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「ITS-SAFETY 2010」レポート(前編)
~自動車運転がさらに安全に、さらに便利になる技術たち


数十台の実験車が、期間中にお台場地区などを走った(写真はホンダ「オデッセイ」ASV-4仕様)
 2月25日(水)から28日(土)にかけて、お台場を中心に安全運転支援システムの一般公開デモ「ITS-SAFETY 2010 公開デモンストレーション」が実施された。国内のほぼすべての大手自動車メーカー、大手電機メーカー、関連各種省庁や団体なども参加し、屋内・屋外の展示に加え、体験試乗、フォーラムなどを多数実施。2010年には実用化される予定の最新の交通インフォメーションシステムや、現在のクルマのロボット化の進展具合を堪能できる内容だった。

 前編では、まず概要と日本科学未来館1階で無料展示された屋内展示、そして公道実証実験デモ走行体験レポートをお届けする。後編では、すでに実用化されている各社の最新自動車車両制御技術や、今後の展開を紹介したい。


ITS-SAFETY 2010とは?

 ITSとは、Intelligent Transport System(高度道路交通システム)の略称で、交通事故の未然防止を目的とした安全運転支援システムのことを指す。最先端の情報通信技術を用いて、道路と車両を情報でネットワークすることで、交通事故や渋滞などの問題を解決していくことが目的だ。VICSやETCなど、中には既に利用されているサービスもある。ITSに関しては、現在は5つの政府関連機関(国土交通省経済産業省総務省警察庁内閣官房)、国内2輪および4輪メーカーおよび車載器メーカーなど民間企業45社、一般市民・ユーザー、学識経験者などからなるITS推進協議会が組織されている。2008年度までに大規模な実証実験を行ない、2010年度からの事故多発地点を中心に全国展開の開始と普及促進を図っていくとしている。今回のデモも2008年度の実証実験の1つで、各地域で行なわれている地域実証実験の集大成ともいえる内容となった。

 具体的にITSが目指す領域は、従来の自動車安全技術では対応困難な「認知ミス」や「判断ミス」などをカバーしようというもので、「インフラ協調」がキーワードだ。カーブの先の渋滞や見通しの悪い交差点で接近する車両など、ドライバーが直接見えない交通状況による危険を回避できるよう、道路上にある設備、ほかの車両に搭載された機器、歩行者の携帯端末などから無線通信により情報を入手し、必要に応じてドライバーに対して状況提供、注意喚起、警報などを行なっていく。

 現在開発が進められているITSには、領域の異なる複数のタイプがある。警察庁が進めているのが、光ビーコンを始めとする無線通信メディアによる一般道での路車間通信システムの「DSSS」(Driving Safety Support Systems:安全運転支援システム)。国土交通省の自動車交通局は、5.8GHz帯および700MHz帯の電波による車車間通信システムの「ASV」(Advanced Safty Vehicle:先進安全自動車)。国土交通省道路局のDSRC電波による高速道路などでの路車間通信システムの「スマートウェイ」と、大別すると3種類ある。

 また、総務省はITS用の電波メディアの、5.8GHz帯および700MHz帯、ミリ波帯などの割当と開発を担当。そして経済産業省は、現状で3種類の独立したシステムであることから、サービスを一元化して利用できるように、車載器の標準化を行なっている。屋内展示は、スマートウェイ、ASV、DSSの3種類に関しての出展のほか、総務省および社団法人電波産業会ARIBによるITS電波メディアに関するブースもあったが、こちらは概念的なところも多いので、今回は割愛させていただく。

 なお、昨年の3月3日に掲載した内容は、今回の展示の一部でも紹介されており、関連のある実証実験なので興味のある方はそちらもお読みいただきたい。


屋内展示の全体概要のパネルより。ITSは、交通事故による死傷者の大幅低減を目標にスタートした 5省庁が開発しているITSの種類や担当業務(パネルより)

今回の公道デモ走行のコースと、設置されているシステムの種類(配布ガイドブックより) 総務省・ARIBの「ITS電波メディア」ブース

国土交通省道路局が進める「スマートウェイ」

 続いては、スマートウェイ、ASV、DSSSの3サービスを個別に紹介しよう。まずスマートウェイだが、2009年度中には車載器が発売される予定で、3つの中では最も開発が進んでいる。ETCに使われている長くても100mぐらいのショートレンジ用の双方向無線通信技術DSRC(Dedicated Short Range Communication:専用狭域通信)を利用するシステムだ。内容的には、ETCに道路交通情報提供機能を加えた機能強化版的サービスである。利用するための車載用システムは、DSRC車載器とDSRC対応カーナビゲーションの組み合わせとなっている。


