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「第4回大阪大学“ゆらぎ”プロジェクト東京シンポジウム」レポート


 9月24日(水)、秋葉原コンベンションホールにて「第4回大阪大学“ゆらぎ”プロジェクト東京シンポジウム 阪大からイノベーション“生体ゆらぎに学ぶ知的人工物と情報システム”」が行なわれた。文部科学省科学技術振興調整費先端融合領域イノベーション創出拠点の形成「生体ゆらぎに学ぶ知的人工物と情報システム」、通称「大阪大学ゆらぎプロジェクト」のシンポジウムで、今回で4回目。

 生体や自然界に普遍的に見られる「ゆらぎ」を利用した制御技術や材料の開発、ネットワーク技術開発、そしてロボット開発を行ない、環境の変化に強い頑健さを持ちながら、省エネ低コストのシステムを生み出すことを目的としている。シンポジウムの様子とパネル展示を合わせて紹介する。なお本誌ではこれまでにもこのプロジェクトについてレポートしているので、合わせてお読み頂きたい。

 はじめに大阪大学総長の鷲田清一氏が「大阪大学は知のネットワークから生まれた」と挨拶。大阪大学の研究伝統は異分野同士、そして学内と学外を繋ぐインターフェイスとネットワークで語ることができることだという。ゆらぎ研究では科学・技術のこれからの方向性に根本的な変革をもたらしたいと考えており、「ゆらぎ」をキーワードにした「ゆるがぬプロジェクト」だと述べた。

 文部科学省科学技術・学術政策局局長の泉紳一郎氏は、科学技術振興調整費の趣旨について既存の領域研究では対応できない領域について研究する拠点をつくることを目的にしていると述べた。現在、21のプロジェクトが走っており、第1期のプロジェクトについては再審査が行なわれる。

 合わせて発表されたばかりの振興調整費のシンボルマークも紹介された。マークの赤は日本を意味し、形はアルファベットのC。ChangeのCだ。白い部分はアルファベットのSを意味しており、これはSystemならびにScienceのSで、研究開発のシステム改革を意味しているという。


大阪大学総長 鷲田清一氏 文部科学省科学技術・学術政策局局長の泉紳一郎氏 振興調整費マーク

大阪大学大学院生命機能研究科 柳田敏雄教授
 続けて「“ゆらぎ”プロジェクトの概要と拠点形成計画」について、大阪大学大学院生命機能研究科の柳田敏雄教授と大阪大学大学院工学研究科の石黒浩教授が講演した。

 柳田教授はまず、大阪大学では未来の科学技術の方向性を変えるというテーマを掲げ、分野を特定せず、オール阪大でテーマを定めていったという。具体的な出口は見えにくいが、このほうが真の意味でのイノベーションを起こせると考えたのだという。

 機械はどんどん複雑化、高速化、厳密化している。だがこの方向の技術発展だけでは人間は違和感を感じるし、環境負荷も大きい。人間と機械の調和を進めるにはどうすればいいか。無理のないシステム機械を作るにはどうすればいいか、そこで定めたのが「生体ゆらぎ」だった。生体は大規模かつ複雑なシステムだが、非常に小さいエネルギーで巧妙にコントロール、管理している。そうしたゆらぎをキーワードに技術展開しようと考えた。ゆらぎプロジェクトでは、生命、情報システム、ナノ材料、そしてロボットの4領域でこれに挑んでいる。

 たとえば脳は140億個の神経細胞が50兆個の結合を持っている。だが脳の消費エネルギーはわずか1ワット。これではノイズを遮断することはできない。だから逆にゆらぎを利用してうまく制御しているのではないかと考えられる。実際に筋肉の分子モーターはノイズ(ブラウン運動)をたくみに使って運動していることが分かっている。この仕組みと、遺伝子発現の熱ゆらぎによる環境適応、人の脳の視覚認知の仕組みなどは、基本的に共通の式、ランジュバン方程式を変形したゆらぎの方程式で表現することができる。分子から脳まで共通原理が使えるわけだ。生物は、ゆらぎを利用して探索して、状態を選択する。

 これはサイエンスだが、エンジニアリングに応用することができる。情報ネットワークでは、事故や災害などで局所的な障害が発生した時に、現在の大規模化複雑化したネットワークを復旧させることは大変な時間がかかるが、このゆらぎ技術を使えば、自律的にルートを選択することができ、短時間での復旧が可能となる。

