7月21日、株式会社安川電機の「MOTOMAN(モートマン)DIA10」ほか産業用ロボット計4台が、北九州市小倉の夏祭り「小倉祇園太鼓」にて開催された「小倉祇園太鼓競演大会」の開会式にて特別出演し、伝統の太鼓叩きを披露した。祭りそのものの歴史は400年近いが、ロボットの叩き手が登場したのはもちろん初めて。
「小倉祇園太鼓競演大会」が今年で節目の60回目を迎えることを記念したもので、安川電機のプロジェクトチームが特別に太鼓の振り付けを行なった「ロボット山車」が出演した。昨年、経済産業省の「今年のロボット大賞2006」を獲得した各7軸の腕を2本持ったロボット「MOTOMAN-DIA10」2台と、ハンドリングロボット「MOTOMAN-HP3」2台から構成されている。
小倉祇園太鼓は「ヤッサヤレヤレ」のかけ声とともに、太鼓の両面を打ち鳴らすのが伝統の打法。太鼓は皮の張り方によってそれぞれ音の高低が違い、高い音が出るほうの打ち手は「カン」と呼ばれ、主にメロディーを担当する。動きも派手だ。いっぽう低音のほうの打ち手は「ドロ」と呼ばれベースをつとめる。そして、「じゃんがら」と呼ばれる摺り鉦(すりかね)は、太鼓の打ち方そのもののリズムをとる、いわば指揮者に相当する。
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開会式で挨拶した北九州市市長の北橋健治氏
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今回のロボットも、このとおりに構成されている。双腕ロボット1台が「じゃんがら」を鳴らし、もう1台が「カン(甲)」、そして2台の単腕ロボットが「ドロ(濁)」だ。双腕ロボット本体1台だけで重量はおよそ200kg、コントローラーが同じくおよそ200kgなので、「ロボット山車」の重量はおよそ2t。後ろに続く電源車両はおよそ1tで、総重量はおよそ3tにもなる。
開会式では北九州市市長の北橋健治氏が、ものづくりのまち・北九州市が誇る「伝統」と「最新技術」を世界に向けて発していきたいと挨拶。「ロボット山車」は34年ぶりの登場となる県有形民俗文化財に指定されている古船場町筋の「山鉾山車」のあとに続き、安川電機取締役社長の利島康司氏を先頭にして、練り歩いた。
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安川電機の「ロボット山車」
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【動画】「チャンチャーン、チャンチャーン」というリズムが小倉祇園太鼓の基本
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多くのマスコミ・観光客が見守った
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先頭は取締役社長の利島康司氏
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引いているのは安川電機の社員と家族の方々
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後ろに続く電源
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【動画】山車のあとにも多くの社員たちが続く
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34年ぶりに登場した「山鉾山車」のあとに続いた
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【動画】こちらは古船場町筋の「山鉾山車」。ロボットの叩き方と比較してほしい
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当日準備中の様子
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本体の下にコントローラーが収められている
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頭部は実は発泡スチロール製
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競演大会前日に、北九州市八幡西区黒崎にある本社にて準備中の「ロボット山車」を見学させてもらった。なお安川電機はここを産業用ロボットを世界に生み出す「ロボット村」としたいと考えているそうだ。
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株式会社安川電機 広報グループ課長 村田晋氏
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広報グループ課長の村田晋氏によれば、今回の出演は、今年の2月末ごろ、競演大会を主催する小倉祇園太鼓保存振興会が、節目の年である60周年記念として、安川電機に産業用ロボットによる太鼓叩き出演依頼をしたことから始まったという。小倉出身でもある安川電機取締役社長の利島康司氏は「街の賑わいづくりに一役買えれば」とこの依頼を快諾した。こうしてプロジェクトが始まった。
ロボットの構成が具体的になったのが4月上旬。図面を準備し、ロボットを台の上に上げたのが4月の末。以来、保存振興会の指導も受けながら、力強い人間の動作に近づけるべく努力をしてきた。担当者たちは実際の太鼓叩きも学び、テンポを覚えてのぞんだという。
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本番前日、準備中の「ロボット山車」
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双腕ロボット「DIA10」
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単腕ロボット「HP3」
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ティーチングに用いるプログラミングペンダント
