機も作る予定。現在はロボットアームや、衛星制御のためのリアクションホイールの検討、ロボット操縦のための画像処理技術の検討を行なっているところだという。一番の課題は無線システムとアンテナで、通信速度は1Mbpsを狙っているとのことだ。
ROBO-ONE宇宙大会のアドバイザーも務める東大の中須賀教授らは2008年中を目標に小型衛星打ち上げを狙っている。その衛星ではSバンドを使用、地上では10mのパラボラを使うことが予定されており、ROBO-ONE宇宙大会でも、それをベースに仕様を検討する予定であり、いまは日本全国の大学をリサーチしている段階だという。また、無線機そのほかハードに関してもメーカーと交渉しているそうだ。電波の申請はこれからだが、そのためにも無線機の仕様を早急に決める必要がある。
いずれにせよ、今年度はモックアップと衛星を模擬したようなプラットフォームを作り、アルゴリズムは来年度中に開発、2008年度中にはエンジニアリングモデルを作り、2009年度にさまざまな試験を行なう予定でいる、と西村輝一ROBO-ONE委員会代表は語った(詳細は後述)。
● 各大会参加者のプレゼンテーション
ROBO-ONE on PC/Sat.は現段階では参加者も少ない。今回、実際に会場でプレゼンを行なった参加者の発表を簡単に紹介する。
まず最初に前回、前々回優勝した杉浦登氏(株式会社テクノロード)が発表した。杉浦氏は、今回は課題そのもののソフトウェアはあまり使わず、三次元シミュレーションツールODE(Open Dynamics Engine)を使ってロボットの姿勢制御シミュレーションを行なった。リアクションホイールをまわすことで細かい姿勢制御が行なえることを示し、腕をぐるぐる回すことで姿勢制御可能かもしれないと述べた。今後はODEとSimlinkの連携を検討し、また、ホイール制御だけではなくロボット関節を使ったり、ロボットの方位が把握できるセンサの検討を行なうという。
静岡県立浜松工業高校知的制御研究部は、「舞流宇(ぶるぅ)」という名前をつけた14軸のロボットを設計し、シミュレーションを行なった。強度解析を行ないロボットが破損しないことを確認し、慣性モーメントを反映したロボットのモデルをリアクションホイールを使って姿勢制御し、キックするシミュレーションを行なった。今後は宇宙大会用に、より現実的な機体を設計し、さらに正確なシミュレーションを目指したいという。高校生とは思えない立派な発表に会場からは惜しみない拍手が送られた。
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杉浦登氏のシミュレーション
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静岡県立浜松工業高校知的制御研究部の「舞流宇(ぶるぅ)」
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リアクションホイールで姿勢制御を行なう。これは今大会では多くの人が採用していた方式
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「K-PROJECT」氏は、機体を小さく軽く、重心をできるだけ胴体中央部に置いて設計し、シミュレーションを行なった。ロボットは変形すると10cm四方に収まる。3軸のリアクションホイールを使うことで、ある程度ロバストな制御を行なえることを示した。
「CHERRY BOMBER」氏は、現状のサーボが宇宙で使えるわけはないと考え、新規に斜めに軸をつけたロボットを設計・提案した。
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「K-PROJECT」氏によるロボットの構造解析の様子
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「CHERRY BOMBER」氏設計のロボット。少ない軸数で色々なポーズを取ることができる
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優勝した西憲一郎氏
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西憲一郎氏は肩の部分をたたむことで格納できるロボットを設計してプレゼンした。素早い動きを実現するためにはより大きなトルクが必要になる。姿勢制御にリアクションホイールを使うとすると、重いホイールを高速で回転させるか、あるいは高速回転しているホイールに急制動をかけるしかない。だが、それでは蓄積モーメンタムを使い切ったら終わりになってしまう。
そこで西氏は3軸それぞれに二重反転リアクションホイールを使うことで、モーメンタムをチャージすることができること、また、溜めたモーメントを短時間に素早く開放することができるというアイデアを出した。比較的トルクのないモーターで、加速性能はないがブレーキの効きが良くすることができる。
またロープを使った移動だが、回転モーメントが発生しないラインを設定(西氏は「ZMP」をもじって「ZML」と仮称)、そのライン上を手繰ることで、機体が下手に回転しないようにロープを引っ張ることで、ロボットを移動させたり蹴りを行なえることを示した。
西氏は「宇宙大会では自分の機体を崩さず、どうやって相手の姿勢を崩す(回転させる)ことが重要となるかがシミュレーションを行なう過程で自分でもよく分かった」と述べ、その上で、参考になった本として『ヒューマノイドロボット』(オーム社)などを挙げた。「地上は重力のある宇宙だと考えることができた」という。
西氏は、今回の大会で優勝を果たした。シミュレーションそのものやアイデアに加え、ROBO-ONE on PCでも、ROBO-ONEの特徴であるユーザー同士のサポートは健在だが、そのなかで要の役割を果たしたことも評価されたようだ。
