12月6日、渋谷のヨシモト∞ホールにおいて、世界初の笑えるロボットコンテスト「バカロボ2008」が開催された。
● マジメに“ふまじめ”に挑戦する「バカロボ三原則」
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「バカロボ2008」
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本来ロボットに求められているのは、人がやりたがらない作業を代わってくれたり、作業効率をアップしたりする人の役に立つ機能だ。または、人が立ち入ることができない極限環境で働くロボットもいるし、エンターテイメントロボットも人を癒す・和ませるという意味で役に立っている。
バカロボ2008は、そうしたマジメに役に立つ機械ではなく「テクノロジーの無駄遣い」を合い言葉にバカに徹して人を笑わせる“ふまじめ”なロボットをマジメに作ろうというコンテストだ。
主催が株式会社よしもとクリエイティブ・エージェンシーだけあって、ロボットコンテストとしては異例の前売り2,500円、当日券3,000円という有料公演だ。審査員は、明和電機の土佐信道社長、オタク文化とフィギュアに明るい樋口真嗣監督、テクノロジー解説の稲見雅彦教授(慶應義塾大学)。今年は女性の視点と意見も取り入れたいということで、漫画家の辛酸なめ子氏が加わった。
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渋谷ヨシモト∞ホール
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審査員の樋口監督、土佐社長、辛酸なめ子氏、稲見教授
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司会は南海キャンディーズの山里氏。胸元の蝶ネクタイは紐を引っ張るとぴくぴく動くギミック内蔵
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一般的にロボットイベントの来場者は、ロボットマニアか研究者、または親子連れが主な客層となるが、バカロボではカップルが中心だった。バラエティ形式のステージに登場するロボット達のパフォーマンスと審査員の突っ込みに満席の客席から大きな笑い声があがった。
バカロボコンテストに出場するロボットは、明和電機が提唱する「バカロボ三原則」を満たさなくてはならない。
バカロボ三原則 |
1) バカロボはメカニックであること
フィギュアのような形だけ=ハリボテではなく、必ずメカニックな仕組みを持っていること。 |
2) バカロボは役にたたないこと
社会の役に立つ機能的なロボットではなく、できるだけくだらない目的のためのロボットであること。
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3) バカロボは人を笑わせること
バカロボは、面白い動き、機構、意外なシステムで度肝を抜き、人を笑わせることが目的であること。
| 「バカロボ2008」パンフレットより |
この三原則を前提とし、ロボットのサイズは高さ180cm、重さ80kg以内、ロボットと機材が幅90cm、奥行き120cmの台車に乗ることと規定されている。コンテストは2分以内のパフォーマンスでそのばかばかしさをアピールし、優勝賞金50万円を競った。
昨年度のバカロボ審査員は、頭上に大きなバカロボメーターを取り付けていた。このメーターは装着したままうっかり頷くと首を痛めるほど重く、しかも自分ではメーター表示を見ることができない。仕方がないので、各審査員は手鏡で頭上のメーターを確認していたというバカバカしい代物。
その反省(?)から、今年は協賛の株式会社キューブが制作した“ケタケタメガホン”に切り替えたそうだ。メガホンの先にある人形を握ると、ケタケタ笑い声を発するという装置だ。もちろん、笑い声が多い方がウケたということだが、今年も(そして去年も)この装置による評価は最終審査には全く影響がない。と、まぁこのように審査員が率先して、テクノロジーを無駄遣いしている。
ステージ中央の「バカロボ2008」看板の下には、バカロボキャラクタが描かれたゲートがある。ステージが暗くなり、出場ロボットの紹介が始まるとステージの左右に設置された鈴持ちロボットと自動演奏ドラムがシャンシャン・ドンドンドドドッドンと派手に盛り上げ、バカロボゲートが人力でオープンする。テクノロジーと人力が微妙なバランスで融合したシステムだ。
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昨年度使用された「バカロボメーター」。あまりに重くて首を痛めること必至
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今年はケタケタメガホンで審査員のウケ度を表現
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ステージを盛り上げるBGMロボット。後方には自動演奏ドラム。ステージ上には電動式フラワーもあった
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だけど、ゲートは人力でオープン
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● 女子高生~東大教授まで6組が出場「バカロボ2008」
予選には20組のバカロボ制作者から応募があったという。厳正なビデオ審査をくぐり抜けてステージに立った6チームのロボットのおバカっぷりを紹介しよう。
