京商の二足歩行ロボットキット、MANOIシリーズのワンメイク競技会「2008 KYOSHO アスレチクス ヒューマノイドカップ」。初日のレポートに続き、「無線クラス」と「フリーデモンストレーションクラス」が行なわれた2日目のレポートを送ろう。
● コンクール・ド・エレガンス
“見た目”のドレスアップで勝負する「コンクール・ド・エレガンス」。まず全体から気になる機体が3機抜き出され、そこからさらに1機に絞られた。今回の優勝者は「虎太朗(NOBO)」で、評価ポイントは「裏地にもこだわったマント」。NOBO氏としては表はサンタの服をイメージしたボアを付けたという。ちなみにこの「虎太朗」、このあとの競技もさまざまな衣装に変えながら走っていた。本日No.1オシャレさん、ということで納得の受賞だ。
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まず最初に選ばれた3候補。左から「シャカシャカ(瀧原学)」、「虎華(チーム丸福)」、「虎太朗(NOBO)」
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裏地が“怖いお兄さん”のようになってしまっている(笑)受賞ロボット「虎太朗」
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衣装の製作は左の奥様。右がNOBO氏
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● 無線5mクラス
5mの直線を走りきるタイムを競う競技(制限時間を超えると、到達距離が記録になる)で、第1回大会から行なわれている花形競技でもある。人間で言うと100m走のようなもの。
コースは昨年までの板張りからパンチカーペットに変更された。また、同時に競技を行なうのが2機から3機に増やされた。コースは1,820mmの幅で区切られているものの、他の機体を邪魔しなければ、コース外に出てもかまわないとされている。
エントリーは22機。まず予選3ヒートのベストタイムによって上位12位までが決勝に進出。1度持ちタイムをリセットしたうえで決勝を3ヒート走り、ベストタイムで優勝が決まる。
予選は1組目の第1ヒートから20秒を切る機体が出た。第1ヒートを終えた時点で、20秒以下のタイムを出した選手が12機を超え、この時点で決勝進出のボーダーラインが20秒以下という状態になった。ちなみに昨年の第1ヒートを終えた時点では、20秒を切っていた機体は25機中3機。制限時間内にゴールできなかった機体が12機もいた。まる1年で全体がいかにレベルアップしたかがわかるだろうか。
こうなると、ボーダーライン上の選手は少しでもタイムを縮めなければ、いつ後ろの選手に落とされるかわからない。1ヒート目でボーダー近くの19秒23というタイムだった「ATACO(上西泰輝)」が2ヒート目で10秒93へ一気に短縮。全体の2位にジャンプアップする。「ATACO」はもともと9秒19という歴代2位のタイムを保持している機体なので、まだ短縮する余地もありそうだ。また、現世界記録9秒01を持っている「ミャノイ02(萩原佳明)」も10秒を切り、9秒50を記録。この日初めて10秒を切った機体となった。
結局第3ヒートで「磯工ウォーカー(住吉賢太郎)」が17秒19で9位に上がったほかは、第1ヒートで13位以下だった機体が予選通過ラインを越えることはないまま、決勝を迎えた。13位で惜しくも予選落ちとなった「ねっちぃー(曽根)」は、19秒75という前回であれば余裕で予選通過のタイムだったのだが、第1ヒートからタイムを伸ばせなかったことが響いてしまった。今大会の予選は第1ヒートからほとんど一定レベルのタイムが揃ったため、運悪く出遅れた参加者は、第2ヒート以降で逆転するためにある程度転倒のリスクを負って走らざるを得なかったことが勝負に影響したのではないだろうか。
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【動画】2ヒート目で9秒50を記録する「ミャノイ02」(中央レーン)。ちなみに画面奥のレーンは本誌ライター石井英男氏の「ロボッチ」
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【動画】3ヒート目で9秒台に突入した「虎太朗」(手前のレーン)
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【動画】予選3ヒート目でさらにタイム短縮を狙う「ミャノイ02」が転倒。その奥のレーンでは確実な歩行で「磯工ウォーカー」が予選通過を決めた17秒19の走り
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第1回以来の登場となった「マヌイ(長谷川一成)」。第3ヒートでは27秒84という好タイムを出すが、予選通過ならず(17位)
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ノーマルサーボを使用して第1回大会では3位に喰い込んだ「モロ(佐野純一郎)」は今回サーボを強化して臨むも、約1秒ボーダーラインに届かず、予選15位で敗退
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コンマ29秒差で決勝を逃した「ねっちぃー」は、マノイを教材に勉強しているTECH.C.専門学校の生徒さん。惜しかった
