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東工大ロボット展示会「先端ロボットの世界」開催


 東京工業大学(東工大)大岡山キャンパスで、東京工業大学百年記念館第8回特別展示・講演会「先端ロボットの世界」が行なわれている。主催は東京工業大学百年記念館/21世紀COEプログラム「先端ロボット開発を核とした創造技術の革新」で、協賛は株式会社東芝。日程は7月22日~7月30日。入場は無料となっている。

 百年記念館と石川台キャンパス1号館での総計30台のロボット展示のほか、70周年記念講堂では「ロボットの仕組みと開発ものがたり」と題された講演会が、東工大の教授達によって日替わりで実施されている。

 23日の日曜日には、東京工業大学 大学院理工学研究科 機械宇宙システム専攻 教授の広瀬茂男氏による講演が行なわれた。タイトルは「生き物を真似たロボットの開発(ヘビロボットとクモ型歩行ロボット)」。

 展示と広瀬教授による講演をレポートする。


展示

 主な展示は百年記念館の1Fで行なわれている。会場では東工大の各研究室が研究開発しているロボットの数々が並べられており、毎日11時と16時からは、研究員たちによるデモも行なわれる。

 23日は日曜日ということもあり、多くの家族連れもロボットを興味深そうに見守っていた。デモは順繰りに行なわれていき、それに連れて会場の参加者がぞろぞろと移動していく。ロボットのジャンプやヘビ型ロボットの動きに多くの見学者たちは歓声をあげていた。

 展示は大きく5つのゾーンに分けられている。主に制御関連の研究を中心にした「ロボットを動かす技術」、さまざまな移動方式のロボットを並べた「移動ロボットの新しい形態(不整地移動)」、レスキュー、地雷探知を用途とした「極限環境で作業するロボット」、手術ロボットやリハビリ補助など「ロボット技術の医療・福祉への応用」、東芝による「産業におけるロボット開発」の5つである。


回転型倒立振子のデモを興味深そうに見る子どもたちが大勢いた 二輪車ロボット「SMR-R1」。搭載した振子でバランスをとって自走する二輪車 不整地移動用パーソナル三輪車両「Falcon-II」。3つの車輪を制御して安定した走行が可能

空気圧でジャンプする「Air Hopper」。大きな障害があるところではエアシリンダーでジャンプして越えることを目指す 【動画】ジャンプする様子

階段昇降ロボット「Racoon-1」。球形車輪の可能性を追求したロボットで支持軸回りにも車輪が回転し、その場旋回が可能 【動画】動きの様子

ヘビ型ロボット「ACM-R3」。体をくねらせることで地上を滑るように移動する 【動画】移動の様子 【動画】鎌首を持ち上げる様子を子ども達が見守る

脚車輪複合型ロボット「ローラーウォーカー」。不整地では脚移動、平坦地では車輪で移動できるロボット 【動画】足を歩行モードから車輪モードに切り替える様子

作業型クローラロボット「HELIOS VII」 【動画】階段を下るHELIOS VII。アームを動かして重心位置をコントロール ヘビ型レスキューロボット「蒼龍 III」。倒壊した家屋のなかで被災者を捜すロボット

ジャッキアップ移動体「Bari-bari 1」。瓦礫をこじ開けて空間をつくるロボット 跳躍・回転移動体「Leg-in-rotor」。空圧で1mくらいジャンプできるロボット。カメラやマイクを取り付けてレスキュー隊員が用いることを想定

手首運動を促す装着型流体アクチュエータ「Tail wrist」。脳卒中などのリハビリ用機械 空圧アシスト肢&ドライアイスパワーセル。人間の歩行をドライアイスの昇華を使ってサポートする

東芝の情報家電ロボット「ApriAlpha」。音声で家電のコントロールなどを行なう 復元された万年自鳴鐘。高さ60cm、愛・地球博でも展示されていたもの

 また、これ以外にも百年記念館の地下、そして徒歩5分ほどの石川台1号館5Fでも展示が行なわれている。静展示ではあるが、東工大がこれまでに開発してきたロボットたちの歴史を見ることができる。昔のロボットを見たあとで改めて現在のロボットを見ると、開発の歩みをより深く理解できるかもしれない。


6足歩行ロボット「GAWALK」(1968年、森政弘名誉教授による) 3次元パンダグラフ機構を持つ4足歩行ロボット「TITAN IV号機」('85年、広瀬茂男教授)。'85年の筑波科学万博でのべ40kmを歩行した 原子炉点検用ロボット「蛟龍 II」('89年、広瀬茂男教授)

壁面歩行ロボット「NINJYA II」('93年、広瀬茂男教授) 階段の壁には子どもたちの書いた未来のロボットが張られている フロートアーム。自重補償するロボットアーム

連結型多車輪移動ロボット「玄武」。能動車輪を受動関節で結合したロボット 薄型ホロノミック全方向移動車両「VmaxCarrier」。可搬重量130kg以上 全方向移動車両「The Vuton(ザブトン)」

