「第16回ROBO-ONE in 富山」レポート【予選編】

~“人を乗せる二足歩行ロボット”も登場


 2009年9月26~27日、富山市・富山産業展示館(テクノホール)にて、第16回ROBO-ONE in 富山が開催された。「無差別級」として開催された今大会には最小で0.7kg、最大で25kgの二足歩行ロボットが合計63機エントリーし、32機が決勝トーナメントを戦った。予選1位および優勝は、第14回大会でも総合優勝した前田武志氏製作の「OmniZero.9」だった。今回は26日に行なわれた予選デモンストレーションをお伝えする。

2大会ぶりに開催された予選

 前回の第15回ROBO-ONE[]は、大会への出場権を各地の大会で獲得した選手だけが参加する“選抜大会”として開催されたため、ROBO-ONEの予選はほぼ1年ぶりの開催となった。2分間のデモンストレーション、自律動作のみ、といった概要は従来通りで、第4回から第14回まで導入されていた「参加資格審査」は廃止された。

 毎回変更される規定演技は、「どんな道でも歩く」と「二足歩行ロボットがまだやったことがないこと」という2テーマが設定された。リング上には2007年に開催された「ROBO-ONE Special CUP」で使用された階段と凹凸床が置かれていたが、これをデモで使用するかどうかはビルダー側の自由だった。

 ここ最近の規定演技は、第13回の「ロンダート」と「180度回転ジャンプ」、第14回の「3回転連続ジャンプ」のように、具体的な規定動作が指定されたものが目立ったが、今回は第12回の「すごく人の役に立つことをする」以来となる、自由度の高い規定演技となった。そのぶん、ビルダー自身のアイデアが試されることになったともいえるだろう。

 また、今回のROBO-ONEは前述の通り身長制限なし・機体重量30kgまでの「無差別級」として開催され、リングが大型化された。重いロボットに対応するため、リングの強度は人が乗っても平気なほどになり、高さも60cm→30cmと低くされた。

縦横220cm→360cmと大幅に拡大されたリング。正八角形ではなく、360cmの正方形の角から90cmのところで角が落とされた形「どんな道でも歩く」ことをアピールする材料としてもっとも多かったのが、梱包用のエアパッキン(通称プチプチ)階段登りを取り入れていたチームも多かった

 さて、“無差別級”ルールの今回、実際に大型機はどれくらいエントリーしたのだろうか。予選トップだった「OmniZero.9」をはじめ、エントリーした63機中14機は3kgオーバーの重量級で、身長でも1mを超える大柄なロボットは5機含まれていた。大型機は使用する部品も高価であり、要求されるスキルも高くなるため、それほど多くはならなかったようだ。

 一方、非常に小型の機体も参加していたのが印象的な大会でもあった。2kgを切る機体は13機で、比率で言えば大型機とほぼ同じ。多くは学生チームによる、市販ロボットキットをベースにした機体だったが、「雛(夢邪鬼)」、「Ain(K)」といった自作機や、「MS-14S(みすみロボット研究所)」「gundam mk-2 ver.mako(まこ)」など、プラモデルの中にロボットを組み込んでしまった機体までが登場した。そういう意味でも今回は“無差別級”だったと言えるかもしれない。

等身大に近い大型機として「お手伝いロボットプロジェクト」にも参加していた「ドカはるみ(ドガプロジェクト)」。機器トラブルで自律動作せず、予選通過はならなかった1/100のプラモデルにサーボを組み込んだ「MS-14S」。ケーブルの取り回しをコンパクトにするため、PWMを分配する中継基板を製作したという

予選トップ3のデモ

 既報の通り、予選デモンストレーションでダントツの得点(400点満点中355点)をたたき出してトップに立ったのは、第14回ROBO-ONEで重量級優勝と総合優勝を果たした、前田武志氏の手による新型機「OmniZero.9」だ。

 デモはリングの下でスタート。リングまではスロープがかけられている。おお、今度はこの傾斜を登るのか……と思っていたら、「OmniZero.9」がいきなり変形。肩と膝のタイヤを駆動し“車両形態”でスロープを登ってしまった。これだけでも会場は大きく沸いたのだが、さらに沸いたのがデモの後半だ。「OmniZero.9」が屈むと、先ほどの変形時と同じように胸部分が開き、前田氏がそこに腰掛けてしまったのだ。そのまま「OmniZero.9」は立ち上がり、わずかだが足踏み/方向転換をしたあと、前田氏を降ろしてデモ完了。もちろん、ROBO-ONEの出場ロボットの中で人間を乗せて足踏みしたロボットは「史上初」である。

