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第1回 KYOSHO アスレチクス・ヒューマノイドCUP開催

~シンプルに『走る』ことの難しさと面白さ

 2006年12月9日、10日の2日間、東京の表参道ヒルズB3F『スペースO:』にて、第1回KYOSHOアスレチクス・ヒューマノイドCUPが開催された。このイベントは同社が9月に発売した初の二足歩行ロボットキット「マノイ AT01」によるワンメイク競技会で、5mの距離を駆け抜ける速さを競う「アスリートクラス」と、2分間のデモンストレーションの優劣を審査によって決定する「パフォーマンスクラス」の2競技で構成され、21チームがマノイとともに参加した。


会場の表参道ヒルズ 会場入り口。「ロボットのイベント開催中でーす」と、常時スタッフが呼びかけていた 会場の中心となるフィールド部分。観客席は円卓にいすが4つ並ぶ、カフェのような雰囲気になっていた

フィールドを横から見る。右端のマノイと比較すると、5mが意外と長いことに気づくだろう マノイ発売元の京商株式会社の製品が展示されたブース。同じフロアには同社のヘッドショップ「KYOSHO表参道」もテナントとして入っている

会場限定のマノイグッズなどが販売されるブースがあったほか、近藤科学(株)、ツクモロボット王国、『ロボコンマガジン』のオーム社、『ロボットライフ』のNESTAGE社がブースを出展していた マノイAT01アドバイザーであるスギウラファミリーの展示ブース。ダイナマイザーやレトロなど、よく知られたロボットが並んでいた

エキシビジョンマッチ

ARCシステムの受信機(「12-1」と書かれている黒いボックス)。両足のつま先にセットされており、どちらの足が先にゴールしてもタイムに反映されるようになっている
 9日は出版社などのメディア対抗による5m徒競走エキシビジョンマッチが行なわれた。無線操縦で4本走った中のベストタイム(2分以内にゴールできなければスタートからの到達距離が記録)を競うものだ。タイム計測にはラジコンカーレースで実績がある「ARCシステム」と呼ばれる自動計測装置が使用され、1/100秒まで計測することができるようになっていた。ロボット競技会のタイム計測は手動が当たり前なのだが、タイム差が最大の注目ポイントとなる“アスリート競技”だけに、誤差のほとんどない自動計測を採用したのだという。

 当Robot Watchもマノイを製作し、ライター・石井英男氏とともに参加した。一本目に51秒56と全体で3位となる好タイムで滑り出し、2本目にはこの日ベストとなる39秒09をマーク。しかし、回を重ねるごとに素晴らしい記録が生まれていく流れの中で転倒などの不運もあり、11チーム中8位でフィニッシュした。


エキシビジョンマッチ出場の11チーム Robot Watch代表として出場したマノイ。組み立てから調整まで、他所様の手は借りていません ただ、絵心のない人間が作ったので、目だけは会場でマノイAT01のアドバイザー、Dr.GIYさんに描いていただきました。ありがとうございます

 エキシビジョンマッチのトップは、マノイのアクチュエーターを供給しているKONDO(近藤科学株式会社)チーム。予選1本目から段違いの22秒80を叩き出し、最後には11秒54という記録で勝利した。と言っても同チームのマノイは標準状態ではなく、マノイに無改造で搭載することのできるハイスピードサーボ(もちろんKONDO製)をフルに活かしての記録だった。“二足歩行ロボットはここまでできるのだ”というデモンストレーションともいえる走りで、会場はどよめきに包まれていた。

 競技の合間などではマノイの体験操縦も行なわれており、訪れた家族連れが5m走で楽しむ姿が見られた。


KONDOチームのマノイ。同じ銀色でも迫力が違う。太もものカウルは起き上がりに影響するために外したとか 体験操縦に挑む親子連れ。お母さんもスタッフも笑っているのに、子供は真剣

アスリート部門・無線クラス

 2日目は初日のエキシビジョンマッチに出場したメディアに加え、一般参加者が加わった、総勢21チームによる競技となった。

 メイン競技であるアスリートクラスは予選が3本あり、ベストタイム上位10チームが決勝へ。決勝も3本走り、決勝レース内でのベストタイムで順位が決定されるという方式である。

 予選は1本目から好記録が続出する展開になった。昨日エキシビジョンマッチを経験しているメディア関連チームはもちろんだが、初レースとなる一般参加者も続々と完走。一本目を終えたトップタイムは18秒86を記録した一般参加・藤井伸幸氏の「茶々丸」。この記録は前日のエキシビジョンマッチ総合成績でも4位に相当する好タイムである。

 しかし、さらにそれを超えるタイムを記録したのが、堀之内貴志氏の「オートモ ニコ」だ。予選2本目で18秒39を記録して予選トップに立つと、3本目では15秒63でダントツの1位を獲得。「茶々丸」も18秒81まで持ちタイムを縮めたのだが、予選は2位となった。