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12機で行なわれる決勝は3機ずつ、予選タイムの遅い順から4組が作られ、3ヒートが行なわれる。
決勝第3ヒート・最終組は、3機ともに持ちタイムが9秒台という、掛け値なしに「どれが勝ってもおかしくない」舞台が整った。世界記録は出るのか――そして勝負の行方は? と会場中が注目する中、最後のスタート! 3機ともに横一線でゴールしたが、結果は「虎太朗」が9秒82でトップ、2位には最後の最後でまとめた「ミャノイ02」が10秒03で入線。逆転されてしまった3位の「ATACO」も10秒62という、3機がコンマ8秒の中に入ってしまう名勝負となった。
優勝した「虎太朗」は、マノイシリーズの中でもアスリート競技には向かないとされているPFタイプ。しかし、NOBO氏はPFの弱点である足回りにラジコン用のスペーサーを挟むなどの工夫を盛り込み、換装したKRS-4013HVのスピードとパワーをしっかりと推進力に変えているのだという。マノイユーザー同士の交流の中で得られたノウハウの交換が、一番力になっているそうだ。
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【動画】コース奥の「虎華(チーム丸福)」はノーマルサーボの機体。中央コースの「F325(佐藤公彦)」はサーボを換装しているが、コースロスにより虎華が先着
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【動画】決勝トーナメントで表彰台を狙った「かけるくん(Yokosanち)」(コース奥)と「GaoBC(鈴木雅夫)」。毎回ほとんど同時にゴールする、見事なライバル関係。最終的にかけるくんが4位、GaoBCが5位
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【動画】「これぞ決勝、最終組」といえる名勝負
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● 無線10mクラス
昨年のアスレチクス ヒューマノイドカップではエキシビションとして行なわれ、今年の公式記録会から導入された、ターンのある10m走。計時の関係上、スタートから4.5mでターン、5.5m戻ってゴールとなる。アスレチクス ヒューマノイドカップでは初開催なので、今回の優勝者は初代チャンピオンとなるわけだ。
第1回の公式記録会では53秒かかったこのコースも、あっという間にタイムが短縮されて、今大会前の最速記録は虎太朗の26秒07。5mを10秒そこそこで走っている機体がゾロゾロいることを考えると、記録更新がありそうなニオイがするクラスである。
本来は予選3ヒート・決勝3ヒートとなるはずだったが、20mクラスも含めてダブルエントリー・トリプルエントリーの機体がほとんどのため、参加者に了承をとった上で10m/20mクラスは予選を省略し、いきなり決勝が行なわれることになった。
真っ直ぐ走ればいい5mと違ってターンがあるうえ、コース幅が5mクラスの半分しかないので、直進性に難のある機体はかなり苦労していたが、いきなり第1ヒートからカッ飛ばしたのが、5mで惜しくも3位に終わった「ATACO」。同組の「鉄腕ウルトラエイト(萩原佳明)」がターンに苦労するのを尻目にスルスルとスムーズに直進し、ターンでのコースロスもほとんどナシ。出たタイムは記録を大幅に更新する22秒87! 直線コースの5mのタイムがこの日11秒弱だったことを考えれば、ターンにかかっているのは1秒程度しかない計算になる。すばらしい。
他の機体も第2ヒートでは記録を縮めてきたのだが、前記録保持者だった「虎太朗」が25秒78、「鉄腕ウルトラエイト」も24秒01と、1秒以上水をあけられている。最後の第3ヒートで「鉄腕ウルトラエイト」がわずかに縮めて23秒86とするものの、22秒台には届かず、「ATACO」が初代チャンピオンに輝いた。ちなみに「ATACO」は第2ヒートで23秒71、第3ヒートでは「鉄腕ウルトラエイト」に道を譲りながらも26秒50をマークしており、3回走ってすべてが表彰台レベルの走りだったことを付け加えておこう。そのターンにはどんな秘密があるのかと上西氏に聞いてみたが、基本は「操縦テクニック」とのこと。上西氏を含め、ターンがすばやい機体はPSコントローラーやVS-01などのアナログスティックを備えたコントローラーを使用しており、これが自在なコース取りの助けになっているようだ。
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【動画】あまり差がなく折り返し地点に到達しても、中央コースの「虎雪(榊原誠夫)」は安定かつすばやいターンでゴール時点では大差をつけてしまう
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【動画】絶対的な速度そのものはあまり速くないとしても、転倒しないことで最終的にトップでゴールする「リッコ・デヤンス(小野寺克麿)」の走り、その1
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【動画】「リッコ・デヤンス」の走り、その2
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【動画】2ヒート目の走り。奥のレーン「ATACO」と中央のレーン「鉄腕ウルトラエイト」がコンマ3秒差でゴール。「ATACO」の上西氏は思わずガッツポーズ