 また、人間のような複雑な構造を持つロボットでは、ひとつひとつのアクチュエータの制御を単純化したとしても、組み合わせ爆発が起こることで制御が困難となるが、ゆらぎ技術を使うことにより、たとえ制御対象が不明確であっても、また階層性をもったものでもシステム全体を制御することが可能となる。

 最後に柳田教授は、ゆらぎをベースにした様々な要素技術を組み合わせることで、安全・安心・快適で省エネな情報・ロボット社会を作ることが目的だとまとめた。


科学技術の方向を変えることが拠点の目的 4つの領域でイノベーション創出を狙う 脳の消費エネルギーはコンピュータより桁違いに小さい

筋肉の分子モーターは熱ゆらぎを積極的に利用する ゆらぎ方程式

研究ロードマップ ゆらぎイノベーションから生まれる可能性のある未来社会

大阪大学大学院工学研究科 石黒浩教授
 石黒教授は「システム改革と拠点整備」について講演し、このプロジェクトの特徴として、多くの分野や幅広い業種にまたがる企業との融合研究であることを挙げた。7年目、10年目それぞれに目標値を立てて、技術移転計画を立てているという。そして考えられる市場展開を見ると新分野だけではなく既存分野の限られたシェアを取るだけであっても十分なメリットがあるとアピールした。また大学・企業での共同研究における特許戦略のモデルケースとなることも目指しており、来年度に向けてルールを整備中だという。

 企業と連携するには拠点スペースも重要になる。来年からは融合領域共同研究棟内に大阪大学ゆらぎセンターを立てる予定で、これまで散らばっていた研究拠点をまとめてより幅広い企業との連携を進めていく予定だという。また大阪大学には「大阪大学グランドプラン」というものがある。それを具現化するのが「ゆらぎプロジェクト」だと述べた。大学内のリソースを活用する「インダストリー・オン・キャンパス」、人材育成、国際連携なども積極的に進めていきたいという。

 ゆらぎプロジェクトは「研究領域を超えた革新的基本概念」「境界を取り除いた融合研究」「実用化を支える幅広い応用分野」というイノベーションに必要な3要素すべてを備えていると石黒教授は述べた。


ゆらぎプロジェクトのミッションステートメント 実現計画 大阪大学ゆらぎセンターを建設予定

「インダストリー・オン・キャンパス」構想 国際連携でゆらぎ研究を推進 ゆらぎプロジェクトはイノベーションに必要な3要素を備えているという

“ゆらぎ”プロジェクトの研究報告 〜安心・安全・快適な情報・ロボットシステムの実現を目指して

大阪大学大学院生命機能研究科特任教授 上田昌宏氏
 続けて「“ゆらぎ”プロジェクトの研究報告 〜安心・安全・快適な情報・ロボットシステムの実現を目指して」と題した研究の進捗状況報告が4名の教授から行なわれた。

 「生体ゆらぎに学ぶコンセプト」と題して、大阪大学大学院生命機能研究科特任教授の上田昌宏氏が講演した。生命は少々の環境変動には動じない頑健性を持っている。「ゆらぎプロジェクト」では、生き物は自分のシステムのなかに変動要因、つまりゆらぎを最初から内包していると考えている。そのため外界が多少揺らいでも動じることはない。そのような工学設計指針を持った機械を作ることがプロジェクトの目的の1つだという。たとえば分子モーターで動く人工筋肉アクチュエータだ。

 上田氏は分子モーターのふるまいについて解説して、それを一般化したゆらぎ方程式のコンセプトを解説した。簡単にいうと、系の状態が悪いときには「ゆらぎ」を使ってふらふらと動き、系の状態がよくなってきたら、決定論的にポテンシャルの低いところに落ち着くというものだ。

 ではこれは、多数の素子を繋いだ系でも応用できるのか。多数の分子モーターをバネで繋いで解析したところ、従来のモデルでは説明できなかった筋肉の高効率性を解明できたという。その原理をもとに、村田製作所、そして三菱重工業の2社と共同研究して、新しいリニアアクチュエーターを作っている。