 前田氏の仕事がロボット関連と言うことを差し引いても、一個人が設計して製作したロボットが人間を乗せて動くとは、予想だにしなかった。大型の機体は作って動かすだけでも苦労が多いはずだが、以前から「ROBO-ONEの予選ではいつも何か新しいことをやりたいんです」と語っていた前田氏にとって、今回の予選テーマは“いつものこと”だったのかもしれない。予選終了後、ビルダーに囲まれた前田氏が口々に「驚いた」と言われ、心底嬉しそうに笑っていたのが印象的だった。

【動画】「OmniZero.9」の予選デモ「OmniZero.9」は特別重かったため、控え室ではなくステージのバックヤードで整備。かわるがわるビルダーの人が質問に訪れていた
食事中の前田氏と、ハンガー上で停止中の「OmniZero.9」前田氏が乗った「OmniZero.9」のボディ内。かなり幅が狭く、小柄な人しか座ることはできないという
【動画】「Kinopy」の予選デモ。

 予選2位だったのは、「Kinopy(小田利延)」。予選全体の大トリ、しかも直前のデモは前述の前田氏という状況だったが、デモがスタートし、おなじみのかわいい声で自己紹介を始めると、会場は「Kinopy」の声に集中。木琴を弾くデモはこれまでさまざまな場面で行なってきた「Kinopy」だが、今回行ったのは“虫の声”の弾き語り。きれいな声でを歌いきったところでデモ終了のベルが鳴るという、見事なタイムマネージメントもあって、大トリにふさわしい見事なデモになっていた。

 予選3位は「ハンマーヘッド(大阪産業大学歩行ロボットプロジェクト)」。大阪の学生さんならではと言うべきか、全体が元気なテンポのいいマイクパフォーマンスでまとめられていた。観客が大きくウケたのは、二足歩行ロボットがまだやったことがないこととして行なった「弓で矢を射る」モーション。ハンマーヘッドは自分の手でしっかりと弓矢をつかみ、引き絞って放った。矢は的に見事に命中し、会場は大きな拍手に包まれた。

【動画】「ハンマーヘッド」のデモ。堂々としたマイク担当者の態度も得点に反映したかもしれない予選トップ3

登場するロボットの存在感も無差別級

【動画】「雛」の予選演技。紙芝居で台詞を見せるつもりだったが、固定カメラだったために審査員にはわかりにくいデモになってしまった。

 ここからは順位にかかわらず、今回の予選で注目されたいくつかの機体を紹介しよう。

 まず、動画サイトに投稿されたムービーが80万回以上も再生されたという、ツインテールの女の子ロボット「雛(夢邪鬼)」。狭い肩幅や足のシルエットからすると、明らかに自作機だが、製作者の夢邪鬼氏に聞くと「KHR-2HVの改造機です」というコメント。確かにサーボモーターはKHR-2HVに標準装備されているものだが、それを完全に解体してフレーム/外装を兼ねた自作のケースに組み込んでいる。3DCAD図面を引くわけではなく、ハンドメイドで作られているケースというから、普通の自作機よりもずっと“自作機”なのではないだろうか。

 予選演技は、2機の「雛」が登場して掛け合いを行なうものだった。紙芝居の台詞は、苦心の末にひねり出した見せ方だったという。有名になるきっかけとなったくだんの動画は、何度となく失敗を繰り返しながら撮りためた動画を編集したものということで、現地の一発勝負で行なうROBO-ONEの予選は勝手が違ったようだ。予選は7位で通過した。

【動画】「メイドロイド0号試作機 ROBO-ONE仕様」。予選終了後に、エキシビションとしてリングに上がった。

 筆者の周囲で見ていた多くのロボットビルダーが注目していたのが「メイドロイド0号試作機 ROBO-ONE仕様(メイドロイド ラボラトリー)」だ。ROBO-ONEは格闘競技会ということもあり、出場するロボットはヒーローロボット系統が主流だ。しかし、数は少ないものの、ドール(人形)系統とでも言うべきロボットが初期の頃から参加している(前出の「雛」もその流れだ)。

 「メイドロイド0号試作機」は、その系統における一つの到達点といえる、等身大(身長150cm)のメイドロボットである。洋服から靴まで人間用のものを身につけているが、手足には金属製フレームやサーボモーターがむき出しの部分があり、人でも機械でもない様な、奇妙な雰囲気を身にまとっている。

 どんな予選演技をするのかが楽しみだったが、もともと10kg以下を想定して足裏を設定していたものの、すべての装備を組み込んで計測できたのが会場入りしてからになってしまい、11.8kgと大幅に重量オーバーであることが判明。足裏を小さくするか大減量するかという二択となったが、どちらも不可能ということで、結局参加資格審査を通過できず、棄権という形になった。

