東京都青梅商工会議所、「ロボット産業交流会 in 立川」を開催

~基調講演は安川電機、既存組織を超えたコミュニティ形成とシーズとニーズの掘り起こしを狙う


 青梅商工会議所は11月16日、「ロボット産業交流会 in 立川」をパレスホテル立川にて開催した。この事業は、「『10年後の東京』への実行プログラム2009」において、東京都および財団法人東京都中小企業新興公社による東京都都市機能活用型産業振興プロジェクト推進事業「多摩・産業コミュニティ活性化プロジェクト」の一つ。

 「コミュニティの形成」と「プロジェクトの支援」を目指し、「半導体・電子デバイス産業」「計測・分析器産業」、そして「ロボット産業」の3つの事業それぞれを、委託を受けた各機関が推進している。青梅商工会議所による「ロボット産業活性化推進機構」がロボット産業関連を受託し、平成21年8月~平成24年2月までに5件の事業化を目指している。

 プロジェクトのキックオフとして行なわれた会場は満席。まずはじめに青梅商工会議所の会頭である清水保男氏が主催者代表として「多摩地区には非常に高いものづくりの技術がある。センシング、制御、駆動技術を用いて新規産業立ち上げも夢ではない。この事業は交流の場を提供することで組織を超えた創出をねらうことを目的としている」と挨拶した。

 続けて東京都産業労働局商工部長山手斉氏が「都市機能活用型産業振興プロジェクト推進事業」全体に関して概要を述べ、「課題があるところに産業の種がある。多摩には事業の集積があり、他地域との交流がある。東京都としても国際競争力の強い産業を育成していきたい」と語り、ロボット産業の可能性と多摩地域への期待を述べた。

 事業説明は青梅商工会議所コーディネーターの芳賀啓一氏が行った。芳賀氏はNEDO技術開発機構がまとめた冊子「RTスピリッツ」を引用し、サービスロボット普及の課題を語った。現在は参加企業からテーマを募り、中核企業を中心として個別プロジェクトを形成する形で分科会を形成している段階であり、今後は各々において事業化を狙っていくという。

青梅商工会議所 会頭 清水保男氏東京都 産業労働局 商工部長 山手斉氏青梅商工会議所コーディネーター 芳賀啓一氏
会場は満席

基調講演:安川電機のロボット事業「人」に着目、作業力と判断力による自律能力の向上を目指す

株式会社安川電機ロボット事業部 新規ロボット事業統括部事業統括部長 小川昌寛氏

 続けて、株式会社安川電機ロボット事業部 新規ロボット事業統括部事業統括部長の小川昌寛氏が「次世代RTによる新たなロボットビジネスの創造 双腕ロボットによるソリューションの進化」と題して基調講演を行なった。小川氏は「過去に囚われるとロボット産業の発展はない」と捉えており、一社だけで全てができるのではなく、将来的には産業構造全体を転じていくことも踏まえて事業に取り組んでいると熱弁を振るった。

 小川氏は「産業構造の変化からロボティクスを考える上で3つの論点がある」と話を始めた。1つ目は「人の生産性からの脱却」である。労働力が不足するなかでも高度なものづくりを維持するにはどうすれば良いか。グローバル化のなかで自動車産業は需要のあるところに工場を建てて、水平展開しようとしている。いっぽう車以上に製品サイクルが短い電機産業は、より安く良いものを競争しながらものづくりを続けているなかで、色々なところに生産力を求めているが、そのいっぽうで空洞化を危惧して日本国内でのものづくりを重視している面もある。

 しかも今は大不況だ。そのなかで、どうするか。真っ先に多くの企業が着目した問題が、「人」の生産性だった。急激に業績が悪化するなか、「人」に頼ってきたところを真っ先に対処せざるを得なかったことは、製造業に携わる各企業が共通して感じているところだ。

 もう1つは「環境製品への急速転換」だ。ガソリン車から電気やハイブリッド車への転換を見ても分かるように環境車への移行は急速に高まっている。またスマートグリッドなどにも注目が集まっている。環境テーマから来る産業転換は避けられない状況だ。そのなかにロボットがどう入るか。不透明な部分も多いが、太陽電池パネルや風力発電など、さまざまなところでモノが変わることは間違いない。そこで新しい製品に対応したものづくりができなければ、ビジネスチャンスを失うことになることは確かだ。3つ目が「生活環境変化からの新規創出領域」だ。これは要するに福祉用途など、ニーズの変化である。

 このなかで、何が次のニーズなのか。これまで安川電機は製造産業のなかで、接合、ペイント、搬送などの領域で産業用ロボットを展開している。当然、これらは今後も維持される。もう一歩広げていくところで、「人」そのものに着目したロボットの市場展開が考えられる、という。