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西氏が設計したロボット「スターダスト1号」
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【動画】衛星格納姿勢(動画提供:ROBO-ONE委員会)
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単純に折りたたんでいるのではなく、衝撃に強い折り畳み方になっている
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二重反転リアクションホイール
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ZMLという回転モーメントの発生しないラインを想定して姿勢制御を行なった
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【動画】ターゲットを蹴るシミュレーションの様子(動画提供:ROBO-ONE委員会)
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「ナベ☆ケン」チームは構造解析とPI制御を徹底的にやりこむことを目的としてonPCにトライした、という。姿勢制御には6つのスラスタを使うとし、制御系を組んだ。外乱によってありえない値がどんどん蓄積されていくことを防ぐためにPI制御の積分器をリセットする必要がある。リミッターを設定して制御対象を破壊することがないようにし、積分器リセットに「アンチリセットワインドアップ」という回路を使うことで、制御対象をオーバーシュートなし、オフセットなしの制御を実現した。
「オマタ」と「カドゥー」氏は、ROBO-ONEの前大会に出場した「量産型アタモ」について発表した。パーツを共通化し、宇宙大会のレギュレーションを倍にした(体積では8倍)にした設定でロボットを設計、制御シミュレーションを行なった。もしサーボモーターが半分の大きさになったら規定に収まるはずだ、という。また、ROBO-ONE本戦とon PC双方の掛け持ちは困難だとし、初心者向けのROBO-ONE on PC大会がほしいとアピールした。
「タケダ・フラワー戦隊ナガレンジャー」チームは、初参加ながら「緻密で真面目なモデル化」(三田氏コメント)によって、シミュレーションを行なった。今後はリアクションホイールで回収したエネルギーの活用なども視野に入れていきたいという。
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「ナベ☆ケン」チームはアンチリセットワインドアップを使ったことが評価された
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「オマタ」と「カドゥー」氏による「量産型アタモ」
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タケダ・フラワー戦隊ナガレンジャーによる、ロボットがターゲットを蹴るシミュレーション画像
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Jester氏は両手両足を畳むロボットを設計。Inventor Studioを使ったイメージCGを見せたあとで、制御シミュレーションを披露するという形で発表した。航空機や宇宙機の設計開発に用いられるMatlab/Simlinkのツールの1つ「Aerospace Blockset」を使ったという。3位を獲得した。
伊藤健太氏は、足を綺麗に折りたたむことで規定寸法におさまるロボット「SPACE-CRAB」を設計。初期回転の制御をリアクションホイールで制御し、機体を展開することができた。宇宙工学や制御理論を学ぶよい機会になり勉強になったという。
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Jester氏設計のロボット
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【動画】キックとAerospace Blocksetを使ったシミュレーションの様子(動画提供:ROBO-ONE委員会)
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伊藤健太氏設計の「SPACE-CRAB」
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準優勝したshin1氏
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準優勝のshin1氏は、重量物を胸部に集中させ、荷重をできるだけ面で受けるようにして30Gに耐えられるように設計。リアクションホイールで回転を止めたあと、大の字になって決めポーズを行なう、というシミュレーション結果を見せた。
またアニメ「機動戦士ガンダム」でいうところの「AMBAC機動」、すなわち自分の手足の反動を使った姿勢制御にトライ。実際問題として、どの程度、姿勢が制御可能か試してみたシミュレーション動画を示した。
その結果、質量が小さいROBO-ONE宇宙大会のロボットでは手足をバタバタさせたところで機体姿勢は効果的なほどには動かないが、リアクションホイールによって蓄積されたモーメントのアンローディングなど補助的な役割ならば、身体のひねりを使うことができるのではないかと述べた。
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【動画】shin1氏が設計・シミュレーションしたロボット(動画提供:ROBO-ONE委員会)
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【動画】無重量状態で体を動かしても格闘に十分な速度では姿勢は動かせない(動画提供:ROBO-ONE委員会)
