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ROBO-ONE J-Class本選トーナメント参加ロボット
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8月7日、川崎市産業振興会館で第7回「ROBO-ONE J-Class」が開催された。ROBO-ONE J-Classは、二足歩行ロボットの格闘大会「ROBO-ONE」から派生した競技会だ。ROBO-ONEよりもレギュレーションが軽量ロボット向けで、「初心者入門コースとして設定すると同時に子供達や家族で楽しめる大会」として位置づけられている。
J-Classの競技内容はROBO-ONEと同じく、デモンストレーションによる予選と格闘競技による本選トーナメントの2段階で行なわれる。格闘競技は、「有効な攻撃で相手の足の裏以外が接地するとダウン」という、いわゆるROBO-ONEルールだ。3分の1ラウンドで、先に3ダウンを奪った方が勝ちとなる。J-Classの特別ルールとしては、家族参加で操作者が中学生以下の場合、予選のポイントが加算される「with Family」ルールがあり、そのため家族での参加者が多くなっているのも特徴だ。
予選参加ロボットは非常に多く、本選にも32台ものロボットが出場している。ここでは筆者の印象に残ったロボットや試合を中心にご紹介したい。
● アクチュエーターまで自作した小型ロボット「Petapina」
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ASIAN GUILDのPetapina
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筆者の印象に残ったロボットの一つが、ASIAN GUILDの「Petapina」だ。Petapinaは2kg以下に限定されたJ-Classにあっても、特別に小型なロボットだ。しかしただ小型なだけではなく、アクチュエーター系に特徴を持っている。
ホビイストが作る二足歩行ロボットは、ほとんどの場合、アクチュエーターに市販のサーボユニットを利用している。この部分の自作には機械設計と電子設計の分野で技術と手間が必要なので、手っ取り早く市販品を使うのが一般的だ。
しかしPetapinaの場合、市販のサーボユニットを利用せず、アクチュエーター系を自作している。これは現在のROBO-ONEでは、非常に珍しいパターンだ。足から横方向に伸びているのが小型のモーターで、「太もも」と「すね」はギアが組み込まれた減速機になっていて、動関節(太ももの付け根と足首)には角度センサ(円盤状の可変抵抗器)がついている。
アクチュエーターを自作する最大のメリットは、ロボットの小型化だ。市販のサーボユニットでは、最小の製品でも、Petapinaのような小さなロボットには搭載しにくい。しかしそこを自作すれば、市販のサーボユニットでは不可能な小トルク・コンパクトなアクチュエーターを実現できる。
さらにpetapinaでは、太ももの付け根と足首の動作軸はそれぞれ平行リンクを形成するようになっていて、膝関節を動かさずに、上半身が地面に対して水平に保たれるようになっている。このままだと左右への体重移動ができないため、静的な歩行はできないが、体重の軽さを生かした跳ね回るような動きが可能だ。さりげなく腹部には測距センサが搭載されていて、予選だけでなく本選でも自律動作をしていたりする。
はっきりいって、ROBO-ONEやJ-Classで簡単に勝利が望めるロボットではない。重量差が大きすぎる。しかしそれでも、困難なアクチュエーター自作をしてまで、小型ロボットを製作に挑んだ精神には賛辞を贈りたい。
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【動画】Petapinaの予選デモンストレーション。瞬発力があるようで、跳ねるように動ける
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【動画】本選の模様。そもそも戦闘を想定して作られていなさそうだが、それでも転倒後に自律で起き上がりにも成功する
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● 膝の衝角が独創的な「AeroKid」
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ダイナマイザーJr(左)と対決するAeroKid(右)
