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「つくばチャレンジ2008本走行」レポート
~21台中1台のみが1kmの完走に成功


 つくばチャレンジは、人々が生活しているリアルワールドの中で、ロボットが確実に動き回って働くための技術の追求をテーマとして行なわれる、自律型ロボットによる技術チャレンジである。昨年初めて開催され、今年が2回目の開催となる。つくばチャレンジは、トライアル走行と本走行に分かれて実施されているが、トライアル走行についてはすでにレポートしたので、ここではトライアル走行の翌日に行なわれた本走行の様子をレポートしたい。

 本走行は、前日のトライアル走行をクリアしたロボットのみに出場権が与えられる。今回は47台のロボットがトライアル走行にチャレンジし、22台が成功した。ただし、そのうち1台は本走行を棄権したので、本走行に挑んだのは21台であった。


唯一の完全制覇を果たしたヤマハ発動機つくばチャレンジタスクフォースチーム

 本走行は1kmのコースで行なわれ、前日のトライアル走行のタイムがよかった順に、5分ごとにスタートする。しかし、トライアル走行で圧倒的な速さをみせた、北陽電機・産総研ジョイントチームの「HOIST2」が、スタート直後に経路を見失うというアクシデントが発生。わずか35m地点でリタイヤしてしまうという、波乱の幕開けとなった。


前日のトライアル走行で最もタイムがよかった北陽電機・産総研ジョイントチームの「HOIST2」が、一番最初にスタートした 【動画】期待の「HOIST2」だが、スタート直後にコースを逸れていってしまい、35m地点で無念のリタイヤとなる

トライアル走行で2番目にタイムがよかった、ヤマハ発動機つくばチャレンジタスクフォースチームの「JW-Future」のスタート直前の様子
 次に登場したヤマハ発動機つくばチャレンジタスクフォースチームの「JW-Future」は、スタートの合図ですぐに動き出すことは出来なかったものの、いったんスタートしてからは非常に安定した走行で、難関の陸橋や折り返し地点手前で狭くなるコースもスムーズにクリア。一番難しいと思われた折り返し地点でのUターンも見事にこなし、他のロボットとのすれ違いも成功させて、25分50秒というタイムで、今回唯一の完走を果たした。

 「JW-Future」は、ヤマハ発動機の電動車椅子「JWアクティブ」をベース台車に使うことで、足回りに関しては十分な性能と信頼性を確保。自己位置推定には高精度のDGPSとジャイロセンサー、オドメトリ情報を利用、レーザーレンジファインダーによって障害物を検出するといった、オーソドックスな手法を採用している。しかし、他のロボットでも同じようなセンサーを搭載しているが、「JW-Future」ほどの安定した走りを実現していたロボットはほとんどなかった。ノイズや誤差が含まれるセンサー情報から、いかに精度よく情報を引き出すかというフィルタ技術が重要になるのではないかと思われる。

 短い準備期間(タスクフォースチームができて、正式にスタートしたのは7月くらいとのことだ)で確実に動くロボットを作り上げ、きちっと結果を出したことには感銘を受けた。まさに「プロの仕事」といえるのではないだろうか。


【動画】「JW-Future」のスタートの様子。スタートにはやや手間取ったようだ 【動画】動き出してからは、「JW-Future」は経路を大きく外れずに確実な走行を実現していた 順調に前日のトライアル走行のゴール地点を突破

【動画】難関地点の1つ、陸橋も問題なく走破した コースの途中にある陸橋を離れたところから見た様子 【動画】陸橋を越えて折り返し地点に向かう様子。道が狭くなるのでここも難しい場所だ

【動画】最大の難関である折り返し地点の走行の様子。スムーズで経路にぶれがなく、非常に見事なターンだ スタートから450m離れたところにある折り返し地点でUターンした直後の様子 後からスタートし、折り返し地点に向かうチームTHINKの「IVEE」とのすれ違いにも成功

ゴールそばにある2つめの折り返し地点に近づいた「JW-Futre」 【動画】2回目のUターンにも成功。ゴールまであとわずかだ 【動画】「JW-Future」のゴールの様子。今回のつくばチャレンジ2008で唯一の完走である

450m地点の折り返しに成功したロボットは3台

 折り返し地点まで到達できないロボットが多かったが、その中で450m地点の折り返しに成功したのは、ヤマハ発動機つくばチャレンジタスクフォースチームのほか、芝浦工業大学ヒューマンロボットインタラクション研究室チームと電気通信大学松野・長谷川研チームの合計3台である。