 実際の生き物は確率的に動作する素子を階層的に積み上げて、きちんと働くシステムを作っている。細胞は非常にゆっくりしか動かない、低エネルギーで駆動する分子機械から構成された大規模なシステムである。現在は細胞内で分子機械が働いている様子を、1分子イメージングという手法で可視化することができる。それを観察すると、一番下の要素は確率的に動いていることがわかる。だが細胞性粘菌などに見られるように、細胞は自分たちで秩序を形成して、ある目的のために運動することができる。

 細胞の運動は決定論的ダイナミクスと自発ゆらぎで動く。細胞単位ではゆらぎのためのエネルギーを自分自身で作っているという。特に環境変動が起きたときに、自発ゆらぎがある程度あるほうが、環境変化によく対応できるのだそうだ。自発ゆらぎ形成メカニズムを数理モデル化することにも成功しており、やはりゆらぎがないと、生き物らしい動きができないという。

 これを階層化したときには、上層で目標を決めてやると、下の階層の要素がゆらゆらとゆらぎながら、上の層のアクティビティ項が最適な状態に落ち着くようなふるまいをするシステムが考えられる。これは、最下層の要素をきっちり制御することで目的を達成させるこれまでのシステムとはまったく異なる設計思想だという。


生体ゆらぎを解析して新しい工学設計指針を提供する 分子モーターから人工筋肉へ 筋肉の高効率性を解明

2社とリニアアクチュエーターを開発中 三菱重工業と共同研究しているハルバッハ磁石配列を使ったリニア電磁アクチュエータ 細胞はゆらぐ分子機械で作られたゆらぎ内包システム

多数の細胞が集まって1つの個体のように動く粘菌 自発ゆらぎを内包することで環境変動にロバストになる

生体はゆらぎによって高次元システムをいい加減に制御している ゆらぎ探索と階層化

大阪大学大学院工学研究科特任教授 松本吉央氏
 「生体ゆらぎを用いた複雑なロボットの制御」については、大阪大学大学院工学研究科特任教授の松本吉央氏が講演した。これからのロボットは、ロボットの構造自体が複雑化しており、また周囲の環境が複雑な状況で働くことを求められている。さらにロボットが対応する相手である人間の動きは予測が難しい。つまり、これからのロボットにおいては、モデル化困難な世界で行動することが重要だという。

 ゆらぎ方程式によれば、生物はゆらぎを利用して自己制御をオーガナイズしているシステムだと考えられる。これをどのようにロボットに応用するのか。まず制御対象の項はポテンシャルを微分したものだが、ここでいうポテンシャルとは、ロボットの状態と行動を軸とするアトラクタの埋め込まれた高次元空間だと考えられる。そしてタスクの達成度を表すアクティビティと、ポテンシャル空間を探索するゆらぎのおかげで、間違ったアトラクタにとらわれることなく、環境変動に強いロボットが作れるという。

 アトラクタを持つ制御構造はどうやって作ればいいのか。作りこめばいいのだが、そうできない場合はどうするかというと、適当に格子状にアトラクタを並べた空間を作り、ロボットを動かすと、アクティビティというフィードバックが帰ってくる。これによって適当に並べたアトラクターが、フィードバックによって真のポテンシャルに近づけることができる。よって、ゆらぎ探索を使った制御方法であれば、取りあえず未知のポテンシャル空間でも適当に動かすことができるという。


 松本教授らは人間と同様の骨格構造と筋肉配置を持ったアームロボットを作った。ロボットは、どう動かせばどう動くか分からない。そこでそこは乱数でランダムにアトラクタを作ってしまう。そこに動かすことでアクティビティのフィードバックを返す。そして目的の値に近づけていく。手先を回すタスクをやらせると最初はランダムな軌道を描くが、やがて綺麗な円軌道に近づいていく。ある高さに手をもっていかせるタスクでも、同様の結果が得られたという。細かい制御なし、モデルなし、アクティビティという指標だけで複雑なロボットを動かすことが可能になったと述べた。

 それ以外に、複数ロボットの役割分化、1つのバクテリア模倣型ロボット、アンドロイドロボット、内視鏡手術支援ロボット、補助人工心臓などの研究開発を行なっている。たとえば、アンドロイドロボットを医者の診察に同席させ、患者の動きに同期して動かすことで、診察の評価が上がるという結果が得られたという。