スマートウェイのブース トヨタ製のDSRC車載器と対応カーナビゲーション(参考出品) 三菱重工製のDSRC車載器(参考出品)

パナソニック製の車載器と小型ナビ(参考出品) JRCは2種類の車載器を出品(参考出品) パイオニア製の車載器と対応カーナビ(参考出品)

三菱電機製のDSRC対応カーナビ(参考出品) 日立製作所製路側器 日立製作所製路側器の通信制御部

 スマートウェイと現行のVICSとの提供情報の内容に関しての違いは、VICSが渋滞情報などに限られているのに対し、スマートウェイは安全運転支援のための情報も音声と静止画(もちろん文字情報も含む)で行なってくれるところだ。

 具体的には、「前方障害物情報提供」「前方情報提供」「合流支援」「5.8GHz-VICS」「ハイラジ」「施設案内・観光情報提供」などがある。前方障害物情報提供は、見通しの悪いカーブの先の停止車両や渋滞などを喚起する内容。前方障害物情報提供は、道路状況を静止画と音声で伝達して経路選択と渋滞や路面状況の把握をドライバーが行なえるようにする。「合流支援」は、合流してくる車両がある場合、本線の車両側に合流地点の手前で画像や音声で注意喚起するというもの。5.8GHz-VICSは現行のVICSを強化する内容で、渋滞状況のわかるルート案内図が表示され、音声で所要時間が伝えられる。さらに、音声のみの情報提供として、どこまでのどのコースを通った場合の所要時間を案内してくれる「ハイラジ」や、文字情報などによる「施設案内・観光情報提供」もある。このように、サービス開始当初は高速道路での注意喚起やより詳細な道路情報などを提供していく。


スマートウェイがスタート当初に予定している6種類のサービス 合流注意の簡易図形の1つ。標識ではなくクルマが接近する図版のものもある 渋滞による衝突注意を喚起する簡易図形の1つ

 なお、スマートウェイは首都高のみの情報提供では終わらない予定で、渋滞の首都高を途中下車して再び高速道路へ戻れる「バーチャルパーキング」や、街中の駐車場でのゲート開閉や料金決済、道の駅や一般道での施設案内や観光案内、業務用車両の運行管理、さらにはショッピングモールでの情報サービスやポイント付与、自宅駐車場やマンションのパーキングのシャッターの自動開閉や家電などのリモートコントロールまで検討しているようである。今回は、業務用車両の運行管理装置系のドライブレコーダー機器や、駐車場などに利用する入退場管理システム、DSRC路側器などが展示されていた。


スマートウェイが検討しているサービス 富士通テン製の発売済みドライブレコーダーをスマートウェイ対応に拡張させる機器 NEC製車両入退場管理システム一式。左からゲートなどに設置するビーコン、車載器、制御装置

 なお、国土交通省ではスマートウェイ用の車載器のことを「DSRC車載器」と呼ぶようだが、カッコして「新型ETC車載器」とも呼んでいる。スマートウェイのサービスを利用するには、そうしたDSRC車載器とスマートウェイ対応カーナビを搭載すれば利用できる。発売当初は、車載器の価格がETCが登場した頃と同じぐらいになるのではないかと予想されており、その上にカーナビまで買い換える必要があると、普及までに時間がかかりそうである。ETCのように、高速道路の割引サービスやスムーズな料金所の通過といった具体的なメリットがあり、導入費用も取り付け工賃込みでも1万円程度といったユーザーにアピールする要素が現状ではない点が難しいところ。具体的なメリットを用意できるかどうかが、普及の鍵となりそうだ。ETCの時のように本体は無料、工賃のみ実費というようなキャンペーンを思い切って展開することなども必要ではないだろうか。


先進技術利用による安全運転支援システム搭載車両「ASV」

 続いては、国土交通省の自動車交通局が進めている「ASV」について。ASVは、先進技術を利用してドライバーの安全運転を支援するシステムを搭載した自動車のことで、その開発を推進する計画が先進安全自動車推進計画である。今回のデモに参加した車両の側面には「ASV-4」と書かれているのだが、2006年度から第4期に入っており、最新のASV車両であることを意味している。第4期の目標の1つは、これまでに開発された技術の本格普及となっている。

