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「第10回ROBO-ONE in 長井」レポート番外編(1)

~まちおこしにロボットを掲げた長井市という街

 「第10回ROBO-ONE in 長井」に行ってきた。決勝戦の様子などは白根氏による本誌既報をご覧頂くとして、私こと森山のほうは、予選の様子や会場の様子、今回ROBO-ONEを山形県長井市に招聘した地元長井の「フラワー戦隊ナガレンジャー」チームこと長井市「NAGAIロボットプロジェクト」の方々の話を中心に書かせてもらう。一人のロボット好きによる旅日記みたいなものだと思って気軽に読んで頂ければ幸いである。なおこれは長井市という一地方都市の話ではあるが、似たような状況の街も多いはずだ。


「ものづくりコミュニティー」とロボットによるまちおこしとは? ~山形県長井市の取り組み

フラワー長井線の「スウィングガールズ列車」。長井線オフィシャルグッズは萌えグッズとしても有名
 長井――と言われて、パッと「ああ、あそこね」と思い描ける人はそれほど多くないと思う。恥ずかしながら筆者もその一人だった。

 山形県長井市は、山形県南部、置賜盆地の北部に位置する。人口はおよそ31,000人。市の東部には最上川が流れ、かつては船を使った交易の街として栄えた。戦前には1942年に東芝の工場を誘致。電子部品など産業用ロボットを造る中小企業が栄えた。いわゆる「企業城下町」だ。しかしその後'90年代に入り、企業の海外シフトによる撤退そのほかで徐々に……というのが市の概要である。典型的な現代日本の地方都市の一つだと見ていいようだ。変わったところでは剣玉生産が日本一だといったデータもある。

 ROBO-ONE取材に出かける2日前、ここを走る路線「フラワー長井線」が映画「スウィングガールズ」のロケに使われたことを知った。あの映画を観た人は少なくないだろう。なるほどああいうところかとイメージを浮かべて頂ければいいと思う。

 さて長井市は平成8年「技能振興推進都市奨励事業」、平成10年「山形県技能振興拠点都市育成事業(厚生労働省:地域人材育成総合プロジェクト事業)」などに取り組み、約40社で「NAGAI次世代マイスター育成協議会」を行なうなど人材育成に力を入れてきた。この事業によって各企業同士の理解が深まり、相互交流が行なわれるようになったという。中心になったのが長井市の中小製造企業の若手経営者たちである。


 平成15年度には「ものづくり伝承塾」事業をスタート。そのなかで、工業生産技術の今後の方向性を探る一環として、「NAGAIロボットプロジェクト」が始まった、という。

 さて、これにどのように「ROBO-ONE」が関わっているのか。そもそもなぜロボットだったのだろう。

 長井市は、ロボットとの関連では「マイクロマウス東北地区大会」が行なわれていることで知られていた。マイクロマウスとは自立型ロボットによる迷路探索競技である。またロボット教室の類も、普段から電子部品に親しみがある子ども達が多いせいか、人口3万の街の割には非常に盛況だという。

 なお長井市内の製造事業所数はおよそ300。そのうち半数が金属電気関係で、製造品出荷額600億円の8割を占めているそうだ。

 今回の「ROBO-ONE」の誘致も、マイクロマウス大会がきっかけだった。ROBO-ONE常連「メタリックファイター」製作者の森永英一郎氏は、ROBO-ONE関係者の間では人柄や雰囲気、そしてもちろん技術力から「ROBO-ONEの父」と慕われている。彼のウェブサイト名は「マイクロマウス工房」という。

 このことからも分かるように、森永氏はもともとはマイクロマウス業界でもよく知られた人物である。長井市にも何度も足を運んでいた。彼がメタリックファイターを2003年のマイクロマウス大会のなかでデモンストレーションしたのである。森永氏によれば、こんなロボットも作っている、といった形だったそうだ。


【動画】予選で兎跳びを行なうメタリックファイター 【動画】本戦一回戦、対「RL03 Indra」(大同工業大学ロボット研究同好会)戦で攻撃を仕掛けるが避けられるメタリックファイター 本戦直前、軸が折れたメタリックファイターを慌てて修理する「ROBO-ONEの父」こと森永英一郎氏

 それを長井市の若手経営者や後継者たちが見た。「これはすごい」と思った。同年6月末、長井・西置賜地区の製造業27社による「西置賜工業会」が発足。そのなかに若手およそ20名から構成される「次世代グループ」があった。「何か面白いことをやろう」。こう考えた彼らが立ち上げたのが「NAGAIロボットプロジェクト」だった。