1番手には、頭上に長いマゲを結い右手にフィルムケースを連結した剣を持った殿様が正座して登場した。SAKULab2008(公立はこだて未来大学)の節々クネクネ武士道ロボ「まがる剣&殿めっと」だ。これは、緊張して手が震えると曲がる剣と心理的に動揺すると伸びるマゲのロボットだ。
殿を問診する女史が、「自分は毛深いと思う?」「おでこの広さを気にしている?」と質問をすると、マゲや剣が微妙に反応する。質問は徐々に核心(?)に近づき「女子高生が大好きである?」と聞かれると、殿が返事をためらっている間にマゲがびんびんに立ってしまう。質問内容が際どくなるにつれ、冷静を保とうとポーカーフェースを装う殿と、動揺がマゲと剣に現れるのをフムフムと頷いて確認しながら淡々と質問する女史の対比に場内が爆笑した。
マゲは予備が用意されており、演技後に審査員に試してもらうことになったが、お互い激しく譲り合った末に、樋口監督が被験者となった。ところが樋口監督がマゲを被った途端に、マゲは立ちっぱなしになってしまう。「これは嘘発見器と同じ原理で、心の動揺を読んでいるんです」と、稲見教授の冷静な解説が観客の笑いを感心に変えていた。
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節々クネクネ武士道ロボ「まがる剣&殿めっと」(制作:SAKULab2008-公立はこだて未来大学-)。女史の淡々とした態度と冷静さを装いつつ隠しきれない殿の挙動が笑いを醸し出す
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質問が際どくなるにつれ、マゲと剣が殿の心を裏切りピクッピクッと動いてしまう
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審査員を代表して被験者に選ばれた樋口監督。質問を受ける前から、マゲが立ちっぱなし
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次は、「東大で教授をやっているんですが……」と自己紹介しながら暦本純一教授(東京大学情報環境)が飛び出せ! アイドルロボ 「YKRN(ワイケーアールエヌ)」と共にステージに登場した。
これは「憧れのアイドルに飛びつかれたい!」という男子の野望を実体化したアイドルロボット。某アイドルの顔を3Dスキャナでデジタルデータ化し、3Dプリンタで立体造形した超リアルなお面を搭載している。ちなみに、お面は数量限定販売のレア物を教授が自費でネット購入したそうだ。
開発者の暦本教授は、WiFi機器を使った現在位置をリアルタイムで測定する技術「PlaceEngine」や、プレイステーション3用ゲーム「THE EYE OF JUDGMENT」のキー技術の生みの親で、ユーザーインターフェイスの世界的な権威として知られている人物だ。
暦本教授がロボットに近づくとYKRNが顔を寄せたり、首(?)を伸ばして等身大になる。教授がYKRNの周囲を動くと、台座が回転してYKRNが追いかける。「いないいないばぁ」をしても無反応だが、土佐社長の顔写真を見せるとロボットの食いつきがよい。ライバルのアイドルを見せると、ふて腐れてしゃがみ込んでしまう……。そんなロボットだった。
演技終了後に、「このロボットの特長は?」と審査員に質問されると「フレームには、高級な電気スタンドのフレームを流用していて……」と、説明を始める暦本教授のズレっぷりが会場の笑いを誘う。YKRNには、画像認識機能が搭載されており、1,000人の顔データが登録されていて人の顔と顔っぽく見えるけど顔じゃないものを区別し、追加されたデータをどんどん蓄積して精度を高めるというテクノロジーが使われているという。しかし暦本教授にとっては、こうしたテクノロジーは身近にありすぎて当たり前のものとなり、高価なスタンドをバラしてバカロボフレームにしてしまったことの方が重要なのだろう。
YKRNに関しては、「アイドルというより“ろくろっ首”」というのが大半の見解だった。だが審査員の稲見教授にとっては、暦本教授自身がアイドル的存在ということでコメントが異様に熱かった。
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飛び出せ! アイドルロボ「YKRN」と製作者の暦本教授(東京大学)
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土佐社長の顔写真を見せると、アイドルロボが激しく反応する
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リアルな顔を持つYKRNに恐る恐る近づく審査員の面々
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と、このような雰囲気で無駄機能を搭載したロボットが次々とステージに登場し、制作者のマジメさに茶々入れつつ稲見教授がテクノロジー解説を交えながらコンテストは続いた。他の4体を写真で紹介しよう。
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人工知能エロエロロボ「用無し」(制作者:Jonas Sjobergh氏-スウェーデン代表-)。ロボットが、覚えたての日本語で下品なギャグを連発する
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ロボットのパフォーマンス中、Jonas Sjobergh氏がシラっとした表情でギャグを聞き流す様子が笑いを誘う
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演技後、審査員がリクエストした単語をシステムに入れると、ネットワーク上から該当単語を使ったと思われるギャグをリアルタイムで抽出してモニタに表示した