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ユニークな構造を持つロボットとして、いすぜん氏の「AeroKid」も紹介したい。
AeroKidは膝に大きな衝角を持っているユニークなデザインのロボットだ。外力が加わってもバランスを崩しにくい、体の低い位置に衝角を装備し、攻撃と防御に使おうというアイディアだ。
面白いのはこのロボット、衝角を水平に保つために、わざわざ足のサーボを増やしている。普通のロボットで膝に衝角を付けようとすると、その動きは「太もも」か「すね」の動きに追従してしまう。そこでAeroKidでは、膝に1関節を追加し、衝角を自由に動かせるようにしている。予選デモンストレーションでは、衝角を目一杯振り上げ、そこから一気に振り下ろすことで、2リットルのペットボトルを倒すことに成功している。
しかし残念ながらこのAeroKid、脚に旋回軸を持っておらず、素早い方向転換ができない。本選では強豪ロボット、スギウラシスターズの「ダイナマイザーJr」に当たってしまう。ダイナマイザーJrはカッパさんというかわいらしい外見に似合わず、高い機動力を持つロボットで、AeroKidのすり足旋回では自慢の衝角を生かしきることができず、試合最後にはAeroKidは腕をもがれて敗北を喫してしまった。
このデザインだと、膝の衝角が逆に捨て身ダイブ攻撃のマトになってしまう可能性も高い。しかしそれでも、これだけユニークなアイディアを実現させたのは評価できる。旋回軸がなく、衝角を生かした戦術を見せられなかったのは残念だが、今回が初参加ということなので、今後の発展に期待したいロボットだ。
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【動画】予選デモンストレーション。2リットルペットボトルを倒す攻撃力
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【動画】本選の第1試合。いきなり高い機動力を持つ強豪ダイナマイザーJrに当たってしまい、敗北してしまう
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● 今大会随一の高速機動戦闘
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【動画】第3回戦第1試合。KZR-4(左)とキングカイザー・Jr(右)
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第3回戦の第1試合、マルファミリーの「キングカイザー・Jr」とKAZZ氏の「KZR-4」の対決は、筆者の印象に残った好試合の一つだ。
KZR-4は、両手に角材風の角柱を付けたロボットだ。捨て身攻撃は行なわず、角材を使ったリーチの長いストレートパンチを繰り出す。脚を開き気味で、安定した高速走行ができるのも強みだ。
対するキングカイザー・Jrは、アニメのロボットのように美しいデザインのロボットだ。外見もよくできているが、攻撃力・機動力ともにバランスの取れた性能を持つ強豪ロボットでもある。
試合は序盤から高速機動戦闘となる。KZR-4が素早く距離をつめ、迎撃しようとするキングカイザー・Jrの攻撃をうまくかわすと、後ろから得意のストレートパンチでダウンを奪う。しかしキングカイザー・Jrも負けじと、パンチや捨て身攻撃でダウンを奪う。試合はパンチ・バックダイブ・フロントダイブと3種類の攻撃でそれぞれダウンを奪ったキングカイザー・Jrが、度重なる捨て身ダイブ攻撃で両腕を破損しつつも、3KO勝ちをおさめる。
両ロボットの性能はもちろん、その性能を生かした試合運びを行なう操作者の腕前にも注目だ。キングカイザー・Jrは今大会で優勝する最強機ではあるが、KZR-4は大会でもトップクラスの機動力と安定性を持っているので、個人的には、準々決勝でこの2台が戦ってしまうのは惜しいくらいの好カードだったと感じた。
● 高い安定性と機動力で相手を翻弄した「ありまろ6」
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【動画】3位決定戦。ありまろ6(左)とRB1(右)。準決勝以降の試合は選手入場時にリングアナウンスが付く
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3位決定戦、原田家の「RB1」とスミイファミリーの「ありまろ6」も、筆者の印象に残った試合だ。