 芝浦工業大学ヒューマンロボットインタラクション研究室チームの「PAR-NE07r」は、450m地点でUターンしたあとの陸橋手前でリタイヤ。電気通信大学松野・長谷川研チームの「にこりん」は、Uターンしたあとの陸橋途中でリタイヤしてしまった。陸橋は鉄製なのでGPSや地磁気センサーの情報が乱れやすいようで、鬼門の1つになっていたようだ。


【動画】芝浦工業大学ヒューマンロボットインタラクション研究室チームの「PAR-NE07r」。陸橋の上で、かなり右往左往しながら進んでいる 「PAR-NE07r」は、外装にもこだわったロボットだ 【動画】陸橋から折り返し地点に向かうところで、道が狭くなるため、進めないと判断して後ろを向いてしまった

【動画】抜けたかと思ったのだが、またUターンしてしまった。この後、何度かトライしてようやくこのゾーンを突破 やや時間がかかったが、折り返し地点の手前まで来た 【動画】Uターンしたあと、やや大回りになってしまったが、無事に折り返しに成功。しかし、このあとの陸橋の手前でリタイヤ。記録は510mとなった

電気通信大学松野・長谷川研チームの「にこりん」 左が「にこりん」で、右がつくばロボットサークルチームの「TORIC」。「にこりん」が先行したが、「TORIC」が追いついてきた 【動画】「にこりん」の前方を「TORIC」が遮るような形になったが、「TORIC」のほうが速度が速いのでぶつかることはなかった

折り返し地点のすぐそばまできた「にこりん」 【動画】左右に細かく蛇行しながらではあるが、着実に想定経路をトレースしており、Uターンも見事に成功

Uターンをミスした惜しいロボットも

 450m地点でUターンして、来た道を戻っていくことになるため、ゴールするにはすれ違いをこなすことが必須となる。また、ロボットによって速度差があるため、後からスタートしたロボットが、先行するロボットに追いつくこともある。今回は、どうしても避けられれない場合、速度が遅いロボットをいったん停止させたり、道から手で移動させて、ロボットの通過後に再びリスタートすることが認められていたが、そうした手段をとることになったのはわずかで(筆者が見た限りでは1回)、ほとんどの場合、自律的にすれ違いや追い抜きを成功させていた。

 完全制覇は「JW-Future」のみだが、金沢工業高等専門学校チームの「Love it」は、450mの折り返し地点の1つ手前の中央の植え込みをUターンしてしまったが、そのまま残りのコースを走破し、みごとゴール地点まで戻ってきた。記録は450mとなったが、非常に惜しかったロボットだ。また、金沢工業大学夢考房自律走行車プロジェクトチームの「Luxon」も折り返し地点までは来たが、そこでカラーコーンを回らずに、同じレーンをそのまま戻ってしまった。こちらも惜しかった。


金沢工業高等専門学校チームの「Love it」。雪うさぎの外装がかわいいロボットだ 折り返し地点のすぐ手前まで走行してきた「Love it」 【動画】「Love it」は、折り返し地点のカラーコーンではなく、その手前の植え込みのところでUターンしてしまった

【動画】「Love it」は、手前でUターンしてしまったがそのまま戻っていき、先行していた「PAR-NE07r」を追い抜いた 【動画】ゴールへ向かう「Love it」が、折り返し地点に向かう電気通信大学松野・長谷川研チームの「にこりん」とつくばロボットサークルチームの「TORIC」とすれ違うシーン。ぶつかりそうになるが、うまく避けている 【動画】ゴール直前での2回目の折り返しも無事に成功させ、ゴールに戻ってきた「Love it」。残念ながら最初の折り返しで失敗したため完走にはならかったが、それでも見事だ

金沢工業大学夢考房自律走行車プロジェクトチームの「Luxon」 【動画】積もった落葉を物ともせず走行を続ける「Luxon」 【動画】陸橋も無事に走破成功

【動画】「Luxon」は、折り返し地点でうまくカラーコーンを回ることができなかった 【動画】結局、カラーコーンを回らずに来た道をそのまま戻っていってしまい、記録は450mとなった

チームTHINKの「IVEE」。折り返し地点までは到達したが、そこでUターンできず、記録は450mとなる 「TORIC」は、陸橋の途中で進めなくなってしまい無念のリタイヤ。走行距離は355m

Project Before 2008チームの「Beetle-one」 【動画】茨城つくば美術館前を進む「Beetle-one」。270m地点でリタイヤした

宇都宮大学尾崎研究室チームの「ERIE」。一番最後にスタートした 「ERIE」は、145m地点で動けなくなってしまいリタイヤ

東北大学田所研チームの「anemone」。セグウェイをベース台車に使ったロボットだ 「anemone」は、98m地点で立ち往生してしまいリタイヤ

CIT-CATチームの「Kenaf 23」のスタート直前の様子 【動画】「Kenaf 23」は、カーブを曲がる際にいったん停止しその場で向きを変えて、再び進み出す 「Kenaf 23」は、197m地点でカラーコーンの前で止まってしまいリタイヤ

