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神戸大学・大須賀公一教授
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5月30日、社団法人計測自動制御学会による「第6回 制御部門ワークショップ」が、愛知県豊田市にある豊田産業文化センターで開かれた。神戸大学工学部機械工学科の大須賀公一教授から「奥が深い二足歩行……」と題して講演が行なわれた後、トヨタ会館にて豊田自動車が開発した「パートナーロボット」の見学会が開催された。
今回、大須賀教授は受動的動歩行(ダイナミクスベースト歩行)の解析研究について講演した。受動的動歩行とは、文字通り受動的な歩行のことだ。能動的なアクチュエーターによるエネルギーの入力や、複雑なモデルベースの制御を行なわなくても、機構を工夫して初速を与えるだけで脚を交互に振り出して、ゆるやかな斜面を降っていくことができる歩行のことだ。
カタカタと脚を動かしながら斜面を降っていくおもちゃを見たことがあると思うが、あれが受動歩行である。機構それ自体が自然に持っている動特性そのものによって、歩行のような動きが見られることがあるのだ。うまく工夫すると、重心を制御するために常に脚の膝を曲げて歩行しなければならないZMP制御のロボットよりも、まるで生物のように自然に「歩く」ことができる。
エネルギー効率に優れていること、軌道計画を必要としない点が特徴だ。働いている力は重力だけである。つまり「倒れない」ように歩いているZMP制御に対して、受動的動歩行は「倒れる」ことを利用して歩いているわけだ。
現象そのものは1800年代から知られていた。しかしながらまだその原理はよく分かっていないという。大須賀教授は、受動的動歩行の安定性と、斜面を急にしていったときに現れるカオス的挙動に着目し、シミュレーションと実機を使って研究を行なっている。
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受動的動歩行という現象そのものは昔から知られていた
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受動的動歩行研究の歴史。大須賀教授らは、シミュレーションでしか知られていなかった歩行周期の分岐現象を実機で確認した
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繰り返しになるが受動的動歩行はアクチュエータによる制御を使わない。なのに安定な現象なのである。最初にちょっと、坂道の上で受動的リンク機構を適切な初速で押してやると、そのままカタカタと歩き続ける。しかもその周期は極めて安定なのだ。
また、坂道の傾斜角が小さいと1歩行周期――つまり同じ歩行周期で歩行するが、傾斜角度を大きくしていくと、だんだん1歩行周期では不安定になる。そのまま倒れるかと思いきや、あるところで2歩行周期歩行、すなわち大きな歩幅と小さな歩幅が交互に現れる。そして安定性を維持して歩き下っていく。なお、さらに傾けるとやがてカオス的になる。
大須賀教授らはこの現象を解析し、受動的歩行が安定的なのはフィードバック構造が内在しているからであること、そして傾斜の傾きに応じてN周期の歩行が出現するのは、フィードバック構造が多重に埋め込まれており、状況に応じて選択されているからであるらしいことを突き止めた。
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受動的動歩行の不思議1。安定な現象であること
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受動的動歩行の不思議2。分岐現象
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フィードバック構造が内在されていることが分かった。なおフィードバックゲインは最適に近いが最適ではない。それがロバストネスに繋がっているのではないかという
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受動的動歩行は斜面が急になると不安定になっていくが、フィードバック構造を変えることで安定的な状態になる
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ただ、なぜこのような構造が受動的歩行を行なうリンク機構に内在しているのかという疑問そのものは残る。また現在、二脚のリンク機構を接続することで、4脚にすると何が見出せるか調べているところだという。4脚受動的動歩行は、4脚の動物がやるような、ギャロップやトロットのような歩行が出現する可能性もあるという。
また、この仕組みを実際のロボットに応用しようと考えた場合、基本的には受動的動歩行でエネルギーを使わずに歩行するが、歩き始めや外乱に対しては能動的にアクチュエーターを駆動して能動的に歩行するような、ハイブリッドな歩行システムが考えられる。
そのとき、ロボットを安定させる値は解析的には求められないので、時間遅れ要素を有効利用した制御手法である「遅延フィードバック制御」と呼ばれる手法が用いられる。現在、大須賀教授らは「QUARTET III(カルテット3)」というDCモーターを組み込んだ「準受動的動歩行」ロボットで理論を検証している。
将来的には、ZMP軌道を計画し、ZMPを制御して歩く「モデルベースド歩行」と、リンク機構そのものの持つダイナミクスの特性を使って、あまりエネルギーを使わずに歩行する「ダイナミクスベースト歩行」を組み合わせ、双方の「中庸」をとった歩行システムが望ましいのではないかという。
繰り返しになるが、受動的動歩行が持つ自己安定性が存在することは分かっているが、その安定性がどこからきているのかはよく分かっていない。大須賀教授は「受動的動歩行にこだわる理由は、それが分からないからだ」とまとめた。
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4脚の受動的動歩行の概念図
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モデルベースド歩行とダイナミクスベースト歩行の間の「中庸」
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受動的歩行を埋め込んだ能動的歩行ロボットは誕生するのか
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【動画】準受動的動歩行で歩くロボットの様子(再撮) |
この後、トヨタ会館に移動して、同館エントランスに展示されているトヨタ・パートナーロボットの見学会と講演会が開かれた。写真でロボットだけご紹介する。
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トヨタ会館エントランス
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ロボットのラインナップとコンセプト
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デモのときは大勢の人が集まった
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トヨタ・パートナーロボット
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上半身
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「人工唇」でトランペットを吹く
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トランペットを持つ手。実際にバルブを押すことができる
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ほっそりした脚部
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足先
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同じく万博で活躍した一人乗りビークル「i-unit」
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昨年の第39回東京モーターショウで登場した「i-swing」
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i-swingのコックピット
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搭乗型二足歩行ロボット「i-foot」
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鳥脚が特徴
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座席。シートベルトは4点式
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左側のコンソール。速度調節ボタンやバッテリーゲージらしきものが見えた
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脚部正面
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まるでゾウのような巨大な脚部
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脚部を後ろから
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シェルボディを見上げると植物のようなシルエット
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搭乗者をすっぽり包み込むようになっている
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トヨタ会館は一般にも無料で開放されている。開館時間は月曜~土曜(9:30~17:00)。上記で紹介した演奏デモのほか、インターネット上で予約すれば、3台のロボットによるステージ演奏も見ることができるそうだ。
もちろんロボット以外にも、ショールームではトヨタのクルマや、同社の環境への取り組みなどが展示されている。
■URL
神戸大学工学部機械工学科 大須賀公一研究室
http://www.control.mech.kobe-u.ac.jp/
社団法人計測自動制御学会
http://www.sice.or.jp/
トヨタ会館
http://www.toyota.co.jp/toyotakaikan/
トヨタ・パートナーロボット
http://www.toyota.co.jp/jp/special/robot/
【2005年10月20日】トヨタ、コンセプトカー「i-Swing」をモーターショーに出展(PC)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/1020/toyota.htm
【2005年3月22日】ロボットショー中心のトヨタグループ館など(PC)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0322/expo02.htm
【2004年12月3日】トヨタ、「愛・地球博」ロボットショーを公開(PC)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1203/toyota.htm
( 森山和道 )
2006/05/31 18:19
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