 ちなみにASV単体の実証実験も各地で行なわれており、今年1月末には今回参加している各メーカーの車両30台が同じお台場に集まって、公道総合実験が行なわれた。


ASVのブース 今回の公道デモ走行用の車両には、第4期に入ったことを示すASV-4と書かれている

 第3期までの計画で、既に複数の技術が実用化されており、各メーカーそれぞれ車種に適した技術を軽自動車から高級車まで使い分けて搭載している。第4期では、その実用化された「自律検知型」安全運転支援システムの本格的な普及を目的としていると同時に、「通信利用型」(車車間通信、歩車(歩行者-自動車)間通信、路車間通信)の研究が引き続き進められている。

 既に実用化されている自律検知型の技術は、いわゆる自動車のロボット化ともいえる技術である。今回は、屋外展示場の各メーカーのブースで見聞きできたり、その横の試乗デモでは実際にその効果を体験することができたのだが、大別して6種類ある。「衝突被害軽減ブレーキ」「ACC(Adaptive Cruise Control)」「レーンキープアシスト」「ふらつき警報」「ESC(Electronic Stability Control)」バイク用の「ABS付きコンビブレーキ」がそれだ。同じ技術でもメーカーごとに実現している仕組みは異なるし、名称も異なる。具体的なその作動の様子などは、改めて2本目で紹介したい。

 次に通信利用型運転支援システムについてだが、大別して2種類ある。路車間通信を利用して道路インフラからの情報を利用する「路側情報利用型」と、車車間通信や歩車間通信を利用して他車両や歩行者からの情報を利用する「情報交換型」だ。送受信される主な情報は、車両の種別(2輪、4輪、大型)、現在位置、車速、進行方向、シフト(ギア)ポジション、制動灯の状態、方向指示器の状態、非常点滅表示灯の状態、緊急車両の緊急走行の9種類だ。この9種類の情報を利用し、「出会い頭衝突防止システム(車車間)」「出会い頭衝突防止システム(車車間・路車間連携)」「追突防止システム」「右折時衝突防止システム」「左折時衝突防止システム」「緊急車両情報提供システム」の6種類を実現すべく研究が進められている。後ほどレポートするが、公道デモ走行ではこれらのシステムを実際に体験することができた。

 また、実車を用いての体験はスペースが必要なため、屋内施設で擬似的に体験できるようにとPCベースのシミュレータ(レースゲーム用ステアリングコントローラが接続されている)も開発されている。今回は、自律検知型安全運転支援システムの内の「衝突被害軽減ブレーキ」を体験できる内容となっていた。


6種類の通信利用型運転支援システムの概念(展示パネルより) シミュレータ

スマートウェイの一般道路版的なシステムの「DSSS」

 「DSSS」はスマートウェイの一般道路版ともいうべきシステムで、路車間通信によってドライバーの認知や判断の遅れ、誤りによる交通事故を防止することを目的としている。警察庁と国土交通省社団法人新交通管理システム協会UTMSによるブースに出展されていた。

 スマートウェイが5.8GHz帯のDSRCを利用しているのに対し、こちらは光ビーコンを主な無線通信の手段としている(そのほかETCやスマートウェイと同じDSRCや、700MHz帯電波の利用も提案されている)。今回の公道デモ走行が行なわれたお台場には、光ビーコンが設置されていた。

 DSSSにはレベルIとレベルIIがある、システムの構成は、レベルIが接近車両や歩行者を路側センサーで検知してその情報を光ビーコンで発信、3メディアVICS対応車載器に文字情報を含む画像での注意喚起を行なう。それに対してレベルIIでは、車両/歩行者の位置・速度を検知する路側センサーに加え、信号情報、停止線までの距離などの道路線形情報の3種類をまとめた路側インフラでレベルII対応車載器用のデータを生成し、光ビーコンなどの無線通信で発信。レベルII対応車載器は、受信情報に加えて自車の位置や速度などの走行情報を統合処理して危険性を判断し、注意喚起の要否とタイミングを決定する。注意喚起は、音声、音、画像などを利用し、よりドライバーが気づきやすくなっている。

