宇宙航空研究開発機構(JAXA)は19日、筑波宇宙センターの特別公開を実施した。毎年、科学技術週間(今年は4月14日~20日)にあわせて実施されている恒例イベント。普段のツアー見学では見ることができない施設にまで行けるほか、エンジニアに直接話を聞くことができるのも魅力だ。特別公開は通常、4月と10月に実施されている。
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入ってすぐのところにH-IIロケットの実物が鎮座。個人的には縦に置いて欲しいところだが、まあ無理だろう
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多くの家族連れが訪れていた。人気イベントは行列になったりするので、うまく時間をやりくりしたいところ
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全体的に“家族向け”といったニュアンスが強いイベントではあるが、いろんな実物が展示されていたり、最新の研究内容が紹介されたりと、マニアも満足できる内容。ざっと流して見ても面白さは分からないので、説明員に根掘り葉掘り聞くといいだろう。時間が午後4時までと短いので、早起きして午前から行くのがオススメだ。
● 「かぐや」からの最新データ
まずは月周回衛星「かぐや(SELENE)」のコーナーから。「かぐや」は昨年9月に打上げられたばかりだが、そろそろ研究成果が出始めている。
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「長岡クレータ」の3D画像。青赤メガネで見ると立体的に見える。「かぐや」の地形カメラ(TC)はステレオ撮影が可能で、10mという高い分解能で立体視観測ができる
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レーザー高度計(LALT)の観測データをもとに作成された地形図。今年1月7日~20日の間のデータで作成したが、今後の観測でデータは増えてさらに詳細になっていく
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ちなみに、「かぐや」以前にはこんなデータしかなかった。NASAのクレメンタインなどによるデータだが、精度の違いは歴然
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いわゆる“地球の出”の撮影画像も配布されていた(しかも“満地球”だ)。NHKが開発したハイビジョンカメラによるもので、A4サイズでも非常にキレイ
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これはスペクトルプロファイラ(SP)の実物。500mの幅で月面を観測する分光計で、地質/鉱物分布データを収集する
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クレータの内部と外部で分光特性のデータがかなり異なるのが分かる。解析もまだ始まったばかりだが、今後に期待
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「かぐや」の成果というわけではないが、面白いところでは「月焼」の展示もあった。これは陶芸家の佐藤百合子さんが製作しているもので、月の砂(レゴリス)を再現したものを釉薬に使用している。作るのはかなり大変なようで、うまくいくのは10個中1個くらいだそうだ。
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「さわり心地が楽しい」(佐藤さん)という「月焼」。現在、ネットでの購入が可能だが、販売店も募集中とのこと
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レゴリス(右)を砂時計にすると……。粒子がとがっているので、全部落ちずに止まってしまう
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● 巻き尺のような伸展アーム
Robot Watch的には、やはり宇宙ロボットは注目ポイント。今回のイベントでは、国際宇宙ステーション(ISS)での使用を想定した「EVA(船外活動)支援ロボット」のコンセプトが展示されていた。外壁の手すりにテザー(ひも)を伸ばし、その張力を調整して自由に移動することができるという。
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4本のひもでボディを固定
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張力の調整で移動できる
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テザーを引っかけるためには伸展アームが用意されており、その試作機が展示されていた。巻き尺を想像してもらうと分かりやすいが、ロールから出ると素材(CFRP)が筒状になり、アームとなる仕組み。モーター1つでアームの伸縮が可能なので、非常にシンプルな構造だ。
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伸展アームの試作機。重力があると曲がるので、先端は吊してある
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巻き取り時には平らになるが、外に出ると丸まって強度を持つ
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用途としては、外壁の検査、太陽電池の掃除、構造物の組み立てなどが考えられているそうだ。3年後に「きぼう」の曝露部を使って実験する計画。
● 「かぐや」のスラスタも展示
ちょっとマニアックなところでは、人工衛星・探査機で使われるスラスタの展示も。
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「かぐや」にも搭載されたという推力1Nのスラスタ。これは1液式で、ノズルの隣に触媒(イリジウム)が入っている。IHIエアロスペース製だそうだ
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それでこれが「かぐや」のメインエンジン(推力は500N)。データ中継技術衛星「こだま」のアポジエンジンがベース。実績を重視して、あえて冒険を避けた印象
