宇宙航空研究開発機構(JAXA)は10月25日(土)、茨城県つくば市にある筑波宇宙センターにて恒例の特別公開イベントを開催した。普段のツアー見学では見ることができない施設なども公開される人気イベントで、毎年春(4月)と秋(10月)の2回実施されており、今回は8,282名の来場があった。
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筑波宇宙センターの正面ゲート。当日は駅から無料のシャトルバスも運行される
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入ってすぐのところにあるH-IIロケット実機展示は最も人気のある展示の1つ
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● ナゾの組織「宇宙に行く会」とは?
もう何度も見ているので、入ってすぐのところにあるH-IIロケットの実機展示はパスしようかとも思っていたのだが、念のために行ってみると、あまり人がいないロケット下のエリアにもポスターの展示が出ていた。一見地味なコーナーだが、しかしこの内容がまた面白かった。
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ロケットの下に何やら怪しげな展示が……
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ポスターには「宇宙に行く会」の文字
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有人用エンジン、ロケット飛行機、軌道エレベータなど、テーマの共通項は「有人」であること。JAXAは2005年に発表した長期ビジョンの中で「10年間は独自の有人輸送機開発を行なわない」ことを示しているが、内部には「有人をやりたい!」という熱意を持った人も多いようで、「宇宙に行く会」というサークルのような有志の集まりを立ち上げ、2008年4月くらいから活動しているそうだ(若手が主体だが“自称”若手も混じっているとか)。というわけで、JAXAの“公式”な展示とはちょっと異なるのだが、内容を簡単に紹介してみたい。
有人用エンジンとして紹介されていた「LE-X」は、現行の主力ロケットであるH-IIAで使用されている第1段エンジン「LE-7A」の次世代型として検討されているものだ。特徴は、LE-7Aで採用されている2段燃焼サイクルをやめて、第2段エンジン「LE-5B」と同様のエキスパンダーブリードサイクルを採用することにある。2段燃焼サイクルは高性能だが、構造が複雑。エキスパンダーブリードサイクルはもっとシンプルで、2段燃焼サイクルのような燃焼ガスの配管もないので、爆発する危険性も少なくなるという。
ロケット飛行機は、ジェットエンジンで水平離陸してから高度10kmあたりでロケットエンジンに点火、空気の薄いところまで一気に上昇するものだ。マッハ10くらいでの飛行が可能ということで、アメリカくらいなら普通に日帰りができるだろう。実現には開発コストや採算性など、金銭面での課題をクリアする必要があるが、説明員によると技術的には「3~4年くらいでできるのでは」ということだ。
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JAXAは有人ロケットを開発しているわけではないが、有人ロケットでも使えるような信頼性を持ったエンジンを開発することは、無人ロケットの成功率向上にも繋がる。意義のあることだと言えるだろう
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高度60~100kmくらいまで上昇してから、大気圏上層部を小石が水面上を跳ねるように飛行する(スキップ飛行)。一見クレイジーだが、コンセプト自体はかなり昔からある(ナチス・ドイツのゼンガーとか)
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こちらは軌道エレベータの紹介。桁違いの建設費が必要になるので、実現はいつになることやら……
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● 人工衛星関連の展示
シャックルトンクレータに氷が無かったという“悲しいお知らせ”があったばかりの月周回衛星「かぐや」のコーナーには、かぐやが取得した地形データをもとに作成した月球儀が展示されていた。表側と裏側の凸凹具合の違いが良く分かるので、教材用として製品化したら面白いのではないだろうか。
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かぐやのデータをもとに作成した月球儀。表側は海が多い
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ところが裏側になると一転、クレータだらけになる
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コーナーではかぐやの「プチ写真展」も行なわれていた
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また超高速インターネット衛星「きずな」のコーナーでは、ハイパーミラー(超鏡)の体験デモが行なわれていた。映像を合成することで、離れた場所にいる人たちが一緒にいるかのような感覚を体験できるシステム。特に「きずな」に特化したアプリケーションというわけではないのだが、2009年1月に「きずな」を使って実験することが決まっているそうだ。
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ハイパーミラーの仕組み
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右側の「種子島」の映像に、左側の「東京」の映像が合成される
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● 宇宙ロボット、2011年に宇宙へ
「宇宙ロボット実験室」(未踏技術研究センター ロボティクス研究グループ)の展示では、前回のレポートでも紹介した宇宙飛行士支援ロボットに注目したい。このロボット、「REXJ」というプロジェクト名で2011年の打上げが決まったそうで、「きぼう」の船外実験プラットフォームを使って軌道上での実証実験が行なわれることになる。
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宇宙飛行士支援ロボットで使われる伸展アームのプロトタイプ
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船外実験プラットフォームにこのようなモジュールを取り付ける
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このロボットは、伸展アームを使ってテザー(ひも)を外壁のハンドレール(宇宙飛行士の船外活動のために用意されている手すり)に固定、4方向に伸ばしたテザーの張力を調整することで移動していくというもの。テザー用の伸展アームのほかに、作業用のロボットアームを装備することも考えられている。
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4本のテザーでロボット本体を固定し、移動する