北陽電機・産総研ジョイントチームがエキシビション走行でゴールに成功

 前述の通り、本命と見られていた北陽電機・産総研ジョイントチームの「HOIST2」は、スタート早々にリタイヤしてしまったのだが、エキシビションとしてもう1度チャレンジすることが認められ、2回目の走行にトライすることになった。「HOIST2」は、かなり速いペースで折り返し地点までは到達したのだが、折り返し後にコースを制限しているバーにつっこんでしまったり、2回目の折り返し地点ではカラーコーンに近づきすぎて前輪が脱輪してしまい、手でカラーコーンをどけるはめになるなど、「JW-Future」に比べると走行には荒さが見られた。一応ゴール地点までは到達し、能力的には走破できることを示した形になったが、あくまでエキシビションであり、本走行の記録としては認められない。


【動画】「HOIST2」は35mでリタイヤになってしまったが、エキシビションとしてもう1度走行の機会を与えられた。2回目は順調にスタートした 【動画】陸橋を越えて、折り返し地点に向かう「HOIST2」 【動画】折り返し地点まで来たが、最初うまくいかずバックして切り返し、カラーコーンをターンすることに成功。バックするときには警告音が鳴る

【動画】カラーコーンをターン後、大回りになってしまいバーの前でいったん停止するものの、バックの後、再びバーにつっこんでしまった 【動画】Uターン後、陸橋を再び渡る。「HOIST2」は、他のロボットに比べて速度がかなり速い 【動画】かなりのペースでゴール近くまで戻ってきた

【動画】ゴール近くの2回目の折り返し地点で、前輪が脱輪してしまった 【動画】バックして切り返そうとするが、前輪が段差にはまってしまっているため、バックできない

【動画】本走行ならもちろん認められないが、エキシビションなので、カラーコーンを手で動かしてどけることで進路を確保。無事に脱出してUターンに成功 【動画】「HOIST2」のエキシビション走行のゴールシーン。ゴールもちょっとそれてしまい、最後は端にぶつかって停止してしまった

「全体としてはレベルが高かった」とのコメント

最後に筑波大学の油田教授が「完走が1台あってほっとした。全体としてはレベルが高かった」という総評を述べられた
 つくばチャレンジ2008は、本走行の達成はわずか1台という結果となったが、昨年に比べると課題が格段に難しくなっており、トライアル走行の達成率が向上したことを考えると、参加ロボットのレベルも上がっているといえるだろう。つくばチャレンジ委員会の委員長を務める筑波大学の油田教授も、総評で「完走が1台あってほっとした。全体としてはレベルが高かった」とコメントしていた。

 唯一の完走チームであるヤマハ発動機つくばチャレンジタスクフォースチームには、つくば市長賞が、また、Uターンを失敗したもののゴールまで戻ってきた金沢工業高等専門学校チームにはバンダイナムコ賞が贈られた。

 つくばチャレンジは来年も開催される予定だが、課題やコースについてはまだ未定だ。これから関係各所と詰めていくことになるが、木の茂った公園内の道をコースの一部として使いたいというのが油田教授の意向のようだ。来年は、どんなロボットが登場し、どんな走りを見せてくれるのだろうか。ロボットのさらなる進化に期待したい。


本走行の記録一覧。2番目に出走したヤマハ発動機つくばチャレンジタスクフォースの完走が光る。折り返しに成功したのは、ヤマハ発動機以外に芝浦工業大学ヒューマンロボットインタラクション研究室チームと電気通信大学松野・長谷川研チームのみだ 手前で折り返してしまったものの、その後はみごとにゴールまで走破した金沢工業高等専門学校チームのメンバー。バンダイナムコ賞を受賞した まだ正式に決まったわけではなく、あくまで油田教授の腹案程度のものだが、来年度は木の茂った公園内を抜けるようなコースも考えられるとのことだ

唯一完走した「JW-Future」。フロントに完走シールが貼られた 「JW-Future」は、ヤマハの電動車椅子「JWアクティブ」をベース台車に使っている。手で指しているのがバッテリだ

「JW-Future」の外装を外したところ。2台のパソコンが搭載されているが、1台はデータのロギング用に使っている。一番前には、レーザーレンジファインダーとカメラが搭載されている 唯一の完走を果たしたヤマハ発動機つくばチャレンジタスクフォースチームのメンバー。右端が代表の藤本勝治氏である

URL
  つくばチャレンジ2008
  http://www.robomedia.org/challenge08/index.html

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( 石井英男 )
2008/12/18 16:50

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