Robot Watch logo
記事検索
最新ニュース
【 2009/04/21 】
ロボットビジネス推進協議会、ロボ検を開始
~メカトロニクス・ロボット技術者の人材育成指標確立を目指す
[17:53]
グローバックス、名古屋にロボット専門店をオープン
~5月2日~5日にプレオープンイベントを開催
[17:05]
「ロボカップジュニア九州ブロック大会」開催
~ジャパンオープン大会の出場チームが決定
[14:32]
【 2009/04/20 】
研究者たちの「知りたい」気持ちが直接わかる
~理研一般公開でのロボット
[15:15]
【やじうまRobot Watch】
巨大な機械の「クモ」2体が横浜市街をパレード!
~横浜開港150周年記念テーマイベント「開国博Y150」プレイベント
[14:20]
【 2009/04/17 】
第15回総合福祉展「バリアフリー2009」レポート
~ロボットスーツ「HAL」や本田技研工業の歩行アシストも体験できる
[19:46]
「第12回 ロボットグランプリ」レポート【大道芸コンテスト編】
~自由な発想でつくられた、楽しい大道芸ロボットが集結!
[14:57]
【 2009/04/16 】
北九州市立大学が「手術用鉗子ロボット」開発
[14:34]
ROBOSPOTで「第15回 KONDO CUP」が開催
~常勝・トリニティに最強のチャレンジャー現る
[13:17]
【 2009/04/15 】
「第15回ROBO-ONE」が5月4日に開催
~軽量級ロボットによる一発勝負のトーナメント戦
[18:50]
ヴイストン、秋葉原に初の直営店舗「ヴイストンロボットセンター」、29日オープン
[13:37]
【 2009/04/14 】
大盛況の「とよたこうせんCUP」レポート
~ロボカップにつながるサッカー大会が愛知県豊田市で開催
[11:34]

「つくばチャレンジ開催記念シンポジウム」レポート
~完走チームの技術発表やつくばチャレンジ2009の課題概要が明らかに


つくばチャレンジ開催記念シンポジウムのプログラム。午前中に基調講演と技術発表が行なわれ、午後にポスターセッションが行なわれた。最後に油田委員長により「つくばチャレンジ2009」の課題が明らかにされた
 2009年1月10日、バンダイナムコゲームス未来研究所において、「つくばチャレンジ2008」の技術報告会「つくばチャレンジ開催記念シンポジウム」が行なわれた。つくばチャレンジ2008は、昨年11月に開催された自律型ロボットによる技術チャレンジであり、2007年に続いて、今回が第2回目である。前回に比べて、コースの難易度が大幅に上がっており、50台のエントリー中(実際に走行したのは47台)、ゴールまで完走したのはわずか1台という結果であったが、100mのトライアル走行は22台がクリアし、参加チームの技術レベルは着実に上がっているという印象を受けた。

 つくばチャレンジは、参加チームの技術的なアイデアや経験を広く公開して、社会の共有財産とすることを目的としており、本シンポジウムもその趣旨にそったものである。今回は、午前中に油田委員長による基調講演と関連発表、見事完走したヤマハ発動機つくばチャレンジタスクフォースチームによる技術発表が行なわれ、午後にトライアル走行をクリアしたチームによるポスターセッションと、油田氏による来年度(つくばチャレンジ2009)の開催概要に関する発表が行なわれた。


つくばチャレンジ2008の総括

つくばチャレンジ委員会の委員長を務める筑波大学の油田教授
 最初に基調講演として、つくばチャレンジ委員会の油田委員長によるつくばチャレンジ2008の報告が行なわれた。油田氏はまず、つくばチャレンジの趣旨と課題について、もう一度解説を行なった。つくばチャレンジは、人々が生活している空間の中で、ロボットが自律的に動き回って働くための技術を追求するためのチャレンジであり、そこで用いられた技術はできる限り公開して社会の共有技術とすることを目指しているという。次に、一昨年開催された「つくばチャレンジ2007」の結果を振り返り、「つくばチャレンジ2008」について解説を行なった。