【動画】18秒81という好タイムで予選を2位で突破した藤井伸幸氏の「茶々丸」(手前) 【動画】15秒63で予選トップとなった堀之内貴志氏の「オートモ ニコ」(奥)

 初日のエキシビジョンマッチでは一度くらい転んでも、きちんと走りきるだけでそこそこの記録になったのだが、20秒を切る記録を目指すとなると、スタートからゴールまで、転ばす・曲がらずに進むことが最低条件になってくる。一度転ぶと立ち上がるのに早くても3秒から5秒かかるし、方向転換も1秒、2秒のロスになってしまうからだ。正直、第一回からこれほどレベルが高い争いになるとは思いもよらなかった、と主催者側がコメントしたくらいである。

 決勝進出は10チーム。予選のタイムはアスリートカップの「記録」としては残るが、順位はここから行なわれる3本のベストタイムとなる。ここまでの出走順はランダムだったが、決勝は予選通過タイムの遅いほうから2チームずつが出る、スキーやスケートなどのスピード競技と似た形で行なわれた。

 決勝でも「オートモ ニコ」の勢いは衰えず、いきなり1本目で15秒74をマーク。2本目こそ16秒97と多少タイムを落としたが、最終3本目では15秒58というベストタイムを叩き出し、「オートモ ニコ」が決勝では終始トップを譲ることなく、初代KYOSHOヒューマノイド・アスリートCUPのチャンピオンに輝いた。


【動画】決勝で15秒58というタイムをたたき出した「オートモ ニコ」(手前)
 「オートモ ニコ」は、マノイをベースに腰の旋回軸と腕のヨー軸を追加したうえ、足のピッチ軸をハイスピードサーボ「KRS-4013HV」に交換しているオプション満載の機体だ。製作者の堀之内氏は地元・九州の二足歩行ロボット競技会のみならず、大阪や関東のイベントにも積極的に遠征するビルダーで、今回はその実力を発揮したといえるだろう。予選決勝を通して6回走ったうち、3回が15秒台、21秒以下は一度もないという、まさに圧倒的な勝利だった。


オートモ ニコのカウルは未塗装。軽量化とかではなく、たんに時間がなくて塗れなかっただけだという。堀之内氏は好成績を収めたのに「申し訳ない」と未塗装について恐縮していた 安定走行の秘訣は足裏に貼られたカグスベール。適度なクッション性と、踏み込み方で変わるグリップ特性を活かしたそうだ

 惜しかったのは4位の藤井伸幸氏「茶々丸」。6回走ったうち4回で18秒~19秒台を連発していたのだが、決勝の3本で18秒台を出すことができず、0秒18差で表彰台を逃してしまったのだ。18秒で5mと仮定して、1秒で進むのは約27cm。0秒18差だと、ざっと計算してわずか5cm、マノイの足半分の差である。ARCシステムが採用されることが決まったときには、まさかこれほど微妙な差が影響するとは想像しなかったが、こうなってみると厳格な自動計測の正確性がいかに重要なのか思い知らされた。

 Robot Watchも決勝レースに出場することができ、タイムを2日間でベストの24秒22まで縮めたものの、トップ3には及ばず、8位で大会を終えた。


黒一色の「茶々丸」。常に安定した走りを披露していた 長谷川一成氏の「マヌイ」。某RPGのキャラクターっぽくも見えるが、特にモデルがあるわけではなく、オリジナルとのこと

「マヌイ」のアップ。このままマノイ用外装として売ってもいいくらいのクオリティだ。というか筆者は欲しい 【動画】ライター・石井英男氏による「Robot Watch号」

アスリート部門・自律クラス

 アスリート部門の自律クラスは、KAITロボメカ 神奈川工科大学兵頭研究室の「くまじろう」と玉川大学 ROBOWORKS「1号」の2チームのみの参加となったため、両チームが決勝までの6本を走った。

 自律クラスは無線操縦と違い、人間がスタートスイッチを入れたら、あとは機体に搭載されたセンサーを頼りに、マノイが自分でゴールを目指さなければならない。どのセンサをどのように使うかや、そのセンサの値をどうやってプログラムに反映させるかなど、無線クラスとは段違いに高い技術が要求されるクラスということもあり、両チームの機体はともにコースの半分くらいで方向を見失ってしまい、復帰できなくなってしまう場面が続いていた。

 しかし、決勝レース2本目で、ついに「くまじろう」が記念すべき自律クラス最初のゴールを決める。記録は1分39秒93と、制限時間も大幅に残してのゴールだった。

 くまじろうは頭部に地磁気センサを搭載しており、方位を読み取って進行方向をコントロールする仕組みをとっていたのだが、建物の中は電源ケーブルや鉄のフレームなど地磁気を乱す材料が目白押し。そこで地磁気センサの感度を落とし、歩くときに発生する加速度センサの値を使って補正することでゴールを生んだのだという。「まさか第一回からゴールするチームが出るとは思いませんでした」と主催者側が驚くほどの快挙だった。