 具体的には、「右折時衝突防止支援システム」「歩行者横断見落とし防止支援システム」「左折時衝突防止支援システム」「信号見落とし防止支援システム」「一時停止規制見落とし防止支援システム」「出会い頭衝突防止支援システム」「出会い頭自転車衝突防止支援システム」「追突防止支援システム」の8種類がある。

 右折時衝突防止支援は、交差点を右折する車両が、対向車線の右折車の陰から進んでくる対抗直進車両と衝突する事故の防止を支援するもの。歩行者横断見落とし防止支援は右左折車両が対象で、歩行者との接触事故防止を支援する。左折時衝突防止支援は、左折車両による後方からの二輪車を巻き込む事故を防止することが目的だ。信号見落とし防止支援システムは、カーブの先など見通しの悪い位置にある信号を見落とさないため、交差点に接近する車両に発信される。一時停止規制見落とし防止支援は、その一時停止規制版。出会い頭衝突防止支援は、信号機のない交差点に置ける出会い頭衝突事故の防止用だ。出会い頭自転車衝突防止支援は、その自転車版。追突防止支援は、見通しの悪い先での渋滞や信号待ちで、停止中または低速走行中の車両に追突する事故を防ぐことを支援する。


右折時衝突防止支援システム 歩行者横断見落とし防止支援システム 左折時衝突防止支援システム

信号見落とし防止支援システム 一時停止規制見落とし防止支援システム 出会い頭衝突防止支援システム

出会い頭自転車衝突防止支援システム 追突防止支援システム

 これら8つの防止支援システムを実現するため、複数の大手電機メーカーが、車載器(受信機と対応カーナビ)や各種路側器(センサーや送信システム)を開発中だ。すでに製品化され、設置されているものもある。車載器はレベルII対応カーナビと送受信機が展示されていた。車載器ではないが、携帯に取り付けることで、歩車間通信を可能にする安全携帯アタッチメントも展示されていた。

 センサーに関しては、可視画像(製品なし)、ステレオ可視画像(製品なし)、赤外/可視画像、ミリ波、3Dレーザの5種類。それらは車両や歩行者の画像認識の様子も動画で見せていた。路側器は、すでに実験地区に設置されている光ビーコンのほか、5.8GHz帯のDSRCを利用するもの、同じ5.8GHz帯利用の電波で双方向通信が可能なRC-005を利用するもの(製品はなし)、700MHz帯の電波を利用するものの4種類となっている。そのほか、情報中継・判定装置(製品の出展はなし)や高精度GPS計測装置なども見られた。


レベルII対応のカーナビ レベルII対応カーナビの画面 安全携帯アタッチメントと車載器(参考出品)。沖電気工業製

赤外/可視画像センサー 赤外/可視画像センサーで見た画像。メガネは赤外光を通さないので、サングラスのようになるとか ミリ波センサー

3Dレーザセンサー 3Dレーザセンサーは既に多方面で利用されており、東京~千葉を結ぶ京成電鉄の踏切にも使用されている

 このほか、ホンダ製のDSSS体験ドライビングシミュレータも持ち込まれていた。3画面分のワイドモニターを搭載しており、人の視野の広さに近いのが特徴の1つ。6軸制御でクルマの動きを再現する仕組みにもなっている。今回は、追突防止支援、右折時衝突防止支援、左折時衝突防止支援の3種類を体感できるという内容だった。


ホンダ製DSSS体験ドライビングシミュレータ かなりガッチリしたアクチュエータが6本、筐体を支えている コックピット回り。ATにもMTにも対応しており、AT用シフトノブの上がナビモニター

シートに座って撮影すると、モニターの左右はまったく入らないほどワイド ナビモニターに注意喚起の簡易図形と文字情報が表示され、音声も使用される 【動画】動作する様子。さすがに、アーケード用レースゲームの筐体ほど激しくは動かない

 なお、DSSSは2009年度に大規模実証実験を行ない、2010年から全国展開をする予定だ。お台場は今年1月からレベルIIにアップデートされており(レベルIは2007年3月)、栃木、神奈川、愛知、広島にもレベルIIのDSSSが設置されている地域がある。埼玉県にもレベルIが設置済みだ。


お台場と首都高を舞台にした実証実験デモ走行体験

 続いては、いよいよ公道でのデモ走行体験について。お台場地区で10カ所のサービスを見られる50分コースと、それに首都高でのサービスを加えた140分コースの2種類が設けられ、今回は両コースで体験させてもらった。また、もう1つの公道での実証実験デモ走行体験として、東京都による「ハイパースムーズ作戦」の「ダイナミック・パーク&ライド」と、「スマートパーキング」の様子もお伝えする。