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テザーはこのようにハンドレールに引っかける
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宇宙飛行士の代わりに各種の作業を行なうことから、開発グループではこのロボットを「Astrobot」(=Astronaut+Robot)と呼んでいるという。外壁の点検など、単純な作業をロボットにやらせれば、宇宙飛行士はその分“本来の仕事”に専念できる。また危険な作業をロボットに任せられれば、宇宙飛行士の安全性も向上するわけだ。
ここでキー技術となるのは伸展アームだろう。国際宇宙ステーション(ISS)は無重力状態なので、アームに強度はほとんど必要ないと思うかもしれないが、ISSの設計条件では0.2Gに耐えることが必要ということで(高度を上げるときやデブリを避けるときなどに加速度が発生するのだ)、この確保に結構苦労しているそうだ。
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伸展アームは巻き取り式。伸ばすと筒状になって強度が出る
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春の時点では“三軸織”のCFRPだったが、今は通常のCFRPを使用
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これが春のとき。CFRPの模様が違うのが分かるだろうか
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● 初めてHTVがお披露目
今回の特別公開における展示の目玉は、開発中の宇宙ステーション補給機「HTV」(H-II Transfer Vehicle)のエンジニアリングモデル(EM)が公開されたことだろう。すでにプレス向けには2年前に公開されていたものだが、一般向けにはこれが初めてとなる。ガラス越しではあるものの、実際に見るとその大きさが実感できるだろう。
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HTVのEM(左)は、今まで「きぼう」の構成モジュールが置かれていた試験ルームにあった。右は船内実験室のEM
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HTVの大きさはロシアのソユーズ以上。展示のEMは、上段(補給キャリアの与圧部)がない状態だ
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「きぼう」のフライトモデルは全て出てしまったので、この部屋も何だかスカスカな感じだ
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● 注射器ロケットが面白い
JAXAは教育活動にも力を入れている。宇宙教育センターという組織があり、その活動の1つとして「コズミックカレッジ」という教育プログラムが全国で展開されているのだが(スケジュール参照)、会場では“ミニ・コズミックカレッジ”として、内容の一部が紹介されていた。
特に面白かったのは、注射器を利用したロケットの実験だ。エタノールの燃焼を利用しており、原理は本物のロケットと同じと言える。手順は以下の通り。
まずは注射器の中に、エタノールを数滴たらす。ピストンを奥まで入れ込んでから、半分くらい戻す(この時にエタノールが気化して空気と混合される)。注射器の先端にフタをして、ピストンの先に付いた電極で点火。するとエタノールが燃焼して、注射器が勢いよく飛び出す。滑らかに動くように、ピストンのゴム部分にはワセリンを塗っておく。
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ミニ・コズミックカレッジの様子。注射器ロケットは面白いのだが、部屋がアルコール臭くなるので注意
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【動画】注射器ロケットはエタノールの燃焼で飛ぶ。結構勢いがあって面白いので、何度もやりたがる男子が続出
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注射器ロケットの仕組みはこうなっている。ちなみに禁断の裏技として、空気の代わりに純酸素を使うという手もあるらしい
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● フォトレポート
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今年度唯一の打上げとなる温室効果ガス観測技術衛星「いぶき(GOSAT)」のコーナーでは、折り紙教室が開催されていた。打上げのときに、種子島まで持って行くとか
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なぜか行列ができるほどの人気となっていたのがこちらのコーナー。みんな宇宙用ポリイミドをもらって何に使うんだろうか……
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的川泰宣氏が立ち上げたNPO法人「子ども・宇宙・未来の会(KU-MA)」のパンフレットが置いてあった。活動内容については公式サイトを参照
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今回も水ロケット教室は大人気。整理券の配布にご覧の行列ができていた
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こちらも定番の打上げ音響体験のコーナー。100db以上出ていた
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宇宙日本食には羊羹まである。これは来場者にプレゼントされていた
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売店の「ロケットパン」(150円)。チョコ・クリーム・あんの3種類がある
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なんと宇宙食の福袋も(2,000円)。かなり入っているというウワサも……
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アルミ手加工のH-IIAロケット。限定1個で価格は25,000円。売れたのだろうか……
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■URL
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
http://www.jaxa.jp/
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・ 「筑波宇宙センター特別公開」レポート ~宇宙ロボット試作機の展示も(2008/04/23)
( 大塚 実 )
2008/10/31 16:53
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