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PINO ver.3
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8月8日、株式会社ゼットエムピー(ZMP)は、二足歩行ロボット「PINO ver.3」を開発したと発表した。従来モデルの「ver.2」に対し構造やアクチュエーターを改良。より安定した動作ができるようになった。
「PINO ver.3」は、身長63cm、重量5.5kg。関節自由度は26軸(脚部6×2、腰2,腕5×2、首2)。アクチュエータはDCギアードモーターを採用している。トルクは5.8N・m(59kgf・cm)。
メインCPUはSH7055 40MHz。サブCPUはH8S/2612 20MHz。ホストPCとの接続はUSBで、体内LANにはCAN(Controller Aria Network)を採用。モータドライバはZMP-M007MRモータドライバモジュールを7つ使っている。
関節角度センサはポテンショメータ。角速度センサ、加速度センサ、足裏力センサはオプションで、同社が発売している工学教育用ロボット「e-nuvo」と共通のオプションが用いられる。
脚部アクチュエーターの減速機にハーモニックドライブ(波動歯車)を採用。これまではモーター単体で2度~3度程度発生していたバックラッシュ(歯車のかみ合いのガタ)が、ほぼゼロになった。これによって目標値通りの動きが実現できるようになり、制御がしやすくなった。
また、脚部の股関節と足首部分のロール、ピッチ、ヨーの3軸をベルトを使って直行化。逆運動学計算が容易になり、モーション作製も楽になった。また、基本的に「e-nuvo」の歩行アルゴリズムを移植して作ったことにより、「e-nuvo」と同等の歩行性能が出せるようになったという。
外装の有無で価格は異なる。外装無しのモデルは、本体と開発環境込みで290万円(税抜き)。30パーツからなるポリウレタン製の外装カバー付きだと、価格は450万円(税抜き)になる。
目標販売台数は年間20台。第一号機は福岡市博多のロボット体験スペース「ロボスクエア」に納入される。
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PINO ver.3。外装はPINO ver.2と同じものが使用できる
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ハーモニックドライブを両足で12個使用した脚部
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股関節部分の3軸を直行させた
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脚部アクチュエーターにハーモニックドライブを採用
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【動画】ゆっくりと歩くPINO ver.3。子ども達に見せるものなので、すたすた歩くよりもゆっくり歩いたほうがいいということになったそうだ
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【動画】e-nuvoの歩行アルゴリズムそのままなので、歩き方が同じ
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PINO ver.2
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PINOはもともと、2000年に科学技術振興事業団(当時、現在は科学技術振興機構)ERATO北野共生プロジェクトで開発されたロボット。開発は北野宏明氏のほか、株式会社イクシスリサーチの山崎文敬氏らが行なった。
外装デザインはフラワーロボティクス代表の松井龍哉氏で、ベネチア・ビエンナーレ芸術祭や、ロボット博覧会「ROBODEX」などで披露されてきた。現在も日本科学未来館では常設展示されている。なお初代PINOのアーキテクチャは「Open PINO Platform」として公開されている。
その後、ZMPが2001年に科学技術振興事業団 ERATO北野共生プロジェクトから技術移転を受け、商業展開してきた。研究用プラットフォームだけではなく、おもちゃへのライセンス提供やイベントデモなど幅広く展開したことが特徴で、なかでも2001年2月の宇多田ヒカルの楽曲「Can You Keep a Secret?」プロモーションビデオ出演で、広く知られている。
その後技術移転は2002年1月に終了したが、ZMPは2003年4月には主要部品を改良したオリジナルの「PINO ver.2」を開発し、大学等における研究開発用として提供してきた。
取締役営業部長の比嘉勝孝氏は、今回のver.3について「PINOを歩かせたかった」と語る。PINOは外見は広く認知されている。しかし実際に動いているところを見た人は少ない。性能が十分ではなく、あまり動かなかったからだ。
いっぽうロボスクエアでは当初からPINOをハウスロボットのような、受付ロボットのような形で展示していた。当然、動かしたいと言われていたそうだ。そのことに対し、比嘉氏は「ずっと責任を感じていた」という。
また、同社では工学教育用ロボット「e-nuvo」を大学等に納入しているが、大学から「オープンカレッジなどでアピールするために、もう一つインパクトのあるロボットが欲しい」と常々言われていたそうだ。PINOは大きさおよそ70cm弱と、ミドルサイズのヒト型ロボットである。e-nuvoと並べると、存在感の違いは明らかだ。
また、PINO ver.2を買いたいという海外からの問い合わせも50件を超えていたそうだ。しかし、モーター破損などのメンテナンスに対応できないため、海外への輸出は断っていた。
PINOは、ZMPの創業のきっかけとなったロボットでもある。顧客の声にこたえて開発を進めたいという気持ちはずっとあったそうだ。しかしながら投資を受けているベンチャー企業という立場上、市場性が確実に望めるもの以外に社内の人的資源を割くことができず、なかなか改良できなかった。
しかしその後ZMP社は成長を続け、現在は従業員20人程度、うち15人が技術系の人間の会社になった。昨年暮れに、これならばメインにはできないが開発も続けていけると判断し、ver.3開発に着手したのだという。
PINO ver.3は「e-nuvo」が元となって作られている。システム面も同様に整備されている。今後はOPEN PINOのような完全公開ではないものの、内部の情報もできるだけオープンにしていきたいという。
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PINOver.2(左)とver.3(右)
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PINOver.3とe-nuvo
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ZMP技術部開発部の壇 洋一郎氏は、今後はまずバッテリを搭載し、「e-nuvo」の制御システムを用いて自律化させるのが第一だと語る。その後、PINO専用の動作制御アルゴリズムを開発、ジャイロそのほかセンサー類を使って、階段登りそのほか、より高度な動作を実現していきたいという。
比嘉氏は「まだ組上がったばかりで、歩行制御、センサフィードバックなど磨かなければならない点は多い。そのためにはベースがしっかりしてないといけないが、しっかりしたものにできたと思っている。会社のフラッグシップとして今後も開発を進めていきたい」と語った。
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【動画】FOMAを使った「nuvo」の操作も開発中
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【動画】FOMAからの操作で歩行する「nuvo」
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■URL
ゼットエムピー
http://www.zmp.co.jp/
PINO World.com
http://www.pinoworld.com/
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( 森山和道 )
2006/08/09 02:00
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