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【動画】「ロボット山車」の動き
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【動画】じゃんがらを鳴らすロボットが太鼓全体のテンポを決める
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株式会社安川電機 ロボット事業部新規ロボット事業推進部開発第2課課長 村井真二氏
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ロボット山車の製作を担当したロボット事業部新規ロボット事業推進部開発第2課課長の村井真二氏は、「人と同じテンポで太鼓を叩かせること、特に動きの異なる複数台のロボットによる音を合わせることに苦労した」と語る。たとえばベースを刻む「ドロ」は、リズミカルに1分間に60回以上叩く必要がある。ロボットもそれを正しく叩かなければならない。そのテンポは実際にオペレーターが太鼓叩きを学んで覚えた。村井氏自身も太鼓を叩いたそうだ。
まず最初はオフラインで動きを作ってみた。しかしやはり実物とは違うし、何より今回は、人間のようなダイナミックな動きを作るために、実際に太鼓を叩かせながらの作業となった。
もうひとつのポイントは「バチを振るスピード」だったという。太鼓の音を出すためには、何より速度が重要なのだそうだ。最初は、単に腕を振って太鼓にあてるところから始めた。だが、位置制御のロボットは、いわば、ガチガチに力を入れて筋肉を緊張させているようなものだ。いっぽう実際の人間は、手首のスナップを利かせつつ、全身を柔らかく、しなやかに使って太鼓を叩く。
太鼓を叩くときは、バチで太鼓を叩いたら、反発力をそのまま受けてすぐに太鼓の表面から離す。人間にとってはあまりに当たり前にできることなのだが、ロボットの叩き方は極端に言うと、太鼓の表面を押さえつけるようなかたちになってしまう。そうすると、太鼓独特のドーンと腹に来るような振動を叩き出すことはできない。瞬時にバチを太鼓の表面から離すことができないため、逆に太鼓の面の振動、すなわち音を殺してしまうのである。
そこで、全身の速度を調整して腕の振りを速くすると同時に、スプリングを仕込んだハンドを作り、柔らかく、かつバチを反発させるように工夫した。バチ自体もより太いものへと改良し、少しでも音を響かせるようにした。
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「ロボット山車」開発チームの方々
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村井氏は、トータルの「ロボットシステム」として考えることが重要だと語る。ロボット単独ではうまく解決できなくても、追加のハンドをつけることで、システム全体として目標を達成することができればいいという意味だ。今回作成した実際のハンドの機構もかなりシンプルだが、シンプルですむならシンプルなほうが工学的にはリーズナブルだし正しい。そこは今回のような特別な場合においても産業用ロボットの世界とまったく同じで、「あまり難しいことをしようとすると、設備が固定化されてしまって汎用的にならない」という。
ただ、残念ながら人間にはやはり及ばない。今後、より人のように太鼓を叩けるロボットへと改良していきたいという気持ちはあるそうだ。
なお双腕ロボットそのものは、現状、人が行なっている作業をロボットで置き換えようというのを基本コンセプトとして開発されたロボットだ。現在、数百台の運用の話が進んでいるところだという。産業用ロボットの主な活躍の場は、自動車ボディの組み立てや溶接だが、そのなか、あるいはそれ以外の現場でも、ほぼ人間大の双腕を用いることで、いまはロボット化できてない部分を作業させることができるという。
たとえば、今までの単腕ロボットだと、作業中の対象を、いったん治具に置かなければならなかった作業でも、その必要がなくなる。左右の手を使って、2つの部品を組み合わせることもできる。また人間のように、片方の腕に道具を持たせ、もう片方の腕で部品を押さえておいて取り付け作業を行なうといったことも可能になる。
これらの作業をほかのロボットを組み合わせて行なおうとすると、どうしてもスペースをとってしまうので、工場設備そのものをいじらなければならなくなる。だが人型に近い大きさであるこのロボットであれば、設備をいじる必要がない。今月6日には小型仕分装置トップメーカーであるホクショー株式会社、三井物産株式会社と協力して、小荷物の仕分け作業のデモラインを作って発表した。そのほか、さまざまな実験を行なっているところだという。
将来的にはさらにコンパクトにしていき、本当に人間に近い大きさを目指す。これまでの製造ラインのなかにスポッと入れられるようなものを作ることが開発目標だという。
「市場はまだまだ広がりますか」と質問すると、村井氏は「市場は開拓していきたいですね」と笑いながら答えた。新世代ロボットによる市場創出に期待したい。
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1977年、安川電機が日本で初めて製品化された全電気式の垂直多関節ロボット1号機「MOTOMAN-L10」。可搬重量は10kgだった
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【動画】2台のロボットによる協調動作のデモ。イライラ棒を人間には不可能なやり方・速度でクリア
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【動画】このような技術は、たとえば塗装などに使われている
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■URL
安川電機
http://www.yaskawa.co.jp/
小倉祇園太鼓保存振興会
http://www.kokuragiondaiko.jp/
( 森山和道 )
2007/07/23 14:00
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