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【動画】パイロンギリギリを通ってタイムを短縮しようとする「虎太朗」だが、惜しくも25秒台
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● 無線20mクラス
20mはパイロンがもう1つ追加され、約2周するコース設定となる。10mにも増して、ターンの重要性が増すクラスである。ここに参加したのは12機で、全員が10mクラスとのダブルエントリー。また、10mと同様に予選が省略され、決勝のみが行なわれた。
このコースも「虎太朗」が57秒97の記録を持っていたのだが、5m、10m(+パフォーマンス)との4クラスエントリーが厳しかったか、転倒を繰り返してしまい、ゴールせずに14m50cmでリタイヤという波乱含みのスタートとなる。逆にそれでプレッシャーがなくなったのか、歴代2位のタイムを持っていた「かけるくん」が第1ヒート最終組で54秒17を記録。一気に3秒以上も短縮した。これで火がついたのか、「虎太朗」は第2ヒート2組で57秒96の自己ベストを更新。コレが最後の一般参加イベントとなるという、マノイのアドバイザー萩原氏が駆る「鉄腕ウルトラエイト」も第2ヒート3組で1分01秒67と、自己ベストを更新した。一方、「かけるくん」は第2ヒート4組をトップでゴールするものの1分14秒97でタイムを伸ばすことができず、最終第3ヒートに勝負の行方が託された。
まず、第3ヒート2組で走った3組ではターンで苦労しながら「鉄腕ウルトラエイト」が57秒17でさらに自己ベストを更新。2位にジャンプアップするものの1位には届かなかった。ターンがもう少しうまく決まっていればと悔やまれる。最終組の「かけるくん」は、先頭でゴールすれば優勝が決まる楽な展開の中、すいすいとゴールを目指し、56秒50のタイムで文句なしの優勝を決めた。製作者のYokosanちこと横畠氏は「直線でGIYさん(萩原氏)を抜くのは無理だと思ったんで、ターンを作りこんで練習しました」と、勝因を分析。また、バッテリは社外品のリチウムポリマーバッテリに変更されており、このおかげで、長距離を走りきれるようになった、とポイントを明かしてくれた。「前日まで5歩進めなかったのに」という優勝コメントもあったが、そこであきらめずに調整を続けた執念が栄冠を勝ち取る助けになったのではないだろうか。
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【動画】第1ヒート1組で記録を樹立する「かけるくん」。最後のターンの精度が強烈
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【動画】第2ヒート2組で自己ベストを更新する「虎太朗」。最初のターンで一瞬まごついたのは無線が原因のようだ
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【動画】第3ヒート3組。「鉄腕ウルトラエイト」はだいぶ苦労しながら自己ベストを更新(撮影:大塚実)
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【動画】第3ヒート4組。先頭かつ好タイムのゴールをして、優勝を決めた「かけるくん」(撮影:大塚実)
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● パフォーマンスクラス
「パフォーマンスクラス」とは、2分間の時間が与えられ、その間マノイで何かしらのデモンストレーションを行なってもらう、というものだ。踊るもよし、小芝居をするもよしと、内容は自由。メインの徒競走が“運動会”だとすれば、さしづめ“文化祭”といったところだ。今回はマノイの製作ガイドDVD「MANOIをつくろう」に出演していたアニメイダー柳氏と、マノイのサーボモーターを供給している近藤科学株式会社の柴田善広氏が審査にあたった。
参加したのは4チーム。前回に引き続いてこのデモに軸足を置いてきたという「リッコ・デヤンス」は鳴子でリズムを取った和風のダンスを披露。ものすごい勢いで走っているロボットと同じ構造で動いているとは思えないような、じつにおしとやかな動きを見せた(中身のベースはAT01)。途中で傘がうまく開かなかったのが残念だ。
マノイファンクラブ有志が集まって行なうデモは、もちろん今年も登場。音声で操作するというオペレーションもさることながら、縦一列から横一列に整列しなおそうというデモは驚かされた。
しかし優勝したのは、車椅子を押す虎太朗を置いてけぼりにして、自分で車椅子を動かした「虎華」、というコンビでのデモだった、チーム丸福。車椅子を自分で動かすホビーロボットはおそらく世界初だろうということで評価されたのだろう。
【お詫びと訂正】初出時、昨年のパフォーマンスクラス優勝者について誤った記述をしておりました。正しくは「マノピー」のイカロス氏となります。お詫びとともに訂正させていただきます。
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【動画】「リッコ・デヤンス」のデモ
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【動画】家族の要望に応じていろいろダンスするけなげなマノイを演じた「Gao2(鈴木雅夫)」
