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東4ホールと、その屋外の一部を用いて開催された
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11月19日(水)から22日(土)まで東京ビッグサイトにおいて、今年で38回を数える「2008東京国際木工機械展」が開催された。主催は日本木工機械協同組合。自動車産業系の機械ほどではないが、こちらもロボット(アーム)系の技術による機械が出展されており、また木工ならではの芸術性の高い技術なども披露されていた。ロボット系だけでなく、記者が興味を持った面白い機械なども紹介する。
● アームバランサとバキュームバランサなどを出展していたキトー
会場で最もロボット的な機械を出展していたのが、キトーだ。ロボットアームを利用して女性でも比較的容易に重量物の運搬を行なえるようにした、アームバランサと呼ばれる機械である。同社の製品は、「キトーワンダーアーム」シリーズと呼ばれ、空気圧で動作する。アームは4種類だが、先端のハンド部分に関しては作業ごとにオーダーメイドとなるため、これまで3万種類に及ぶ機器を設計・製造したそうである。
今回は、最大ワーク荷重が250kgの「PM」シリーズという中程度の性能を持ったモデルの内、ワーク荷重125kgのタイプを出展。デモを行なっていたほか、来場者への操作体験を行なっていた。デモ用に置かれていたロール形の重量物は40kg前後あり、人がヘタに持ち上げようとすると腰がグキっと行きかねないほど。記者も片手で軽く押してみたか、ビクともしなかった。それをワンダーアームは、中央の穴にハンド部分を差し込んでツメをかませると、余裕で持ち上げていく。
さっそく記者もアームを操作させてもらって動かしてみた。動かす前は軽く動かせるものと思っていたのだが、それなりに力はいる。おそらく重量物が軽く動いてしまうと、別の危険性が出てきたりするのだろう。たぶんだが、宇宙空間でこうした重量物を動かす際は、こんな感じではないだろうか。動かせるけど質量がなくなるわけではないので、それなりに力はいるというわけだ。ちなみにデモを担当していた方は女性で、操作に慣れているのもあるのだろうが、結構軽々と操っていた。
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【動画】キトーワンダーアームが重量物を持ち運ぶデモの様子
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コントロール部分。操作を誤っても、空中では重量物を絶対に外さない安全設計
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今回の展示のハンド部。ロールの中央に差し込んで、ギザギザのツメが広がって芯の内側をかむ
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ロールの芯の内側。ツメの跡がある
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もう1つは、掃除機の要領で重量物を吸い付けて持ち上げる、バキュームバランサで、製品名は「キトーバキュームハンド」。ワンダーアームはハンド部が決まってくるため、一定の同じような形をした物品にしか対応できないが、こちらはワーク荷重内であれば、上面が平らで一定面積のあるものなら何にでも対応できる。出展されていたのは、「VEG」と呼ばれる操作部分がバイクのようなグリップタイプ。
デモでは、すのこのような木製品を持ち上げていた。記者も試させてもらったのだが、面白いのは吸着させた物品の上げ下げをバイク感覚で行なう点だ。バイクでいうスロットルを開ける方向(手前に回す)で降下、スロットルを閉める方向(奥に戻す)で上昇となっている。急にスロットルを回すと、一気に重量物が上昇してしまって危険なのだが、操作感はなかなか面白かった。
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【動画】キトーバキュームハンドが重量物を持ち上げるデモの様子
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平らな物ならペタっと吸着して持ち上げられる
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画面左下がコントロール部分。右の青いグリップで操作する
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● これで秘密基地も設営可能!? ゴーリキの全天候型移動ラック
ロボットではないのだが、記者が展示会系の取材をする時、必ず引かれてしまうのが巨大機械。今回出展されていた中では、ゴーリキの屋外で簡易倉庫としても使用可能な全天候型移動ラック「スカイローダー」が実によかった。社名も力強そうなら、製品名も地球防衛組織の基地や戦闘機のような、実にカッコいい名称である。複数のラックを動かして必要な時に必要なラックから物を取り出せるようにスペースを設ければいいので、普段はラック同士を密着させておけばよく、固定式のラックに対して設置スペースの敷地面積を少なくできるというメリットがある製品だ。
スカイローダーは屋根材と壁材には腐食に強いガルバニューム鋼版を利用しており、駆動方式は電動と手動の2種類を用意。ブースでは電動式によるデモが行なわれており、2台のラックが動いていた。2台のラックは、どちらも3×2×3m(幅×奥行き×高さ)ぐらいのかなり大型なもの。その2台が個別にもしくは連なって左右に動いたりするのだが、実に迫力がある。ちなみに、実際に納品した製品では、奥行きが25mぐらいあるそうで、まさに秘密基地といえよう。
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【動画】スカイローダーが動作する様子(全景)