 「人」の労働力をいかに支援するか、それを代替するにはどんなロボットが考えられるか。いま次世代のロボットにおいては「ものづくり産業」から「サービス産業」と言われているが、「人」というキーワードで両者を共に捕らえることができると小川氏は語った。そのためにはロボットの自律能力――すなわち作業能力、判断能力をどう上げていくかが課題になる。状況判断力と作業能力を共に持つロボットをアウトプットとして描き続けることが同社の事業戦略上の技術戦略だという。

 このうち、状況をセンシングする能力に関しては研究があちこちで行なわれているが、「意外に盲点になりつつあるのが作業力だ」と小川氏は指摘した。「『人』がいる環境のなかにロボティクスを展開するのであれば、作業力なしに何ができるのか」と述べ、「判断力は必要条件ではあるが十分条件ではない。作業力があってはじめて役に立てる」と強調した。また、ここにロボット産業発展のための障壁があったと述べた。

 では「人」の領域はどこにあるのか。小川氏は今後も日本はものづくりで生きていくべきだと考えていると述べ、いっぽう、ビジネス基盤としてのロボットは、現状、ロボット大国の日本においても「自動車産業を中心としたものづくり産業」に使われているだけであると指摘した。いっぽうヨーロッパではどうか。ヨーロッパの産業構造においては、農業や酪農といった一次産業同様、生産技術が実行ベースではアウトソーシングされていることが多いという。それは同時に、システムインテグレーターが非常に多いことを意味し、ヨーロッパから出てくるロボットはマスプロダクションが強いと分析した。

 いっぽう米国はどうか。小川氏は、アメリカには名だたるロボットメーカーはほとんどないが、「RT」にはものすごく強い国だと述べた。アメリカには軍事産業、宇宙産業があり、ソフトウェア技術が強いからだという。特にキネマティクスが強く、展開力は軍事応用であり、それが実用を求めて民間に下りるというシステムになっているという。いっぽう、スマートグリッドにはグーグルが手をあげている。情報管理やネットワーク技術だからだ。ロボット産業においてはハードウェアではなく、ソフトウェアに強みがあるのが米国の特徴だと分析しているという。

 世界の3極を大きく見るとこうなっている。そこにどうロボット産業が打って出るか。日本では、ものづくりにおけるロボティクスを徹底的に強めて出て行くことがやはり重要だと小川氏は強調した。

 現場ではいま、多品種少量、さらに量変動に対応するものづくりが求められているという。そうなると、これまでのマスプロダクション向けの製品では対応できない。いかに新しいものを必要なだけ作るかが重要になる。工程の一部を担っていた特定用途の産業用ロボットではないタイプのロボットが現場では求められているという。そこをブレイクすることで、あまり多くの産業には展開できてないロボット利用を拡張する事ができる。

 現在はまだ自動車産業にしか適用出来ていない。それで8,500億円産業に留まっている。だがもっとボトムはある。この問題をクリアにするシーズがないことをメーカーも反省しなければならず、マーケット規模を意識して「人」の領域に注力していく必要があると述べた。

 ロボットによる「多能工化」の実現を意図して安川電機が開発したのが、7自由度の腕を持つ双腕ロボットだ。人と同等のスペースで作業をこなし、人と同等のツールを扱える運動能力・自在性を持ったロボットである。多品種生産で使われるセル生産を意識したロボットだ。

 多品種生産といっても人間の限界は3品種程度だといわれており、そのためスペシャリストの養成や、人間の多能工化が必要だということが現場ではよく言われているという。だが種類を限定する多能工化はロボットのほうが得意かもしれない。可能性は確かにある。だがこれまでのロボットではそのようなことは考えられていなかった。だから自律能力が重要になるのだという。

 これまでは単能工型のロボットがベルトに並んで生産を行なっていた。それは品種の少ないマスプロダクション方式の生産方式だった。それを多能工型のロボットによるセル生産方式に広げていく。そうすると、新しい市場領域が生まれ得る。サービス分野といっても幅広い。もともと多品種少量型、個性を優先した商品分野にまで広げていくことができる。「ロボットの進化と共に市場を創出することが重要だ」と小川氏は語った。

 安川が双腕ロボットを投入したのは2007年12月。人サイズに抑えることができた理由は、駆動部の小型化が大きかったという。減速機込みのワンモジュール型のアクチュエータを作り、従来の1/3サイズを実現し、さらに現在は半分のサイズに小型化することもできた。今後も、小型化、軽量化をすすめていく予定だ。それは結果的に安全性を高めることにも繋がるし、省エネ、電源容量の問題にも繋がる。そのためにはいずれ鉄からの脱却が必要になると語った。