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顔面認識ロダンロボ「考えるロボ」(制作者:堅太太郎-法政大学工学部システムデザイン学科-)
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客席の女性とロボットの顔をチェンジすると、「実はぁ~私ぃーXXXで悩んでいるんですぅ」とロボットが勝手に語り始める。ロボット横のモニタには、女性の顔がロボットに変身して映っている
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説教されると怒り出し、貧乏ゆすりをする「考えるロボ」。演技後の審査員コメントにも、勝手に「そうそう!」と応える傍若無人ぶりを披露
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ロボットと観客の顔チェンジは、顔の周囲を一定の色で囲み、コンピュータで顔部分を抽出している。「この技術にバカと貼り紙したのは初めてみました」と稲見教授
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昨年に続いて出場。帰ってきたナニワの四足歩行ロボ「プッシュくん&YOMEプッシュ」(制作者:岩気祐司-ロボットフォース-)
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夫婦げんかしても、ラブラブモードで仲直り
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学内予選を勝ち抜いて出場した発泡スチロール脱力ロボ「TSUNEOと仲間たち」(制作:兵庫県立伊川谷北高等学校)
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TUNEOのペットの豚はスパンコールが大好物。だが、せっかく食べさせても……
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コンテストの様子は、明和電機から映像で公開される予定になっている。
審査員の協議の結果「バカロボ2008」の優勝は、アイドルロボ「YKRN」の暦本研究室に決定した。優勝の決め手となったのは「他のロボットは玩具などに転用できるなどのアイデアがあった。しかしYKRNは、何の役にも立たない」という無駄ポイントが高く評価されたためだという。
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全出場ロボットと制作者
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優勝した瞬間、抱き合って喜ぶ「YKRN」の制作メンバー
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優勝した「YKRN」の制作メンバー
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● 真面目にロボットの進化を考えた結果の「バカロボコンテスト」
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土佐信道氏(明和電機代表取締役社長)
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土佐信道氏がバカロボコンテストを企画したきっかけには、「日本のロボットが真面目になりすぎている」と思いがあったからだという。
そもそもロボットは、人間に近づこうとしてもできないことがあったり、不器用だったりする「哀れな存在」だと土佐氏はいう。そんな哀れさに日本人特有の人形に対するような思い入れが生まれる。だが現状は、そうした部分にはあまり目を向けずに、一般の人はアニメに出てくるロボットのイメージを追い、研究者は真面目に介護ロボットやサービスロボットなど技術の活用を考える。“人の役に立つ”ことがロボットの唯一の命題になり、他の選択肢を模索せずに誰もが同じ方向に目を向けていることに危機感を感じたそうだ。
生き物は、時々突拍子もないようなことをやるのがいるから、環境が変わっても生きのびることができた。本来はロボットも同じように自由な発想の元に存在する筈なのに、ステレオタイプな発想になっているのに違和感を覚えたという。
バカロボコンテストは、もっとロボットのバリエーションを増やし、ロボットを見て笑う中で「人工知能や最新の機構だけでなく、キャラクター性・社会風刺などを凝縮した人間社会を浮かび上がらせたい」というマジメな思いが込められているのだ。「将来は世界大会を開催し、日本人が考えるバカなテクノロジーとは違う発想を見てみたいですね」と土佐氏は語った。
バカロボ2008の応募要項では、パフォーマンス時の制作者の動作はスイッチのオン/オフのみと規定されている。しかし実際のコンテストでは、すべての作品がロボットと製作者の掛け合いで笑いを取っていた。人工知能エロエロロボ「用無し」の場合、Jonas Sjobergh氏は隣の椅子に座っているだけだが、「下ネタを理解できずに聞き流している」という演技をしているという意味でロボットとの掛け合いになっている。
「ロボット単体で観客を笑わせる」という課題は、また達成できていない。来年も引き続き「バカロボ2009」の開催を予定しているというが、この難しいチャレンジを最初にクリアするのは、どんなロボットだろうか? 今後、登場するロボットが楽しみだ。
■URL
バカロボ
http://www.bacarobo.com/
明和電機
http://www.maywadenki.com/
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