瓦礫内推進連結クローラ走行車ロボット「蒼龍」1号機 能動内視鏡「エラスター(ELASTOR)」。このあと、内視鏡サイズで実現するために形状記憶合金を使ったモデルが作られた 階段昇降車椅子「ヘリオス3」。椅子を水平に保ったまま階段昇降ができた

ACM-R1。1972年に作られたヘビ型ロボット「ACM-3」を再現したもの 3輪型惑星探査ローバー「Tri-Star」 そのほか30年近い歴史を持つ4足歩行機械の数々が展示されている

講演

東京工業大学 大学院理工学研究科 機械宇宙システム専攻 広瀬茂男教授
 21世紀COEプログラム「先端ロボット開発を核とした創造技術の革新」のリーダーを務める広瀬茂男教授は地雷探査ロボットやレスキューロボット、クロール歩行の4脚ロボット、ヘビ型ロボットなどの研究開発で著名だが、23日は主にヘビ型ロボットとクモ型歩行ロボットの研究に関する講演が行なわれた。

 聴講者は、主に大学入学前の学生たちだが、一般の大人も多かった。

 広瀬教授は、日本ではからくりの歴史があり、また日本は世界最大のロボット生産国、使用国でもあるという話から始めた。

 ヘビはなぜ対象として面白いのだろうか。ヘビは非常に細長い体を持ち、その身体は手にもなるし、脚にもなる。ヘビ型ロボットは汎用型ロボットになる可能性がある。もしヘビのような機構を実現できれば、管のなかに入っていける検査ロボットや、自分で動ける消防ホースなどが可能になる可能性がある。

 ヘビはトカゲから脚を退化させていった動物である。地を張って進むロコモーション(移動様式)を選び、岩の割れ目などに入って敵から体を守るためだ。

 およそ30年前、広瀬教授は、実際にシマヘビを飼育して、ヘビがどのように動くかということから研究した。我々は体が左右対称だが、ヘビは内臓が一列になっているといったことから調べていった。

 大型のボアは鱗を使って尺取り虫のように動く。だが日本にいるヘビは、体をくねらせながら滑走して動く。だが当時、なぜ体を動かすだけでちゃんと前へ動けるかはちゃんとした理論がなかった。中にはシマヘビが鱗を立てて進むとしている本もあったが実際はそういう動きをしていなかった。広瀬教授らの研究の結果、ヘビの移動方法は、アイススケートやローラースケートと基本的に同じだということが分かった。

 '72年、当時修士の学生だった廣瀬氏は、波を後ろに伝えると前に進んでいくことを実証するためにヘビ型ロボット「ACM-3」を作製。前にも後ろにも簡単に進めることを示し、後には実際にアイススケートをやらせてみることにも成功した。


ヘビ型ロボットのアプリケーション 最初に動いたヘビ型ロボット「ACM 3」 アイスリンクで動くヘビ型ロボットの様子

広瀬氏らが明らかにしたヘビの動き方 触覚センサをつけたヘビ型ロボット

 また、ヘビは速く移動するときは体の一部を浮かせる。その動きを解析し、同じようにロボットに反映させると、やはり早く移動できた。また、ヘビ型ロボットに触覚センサを付けて、狭いところでも周囲の壁に馴染むような動きをさせると、狭いところにも入っていけるようになった。こうしてヘビ型ロボットは実用的にも使える可能性が出てきた。この手法は側抑制と呼ばれるものだったが、広瀬氏は「動物をまねて同じ様な形にすると処理も同じものになるということが分かった」という。

 その後、最新型「RCM-5」が水陸両用ロボットとして愛知万博でも活躍したことはご存じのとおりである。RCM-5はヘビそっくりに身をくねらせて動けるようになり、水のなかでも陸の上でも動くことができるようになった。各ユニットは2軸の屈曲関節を持っていて、蛇腹との干渉を避けるためにユニバーサルジョイントの中央に受動関節を加えている。先端にはカメラが取り付けられているが、360度どう回転しても方向を見失わないように工夫されている。

 このほか広瀬教授らは、腕がどのような姿勢をとっても、あたかも重さがないように自重補償する「フロートアーム」というロボット機構などを作っている。これは本体の下の重りが上下することでバランスを取って、重量をキャンセルする機構だ。これもまたヘビ型ロボットの応用だと述べた。

 また、形状記憶合金を使ってヘビのように自在に動く胃カメラなどの研究も行なっている。しばらくペンディングになっていた研究だが、最近になって再び、東工大と日本医科歯科大学とで小さい胃カメラや心臓カテーテルの研究を始めようとしているところだという。

 このように狭いところに入っていくことができる、ヘビのような機械はさまざまなところで活躍する可能性がある。狭いところに入っていくということで、レスキューロボットへの応用も期待されている。

 広瀬教授は「ヘビの良いところは長いことだ」と述べた。いろんな段差があっても、ヘビ型ならば自分の体を橋にして移動すれば楽に移動できる。現在、レスキューロボットとして試験中だ。いっぽう、広瀬教授は、レスキューだけを用途としたロボットは普及が難しいと考えている。そこでメーカーと協力して普段は床下点検を行なうロボットとしてヘビ型ロボットを使ってもらう計画を進めているという。普段はちょっと便利な道具として使われているが、それを非常時にはレスキュー用に使おうというものだ。

