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ロボットと暮らす住まい展
ロボットクリエイター・高橋智隆氏特別講演レポート


電磁吸着歩行方式の発明がベンチャーへの足がかりとなる

目黒区のロンジャビティ図書サロンで開催された高橋智隆氏の特別プログラム。憧れの高橋氏に会いたいと、子供たちもたくさん集まった
 9月17日、目黒区のロンジャビティ図書サロンおいて、京都大学ベンチャー、ロボガレージの高橋智隆氏が講演を行なった。これは17日まで催されていた「ロボットと暮らす住まい展」の特別プログラムとして用意されたもの。

 高橋氏は、ロボットクリエイターとして業界では大変有名な人物だ。米国Time誌の人気企画「最もクールな発明」などにおいて、同氏の製作した2足歩行ロボット「クロイノ」が選出されたことでも知られている。今回の講演では、この業界に入った経緯から、いままでに製作したロボットの変遷、未来のロボット予測まで、氏のロボットに対する考え方をスライドやデモを交えながら披露した。


京都大学ベンチャー ロボガレージの高橋智隆氏。自ら「ロボットクリエイター」という新分野を切り拓き、斬新なアイディアとデザインのロボットを次々と世に送り出している 米国Time誌で紹介された2足歩行ヒューマノイドロボット「クロイノ」(写真中央)。24の自由度を持ち、人間のような動きを実現。キャタピラの付いた米国のロボットとは対照的で興味深い

【動画】「クロイノ」のデモンストレーション。高橋氏自らの手でつくったプロトタイプ。膝を伸ばして歩く「SHIN-Walk」という特許技術によって、人のような自然な動きを実現した
 まず始めに、高橋氏は自己紹介を兼ねて「クロイノ」のデモを実施した。クロイノは24の自由度を持ち、人間のような動きを実現する「SHIN-Walk」(特許出願)というテクノロジーを盛り込んだ作品である。従来のようにひざを曲げて歩くのではなく、ひざを伸ばした状態で自然に歩けるようになっている。

 子供の頃から物づくりが大好きで、鉄腕アトムに登場するような科学者にあこがれていた高橋氏。立命館大学の産業社会学部で学んだものの、卒業後の進路にあたって「開発やモノづくりの仕事がしたい」という昔からの夢を捨てられなかった。とはいえ、学部が文化系であったため、希望の職種に就くことは難しかった。

 そこで、もう一度専門的に勉強し直すために、京都大学工学部物理工学科に入学。専門課程に入る前から、待ちきれずに独学でロボットの研究を始めた。そして、高橋氏がこの業界に入る契機となった「2足歩行ザク」が生まれる。これは、ガンダムのザクに部品を組み込んで、リモコンで歩行できるようにしたものだった。

 このロボットは足に電磁石が組み込まれていた。そして、2作目となる「マグダン」は、この機構をベースに、特許を取得した「電磁吸着歩行方式」を採用した完全オリジナルロボットとなった。足に組み込まれた電磁石が鉄板に交互に吸い付く独自の機構によって、困難だった2足歩行の安定化をクリアしたのだ。

 ほどなく、電磁吸着歩行方式を取り入れたロボット「ガンウォーカー」が玩具メーカーの京商から発売されることになる。このロボットは世界中で5,000体ほど売れたという。高橋氏は「どこかの国で商品がヒットして、特許で儲かるものと夢想していたが、間違った認識だった。特許といっても、それほど儲かるものではなく、細々と地道に研究開発することが重要」と笑いながら当時を回想した。ただし、このような貴重な体験が、高橋氏をベンチャーへの道へと自然に導いていったようだ。


特許を取得した「電磁吸着歩行方式」を採用した完全オリジナルロボット「マグダン」。この方式が基になり、京商から「ガンウォーカー」が発売されることになった 京商から発売された「ガンウォーカー」。世界中で5000体ほど売れたという。在学中に特許を取り、商品化されたことで、知らずのうちに高橋氏はベンチャーの道を歩むことに

 大学4年になると、高橋氏は卒業研究に取り組むことになる。卒業は2003年の春だった。奇遇にも鉄腕アトムの誕生にあたる年。そこでアトムをモチーフにしたヒューマノイドロボット「ネオン」を製作したという。2005年には商品化も実現した。「当時発表されていたロボットは、ほとんどがメカがむき出しで、外装についてはあまり意識されていなかった。漫画の世界から飛び出してきたような、表面がツルンとしたロボットを作りたかった」。

 ネオンは、人とコミュニケーションをしていくためのロボットを目指しているという。さらに、発売が間近に迫った「MANOI」や、ロボカップ3連覇を果したTeam OSAKAの「VisiON TRYZ」といったロボットなどについても説明を交えて紹介した。