 松本氏は「ゆらぎ」を用いたデバイス、制御で人に親和性の高いロボットを実現し、心地よい社会を実現することが我々の期待するイノベーションだと述べた。将来的には生物らしい知性の実現に近づけるのではないかとも考えられるという。

 また従来的な手法、すなわち強化学習と遺伝的アルゴリズムを組み合わせたものと何が違うのかというフロアからの質問に対しては、違うと答えた。強化学習で26次元を学習させるのは現状ではほぼ不可能だという。また石黒教授も質問に答えて、強化学習は状態空間をきっちり表現した状態で探索を行なうが、ゆらぎのやり方は、元の状態空間の探索はまったくランダムでもいい点が異なると述べた。従来的なやり方ではノイズはあくまでおまけで、状態を表現する関数をどうよくするのかに力が注がれていたが、ゆらぎではノイズが主体でそれを積極的に利用していくため、これまでのものとは全く異なるという。


ロボットが直面している課題 ゆらぎ方程式の解釈 アクティビティ項はタスクの達成度を示す

制御対象は未知でも問題なし 人間の筋骨格構造を再現した26自由度のアームロボット 26自由度のアームロボットの実物展示も行なわれた

【動画】タスクをやらせたところ タスクの軌道 階層性

階層性を持ったロボットの役割動作決定 バクテリア規範型ロボット ゆらぎを利用したロボットの制御を目指す

アンドロイドを使うと診察の評価を上げることができる 内視鏡ロボット

大阪大学大学院情報科学研究科 村田正幸教授
 次に大阪大学大学院情報科学研究科の村田正幸教授が「生体ゆらぎを用いた耐故障性の高い情報ネットワーク」と題して講演した。

 現在の情報ネットワークは高精度で厳密な最適制御を行なうことを前提に組まれている。だがネットワークは大規模化しており、さまざまな環境を考えなければならない。

 ネットワーク技術においては、ゆらぎ方程式の「制御構造」は制御プロトコルの動作、系の状態(アクティビティ)についてはシステム遅延、スループット、信頼性。そしてゆらぎについては、ノイズによるシステム駆動、局所最適解からの脱出、環境変動への適応がそれぞれ対応する。環境変動に柔軟に適応化可能な情報ネットワークを創り、新しい情報ネットワークアーキテクチャを実現することが目的だ。

 これまでのネットワーク技術では情報をいかに集めるか、集めた情報から如何に誤差を取り除くか、最適解を如何に解くかが重要だった。ゆらぎを利用したアプローチは従来のやり方とは根本的に違ってそれらを最初から全てひっくるめて書くところが違うと村田教授は強調した。負荷が新たに加わったときにも素早く対応できるという。

 このような仕組みは、センサネットワークにおける適応的経路選択に使うことができる。アドホックネットワークの必要性が増しているが、無線環境の通信品質は常に変化するし、ノードそのものも移動する。それらにも十分適応できるという。またそのほかアトラクタ選択を用いた光仮想網制御や、自律分散型カメラセンサネットワーク制御による見守りシステム、そして「ゆらぎプロセッサ」をアプリケーションとして示した。

 「ゆらぎプロセッサ」とは、いまはソフトウェアで書いて処理しているゆらぎを、従来のプロセッサに加えて、コプロセッサでゆらぎを実現しようというものだ。FPGAで実装するとソフトで実現するよりも800倍程度速くなったという。今後はFPGAではなく、新規開発の材料を使ったゆらぎナノデバイスを使うことで、もう二桁ほど速くなるという。村田教授は、ゆらぎプロジェクトによって、新世代ネットワークの一部を実現することが目標だとまとめた。


ゆらぎに学ぶ情報システムネットワーク ゆらぎ方程式から情報システムへの展開 負荷変動に対して強いネットワーク

アプリケーション例(阪大実施分) アプリケーション例(協働研究実施分) アドホックネットワークへの適用

協働研究機関との研究体制 アトラクタ選択を使った光仮想網制御 カメラセンサネットワーク

ゆらぎプロセッサを使ったシステム化 FPGAを使ったシステム ゆらぎによる自己組織化センサーネットワークアーキテクチャ

大阪大学産業科学研究所 川合知二教授
 「生体型ゆらぎセンサ・プロセッサに関する材料開発」については大阪大学産業科学研究所の川合知二教授が報告した。ゆらぎナノデバイスを作ることが目的だ。ゆらぎが生物の根本的原理であることが分かってきた。それを工学的に利用するための素子だ。ゆらぎ機能を出す機能化の壁、そして材料の壁は既にだいたい乗り越えたという。