 つくばチャレンジ2008は、コースに折り返しがあるため、追い越しやすれ違いへの対処が重要なポイントとなる。難易度も大きく向上しており、トライアル走行に成功したチームはつくばチャレンジ2007の2倍の22チームであったが、1kmの本走行に成功したのは、前述したように、ヤマハ発動機つくばチャレンジタスクフォースチームのみであった。つくばチャレンジ2008の参加チームの内訳についても触れ、つくばチャレンジ2007に比べて個人参加が減り、大学チームの割合が増加しているとのことだ。

 つくばチャレンジは公道を利用するため、所轄警察から許可を得て行なわれているが、安全についてかなり厳しい条件がついた。つくばチャレンジ2007は、金曜日にトライアル走行、土曜日に本走行が行なわれたが、つくばチャレンジ2008では、トライアル走行が木曜日、本走行が金曜日とウイークデーに変更された。これはコースが変わったため、土曜日にすると観客が多くなりすぎ、ロボットの走行に支障をきたす恐れがあったためだ。また、コースも当初は道路全体を使うつもりだったが、警察からの指導により、半分の幅のみを使うことになったそうだ。


油田氏のプレゼンテーションのタイトルは「つくばチャレンジ2008 -実世界で働くロボットを目指して-」であった つくばチャレンジ2008の日程とコース つくばチャレンジは、実世界ロボットチャレンジであり、言い訳のできない先端的技術のチャレンジでもある

つくばチャレンジの趣旨と課題について。用いられた技術はできる限り公開して、社会の共有技術とすることを目指すとされている 初の開催となったつくばチャレンジ2007の日程とコース つくばチャレンジ2007の結果。エントリー総数は33チーム、100mのトライアル走行をクリアしたのは11チーム、本走行で1kmの自律走行に成功したチームは3チームであった

2回目の開催となったつくばチャレンジ2008の日程とコース つくばチャレンジ2008のコース図。つくばエキスポセンターから出発し、オークラフロンティアホテルつくばのアネックス手前が折り返し地点となっている つくばチャレンジの趣旨と課題の続き。つくばチャレンジでは、ロボットが人々と親和性を保って動くために必要な条件を満たした上で、課題を達成することが求められる

つくばチャレンジでは、ロボットの走行のためにガイドを設置したり、環境を改変することは許されない つくばチャレンジ2008では、コースが折り返しになったため、追い越しやすれ違いにどう対処するかが重要なポイントとなった つくばチャレンジ2008の結果。エントリー総数は50チーム、100mのトライアル走行をクリアしたのは22チーム、本走行で1kmの自律走行に成功したチームは1チームのみであった

つくばチャレンジ2008で唯一完走を果たした「ヤマハ発動機つくばチャレンジタスクフォース」チームのゴールの様子 つくばチャレンジ2008の参加チームの内訳。大学チームの割合が増加した つくばチャレンジは、競技会ではなく、あくまで技術チャレンジであるため、順位を付けず、賞金もない。ただ、名誉だけが与えられる

つくばチャレンジは、公道を利用するため、ロボットの公道実験として所轄警察からの許可を得て行なわれている 公道実験であることによる制限があり、指定された試走会のときしか実地での実験はできない 結果や経験を有効に利用するために、開発した要素の再利用および公開を前提とする

リスクアセスメントの手法でロボットの安全性を確保

ロボットの安全性に関する関連発表を行なった明星大学の飯島教授
 次に、明星大学の飯島教授がロボットの安全性に関する関連発表を行なった。飯島氏は、人とロボットが共存するためには安全性の確保は最低限の目標であり、そのためにはリスクの大きさを評価し、そのリスクが許容できるかどうかを決定するリスクアセスメントの手法が有効だとした。また、指導により安全性が大きく改善された例として、筑波大学「屋外組」チームのロボットを紹介した。改善前は、ケーブルやフレーム類がむき出しになっており、人と接触した場合の危険性が高かったが、改善後はケーブルなどがボディカバーで覆われ、安全性が大きく向上した。2009年度については、コースが変わることもあり、設計段階から安全性について配慮し、さらに踏み込んだ安全対策を行ないたいとのことだ。