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【動画】反動を使って無重量状態での姿勢制御を行なおうとする様子(動画提供:ROBO-ONE委員会)
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【動画】リアクションホイールと組み合わせた姿勢制御。決めポーズも(動画提供:ROBO-ONE委員会)
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なぐ氏は、要求仕様を先に決め、それを満たし、なおかつ実際に製作できそうなアクチュエータを設計。Inventorの機能を使って、レンダリングしたアニメーションを発表した。Inventorの「Dynamic Simulation」機能を使って、このロボットが歩行できることを示した。西村氏も、なぐ氏設計のアクチュエータについて「参考にしたい」とコメントした。
なお宇宙用のモーターはROBO-ONE宇宙大会委員会でも検討しているところだという。ブラシレスモーターではコストが高くなりすぎることから、密封アルミケースを使うことも視野に入れているそうだ。
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なぐ氏設計のロボット
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衛星搭載姿勢
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設計されたオリジナルのアクチュエーター
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● ROBO-ONE宇宙大会とその狙いとは
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ROBO-ONE委員会代表・西村輝一氏
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西村氏は、「ロボットがホビーの枠を超えて成長するためのひとつの方法がROBO-ONE宇宙大会だ」と語る。
宇宙では人が触ることができないので、信頼性や安全性を高めざるを得ない。現在の課題としては、ナローバンドでの通信、ロボットアームの衛星への影響、太陽電池への効率的な充電システム、ロボットへの電源供給方法の研究、衛星の姿勢制御方法の確立、大容量データの離散的ダウンロードと欠損データの回復方法の研究などがある。これらの課題がクリアされれば、たとえば地上でも「ロボットが特定の場所で少し休んでいるだけで充電できる、といったロボット活用シーンの実現が想像できる」という。
また、通信プロトコルが規格化されたロボット用のインテリジェントな分散型サーボ、高性能なセンサーなどができれば、ロボットの性能も高くなる。
西村氏は自身が思い描くロボット国内市場の推移予想図を示し、「ロボットの定義が徐々に変わりつつある」と語った。たとえば自動掃除ロボットなど自動機械的なものから普及し始めていくと考えているという。
また、「ROBO-ONEのロボットがうまく動くのは軽量であるからに過ぎない」とも断じた。しかし、人間を持ち上げることができるフォークリフトのようなロボットが家庭を歩き回っていたら、かなり怖い。それよりも人を起こすことのできるベッドなど自動機械からロボットの普及は始まると考えているという。歩き回るロボットは10kg以下くらいが限界であるという。そこでいま、より重量のある、重さ7kg程度の人型ロボットと犬型ロボットを、研究用プラットフォームとして製作しているそうだ。
今後、ROBO-ONE委員会では実際に地上用ロボットを製作して研究を行なうと同時に宇宙大会のアピールを行なっていく。2008年1月ごろには一次試作と地上局設置を行ない、2009年1月には機能試験モデル、2010年1月には完成させて、年末には打ち上げ、というスケジュールを構想している。
全体的には、まず機体の姿勢を固定、リアクションホイールを使って機体のモーメントを打ち消すゼロ・モーメンタム方式で姿勢制御を行なうことを前提としている人が多かった。現実的といえば現実的だが、二足歩行ロボットならではの特性を活かしてもらいたいような気もするし、だがそれをやろうとすれば制御が難しくなる……といったところが悩ましいところだろうか。
今回は初挑戦のチームも参加し、ミッションクリアできていなかった人も少なからずいた。しかし西村代表は「まず参加してもらうことが重要。いいことだ」と評価していた。
■URL
ROBO-ONE
http://www.robo-one.com/
ROBO-ONE on PC/Sat. 1st
http://robo-one.com/sp/space_onpc1.html
ROBO-ONE in the Space
http://robo-one.com/sp/space.html
【2006年3月20日】【森山】2010年、ROBO-ONEは宇宙へ(PC)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0320/kyokai44.htm
【2004年10月26日】【森山】第2回 ROBO-ONE on PC 発表会開催
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1026/kyokai30.htm
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( 森山和道 )
2007/01/30 00:02
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