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【動画】マノイファンクラブのデモ。最後の「ドリフ」は許諾を得た音楽とのこと
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【動画】「虎太朗&虎華(チーム丸福)」のデモ
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● ほとんどが「世界記録」で幕を閉じた大会
5mでこそ世界記録(9秒01)の更新はならなかったが、10m(26秒07→22秒87)、20m(57秒97→54秒17)ともに大幅にタイムアップした今大会。大会後の競技委員長総括で京商株式会社の岡本正行氏が「正直こんなに一気にレベルが上がるとは思わなかった」とコメントしていたが、それは取材している側も同じ思いだった。同氏が続けたように、5mクラス以外は歴代記録を更新しなければ表彰台にすら上れないというレベルは、まさに年1回の頂点を決める大会にふさわしいものだっただろう。
一発のタイムに注目が集まりがちだが、今大会のすばらしいところは、毎ヒートほぼ同じタイムでまとめる、安定した機体が多く見られたところだ。5mでは優勝した「虎太朗」が予選の第3ヒートから4連続で9秒台を出す安定感を見せたが、他にも「GaoBC」が予選第1ヒートから6回走って全て11秒台で終える(予選は11秒10で4位、決勝は11秒51で5位)という、まれに見る安定感を発揮していたし、10mで優勝した「ATACO」はターンがありながら3回走って4秒も差がなかった。シンプルな競技だけに、安定感が増してきたことからもレベルアップが感じられる。
このレベルアップに寄与しているのが、上位入賞した機体のモーションをweb上で公開し、ユーザー同士で共有するというマノイ独特のシステムである。例えば「ATACO」の上西氏は今年マノイを手に入れた新規ユーザーだが、webページ上にアップされていたカスタマイズ情報やモーションを取り入れ、そこに自分なりの工夫を盛り込んでいくことで一気にトップの仲間入りを果たした。
この「工夫」というのがミソである。ゼロからトップに追いつくのは非常に苦労が多く、たいていのユーザーは途中で挫折するか、飽きてしまう。だが、マノイのシステムであれば、web上の公開情報やユーザー同士の情報をベースにマネすることで、トップクラス近くまではたどり着くことができる(もちろん投資額も必要だが)。だが、そこからトップをかわすためには一工夫が必要なので、どんどん新規ユーザーが一線級の競技者として加わってくることができるのだ。
マノイの開発段階から関わっていた萩原氏が絶対的な強さを持っていた第1回大会のころからは想像もできなかったことだが、今大会で勇退を義務付けられ「勝ち逃げするつもりだった」という同氏が5m、10m、20mのすべてで2位に終わった今回。マノイのシステムがたくさんのユーザーを引き上げ、競技会としてのレベルアップを果たした記念すべき大会だったといえるのかもしれない。大会結果を見ると上位がほぼ同じメンバーで固められた気はするが、これらの機体に収められたモーションやパーツ構成などの情報は、きっとマノイユーザーの共有情報として公開されるはず。今度はその情報を基準点として、さらにレベルアップした大会が見られるに違いない。
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殿堂入りとなった萩原氏。今後は参加者のサポートや公開モーションの作成といった、裏方にまわるという(撮影:大塚実)
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無線5mクラス入賞者。左から2位「ミャノイ02(萩原佳明)」、1位「虎太朗(NOBO)」、3位「ATACO(上西泰輝)」(撮影:大塚実)
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無線10mクラス入賞者。左から2位「鉄腕ウルトラエイト(萩原佳明)」、1位「ATACO(上西泰輝)」、3位「虎太朗(NOBO)」(撮影:大塚実)
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無線20mクラス入賞者。左から2位「鉄腕ウルトラエイト(萩原佳明)」、1位「かけるくん(Yokosanち)」、3位「虎太朗(NOBO)」(撮影:大塚実)
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パフォーマンスクラス入賞者。左から2位「マノイファンクラブ」、1位「チーム丸福」(撮影:大塚実)
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■URL
京商
http://www.kyosho.com/jpn/
KYOSHOアスレチクスヒューマノイドカップ
http://www.kyosho.com/jpn/products/robot/cup/cup.html
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( 梓みきお )
2008/12/17 11:32
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