 まずは50分コースからだが、詳細なルートは画像(報道用資料をスキャンしたもの)を見ていただきたいが、大部分がお台場の日本科学未来館周辺。スタートは、同館から徒歩3分ほどのところにある屋外展示用に使われている青海西臨時駐車場だ。デモの内容の流れとしては、以下の通りとなっている。

●50分コースデモ内容

1.DSSS 追突防止支援システムもしくは信号見落とし防止支援システム(一般車の状況次第で変化)

2.スマートウェイ 前方状況情報提供システム

3.DSSS&スマートウェイ (DSSSからセンサー情報を提供される連携機能)前方障害物情報提供システム

4.DSSS 一時停止規制見落とし防止支援システム&ASV 出会い頭衝突防止システム(同じ交差点で実施)

5.ASV 緊急車両情報提供システム

6.DSSS 出会い頭衝突防止支援システム

7.ASV 右折時衝突防止システム

8.ASV 出会い頭衝突防止システム

9.ASV 左折時衝突防止システム

10.DSSS 右折時衝突防止支援システム

 同乗させていただいたのは、マツダ「MPV」。なお、5番の「ASV 緊急車両情報提供システム」のタイミングの時に、ちょうどシステムが不調をきたしてしまったため、50分コースでは収録していない。後ほど、140分コースの方でお見せする。


50分コースと40分コースのルートとデモの内容 マツダのミニバン「MPV ASV-4」で50分コースを体験した

ナビ画面。スマートウェイの画像は規格があるが、DSSSやASVはメーカーごとに微妙に異なるという フロントウィンドウのそばに設置されているのは、左から光ビーコン、DSRC、GPSのアンテナ

 50分コースのデモの様子は以下の通りだ。


【動画】「1.DSSS 信号見落とし防止支援システム」(追突防止支援システムにはならなかった) 【動画】「2.スマートウェイ 前方状況情報提供システム」。首都高湾岸線の東京港トンネル内の様子と渋滞情報 【動画】「3.DSSS&スマートウェイ 前方障害物情報提供システム」。上り坂の先に停止車がいるという設定

【動画】「4.DSSS 一時停止規制見落とし防止支援システム」、続いて「ASV 出会い頭衝突防止システム」 【動画】「6.DSSS 出会い頭衝突防止支援システム」。警告音が鳴らず、簡易図形だけになってしまうこともあるそうだ 【動画】「7.ASV 右折時衝突防止システム」。実際に、ASV-4車両同士が相手役を兼ねる仕組みだ

【動画】「8.ASV 出会い頭衝突防止システム」。建物の陰などでは受信が難しく、停止線まで接近する必要があるという 【動画】「9.ASV 左折時衝突防止システム」。実際にASV-4に2輪車が後方から接近するシナリオ

【動画】「10.DSSS 右折時衝突防止支援システム」。2段階で注意喚起がなされ、まずは1回目 【動画】「10.DSSS 右折時衝突防止支援システム」の2回目の注意喚起

 続いては140分コース。今度は、スズキ「ワゴンR」に同乗させてもらった。デモ内容は日本科学未来館周辺の50分コースに、主に首都高首都高4号線でのスマートウェイを中心にしたサービスを加えた形だ。

●140分コースデモ内容(1~10は50分コースと同じため割愛)

11.ASV 追突防止システム

12.スマートウェイ 合流支援情報提供システム

13.スマートウェイ 前方状況情報提供システム

14.スマートウェイ 電子標識情報提供システム

15.スマートウェイ 前方障害物情報提供システム

16.スマートウェイ 前方障害物情報提供システム

17.スマートウェイ 前方状況情報提供システム

18.スマートウェイ 前方障害物情報提供システム

19.スマートウェイ 前方状況情報提供システム


スズキ「ワゴンR」ASV-4仕様車。スズキはASV仕様車として、「スイフト」なども参加させていた ステアリング前にあるのは、「ドライバーモニタリングシステム」。頭部姿勢追跡用だ

後部ラゲージスペースに、今回のデモ用の機器の1つを搭載。dynabookとあるのでノートPCの模様 スズキ純正カーナビゲーション

 140分コースのデモの様子は以下の通りだ。なお、スマートウェイは渋滞で低速状況になると事故の危険性がないため、情報が発信されないシステムとなっている。そのため、「18.スマートウェイ 前方障害物情報提供システム」は、ちょうど渋滞に当たってしまい、そこだけ情報が表示されなかった。


