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MEMS 2009口頭講演のメイン会場
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会期:1月25~29日(現地時間)
会場:イタリア カンパニア州ソレント
Hilton Sorrento Palace
MEMS(メムス)の研究開発に関する国際学会「MEMS 2009」が1月29日(現地時間)、無事閉幕した。本レポートでは、これまでのレポートで報告できなかった注目講演をご紹介する。
● 甲虫の飛行経路を無線で制御する
前年のMEMS 2008で注目を集めた講演の中に、昆虫と電子回路を接続して微小な飛行機械(正確には昆虫のサイボーグ)を実現しようとする研究があった。今年のMEMS 2009では、その続きとなる成果がポスターセッションで発表されたので、概要をご紹介しよう。
最初は、無線で昆虫の飛行を制御する研究である。米University of California, Berkeleyと米University of Michiganの共同研究グループが、甲虫(Mecynorhina torquata beetle)を使って実現した(H. Satoほか、ポスター番号4-M)。
前年のMEMS 2008では甲虫にマイコンを搭載し、電極プローブを筋肉と脳に埋め込んで甲虫の飛行制御を実現していた。このときは飛行経路がマイコンのファームウエアにあらかじめ書き込んであり、固定された経路を飛行するだけにとどまっていた。今回は無線によって飛行経路を動的に制御することに成功した。
実験に使用した甲虫の大きさは体長が約7cm、体重が約10gである。米Texas Instrumentsの無線トランシーバIC「CC2430」やプリント基板、ダイポールアンテナ、小型バッテリ(容量8mAH)などで構成される電子回路を甲虫に搭載した。電子回路の総重量は1,331mgである。この甲虫の場合は体重の約3分の1近く、すなわち3gほどの重りを載せても飛行可能だとしていた。
この甲虫を、ノートパソコンにUSB接続した無線トランシーバIC「CC2431」で制御した。無線の搬送周波数は2.4GHz。短距離無線ネットワークの技術仕様「IEEE 802.15.4」に準拠している。電気刺激(電圧パルス)を与え始めてから平均すると540ms後に飛行を開始した。飛行開始の成功確率は97%(30回中29回)だった。また飛行中の甲虫に無線で指令を与えることにより、右転回や左転回などの操作に成功した。
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甲虫の飛行を無線で制御するシステムの全体像。無線端末の回路とアンテナ、電池を甲虫に搭載し、ホストのノートパソコンに装着した無線トランシーバと信号をやりとりする。MEMS 2009のTechnical Digestから
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甲虫に搭載する無線端末の外観。ボードの表面にマイコン内蔵の無線トランシーバを搭載し、ボードの裏面に小型バッテリを搭載した。MEMS 2009のTechnical Digestから
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甲虫の飛行経路を無線で制御した様子。黄色の破線が飛行の軌跡。MEMS 2009のTechnical Digestから
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● 昆虫をガスセンサーに利用する
続いて、タバコスズメガ(Manduca sexta)をタバコのセンサーに利用する研究を紹介しよう。米Cornell Universityによる研究成果である(C.J. Shenほか、ポスター番号34-M)。タバコスズメガは、蛹の時期に触覚が形成され、タバコの成分に反応するようになる。そこで小さな白金電極プローブを蛹の触覚神経に挿入し、信号を取り出すことにした。
タバコスズメガの蛹の頭部に電極プローブを挿入し、触覚神経(antennal nerve)および触覚葉(antennal lobe)の信号を検出する。フィルタで清浄化した空気に化学物質を混ぜて触覚に対してパルス状(周期300ms~400ms)に送り込み、電極プローブで信号の変化を測定した。化学物質にはタバコのほか、タバコスズメガが反応するフェロモン物質2種類を使用した。
実験では、特に14期~16期と呼ばれる成長期において、タバコスズメガの蛹はタバコに顕著に反応した。タバコによる信号振幅はフェロモンに対する信号振幅の10倍以上と非常に大きな違いを示した。この結果、タバコスズメガの蛹がバイオセンサーとして利用できることが分かった。
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タバコスズメガ(Manduca sexta)の成長過程。16~21日目に蛹(pupae)となる。蛹の時期が、電子回路との接続用電極を挿入するのに最も成功しやすい(寿命を縮めない)時期であることに注意されたい。MEMS 2009のTechnical Digestから
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タバコスズメガの蛹に白金電極プローブを挿入したところ。左上(a)は神経細胞(ニューロン)とプローブの比較。右(b)の写真は蛹の触覚神経(antennal nerve)および触覚葉(antennal lobe)にプローブを差し込んだ様子。左下(c)の写真は成虫の頭部断面。右下(d)は頭部の模式図。MEMS 2009のTechnical Digestから
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さまざまな化学成分をパルス状に注入して電極プローブの信号を測定した結果。上からタバコ(目的の化学物質)、「E10Z12-16Al」(フェロモン物質)、何も混ぜない清浄な空気、「E11Z13-15Al」(別のフェロモン物質)、である。タバコを注入したときには、ほかの化学物質の10倍を超える振幅の信号を検出した。MEMS 2009のTechnical Digestから
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白金電極プローブの外観と等価回路。MEMS 2009のTechnical Digestから
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なお、次回のMEMS国際会議、すなわち「MEMS 2010」は2010年1月24日~28日に香港のThe Hong Kong Convention and Exhibition Centerで開催される予定である。投稿アブストラクトの締め切りは2009年8月21日。詳細はこちらのアドレスに順次掲載される予定だ。
■URL
MEMS 2009(英文)
http://www.mems2009.org/
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( 福田 昭 )
2009/02/03 13:32
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