飯島氏のプレゼンテーションのタイトルは「人と共存するロボットの安全性について」であった 人とロボットが共存するためには、安全性の確保は最低限の目標である リスクアセスメントの考え方に基づき、リスクを想定、評価を行なう。例えば、自転車で走行中の人とロボットが接触するという事故を想定した

筑波大学「屋外組」チームのロボットの改善前と改善後の様子。改善前は、ケーブルやフレーム類がむき出しになっており、ぶつかったときの危険性が大きかったが、改善後はボディカバーなどの装備によって、安全性が大きく改善された 2009年度は、設計段階から安全性について配慮するなど、これまでよりもさらに一歩踏み込んだ安全対策を行ないたいとのことだ

つくばチャレンジWeb生中継プロジェクトの舞台裏

 今回のつくばチャレンジ2008では、新たな試みとして、Webでの生中継が行なわれた。このWeb中継は、筑波大学の学生有志によって運営されたもので、そのプロジェクトに関する技術発表も行なわれた。このプロジェクトに関わった学生たちは、筑波大学の学園祭を毎年生中継してきた実績があり、そのノウハウが今回のWeb中継にも活かされているという。プロジェクトメンバーの長田氏が、その舞台裏を解説した。ネットワークの確保が最大の課題であったが、コースに面したビルに入っているソフトイーサ株式会社のネットワーク環境を借りることで、Web生中継を実現できたとのことだ。

 つくばチャレンジWeb生中継は、定点カメラ3台(うち1台はネットワークカメラ)、移動カメラ1台による本格的なもので、常に4台のカメラからの映像がストリーミング配信され、視聴者は見たいカメラの映像を選んで見られるようになっていた。最大接続数は100を超え、2日間での合計PV数は20,187に達しており、十分な成果が得られたといえる。


つくばチャレンジWeb中継プロジェクト2008について、筑波大学の長田氏が講演を行なった 【動画】つくばチャレンジWeb中継プロジェクトが作成した予告編映像 つくばチャレンジWeb中継の目的は、つくばチャレンジの様子をリアルタイムに動画配信することにある

その背景として、筑波大学学園祭を毎年生中継してきた実績と経験がある Web中継システムの配置図。有線LANと無線LANを組み合わせて、ネットワークを構築している Web中継システムの構成。カメラは定点カメラと移動カメラ、ネットワークカメラをあわせて合計4台利用。移動カメラは無線LANを利用して、映像の送出を行なっている

いかにネットワークを確保するかということが最大の課題であったが、コースに面したビルに入っているソフトイーサ社のネットワーク環境を借りることで、その課題をクリア。また、コース上に有線ネットワークを構築した ソフトイーサ社の窓からネットワークケーブルを引き出して、基幹ネットワークを確保した コース上の街路樹上にケーブルを配線していき、ネットワークを構築した

移動カメラの様子。DVカメラ+ノートPCという構成で、無線LANには屋外用外部アンテナを接続している 配信は、公式サイト上でストリーミングによって行なわれ、複数カメラの映像を視聴者が選択できるようになっていた。また、会場のスタート地点にも大画面ディスプレイが設置された 【動画】Web上でのストリーミング配信の様子。画質も高く、安定した配信が行なえた

スタート地点に設置された大画面ディスプレイの様子。スタート地点からコース上各点の様子を知ることができるので、人気があった スタート地点に置かれたWeb中継本部の様子

つくばチャレンジWeb中継プロジェクトのまとめと成果。配信ページのPV数は20,187に達し、常時50名ほどの視聴者がいた。また、予選と本走行を通じて、約95%の時間稼働を達成した 今後の課題としては、リハーサルを行なうことが困難なことや天候変化への対応、無線ネットワークの有効活用、移動中継の安定化が挙げられる

唯一の完走を果たしたヤマハ発動機チームの成功の理由とは?