 もう1つのブレイクスルーは腕のパフォーマンスを7自由度にしたこと。これによってエンドエフェクタ位置を固定した状態で肘をあげたり下げたりすることができるようになり、回り込み動作や、しゃがみこみ姿勢など自在な動作ができるようになり、作業の柔軟性が上がった。狭い空間の四方八方を作業空間にすることができる、それが、人が多様な製品を作るセル生産スペースにおいてロボティクスを適用するためには必要な技術だったという。

 海上では、「パレット配膳」した部品をロボットが組み立ててギヤユニットする様子や、片腕で部品を抑えてねじ締めを伴う組み立てをこなす様子などがビデオで紹介された。大きな設備が必要だった従来に比べて、ごく簡単な部品治具を置くだけでロボットを適用することができるようになったという。

 従来のロボットはいわば設備のなかの一部だった。だが、この双腕ロボットならばロボットだけ移すこともできるため、必要に応じてロボットが設備を使うことができる。これまでは「設備稼働率=ロボット稼働率」だったが、ある設備の稼働率が低い日にはロボットは別の設備へと移動させることで、ロボットの工数をフルに使うことができるようになる。これまでのように設備にお膳立てされたとおりにシーケンシャルにロボットアームが動くのではなく、ロボットが設備を使えるような工場設計が可能になるのだ。これによって多品種少量生産現場にもロボットを適用できるようになる。

 人と同じ作業パフォーマンスが出せるのであれば、必要に応じてセンシングを入れていくこともまたできるようになる。そうして作業パフォーマンスを高めていく。それが「作業力」と「判断力」による「自律能力の向上」を目指すということだという。

 また人が扱えるものをロボットであれば、人向けに開発されている重量物搬送におけるパワーアシスト装置やホイスト式クレーン(荷役機械の一種)を、ロボットが扱うこともできるようになる。人用のパワーアシスト装置をそのまま使うことができるのだ。そうすれば、パワフルなロボットを入れなくても、軽量なロボットを使って、大きな作業ができるようになる。ともかく、「人ができないことをロボットにさせよう」という従来型の発想をやめよう、という考え方が根本にはあるという。なおこのデモは「国際ロボット展」に出展される予定だ。

 センシング技術においては、二次元形状認識から3次元形状センサーへと発展させようとしている。3次元認識は難しいので、3次元ビジョンセンサーはこれからかなり長く技術開発が進むが、それぞれの発展段階に応じてアプリケーション展開させていくという。箱の中からさまざまな向きの部品をピックアップする様子や、双腕ロボットが特定方向に部品を整列させる様子、さらに部品の穴の隙間に他の部品が入り込んでしまっているような複雑な状況でも、一度部品の山を崩す事で部品をエンドエフェクタで掴める状態にしてピックアップする様子などが動画で示された。

 このように、状態そのものを捉えて多様な状況を認識する技術を開発していくことで、アプリケーションに繋げていく予定だという。これからはさらに、透明なものや、真っ黒いものの上に真っ黒いものがあるような状況などにも対応できるよう技術開発していくという。また、異なる物体が1つの箱に入っていても認識して引っ張ってこれるマルチ型のビジョンセンサーも開発中だ。レゴブロックを使って複数種類のワークが入っているところからピックアップするというデモがビデオで示された。これもまた「国際ロボット展」に出展される予定だ。

 この技術をどこに使うのか。小川氏は例として、物流センターの仕分けを挙げた。宅急便の夜間産業ではさまざまな梱包状態の物品を仕分けする必要がある。その仕分け作業をせよとなったら、ある程度なんでもできないと使えない。だが流れてくるワークが何なのか、その情報さえ分かればアームで掴むことはそれほど難しくはないという。だから作業力と判断力が重要になる、というわけだ。

 視覚だけではない。安川電機では、力覚もロボットのなかにインテグレーションしようとしている。双腕ロボットの腕の基部には、高感度の水晶絶対圧センサーが内蔵されており、これによってアームのひずみを検知することができる。力センサーを腕先に付けなくても、作業力の管理もできるし、何かにぶつかったときにすぐに止まることができるという。人間は、目隠しした状態でも作業ができる。そのときには力覚が使われている。把持する、触ることで作業の確認ができる力覚はかなりロバストであり、重要な感覚だという。

 最後にロボットで産学連携がなかなか進まない理由として小川氏はロボットメーカーがソフトウェアをオープンにしないからだと述べた。産業溶ロボットの動きはティーチングペンダントを使って教え込む方法が一般的だ。そしてファンクションはロボットのCPU内に機能化する。でもそれはあくまでアームの制御だけで、エンドエフェクタはまた別であり、いまはセミクローズな制御にしかなってないのが現状だ。しかし、それをさまざまなセンサーを使うことでいよいよフルクローズ制御で動かす時代が来たと捉えているという。