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【動画】至近で見ると、結構迫力がある
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【動画】横方向から。特撮番組の秘密基地の発進シーンに使えそう
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屋外なのでサビに強いガルバニューム鋼を使用
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画面の反射板などで停止するセンサー類が備えられており、自動的に止まる仕組み
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● 動く様子がまるで動力パイプ!? 巴産業のNCコントロールマシンセンタ
巴産業は、ドイツの企業BIESSEが開発したNCコントロールマシンセンタ「Rover A」を扱っている。大型の材木の加工装置だ。材木加工で問題になるのが、おがくずや木片の類。軽いために粉になって空気中に漂いやすく、かといって金属加工のように液体をかけながら切断などを行なうというわけにもいかない。そこで最近の木工用の加工機械は、削るそばから吸引してしまう仕組みを備えているのが当たり前となっている。そのため、パイプが多いと数本突き出ていたりするのだが、Rover Aも3本ほどが見える。パイプというと記者の場合モビルスーツ・ザクの動力パイプを思い浮かべてしまうのだが(笑)、Rover Aのパイプも薄緑色に塗りたいところ。もちろん、実寸だったらもっと太くないとならないはずだが、なんか伸びたり縮んだりしているのを見ると、動力パイプが実際にあったらこんな感じなのかと思わず想像してしまうのであった。
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【動画】Rover Aのパイプが動く様子
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パイプはおがくずなどを吸うための物
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● ベニヤ板をレーザーで射抜いて芸術作品も作る
ユー・イー・エスは米ユニバーサルレーザシステムズの正規販売代理店で、ブースでは産業用レーザー加工機「ILS12.150D」のデモが行なわれていた。日本国際工作機械見本市(JIMTOF)で、炭酸ガスレーザーによって金属板を芸術的に射抜くのを見たので、ベニヤ板など造作もないとは思うのだが、逆に燃えないのが不思議なところ。聞いたところによれば、出力を押さえた上で、非常に小さな一点にレーザーを集中させているので、火が着かずに切り抜くことができるのだそうだ。また送風と排煙も行なっているので、それも冷却効果があるのだろう。芸術的に切り抜かれた「作品」をもらったのだが、切断面を見ると黒く焦げており、実際に高熱で焼き切っているのがよくわかる。マシンはPCと接続しており、スキャナーで取り込んだ画像の通りに切り抜いたり、貫通させずに削ったりすることも可能だそうである。非常に複雑なデザインの彫り物なども、データさえあればいとも簡単にできてしまうという寸法だ。写真やイラストなどを印刷するようにして板の表面に彫ることも可能である。
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【動画】芸術的にベニヤ板を切り抜いていく様子
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ILS12.150Dの全景。左下にあるのはまるで印刷されたようだが、これも作成したもの
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● 台湾メーカー・巨庭機械は自動彫刻機を出展
アジア圏のメーカーもいくつか出展していた。巨庭機械の「iCarver 15」は、刃(ドリル)を利用した自動彫刻機だ。レーザー加工機ほど細密な彫刻は難しいかも知れないが、その代わりに当たり前の話だが、焦げ目が付かないというメリットがある。デモでは、文字を彫っているところを見られた。非常にきれいに削っていく様子が見て取れる。
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【動画】彫っている様子
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iCarver 15の全景。出展機器としては小型な部類に入る
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作品の数々
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● そのほかロボット技術とは関係ないが面白かったもの
そのほか直接ロボット技術的な要素は入ってないのだが、個人的に面白かった製品をいくつか紹介。まずは、付け替え式の丸のこ歯型カッター(縁がノコギリ状になっている円盤形の刃)を出展していた松岡カッター製作所。30~40代の方なら、70年代のスーパーロボットアニメの悪役ロボットたちの中に、手の代わりに丸のこ歯になっているようなタイプがいたことを覚えている人もいるだろう。円盤にギザギザがついたあれである。記者は、てっきり薄い歯が同じ方向を向いて一直線に並んでいるものばかりと思っていたら、用途によっていろいろと異なるらしい。ある程度の幅を削るようなタイプだと、右向きの刃、左向きの刃、そして底を削る刃と3種類が交互に並んでいる(しかもどれも幅がある)。ただし、左右を削る方が重要なので、右・左・右・左・底・右・左……というように、左右が2に対して底が1という割合で並ぶ。ちなみに同社の製品は、「しずか」「FUJIYAMA」など、日本的な製品名が特徴である。