 また、高橋氏は小型のヒューマノイドロボットのデザインだけでなく、大型ロボットのデザインも手がけている。テムザックが消防関係者や京都大学などと産学官一体体制で開発したレスキューロボット「援竜」がそれだ。「援竜の高さは3.5mもある。九州の港の倉庫で試作機がつくられていたが、実はその倉庫の高さが3.5mだったため、この高さに制限されてしまった。本当はもっと高く設計して、倉庫をぶち壊しながら登場するとカッコいいと思ったのだが」と、面白いこぼれ話も飛び出した。


ロボカップ3連覇を果したTeam OSAKAの「VisiON TRYZ」。優勝者にはルイヴィトンからバカラ製のカップが贈られるという。推定数千万円のもの。ただし贈呈ではなく、持ち回り品なので壊すと大変なことに レスキューロボット「援竜」。高さ3.5m、重量は公称5tonだという(重量は計測していないため不明)。人が乗って操縦するロボットで、主に災害現場などで活躍する。もちろん遠隔操作も可能だ

将来的には、ヒューマノイドロボットは女性型過半数を占めることになる!?

 ロボットを作る際に、高橋氏が最も意識していることは「高級感あふれる親しみやすいキャラクターデザイン」と「生きているような自然な動き」であるという。従来のロボットの研究は、歩行速度やモータ出力など、数値化できるような性能や理論が中心であり、外観は飾りの要素が大きかった。確かに理論も重要なことだが、一般の人がロボットに接する際には、内部のことは与り知らぬところであり、外から見るイメージのほうが大きい。

 「これからロボットが研究室を飛び出して、家庭で一緒に暮らせるような時代にするためには、親しみやすさ、格好良さ、可愛さ、自然さ、表現力といった要素が重要になってくる」(高橋氏)

 そのため、従来とはまったく逆のアプローチで研究を進めるのが高橋流なのだという。つまり外側からのイメージを重視して、それを具現化するために、内側の構造を開発するという手法である。そのため、まず自らの手で外側のイメージをつくって提案していくスタイルとなる。ただし、ロボットのデザインをするためには、解決しなけれならない問題もある。それはロボットというマシンの特殊性に由来するものだ。

 たとえば、ロボットは関節が多く、可動領域も広い。その一方で、いかに動きを阻害せずに、見栄えのよいものをつくるかという点が求められるため、一般の商業デザインやアニメーションデザインとは異なる点も多いのだ。


高橋氏が卒業制作でつくった「ネオン」。鉄腕アトムがモチーフになっている。特に目にはこだわりを持ってつくった作品だという

 特にヒューマノイドロボットは人を模しているため、細部にわたる表現も重要なファクターとなる。前述のとして「ネオン」では、目玉の構造に工夫を凝らした。単にペイントで目を描くのではなく、奥行き感があって意思があるものにするため、何層もの立体構造になっている。

 また、モノコック構造も見栄えのよいヒューマノイドロボットをつくるためのポイントになる技術だという。従来のロボットは骨格(フレーム)と皮(カバー)が分離されてつくられていた。モノコック構造は、外側が骨の役割を果たしながら、なおかつ外装としての機能美も兼ね備える構造物だ。動物で言えば、カニのような甲殻類のイメージに似ているかもしれない。


 また、プロポーションに対するこだわりも大きい。今春に発表されたばかりの「FT」は、女性の繊細なフォルムを実現しており、「世界一美しいロボット」と賞賛されている。これは女性らしさを表現するために、ファッションモデルのアドバイスから完成した初の女性型ロボットだ。女性型の場合は、細身の体の中に部品を納める工夫が必要だ。また、スラっとしたプロポーションのため安定感が悪くなったりするため、技術的な難易度も高かったという。

 「女性らしい骨格とは何か?」を追求し、肘や膝が反対に少し曲がる、内股に歩くというように、細部にわたって、骨格や動作に関する検討がなされた。講演会では、このFTの柔軟な「モデル歩き」のデモが実施され、聴衆はその華麗な動きに目を奪われていた。高橋氏は「世の中にはロボットが好きな人ばかりがいるわけではない。ロボットを怖いと思う人もいる。しかし、威圧感が少ない女性型ロボットならば、用途も広がり、家庭でも一緒に暮らせるようになるだろう。ひょっとすると、今後は過半数のヒューマノイドロボットが女性型になるのではないか」と予測する。


世界初となる女性型ヒューマノイドロボット「FT」。女性らしい美しいフォルムが印象的。高橋氏によれば、将来ヒューマノイドは過半数を占めることになるだろうという 【動画】初の女性型ヒューマノイドロボット「FT」。腰をふりながらの「モデル歩き」やモデルポースが、なんとも“愛らし格好いい”