【動画】自律クラス競技の様子。この段階では完走は困難に見えたが…… 【動画】見事完走したKAITロボメカ 神奈川工科大学兵頭研究室の「くまじろう」

パフォーマンス部門

 マノイのオリジナルモーションを作ってデモンストレーションを行なうパフォーマンス部門は6チームが参加。マノイが踊るだけではなく、参加者まで一緒に踊るステージなどもあったが、優勝はスギウラファミリーの「イケメン with AP01」に輝いた。カメラを使ったデモや音声再生ボードなど、他チームとは一段違うデモを見せていたので、誰もが納得の結果だろう。


【動画】スギウラファミリーによるパフォーマンス部門のデモンストレーション。カメラによるロボットからの映像が面白い 【動画】こちらはパフォーマンス部門3位のマノタイガー

 今回は取材はもとより参加者として会場にいた場面が多かったので、イベント自体を楽しんだ部分が大きい。1日目のエキシビジョンから2日目の予選、決勝に向けて、多くの参加者が持ちタイムを縮め、全体の記録が底上げされていく過程は、「人間が行うアスリート競技も、こういった感じなのかな」と思わせる緊張感があり、筆者が参加した他の競技会とはまた違う雰囲気を味わうことができた。

 同時に、全員が同じ機体のオーナーだからこそ生まれる連帯感のようなものが控え室にあり、「調子悪いみたいですけど、どうしたんですか」とか「どこが壊れたんですか? どうやって?」というような情報交換が自然に起こっていた。

 反面、“見る側”として一歩離れたところから見てみると、競技のレベルが第1回からいきなりハイレベルになりすぎてしまった感がある。競技なので優勝劣敗なのはもちろんなのだが、主催の京商株式会社がマノイの購入者層のひとつとして想定していた「これまでロボットに敷居の高さを感じていた人たち」にとっては、ハイスピードサーボを積んだ、ある意味既に二足歩行ロボットの“文法”がわかっている人が優勝したこの結果だけを見れば、「やっぱり敷居は高いんだな」と再認識させてしまう恐れがあるだろう。

 しかし、今回無線クラスの2位、3位に入った機体は、姿勢を補正するジャイロこそ積んでいたものの、サーボもノーマルならモーションもKYOSHOで配布されているものを小改造しただけの、ほぼストック状態である。それでも十分、徒競走として微妙なタイム差のドラマなどが生まれているのだ。それならば、初めて二足歩行ロボットイベントに参加しようとする人にとっても、“特別な改造なしに参加できる”というプラス面は保たれているといっていいだろう。


決勝戦でフィールドを囲む観客の人だかり。ロボットが転ぶたびに笑いが、ゴールするたびに拍手が自然と沸いていた
 シンプルなアスリート競技である以上、足を速く動かすことができ、より正確なモーションの再生が可能なハイスピードサーボが有利になるのは間違いないし、今回エキシビジョンマッチや2日目のデモ走行でKONDOチームの機体が披露した11秒台の走りのような「最高」を求める競技もいいが、今述べたような「はじめて」の人たちにも楽しんでもらうためにも、やはり「ノーマルクラスのクラス優勝」のような表彰順位も作るべきだろう。

 そして、機体が共通であることを最大限に活かして、競技で有効だったモーションが公開されれば、多くのユーザーがレベルアップし、競技会もまた盛り上がるに違いない。京商のサイトにはすでにそのモーション公開システムができているので、今後の展開に期待しよう。

 また、「走る」ことの難しさと楽しさは参加してみてよくわかったが、観客視点から見るとまだまだ「何がすごいのか」わからないことが多すぎるので、今回得られたデータをもとに、観客も楽しめるようなアナウンスや演出があってもいいのかもしれないと思わされた。

 京商としても初の二足歩行ロボットイベントであり、会場の表参道ヒルズもまた、初のロボットイベントという初物尽くしだった第1回KYOSHO アスレチクス・ヒューマノイドCUP。2007年はシリーズ戦にすることを予定しているそうなので、さらに参加者や競技が増えることを祈りたい。


無線クラス入賞者。右から3位のモロニシチーム、佐野純一郎氏(ロボット名:モロ)、1位の堀ノ内貴志氏(オートモ ニコ)、2位のRC styleチーム、坂本三佳氏(TOTO) 自律クラス入賞者。右から1位のKAITロボメカ 神奈川工科大学兵頭研究室 引間奈緒子氏、2位の玉川大学 ROBOWORKSチーム、渡部裕治氏 パフォーマンスクラス入賞者。右から3位の榊原誠夫氏(マノタイガー)、1位のスギウラファミリーチーム、杉浦裕太氏、杉浦真武氏(イケメン)、2位のロボットライフチーム、武下公美氏(ロボットライフ号)

URL
  京商
  http://www.kyosho.com/jpn/
  KYOSHOアスレチックヒューマノイドカップ
  http://www.kyosho.com/jpn/products/robot/cup/1st_cup.html


( 梓みきお )
2006/12/14 19:44

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