 講演ではデモも行なわれ、開発中の最新型ヘビ型ロボット「蒼龍IV」もデモされた。


蒼龍IV号機。ジョイント部には硬いゴムが使われている 【動画】首を持ち上げるヘビ型ロボット「ACM-R3」 【動画】ヘビ型ロボット「ACM-R3」。ボディが斜めになっていても変わらず移動可能

【動画】蒼龍IV号機の動き 【動画】横方向にゴロゴロ転がることもできる

 いっぽう、4足歩行ロボットの研究は、'76年に、広瀬教授が山歩きしたときにザトウグモというクモの動きを面白いと感じたことから始まったという。広瀬教授は早速その動きをロボットで再現することを考えた。

 広瀬教授は「ロボットを創るときには数理的に考えないといけないが、実際に作ってみることはもっと大事」と述べた。不整地を移動する方法としては多脚は良い方法だが、脚の数は少ないほうがいい。だが安定に動こうとすると、最低でも4本欲しいと考えた。

 いっぽう動物の脚を見ると、体のサイズが大きくなるにつれて脚の太さが大きくなっていくことが分かる。サイズが違ってくると脚の太さも変えなければならない。こうして最初のロボットから改良を続け、「タイタン3号機」では体も楽に支えるための「3次元パンタグラフ機構」を発案。

 広瀬教授は「動物を参考にするのは有効だが、そのまま真似するだけだではダメ。面白いところは真似しても工夫が必要です」と述べた。こうして作られた「TITAN IV号機」は、'85年の筑波科学万博で歩行デモを行なった。またこの機構は、オハイオ州立大学がDARPAの資金援助を受けて製作した大きな6脚歩行ロボット「アダプティブ・サスペンション・ビーグル」にも使われていると動画が紹介された。


最初に作った4足歩行ロボット「KUMO-1」。これも石川台1号館で実物が展示されている 巨大歩行機械「アダプティブ・サスペンション・ビーグル」

 現在、タイタンシリーズは11号機が研究開発されている。山間地では山の斜面を削って法面(斜面)が作られていることが多い。そのようなところでは崖崩れ防止のためにコンクリートフレームを作り、そこにアンカーロックボルトを打ち込む補強工事が行なわれている。コンクリートの補強面を岩盤までロックする工事だ。現在は車輪を使ったロックマシンが使われているのだが、脱輪を起こしやすいという問題がある。それを歩行ロボットで行なえないかという研究である。

 こうしてこれまでの研究成果を反映させて開発されている「TITAN XI」は重量7トン、脚長4m。背中には穴を掘るためのドリルがつけられ、上から吊るためのテザー用ウインチがつけられている。現在は実際の工事現場で動くための歩容生成、環境認識技術を開発しているところだという。


土砂崩れ防止工事をロボットにやらせようという試み タイタン11号機 【動画】タイタン11号機の動きの様子(再撮)

 このほか、広瀬教授は壁を吸盤で登る「NINJYA」というロボットを例にあげ、右足、右手、左脚、左手と「後ろから前へ」と足を動かすクロール歩行に対して、壁をうまく登るためには「前から後ろ」へと足を運ぶ必要があったことを、力の働き方を説明しながら示した。

 この応用の1つが、平坦地では車輪で移動するローラーウォーカーである。ローラーウォーカーは東京精機株式会社から販売されていたが、現在では東工大発ベンチャーの株式会社ハイボットがコントローラーを販売するようになっているという。

 最後に広瀬教授は学生が作ったというCGによる研究室のデモビデオを見せた。そして「生物を規範にしたロボットは面白い。若い方々は是非、東工大に入って我々の研究を発展させてもらいたい」と語った。


【動画】ローラーウォーカーの歩行の様子 【動画】ローラーウォーカーが車輪で動く様子 【動画】ステージ上を走り回る

講演終了後にもステージでデモが行われ、多くの人たちが見守った
 なお広瀬教授は25日火曜日にも講演を行なう。その他の講演日程はホームページを参照されたい。東工大の先生たちに加え、東芝の情報家電ロボット「ApriAlpha」に関する講演などが行なわれる予定になっている。会場は500人収容できる講堂で行なわれるのでまず入場できないことはないだろう。

 27日~29日(土曜日)には工学部知能機械システム学科の企画として展示と研究室公開も実施される予定だ。「機械・ロボットを創る ~ものづくり体感ワールド」というロボットの制作実演イベントも合わせて実施される。会場は東工大大岡山キャンパス石川台1号館253号室と5Fリフレッシュルーム。体験・実演双方とも無料で、事前申し込みも必要ない。


URL
  先端ロボットの世界
  http://www.libra.titech.ac.jp/cent/event/robot/
  広瀬研究室
  http://www-robot.mes.titech.ac.jp/home.html


( 森山和道 )
2006/07/24 04:00

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