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左右と底を削る刃と3タイプの異なる刃が並んでいるのがよくわかる
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スーパーロボットの特殊金属製の装甲も切り裂きそうな厚みのあるFUJIYAMAシリーズ
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壁にはしずかシリーズなどがズラリ
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この展示会は東4ホールを使っていたのだが、屋外でもいくつかの展示が行なわれていた。その1つが、世界120カ国でアウトドア製品を展開しているスウェーデンのハスクバーナ社の日本の拠点ハスクバーナ・ゼノア。チェーンソーなどを扱うメーカーである。チェーンソーというと思わずジェイソンやレザーフェイスなど、スプラッター映画の殺人鬼を思い浮かべてしまう人もいるだろうが、真面目な話をすると、日本の林業は安全対策が遅れていたという。スウェーデンなどでは、ケブラー繊維製の防護衣を身につけないと、チェーンソーは使ってはいけないという法規制が何年も前からあるのだそうだが、日本ではやっと関係者の努力が実って今年度から施行された形だ。
チェーンソーは、左足の太ももやスネなどを切ってしまう事故が初心者に多いそうで、防護衣の中でも特にズボンが重要。防護衣は、チェーンソーの歯を弾いて人体を無傷で守るというほど完璧ではないのだが、傷を最小限にとどめる機能がある。チェーンソーが防護衣を切り裂くと、中のケプラー繊維が歯に絡まり、結果的に駆動部に詰まってチェーンソーがストップするという具合だ。太ももなどをザックリ切ってしまった場合は命に関わってくるので、最小限に切り傷を抑えられるというのは非常に重要なのだ。なお、チェーンソーによる切り傷は、歯が皮膚や肉をえぐり取るため、カッターなどとは異なってスパッと切れない。その切り口はズタズタになるために縫合もままならず、外科医によれば刀創(刃物類による傷)の中でも、最も悲惨な傷なのだそうだ。
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【動画】男の憧れ(記者的に)チェーンソー。記者も材木をぶった切ってみたい
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【動画】こちらは、その場で材木を製材できるエンジン仕様の移動式製材機。電動仕様もある
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ケブラー繊維でできた防護ズボン。完全に防護するわけではないが、傷は最小限となる
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刃は取り外されているけど、チェーンソーの本体部分
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オノ。小型だが重さがないと意味がないため、結構ズシリとしている
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最後は、DAITOの新型廃プラ用焼却炉。焼却炉がなぜ展示されているのかというと、木片の焼却処分などで関連するというわけだ。中でもその燃え上がりぶりで非常に迫力があったのが、新型焼却炉「MDPII-400」。炉内が従来のように直方体・立方体ではなく円柱状で、角がない点が特徴。また、空気を吹き込む仕組みも採用しているので、従来の炉よりも酸素がふんだんに供給されるため、炎が大きく渦を巻きやすいのだ。その温度は850度に達するそうで、撮影時に1.5mは離れていたはずだが、熱い熱い。カメラやビデオカメラがどうかならないか心配なほどであった。この温度だと、プラゴミもかなり効率よく燃焼させられ(プラゴミは石油製品なので、それ自体が燃料となる)、ダイオキシンの発生量も最低限に抑えられる。しかも、煙突から排気する前にもう1部屋小型の燃焼室があるので、すすなどの燃えかすは出ず、煙もない。煙突からは何も出ているように見えないほど、クリーンな焼却炉というわけだ。
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【動画】炎が渦巻く様子
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「MDPII-400」の全景。煙突の根本の部分で再燃焼しており、ほぼ完全燃焼させている
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炉内に角がないのがわかるだろうか
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今回の展示会は、自動車産業用などとは異なるので、比較的小型な部類の機械が多かったのだが、やはりロボットテクノロジーは当たり前のように採り入れられているのがわかった。また、金属を扱う工作機械とは異なり、木材ならではの繊細さのようなものも感じられた次第である。宙を舞うおがくずに喉がいがらっぽくもなるのだが、木の香りのする工作機械系の展示会などはそうそうないので、もしよかったら次回はぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。
■URL
2008東京国際木工機械展
http://www.mmjp.or.jp/nichimoku/exhibition/poster.html
( デイビー日高 )
2008/11/25 15:18
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