 今後は、どんなツールを使ってロボットを動かしたいか、アプリケーションソフトウェアをユーザーが好きな言語で外部で作って、それがそのままロボットで動かす、オープン構造のフルクローズ制御のロボットを実現したいと小川氏は述べた。

 ユーザーにはロボットを使ってそれぞれやりたいことがある。ユーザーがアプリケーションを開発する事で、いまあるシーズで何ができるかを見出すことができれば、作業力はロボットメーカーがが提供する。どう使うかはユーザーが考える。いろんな研究シーズを使ったアプリケーションも生まれるだろう。そうすると、ロボットはソフトウェアビジネスになる。アプリケーションも、ティーチングから脱却して簡便かつフレンドリーなものを目指す。小川氏は「そうなるとロボットは身近になるはず。これは将来の話ではなく、ここ1年くらいの出来事だ」と語った。

 最後に、ロボットの将来として移動技術についても紹介された。ロボットが移動しないと仕事にならない場合もあるからだ。そうなるとますます自律機能が必要になる。「いろいろなセンサー、ソフトウェア、アームに、『何をしたいか』というマインドをくっつけることでロボットのフィールドは広がる」と小川氏は述べ、「その基本はものづくりであり、そしてサービス市場へは一本に繋がっている。ロボットの利用領域と利用機会を広げていくことが我々の責務だと考えている」と講演全体をまとめた。

首都大学東京、電気通信大学、東京農工大学、神奈川工科大学、東海大学の研究紹介

 その後、首都大学東京、電気通信大学、東京農工大学、神奈川工科大学、東海大学の5大学それぞれから研究紹介が行なわれた。発表は各5分間ずつで、ごく短い簡単なものだった。

 公立大学法人 首都大学東京大学院システムデザイン研究科准教授の久保田直行氏は「パロ」や「見守りロボット」の共同研究開発について触れ、首都大学東京の強みは、研究開発グループの構成自由度が高いことだと述べた。要素技術だけではなく入り口から出口までを視野に入れる必要があり、組み合わせや機能性やデザイン開発を重視したサービスロボット開発においては重要になるという。また今年から福祉におけるロボット技術の具現化を考えた研究グループも立ち上げていると述べた。ロボットをPDAで扱う研究や教育現場での適応例などを見せて、基礎からフィールド研究までを統合して研究ができると強調した。

 国立大学法人 電気通信大学 産学官等連携推進本部リエゾン部門副センター長の田口幹氏は、梶谷学長による楽器演奏ロボット「MUBOT」を紹介。産学官連携センターは学長直轄の組織であると述べ、企業向けに「産学官連携Day in 電通大」などを実施していると語った。電通大は21の研究室がロボットの研究を行なっているという。詳細は「OPAL RING」という研究室紹介にまとめられている。

 国立大学法人 東京農工大学産学官連携知的財産推進センター教授の伊藤伸氏は、配管検査などに応用できると考えられる球面超音波モーター、フィガロ技研による半導体ガスセンサーを使った匂いやガス源の探索を行なえるロボット、運転意図の判断や運転行動データベースを使ったデータマイニングで個別適合運転支援を行なう自動車のコンセプトを示した。「農工大とロボットの間の関係について覚えておいてもらいたい」と強調した。

 学校法人幾徳学園神奈川工科大学 創造工学部 ロボット・メカトロニクス学科 教授の磯村恒氏は、システムインテグレータを養成していこうとしていると学科の目的を語り、福祉や生活支援分野に置ける研究成果を解説した。空圧アクチュエーターと筋肉発揮力センサーを使って介護・介助の労働支援を行なうパワーアシストスーツ、非線形バネ要素と駆動冗長性を持つ身体機能支援を行なう義肢装具、健康維持増進を目指したロボット遊具開発やインストラクタへのロボットの展開、コミュニケーションロボットや支援機能の評価などを行なっていると述べた。

 東海大学産学官連携センタープロジェクトマネージャー加藤博光氏は、ロボット実用化開発における悩みとしてシーズとニーズがマッチングしていないのではないかと延べ、東海大学の概要を解説。東海大学のロボットはセンサレスロボットや安全性の研究、歩行支援、人の腕の粘性の機械への適用の研究、多足ロボットなどが研究されている。ともかくニーズとマッチングしてないように思われることが悩みの種だと強調し、企業と連携することでその点を解消していきたいと述べた。

公立大学法人 首都大学東京大学院システムデザイン研究科准教授 久保田直行氏国立大学法人 電気通信大学 産学官等連携推進本部リエゾン部門副センター長 田口幹氏国立大学法人 東京農工大学産学官連携知的財産推進センター教授 伊藤伸氏
学校法人幾徳学園神奈川工科大学 創造工学部 ロボット・メカトロニクス学科 教授 磯村恒氏東海大学産学官連携センタープロジェクトマネージャー加藤博光氏


(森山和道)

2009/11/17 18:02