【動画】「5.ASV 緊急車両情報提供システム」。50分コースでは見られなかったが、このような感じだ 【動画】「9.ASV 左折時衝突防止システム」の後方視界。実際にASV-4仕様のバイクが左折巻き込み事故の危険性を再現 【動画】「11.ASV 追突防止システム」。レインボーブリッジを渡ったところで渋滞が発生しているという設定だ

【動画】「12.スマートウェイ 合流支援情報提供システム」。合流は事故発生率が高く、必要な情報だ 【動画】「13.スマートウェイ 前方状況情報提供システム」。霞ヶ関トンネル内の静止画だが、ちょっとわかりづらい 【動画】「14.スマートウェイ 電子標識情報提供システム」。幡ヶ谷で折り返して再び首都高に乗ってすぐのところ

【動画】「15.スマートウェイ 前方障害物情報提供システム」。注意喚起とナビの案内が被るなど、折り合いも問題 【動画】「16.スマートウェイ 前方障害物情報提供システム」。さらに渋滞の最後尾への衝突注意の喚起 【動画】「17.スマートウェイ 前方状況情報提供システム」。外苑入口先の実際の静止画だ

【動画】続けて「17.スマートウェイ 前方状況情報提供システム」で混雑状況の案内 【動画】「19.スマートウェイ 前方状況情報提供システム」。江戸橋JCTの実際の静止画だ

 体験した感想は、どのサービスにしろ事故防止の注意喚起は非常にありがたい、というところ。実際、記者も首都高の合流で危うく事故に遭いそうになったことがあり、本線に合流してくる車両があるのが前もってわかるのはありがたい。ただ、現状で別個のシステムになっているところが気がかりだし、サービスが被る場合などはどう折り合いを付けるかといったことも気になる。経済産業省が標準化を担当しているということなので、ゴチャゴチャと車載器だらけにならないようにしてもらいたい。


東京都がITS技術を利用して進める「ハイパースムーズ作戦」

 東京都では、道路の混雑状況を緩和するため「スムーズ東京21-拡大作戦-」を展開中だが、さらにそれを発展させた今ある道路を活用する「路線」単位での新しい渋滞対策が、「ハイパースムーズ作戦」だ。東京都、警視庁、東京国道事務所が連携してITS技術を活用して進めている。今回は、公道実証実験デモ体験走行として、「スマートパーキング」「ダイナミック・パーク&ライド」の2つを実施し、また「可変式路面標示」の展示を行なった。

 スマートパーキングは、利用者の嗜好(利用時間、ロケーションなど)や車両サイズに応じた空き駐車場の情報を呈示し、入口までをカーナビで案内するというもの。駐車場を探して、同じ辺りをグルグルと低速で移動するという事態をなくすことができ、渋滞を減らしたり、駐車場探しに気を取られていることから起きかねない交通事故を予防できたりする。

 ダイナミック・パーク&ライドは、幹線道路沿道の鉄道駅付近で公共の交通機関への乗り換え情報をカーナビへ提供するというサービス。現地へ着いてからそこの駐車場が満車であるとか、途中の渋滞がひどいために電車なら時間を大幅に節約できるといった点で利便性がある。公道デモ走行では、往路がダイナミック・パーク&ライドで、復路が途中までダイナミック・パーク&ライド、その後にスマートパーキングとなっているが、スマートパーキングの機能はダイナミック・パーク&ライドでも使われている。駐車場名などは異なるが、復路もおおよそ似た内容のため、往路のみの紹介とする。


車載仕様は、ケンウッド製 簡易版として、イーモバイル製のPDA版も出展された アンテナ

 シナリオは、青海西臨時駐車場をスタートし、幕張メッセへ向かうが、途中で渋滞がひどくなり、最も近くの公共の交通機関=JR京葉線を利用しようというもの。そのため、パーク&ライドに適した葛西臨海公園駐車場に駐車し、電車に乗るという設定だ。