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ノズル側から覗いてみたところ。これは2液式で、酸化剤(中央の穴)とヒドラジン(外側の穴)が反応して推力を生み出す。混合するだけで着火するので信頼性が高い
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その隣にあった宇宙線の可視化装置も面白かった。肉眼ではもちろん宇宙線は見ることはできないが、この装置の中にはヘリウムガスが充満しており、高電圧の電極を多層に配置。宇宙線が通過した場所は電流が流れやすくなっているので、軌跡に沿って放電が起こり、どの方向から入って抜けたのか分かるようになっている。
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【動画】普段は気がつかないが、地上でもこれだけの宇宙線が……。ただ放射線は建物や地面からも出ており、実際は気にするようなレベルではないとか
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南米上空には宇宙線が多くなる「南大西洋異常地域(SAA:South Atlantic Anomaly)」と呼ばれる場所がある。人工衛星などでは、通過する際に高電圧の機器を止めるなどの対策がとられているそうだ
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● 「きぼう」関連の展示
船内保管室が土井宇宙飛行士のフライトによりISSに届けられ、いよいよ組み立てが始まった日本初の有人宇宙施設「きぼう」。残りの2便も今年度中に実施される予定のため、公開された宇宙ステーション試験棟に実機はあまり残っていないが、注目は高いようで、大勢の来場者でごった返していた。
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第3便で送られる船外実験プラットフォームと船外パレットはコンテナに格納された状態
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この船内実験室はエンジニアリングモデルだ。本物はアメリカにあり、第2便で5月末に打上げられる予定
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ところで、セントリフュージ(右)の隣に何か大きなものが置かれていたのだが、これは何だろう
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● 国内唯一の打上げ「GOSAT」
今年度、種子島からH-IIAロケットを使って打上げられるのは、温室効果ガス観測技術衛星「GOSAT」のみ。2006年度には4機の大型ロケット(H-IIA 10/11/12号機、M-V 7号機)の打上げがあったのに比べると、ロケットマニアには少し物足りないところかもしれないが、GOSATは冬期の打上げとなるようなので、期待して待とう。
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同等のセンサーを使ったデモが行なわれていた。これは航空機用とのことで、衛星に搭載するのはもっと大きくなる
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このセンサーを使って、普通に反射光を観測すると、このようなスペクトルになるが……
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二酸化炭素を通過させると、一部の波長で光が吸収される。これが原理だが、実際の観測には赤外線が使われる
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● グッズ販売も楽しい
こういった一般公開イベントでは、さまざまなグッズ販売も魅力。筆者などは行くたびにTシャツが増えたりするのだが、いくつか新しいものをピックアップして紹介したい。なお、筑波宇宙センターには一般が利用できる販売コーナーがあり、大体はそちらで買うこともできる。
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コンセプトプラスは、発売中のスターリングエンジンのオプションとして、LED発電キットの予約を受け付けていた
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これがスターリングエンジンのキット。部品数は13点で、簡単に組み立てられるという。通常価格6,300円のところ、特別価格5,000円で販売していた
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【動画】微少なエネルギーから効率良く発電するために、強力なネオジム磁石を採用している(先端部)。6月中旬の発売を予定しているとのこと
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ハウスの「スペースカレー」。JAXAから“宇宙日本食”に認定されているもので、通常より味が濃いめとか
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チョコ・クリーム・あんの3種類がある「ロケットパン」。1個150円で、筆者は2つ購入
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施設内にセブンイレブンがオープンしたということで、あらびきポークフランクが記念価格の50円。“50円引き”ではない
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■URL
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
http://www.jaxa.jp/
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・ JAXA、H-IIロケットを一般公開(2007/04/24)
( 大塚 実 )
2008/04/23 00:00
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