RB1は市販のロボットキット「RB1000」をベースとした青いロボットだ。リーチの長いパンチに加え、鋭い前後転攻撃も繰り出せる。操縦は息子さんが担当する、「with Family」ルール適用チームだ。
対するありまろ6は、特徴的な角のついた頭部が特徴の、黄色いロボットだ。普段は娘さんが操縦者となるのだが、今大会ではお母さんが操縦者となっている。お父さん操縦ではないあたりが、家庭内における操縦スキルなどの順位が垣間見える気がする。
両ロボットともに、折り畳みできる両腕を装備し、リーチの長いパンチを繰り出せる。しかしありまろ6はリーチの長いパンチだけでなく、機動力と安定性も高く、素早い間合い取りや的確な攻撃方向転換、腕を使った牽制防御ができ、RB1に得意な前後転攻撃をさせる隙を与えない。ありまろ6の、相手を翻弄するような動きが注目だ。しかし、メイン操縦者でもないのに、これだけ的確にロボットを操るとは、母は強し、といったところか。
● 決勝戦は操縦スキルのぶつかり合い
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【動画】決勝戦。グレートマジンガアJr(左)とキングカイザー・Jr(右)。両ロボットともにデザインがカッコイイ系で、父製作息子操縦、シリーズロボットが多いなど、共通点が多い
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決勝戦、マルファミリーの「キングカイザー・Jr」と光子力研九所の「グレートマジンガアJr」の試合も紹介したい。
キングカイザー・Jrは、赤いアニメに出てきそうなデザインのロボットだ。マルファミリーはさまざまな大会で高い成績を収めている強豪チームで、息子さんがロボット操縦を担当している。
対するグレートマジンガアJrは、マンガのマジンガーZそのもののデザインをしたロボットだ。こちらもさまざまな大会で好成績をおさめている強豪で、操縦は息子さんが担当している。
両者強豪だけに、操縦の腕前の見せ合いになる。両ロボット、決して機動力が低いわけではないが、それほど動き回ることはない。お互いに攻撃ポイントを慎重に探り合い、相手の攻撃を先読みして素早く逃げたり、しゃがんで防御態勢に入る。熟練した操縦者ならではの、格闘ゲームのような試合展開が注目だ。
こんなよく動く試合だが、両ロボットともに操縦者が小学生というのもスゴい。しかし逆に言うと、試合慣れした若い操縦者でないと、ここまでうまくロボットを扱えないのかもしれない。それにしても、子どもの頃からオトーちゃんがこんな気合いの入った遊びに巻き込んでくれるとは、恵まれた家庭もあったものである。
試合は遠い距離から強引に捨て身ダイブ攻撃を仕掛けたキングカイザー・Jrが1ダウンを奪い、優勢勝ちをおさめる。決勝戦にふさわしい、ロボットの性能だけではない、操縦者の腕前が光った試合だ。
● ROBO-ONE登竜門としてのJ-Class
ROBO-ONE J-Classは、初心者や家族が参加できるようにと企画された大会だ。ROBO-ONE本大会に比べると、未成熟なロボット・操縦者が多いが、それだけに初心者でも参加しやすいのが特徴となっている。実際に、市販のロボットキットを買ったばかりだけど初参加します、というような参加者も多かった。また、そのような初心者に混じり、Petapinaのような、技術力を別方向で生かしたチャレンジングなロボットも参加しているのも面白い。
一方で、大会常連チームの活躍も目立つ。常連同士の戦いは派手で見栄えがするが、そうした常連と初心者が試合で対決するのは、少々酷な気もする。そうした見ていて楽しいガチ勝負は別クラスにするとか、常連はシード扱いにするなどして、ROBO-ONE登竜門としての要素をもっと強めても良いのではないか、とも感じた。
ROBO-ONEの本大会、第10回ROBO-ONEは、9月16日~9月17日に、山形県長井市で開催される。こちらは、J-Classよりもロボットのレギュレーションが大型ロボット向けで、多数の常連強豪ロボットが出場する。参加して楽しいJ-Classと、見ていて楽しいROBO-ONE本大会で、ホビーロボットがさらに盛り上がっていくことを期待したい。
■URL
第7回ROBO-ONE J-Class
http://www.robo-one.com/roboonej/roboonej7.html
( 白根雅彦 )
2006/08/08 01:38
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