唯一の完走を果たしたヤマハ発動機つくばチャレンジタスクフォースチームの藤本氏
 午前中に行なわれた最後のプレゼンが、エントリー50チーム中唯一の1km完走を果たしたヤマハ発動機つくばチャレンジタスクフォースチーム(以下ヤマハ発動機チーム)の藤本氏による技術発表である。前回のつくばチャレンジ2007の記念シンポジウムでは、トライアル走行をクリアした10チーム(クリアしたのは11チームだが、1チームは都合により欠席)が技術発表を行なったが、今回はトライアル走行をクリアしたチームが22チームに倍増したため、本走行をクリアしたヤマハ発動機チームのみがプレゼンによる技術発表を行ない、残りのトライアル走行をクリアしたチームは、午後のポスターセッションで発表を行なうことになった。

 唯一の完走を果たしたヤマハ発動機チームの技術発表は、いわば本シンポジウムの1つの目玉であり、注目度は高く、熱心にメモを取りながら聞き入る参加者が多かった。藤本氏はまず、チームを作ってつくばチャレンジに参加を決めるまでの経緯を語った。

 つくばチャレンジは、個人で参加するにはハードルが高いので(特につくばチャレンジ2008の課題は)、いかに会社の協力を得るかということがポイントとなった。会社は、あくまでボランティア団体ではなく、利益を追求する組織であり、会社にとってメリットがなければ、支援を受けるのは難しい。しかし、つくばチャレンジは、会社にとって参加する価値のあるチャレンジであると、藤本氏は会社に納得させたのだ。その藤本氏が示した価値とは、「要素技術開発の加速」「技術者のモチベーション向上とベンチマーキング」「関連技術者とのネットワークづくり」「大学生に対するプレゼンスの向上」の4つで、+αとして商品(電動車椅子)のアピールもできるというものだ。

 藤本氏らは会社の支援を取り付け、最終的には業務として査定対象となったが、非専業であるため、業務は通常通り行ないつつ、それ以外の時間を費やしてつくばチャレンジに取り組まなくてはならなかった。藤本氏が最初に参加を検討したのは一昨年のことであり、企業チームとして参加が決定するまでにも、2年近くがかかっている。タスクフォースが承認され、ベース車両(ヤマハ発動機の電動車椅子「JWアクティブ」)を購入したのは、4月1日のことであったという。そこからロボットの製作を開始したわけで、通常業務をこなした上で開発を行なうということもあって、時間的な制約が厳しかったという。

 短時間で開発を行なうために、開発手法として自動車業界を中心に注目されているモデルベース開発を採用。Matlab/Simulinkを使ってモデルの作成とシミュレーションによる検証を行ない、そのモデルをそのまま書き込んで実行できるMicroAutoBoxを利用することで、開発効率を高めている。


 また、ベース車両である電動車椅子の形をできるだけ残し、製品としての機能を最大限に活用していることも特徴だ。電動車椅子は、人が乗って使うための製品であり、エラー処理やフェールセーフなどの機能が組み込まれており、高い信頼性や安全性を実現している。その機能はそのまま活かし、車椅子そのもののハードウェアは極力変更せずに、シンプルに操作用のジョイスティックを動かすことで、車両をコントロールする手法を採用したという。

 もちろん、ジョイスティックは機械的に動かすのではなく、ポテンショメーターの入力電圧を制御することで、擬似的にジョイスティックを倒している。藤本氏らは、JWアクティブの技術仕様についても同社の製品ということで、入手できる立場にあったわけだが、同社の電動車椅子をつくばチャレンジのような用途に使いたいというユーザーに対して、技術相談や技術仕様の公開などのサポートを行なうことも可能とのことだ。ただし、本来の製品使用用途ではないため、保証対象外となり、技術情報の公開にも制約がある。今回のつくばチャレンジ2008でも、ヤマハ発動機チーム以外に、同社の電動車椅子をベース車両として使っているチームがいくつかあった。


藤本氏のプレゼンテーションのタイトルは「つくばチャレンジへの挑戦 (つくばチャレンジ参戦記:数少ない企業チームとして)」であった 藤本氏らが、チームを作ってつくばチャレンジに参加を決めるまでの経緯。個人で参加するには厳しいので、会社を巻き込んで参加することし、モチベーションを最重要視してメンバーを集めた。その後、会社からの支援も決まり、業務として認められることになった 会社の支援を得るためには、「要素技術開発の加速」「技術者のモチベーション向上とベンチマーキング」「関連技術者とのネットワークづくり」「大学生に対するプレゼンスの向上」といった、会社にとって参加する価値を示す必要がある