まず家庭用のエンタテイメントロボットから始まり、幅広い産業分野へと浸透していく

 また、高橋氏は「ロボットをつくるだけでなく、カルチャーとして広げていきたい。いままではロボットをつくって、いくらで売ろうかというように、西欧的な発想になってしまっていた。ロボットを買ってもらう前に、見てもらう機会があってもいいのではないか。キャラクターとしてのコンテンツや、エンタテインメントショーの中で、ロボットの可能性を見つけられれば」と語る。実際に、日本は技術的にリードしているばかりではなく、マインド面でもロボットに対する国民の意識や関心がとても高い。日本人にとって、ロボットは友達であり、人間と機械の中間にあたる存在なのだという。

 これは日本のロボット文化を考える上で重要な点である。たとえば米国ではロボットというと軍事産業に使われていたり、まさに機械そのものというイメージが強い。あるいは逆にターミネーターのように人間そのもののイメージだ。つまりロボットに対するイメージが両極端になっており、人間と機械の中間という概念がないそうだ。「このような日本独自の発想は、ロボットの発展のために大きなアドバンテージになるはず」と、高橋氏は強調する。

 それでは、これから日本では一体どのような形で暮らしの中にロボットが浸透していくのであろうか? ロボットの種類は、産業用と非産業用に大別でき、さらにさまざまな種類があるのは周知のとおりだ。これらのうち、高橋氏が実用化に向けて注目しているのは「家庭用ロボット」、「エンタテインメントロボット」、「土木作業ロボット」だという。

 中でも家庭用ロボットが一家に一台ずつ導入されるようになれば、クルマやテレビと同じように巨大な市場になってくる。また、エンタテインメントロボットについては、玩具であったり、アミューズメント施設の中で導入されるものが中心になるが、いずれも介護ロボットや災害救助ロボット、軍事ロボットなどと比べて限定された環境で使用されることがないため、技術的なハードルもそれほど高くない。

 高橋氏は「何の役にたつかわからないようなエンタテインメントロボットから始まり、それが家庭用ロボットへと進化していく。さらに、それらのバリエーションとして介護や災害救助などの特殊用途ロボットが開発されていく過程を経ると思う。逆の方向に進化しないのは、自動車に例えれば、乗用車の前に消防車を開発するのが難しいのと同じこと」と説明した。


 「エンタテインメントロボットは、家庭で使われる掃除ロボットや警備ロボットなどの実用ロボットよりも安価で、玩具に毛が生えたようなものに思われがちだが、何よりもロボットそのものに対して精神的なつながりや愛着を持てる点が大きい」。家庭に導入されたエンタテインメントロボットが徐々に進化していき、いろいろなタスクをこなせる実用的なものへ段階的に変化を遂げて、やがては自分たちの生活に必要不可欠なものへ変容していく。家庭用ロボットという存在は、かつて携帯電話やインターネットがなかった時代を考えれば、想像しやすいかもしれないという。

 「昔は携帯電話やインターネットがなくても、それなりに生活はできたし、なくてもそれほど困らなかった。それは使い方がよくわからなかったから。しかし、いまや携帯やネットはなくてはならないものになった」。将来的には、ロボットも携帯やネットと同じような立ち位置になる可能性があるという。

 とはいうものの、現時点ではロボットに対する期待が過度に大きいのではないかとも指摘する。ロボットは、コストパフォーマンスに優れ、何でもニーズに応えてくれる万能のマシンではない。家庭用ロボットの初期段階では、あてにしない程度(失敗することもある)の家事手伝いや、家電を操作するエージェントしての役割が中心になるだろう。「何か秀でる面もあるが、その一方で劣る面もある。いわば“交換留学生”のような形で、家族の一員として温かく見守ることが必要だ」と提案する。

 また、ロボットはともするとヒューマノイドロボットのような人型をイメージしがちだが、技術面では家電製品やホームセキュリティなどにも数多く隠れて導入されている。「今後は目に見えない形でもロボットテクノロジーが進化を遂げていく。現在はIT化が花盛りの時代であるが、やがてはRT(Robot Technology)化の時代に突入していくだろう」。IT化の時代は情報を出力することがメインであった。しかし、RT化の波によって、何がしかのアクションも出力できるようになる。まだ、そのアクションがどのようなものになるかハッキリと見えない面も多いが、RT化によって確実に自分たちの生活も変化していくに違いない。

 最後に高橋氏は、ロボットの未来はまだ誰にも分からないとしながらも、自身の「無責任予想」なるものを開陳した。「2010年にはロボットタレントが登場、さらに5年後にはディズニーランドの被り物はすべてロボットになる。2025年には鉄腕アトムの国家プロジェクトが始まり、2030年には一家に一台の家庭用ロボットの時代がいよいよ到来する」と予測し、「もはやロボットは研究者やエンジニアだけのもではない。これからは一般の人々がロボットと関わりをもつ時代になってくるはず」と述べて、講演を終えた。


URL
  ロボガレージ
  http://www.robo-garage.com/
  イベント情報
  http://www.zaus-co.com/event/2006/09/01.html

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( 井上猛雄 )
2006/09/19 19:14

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