 実際のデモの流れとしては、首都高湾岸線沿いの一般国道357号線(湾岸道路)を千葉方面へ向かい、途中で渋滞情報が入り、それが悪化し、JR京葉線に乗り換えた方が早く着くことが判明する。そして、パーク&ライド駐車場(葛西臨海公園駐車場)の情報(満空、料金など)およびJR京葉線への乗り換えに関する情報(海浜幕張駅までの料金や時間など)の音声が読み上げられ、カーナビ目的地の自動変更(幕張メッセ→葛西臨海公園駐車場)となる。あとはナビに従い、葛西臨海公園駐車場へ向かった。

 なお、この公道デモ走行もムービーで撮影しているが、ナビ画面に表示される簡易図形を入手できたので、そちらも合わせて紹介する。


【動画】渋滞悪化の案内。事前に2kmの報告があり、2回目の報告では5kmとなった 渋滞中であることを示す簡易図形画面

【動画】この先で公共の交通機関への乗り換えが可能というダイナミック・パーク&ライドの案内 乗り換えが可能であることを示す簡易図形画面

【動画】最初の設定条件に合致する葛西臨海公園駐車場の情報が案内され、次にJR京葉線を利用した際の情報を案内 葛西臨海公園駐車場の情報画面

【動画】乗り換えのために目的地を自動変更したことを報告する様子 JR京葉線で葛西臨海公園駅から海浜幕張駅までの所要時間と料金に関する案内画面

【動画】実際に葛西臨海公園駐車場に到着。JR京葉線葛西臨海公園駅は目の前ともいえる近さだ 目的地を葛西臨海公園駅に自動変更したことを知らせる画面

 実際に体験させてもらって正直に思うのは、スマートパーキングはぜひ実現してほしいところだが、ダイナミック・パーク&ライドはどれだけ利用者がいるのか、というところ。確かに、そのまま渋滞を抜けようとしたら2時間かかるが、鉄道に乗り換えれば30分未満で到着するというぐらい顕著な差があって、目的地への到着が時間厳守というビジネス用途などなら利用したくなるかも知れないが、休日の家族での行楽などは難しそうである。鉄道に乗り換えることによる「面倒くささ」を補って余るメリットがないと、なかなか利用されなさそうだ。

 また、その情報を元に多くの人がパーク&ライドを実施しようとしたら、今度は葛西臨海公園駐車場のような途中のパーク&ライド駐車場が満車になってしまっても、意味がなかったりする。振り分けも鍵になりそうである。しかし、コンセプトとして環境問題のこともあり、まるっきりダメな計画というわけでもないので、要ブラッシュアップというところだろうか。

 そして最後は可変式路面標示。朝と夕方で、道路の上下線の混雑具合が変化するため、車線の数を融通し合う(時間帯によって進行方向が変わる)方式を採用している道路があるが、その案内は頭上の規制標識で行なうのが一般的だ。それに対し、路面標示は当たり前だが変化させられないわけで、現状では時間帯によって矛盾が生じてしまっている。それを、路面の矢印なども可変式にしようというのが可変式路面標示というわけだ。LEDを路面に埋め込み、規制標識と合わせて変化させる。

 現状では、視認状況があまりよくなく、矢印の向きが変化したようなしてないような、わかりにくい状況。LEDの発光時と消光時の差をもっとつくようにしないと、日中は判別がしづらい。ただ、これも着眼点は間違えていないと思うので、視認性に加え耐久力などの問題も解決して、実用化にこじつけてほしいところである。


矢印は直進。こちらはさすがにわかりやすいが 矢印が右折に変化。デザインの問題もあるが、日中はもっとコントラストがほしい感じだ 【動画】矢印の向きが変化する様子

 以上、まずはITS-SAFETY 2010の概要、スマートウェイ、ASV、DSSSの3種類のシステムの説明、そして公道での実証実験デモ走行体験、東京都のハイパースムーズ作戦について紹介させていただいた。どの技術も山積みとはいわないものの、普及させるにはまだ解決すべき問題がいくつかもあるが、実用化されれば確実に交通事故は減らせるはずだし、環境問題的にも貢献するはずである。ぜひ、全国的に早い段階で実現してほしいところだ。


URL
  ITS-SAFETY 2010
  http://www.its-safety2010.jp/
  ITS(国土交通省)
  http://www.mlit.go.jp/road/ITS/j-html/
  スマートウェイ推進会議
  http://www.mlit.go.jp/road/ITS/j-html/topindex/topindex_smartway.html
  ASV推進検討会事務局
  http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/


( デイビー日高 )
2009/03/04 00:01

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