ヤマハ発動機チームの活動報告。4月にベース車両のJWアクティブを購入。その後試走会に5回参加し、最後の試走会では1回だけ完走に成功 トライアル走行の結果。1回目のトライアルで無事クリア。タイムは2分12秒 本走行の結果。2番手で出走し、タイム25分50秒で見事に完走。唯一の完走でつくば市長賞を受賞

 つくばチャレンジでは、センサーの選択と、そのセンサー情報をどのように扱うかが非常に重要になる。ヤマハ発動機チームは、センサーとしてGPS、姿勢センサー、レーザーレンジファインダを1つずつ搭載し、車輪の回転数をエンコーダでカウントするという、オーソドックスな構成をとっている。ただし、GPSは測位精度の高いDGPS対応製品を採用するなど、センサーも吟味して選択したという。

 経路追従アルゴリズムとしては、Line of Sightを採用。WayPoint(経路点)を結ぶ直線と車両を中心とした円の交点を目標方位として設定するというアルゴリズムだが、円の半径を状況に応じて可変するなど、テストを繰り返し、十分なチューニングを行なっている。

 つくばチャレンジでは、経路追従と障害物回避という相反する2つの動きをいかに組み合わせるかがポイントとなる。今回のつくばチャレンジ2008のコースには、GPSが入りにくい場所や道幅が狭い場所など、いくつかの難所があり、100mのトライアル走行は達成したものの、そうした難所を突破できずにリタイヤしたロボットも多かった。

 ヤマハ発動機チームは、難所を走行会でいち早く見抜き、難所をクリアするための対策を行なったことが勝因の1つだという。その具体的な対策は、拡張カルマンフィルタを利用して、自己位置推定の誤差を小さくしたり、スピードを落とす、経路追従/障害物回避の優先度を変えるといった、システムの作り込みである。藤本氏は、完走の鍵は、信頼性の高いプラットフォームに、確立された制御手法を組み合わせることで実現した高い信頼性と、課題クリアを最優先事項として考えるチーム全体の強固な意志(チーム力)にあるとした。結果を出すことが求められる企業チームならではのプロ意識といってもよいだろう。


 藤本氏は、今回のチャレンジを振り返り、会社にとっての参加する価値は十分にあったとコメントした。大学生に対するヤマハ発動機のプレゼンスの向上についても、つくばチャレンジに参加した学生や先生が、ヤマハ発動機に興味を持ち、コンタクトがあったという。また、つくばチャレンジ2008を報じた新聞やテレビ、Web媒体などで、ヤマハ発動機を広くアピールすることにも繋がったとのことだ。

 最後に、油田氏から受けた質問に回答していた。それによると、ロボットの開発において一番時間を費やしたのは、パラメータチューニングや拡張カルマンフィルタの重み付けといった、システムの作り込みであり、完成度(作り込み)については90%以上であるとした。ただし、ランドマーク補正やレーザーレンジファインダの3次元スキャニング、移動体認識など、他にも実現したかっった機能で、実装が間に合わなかったものも多く、達成度は40%程度だという。また、本チャレンジに参加して得られた最大のものは、たくさんあるが、あえて言えば達成感とした。さらに、本来の最大効果(学生に対するプレゼンスの向上など)はこれから得られると考えてとのことだ。

 ヤマハ発動機チームは、斬新で高度な手法を用いているわけではなく、高価なセンサーを多数搭載するといった力業でもなく、オーソドックスな手法を用いている。しかし、手法はオーソドックスであっても、作り込み(チューニング)に時間をかけることで、他のチームでは実現しえなかった、高信頼性と確実にゴールまで到達する能力を備えたロボットを実現した。作り込みの重要性を示したたヤマハ発動機チームのアプローチは、つくばチャレンジ参加チームはもちろん、これから参加しようと思っている人にとっても、大いに参考にすべきであろう。