 直接メタリックファイターを見たことに加え、もともと産業用ロボットの部品メーカーが多く部品加工のノウハウがあること、マイクロマウスで地元高校が優秀な成績を収めていたこと、少年少女ロボットセミナーが盛況だったことから分かるように、ものづくりへの地域の理解がある程度存在することなど諸々の地盤を活かすべきではないか――と考えたことがロボットをテーマに選んだ理由だったという。

 中心になったのは、株式会社昌和製作所専務の小関博資氏。ROBO-ONE大会では「フラワー戦隊ナガレンジャー」チームの“レッド”として出場した。彼が実質的な今回の仕掛け人である。

 彼が中心となった数名のグループが、これまたマイクロマウス業界でも知られ、何度も長井にも足を運んでいた西村輝一ROBO-ONE代表に連絡をとり、今回の招聘に至ったというわけだ。


ROBO-ONE委員会代表の西村輝一氏(左)と、小関博資氏(右) 「フラワー戦隊ナガレンジャー」の面々。詳細は後ほど

ナガレンジャーの「アジト」 ナガレンジャーのロボットの一つ「ナガレブラック」。耳はウサギではなく長井市の「黒獅子」をイメージしたもの

 「ROBO-ONE」が彼らに何をもたらしたのか――。それはROBO-ONE終了後のインタビューに譲ることにして、いったんROBO-ONE大会そのものに戻ろう。おっと、その前に長井市に到着しなければならない。

 長井市までは、東京からだと新幹線で赤湯駅に降り、そこから先にふれた「フラワー長井線」に乗ることになる。赤湯駅でのんびり発車を待ったあと、映画を記念してペイントされた「スウィングガールズ」列車に乗り込み、長井へ向かう。もちろんワンマン列車である。

 これがまた非常にのんびりした路線で、筆者らが乗り込んだときも最初はほとんど我々だけだったのが、ほどなく、底抜けに明るい地元高校生たちが乗り込んできて、車内は非常ににぎやかになった。雨が続いていたのだが移動日はちょうど晴れ。長井市は盆地にあるので少し季節がずれると非常に暑かったり寒かったりするらしいのだが、列車の窓から吹き込む心地よい風と悪くない喧噪に包まれているうちに、長井に到着した。

 駅のホームに降りると、見慣れぬ風体(ROBO-ONE参加者はだいたいロボットと工具を入れたカートを引きずっている)の我々を見つけ、駅員の女性がすかさず「ROBO-ONE参加者の方ですか?」と声をかけてきた。どうやら町中に広く告知されているらしい。


フラワー長井線 ドーンと描かれた映画「スウィングガールズ」ロゴ 新幹線からの乗り換え駅である赤湯も、のんびりした地方駅だ

長井まで600円の切符を買って乗り込む 長井線の車窓から 長井駅に到着

ROBO-ONE送迎バスが駅前に待機していた 長井駅前の観光案内看板

 長井市内はごく普通の地方都市といったところ。変わった尖塔の建物があるな、などと思いながら取りあえず宿まで歩く。後に調べたところそれは1930年築の「旧小池医院」という建物だった。

 さて、駅から徒歩20分ほどだろうか、春先には桜が見られるらしい最上川方面に歩くと、今回ROBO-ONE会場に選ばれたTASビルが見えてくる(なお、駅前からはROBO-ONE用無料送迎バスが出ていたので別に歩かなくても会場まで行けた)。

 長井商工会議所のウェブサイトによれば「TAS」とは、「19世紀イギリスの女性旅行家、イザベラ・バードがここ置賜地方を『東洋のアルカディア』と絶賛したことにちなみ、"Toward Arcadia Spiral"の頭文字をとり『TAS(タス)』と名付けられた」複合施設。ホテルやレストラン、物産館(おみやげ屋)などがあり、ホテルは、長井商工会議所100%出資による株式会社タスパークホテルによって運営されている。普段はイベント会場や結婚式場として用いられているという。


1930年に建てられた旧小池医院 味のある洋館だ これまた何とも雰囲気のある長井市立図書館

ナゾの「長井道頓堀」 会場のTASビル TASビル前のROBO-ONE告知看板

 さて、ここでROBO-ONE予選、本戦が繰り広げられたわけだが、それは続編でふれる。


URL
  長井市
  http://www.city.nagai.yamagata.jp/

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( 森山和道 )
2006/09/21 15:21

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