 執事のスペース・セバスチャン氏は、「もちろん、格闘ロボットではございません」というこの機体でROBO-ONEに参加した理由について「ROBO-ONEは大きな、有名な大会でございますので、一度出場してみるのも面白いのではと思ったしだいでございます」と微笑んでいた。もっとも、グローブをはめた手でトンファーを握り、エキシビションとしてリングに上ったうえで「今回は火薬が使えないということでございましたので、火器類は搭載しておりません」というコメントがあったこともお伝えしておこう。

 従来のROBO-ONEの文脈に忠実に進化した路線のロボットといえるのが、「automo 06(Wakka)(holypong)」だ。RX-78-2ガンダムそのままの外装で、「第1話の名場面を完全再現」という2分間のデモを行った。このモーションを作り込んだことはもちろんだが、より注目したいのは、ペーパークラフトにエポキシ樹脂を浸透させて作った外装である。ロボットの外装はこれまでもさまざまな素材が登場していたが、コストと強度、そして自由度を並立させる素材はなかなか登場していなかった。ペーパークラフトならコストは比較的安価に収まるし、自由度も高いだろう。実際に触らせて貰ったが、強度の方も元が紙だったとは思えないほどしっかりとしていた。詳細な作成方法については、製作者のholypong氏のサイト内に日記に掲載されているので、オリジナル外装を作りたい人は、ぜひ参考にして欲しい。

【動画】「automo 06(Wakka)」のデモ。「どうですか井上さん!」とアピールされているのは、審査員席にいた(株)サンライズ企画室室長、井上幸一氏のこと「automo 06(Wakka)」の外装。艶々しているのが樹脂で加工された紙。頭部は立体プリンターで製作されたもの

 全体を見ると、“二足歩行ロボットがまだやったことがないこと”でオリジナリティのあるデモを行なうところまで余裕があったチームはもちろん、規定演技が怪しかった機体でも、歩行がしっかりできていれば予選を通過できた大会だった。400点満点の予選で、予選通過最下位である34位(2チームが決勝を棄権した)の得点は110点というところからも、その傾向が読み取れるかもしれない。久しぶりにROBO-ONEの予選が見られる、と期待していた人の中には、肩すかしを食らったような感覚に陥った人もいたのではないだろうか。

 意外だったのは、正直、無差別級の格闘競技では勝ち負けするのは難しいはずの軽量級の自作機が複数参加していたことだ。だが、最も注目される競技会の一つであるROBO-ONEだからこそ、決勝で戦うかどうかはともかく、予選で高評価を得ることは自作ロボットビルダーにとって誇りに思えることなのだ、ということを再認識した大会でもあった。

 残念だったのは、ROBO-ONE GPおよびROBO-ONE GATEが同日程の千葉で開催されていた関係で、いくつかの有力チームがエントリーを見送っていたことだ。ROBO-ONEで上位を賑わせていた常連の参加者は格闘の腕もさることながら、予選デモンストレーションで観客を驚かせてくれる「何か」をいつも見せてくれていた。次回行なわれる予選では、ぜひそんな上位陣の「本気」が見られたらなと思う。

印象的なデモを行なったロボットたち

【動画】市販機JO-ZEROをベースにした、「JO-ZERO type UF(まりもと)」のデモ。1kg級の小さな機体だが、ハンドユニットを搭載して網をよじ登った。予選6位【動画】「Neutrino-MEGA(飛騨神岡高校)」。ロボットは自分の腕に持ったWiiコントローラーで台車を動かしていた。予選5位【動画】「ドリラー(法政大学電機研究会)」。階段を上りきったことと、自分で物理的に電源を切ったことが大ウケしていた。予選23位
【動画】「エクセリオン(はっし~)」。リンボーダンスはすでにやっているロボットがいたが、逆リンボーは初めてだろう。予選8位【動画】“だるま落とし”でアピールしようとした「ビッグバーン(大阪産業大学歩行ロボットプロジェクト)」。意図したようには決まらなかったが、マイク担当者の困った様子に爆笑が起こっていた【動画】「Ain」のデモを最初から。本人としては納得できる出来ではなかったようで、予選を31位で通過したものの、決勝は棄権
【動画】「ザウラー(KENTA)」のデモ。比較的毛足の長い人工芝の上をしっかり歩いたうえ、ボールをしっかり蹴ることができたのはすばらしい。予選16位【動画】「ブレインウォーカー(電気通信大学田中研究室)」。予選出場直前に機体が壊れてしまい、参加資格審査を通過していない予備機に切り替えたため、エキシビションとしてデモを行なった「ブレインウォーカー」のデモの際に配られたペーパー


(梓みきお)

2009/10/28 18:00