車両の紹介。ベースはヤマハ発動機の電動車椅子「JWアクティブ」で、できるだけ製品としての形を残すように製作された。センサーとしてGPSや姿勢センサー、レーザーレンジファインダを1つずつ搭載し、車輪回転数をエンコーダでカウントしている。メインコントローラはMicroAutoBoxで、レーザーレンジファインダ処理用とモニタ用にそれぞれTOUGHBOOKを搭載している 利用センサーについての解説。GPSにはDPGS対応で高精度な測位が可能なHemisphereの「R110」を利用。姿勢センサーには東京計器の「VSAS-2GM」、レーザーレンジファインダには北陽電機の「UTM-30LX」を利用した ハードウェア構成図。ベース車両の製品としての機能を最大限に活用するために、シンプルにジョイスティックを操作するという制御方法を採用

制御方法についての解説。ジョイスティックのポテンショメーターの入力電圧を操作することで、擬似的にジョイスティックを倒している 今回のつくばチャレンジでは、ヤマハ発動機チーム以外にも、ヤマハ発動機製電動車椅子をベース車両として使っていたチームがいくつかあった 制御システムと開発手法の解説。経路追従と障害物回避の相反する2つの動きをいかに組み合わせるかがポイントとなる

経路追従のアルゴリズムとしてLine of Sightを採用。各WayPointを結んだ線と車両を中心と円の交点を目標方位として設定する。ただし、円の半径は固定ではなく、状況に応じて可変している 【動画】動作テストの様子。障害物を避けつつ、経路に追従して動いている 【動画】目の前に人が来たら、停止して、進める方向を探す

開発手法としては、モデルベース開発(MBD)を活用。MBDは開発効率が高く、可読性が高いことが特徴である Matlab/Simulinkでモデルを作成し、シミュレーションによる検証を行なう。MicroAutoBoxは、Matlab/Simulinkのモデルをそのまま書き込んで実行できるので、効率よく開発できる なぜ完走できたかという考察。今回のコースには、図書館前、歩道橋、ホテル前という3つの難所があり、その対策をきちんと行なったためだという

考察の続き。完走の鍵は、信頼性と意志(チーム力)にあるという。企業チームは結果が全てであり、失敗しても言い訳はできない 会社にとって参加する価値はあったか振り返ってみたが、当初想定したメリットの多くを実際に享受できた

さらに、大学生に対するプレゼンスもアップし、新聞やテレビ、Web媒体などに取り上げられたことで、ヤマハ発動機を広くアピールすることができた 油田先生からの質問に対する回答。システムの開発で一番時間を費やしたのは作り込みだという。達成度は40%だが、完成度(作り込み)は90%以上とのことだ

ポスターセッションで活発な意見交換が行なわれる

 午後は、会場を社員食堂に移し、10チームによるポスターセッションが行なわれた。ロボットの実機を持ち込んで展示しているチームもあり、参加者同士で活発な意見交換が行なわれていた。また、参加チームによるポスターセッションとは別に、ロボットと安全コーナーが設けられており、午前中にロボットの安全性について発表を行なった飯島氏が、より詳しい資料を展示していた。


午後のポスターセッションの会場。普段は、社員食堂として使われているスペースだ トライアル走行に成功した21チームによるポスターセッションが行なわれた ロボットの実機を持ち込んで展示しているチームもあった

飯島氏による「ロボットと安全コーナー」の展示。ロボットの安全性をどうやって確保すればいいかという指針が示されていた ロボットと安全コーナーの展示の続き

つくばチャレンジ2009の課題が明らかに

 最後に、油田氏による「つくばチャレンジ2009の課題概要」の発表が行なわれた。まず、油田氏はつくばチャレンジの最終的なゴール、中間的なゴール、近視眼的なゴールという、3つの目標を明らかにした。

 最終的なゴールとは、ロボットが日常生活の空間内できちんと自律的に働き、快適・安全な生活をサポートしてくれるようになることだという。もちろん、このゴールへの到達はそう容易なことではない。そこで、その前の中間的なゴールとして、人と共存して働く自律移動ロボットの実現と、社会のロボット技術に対する理解の進展、人々とロボットが共存しているモデル世界の実現が挙げられるとした。

 そして、数年以内に実現したい近視眼的なゴールは、つくばの遊歩道ならどこでも安全に走行できるロボットを実現し、ロボットの存在が社会に認められることであり、その結果として、市役所や警察に届けるだけで、つくば市内ならいつでもどこでも公共空間でのロボットの実験ができる状況を作ることだという。そして、こうした状況が実現できれば、その時点でつくばチャレンジは終了したいという意向を明らかにした。

 そうした目標をふまえ、つくばチャレンジ2009の課題概要として示されたのが、さらなる技術チャレンジと見物人への対応である。具体的には、遊歩道や公園、カーブ、曲がり角、林間コース、芝生沿いのコース、道路歩道といった、多様な環境をコースにしたいということだ。

 日程もつくばチャレンジ2008は木曜日と金曜日であったが、つくばチャレンジ2009では、トライアル走行が11月20日の金曜日、本走行が11月21日の土曜日を予定しているとのことで、特に本走行時は見物人がぐっと増えることが予想される。コースは、中央公園+中央公園通りの遊歩道+道路歩道を予定しており、距離も1km+αと多少長くなる。

 ゴールは、つくばチャレンジ2008と同じくつくばエキスポセンターを予定しているが、スタートは別の場所になり、公園内をぐるっと回り、池の上の橋を通ってゴールに向かう形にしたいとのことだ。木々が茂る林の中もコースとなるため、すべてをGPSだけに頼って走行するのは難しいことが予想される。

 油田氏は、場所(周囲の環境)ごとに、自己位置推定の手段を変えるなどの工夫が必要ではないかという見解を示した。トライアル走行のコースも、本走行のコースの一部となるが、100mより多少長くなる可能性が高そうだ。参加チーム数については全くの当て推量だが、100チームくらいがエントリーし、95チームがトライアル走行にチャレンジ、そのうち2/3くらいがトライアル走行をクリアできるようになってくれれば嬉しいとのことだ。

 3回目となるつくばチャレンジ2009は、つくばチャレンジ2008に比べてさらに課題が難しくなることは確実だが、難コースをものともせずにクリアするロボットの登場を期待したい。


つくばチャレンジの最終的なゴールとは、ロボットが日常生活の空間内できちんと自律的に働き、快適・安全な生活をサポートしてくれるようになることである 最終的なゴールを達成する前の中間的なゴールとして、人と共存して働く自律移動ロボットの実現と、社会のロボット技術に対する理解の進展、人々とロボットが共存しているモデル世界の実現が挙げられる 近視眼的なゴールは、つくばの遊歩道ならどこでも安全に走行できるロボットを実現し、ロボットの存在が社会に認められることであり、その結果として、市役所や警察に届けるだけで、いつでも公共空間でロボットのテスト・実験ができる状況を作ることだという

つくばチャレンジ2009の課題概要。さらなる技術チャレンジのために、もっとバリエーションのある環境でカーブや曲がり角を含むコースにする予定とのこと つくばチャレンジ2009の日程と場所の案。日程は、2009年(2008となっているのはプレゼン資料の間違い)11月20日~21日を予定。場所は、中央公園+中央公園通りの遊歩道+道路歩道を予定。距離は1kmより多少長くなるとのことだ 中央公園付近の航空写真を見ながら、予定コースの解説を行なう油田先生

【動画】油田先生による予定コース解説。スタート位置は変更される予定だが、ゴールはつくばチャレンジ2008と同じくつくばエキスポセンターになるようだ つくばチャレンジ2009の予定コースの様子。つくばチャレンジ2008では、右側の広い道がコースになったが、つくばチャレンジ2009ではこの歩道部分がコースになるかもしれないとのこと 予定コースには、木々が茂った場所を抜ける小道もある

このように、道と外の芝生との段差がほとんどない道も通ることになりそうだ この細い吹き抜け部分を抜けて、ゴールに向かう

池にかかっている橋もコースになる予定 コースにはこれくらいの段差が残る可能性もあるという

URL
  つくばチャレンジ2008
  http://www.robomedia.org/challenge08/index.html

関連記事
「つくばチャレンジ2008本走行」レポート
~21台中1台のみが1kmの完走に成功(2008/12/18)



( 石井英男 )
2009/03/06 14:58

- ページの先頭へ-

Robot Watch ホームページ
Copyright (c) 2009 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.