 既存のシリコンベースの半導体テクノロジーはノイズ利用の観点からは最適ではない。ノイズを抑える方向で開発されてきたからだ。ゆらぎ回路を使うことで、体積が減り、消費電力が大幅に減るという。またシステムは非常に簡略化できる。それをゆらぎ材料を使うことでさらに大幅に大きさが小さくなり、大規模集積化が可能になる。

 生体システムは確率的に動く素子で高次機能を実現している。そのなかで重要な役割を果たしているのが確率共振だ。確率共振現象とは、外界の環境ゆらぎや内部から発生するノイズを積極的に利用してセンシング能力を向上させるもの。ノイズが大きくてもSN比を向上させることができる。たとえばノイズがあるほうがむしろ音がはっきり聞こえるようなことが起きる。

 たとえば脳が持っていると思われている確率的スイッチングやヒステリシス現象を伴う高度な情報処理を、ノイズで制御することで電子回路で再現できるという。特にコンピュータを使わずノイズを使って閾値判断ができるものを創ることができる点が特徴だそうだ。確率共振素子の集団協調動作をプロセッサとして使うことで、環境変化に対してロバストなロボットを作ることもできるという。川合教授は、入力、出力、情報処理の3つの基本機能を確率共振素子で作ることができたと述べた。

 また、ゆらぎを利用するためのコンパレータ機能とノイズ発生機能を、ある無機物質(現在特許申請中でまだ明かせないという)を使うことでできる例を示した。またそのほか、ある有機分子の固有ゆらぎを使った確率共振素子の例などを示した。これまではゆらぎ原理を回路で機能化してきたが、今後は材料をよりうまく選ぶことで集積化・小型化できるとし、今後は、さらに駆動電圧を下げて低消費電力を実現できるという。

 シリコントランジスタ素子では消費電力を下げるのはどうしても限界がある。だが、確率共振素子、ゆらぎプロセッサを使うことで、2020年にはシリコントランジスタの1%を置き換えただけで年間100億円の節約が可能になる計算だという。応用は、ロボットシステム、情報システムだ。イノベーションは従来にない新規市場を開拓することが期待されるものだが、現在市場の1〜2%を占めるだけでも大きな経済効果があるという。

 川合教授は、個人的感想として「いつの時代もいろんなイノベーションがある。最初はケチをつけたくなるが、そのなかでだんだん応用されていくのだろう。いま我々は歴史的転換点の時代にいるんじゃないか」と述べた。


ゆらぎ回路、ゆらぎ材料・素子を使うことによるイノベーション 確率素子の集合体である生体 確率共振を使ったセンサー

【動画】確率共振素子の集団協調動作を使ったロボット。光に向かっていく 確率共鳴素子の基本コンポーネンツを材料開発で置き換えてさらに小型化・集積化 ゆらぎ素子の集積化

ゆらぎデバイスはこれまでにないイノベーションを実現するかも 既に各種特許を出願 応用はロボットシステムと情報システム

パネルディスカッション「企業が期待している真の未来開拓に向けて」

パネルディスカッションの様子
 最後にパネルディスカッションが行なわれた。パネルでは主に企業側から大学との共同研究に対する期待が述べられた。司会・コーディネーターは大阪大学産業科学研究所の川合知二教授。パネリストは下記のとおり。

・オムロン株式会社 執行役員常務 技術本部長 今仲行一 氏
・日本電信電話株式会社 情報流通基盤総合研究所所長 篠原弘道 氏
・三菱重工業株式会社 神戸造船所 先端製品・機械システム部 主任 日浦亮太 氏
・株式会社村田製作所 材料開発統括部 機能材料研究部 主席研究員 河野芳明 氏

・大阪大学大学院生命機能研究科 柳田敏雄教授
・大阪大学大学院工学研究科 石黒浩教授

 川合教授が提案したアジェンダは下記の4つ。

1) 企業は大学との共同研究に何を期待するか
2) 今そして今後、産業と社会で問題になっていくことは? 生体に学ぶゆぎが起こすイノベーションとは?
3) 知財、大学システムの改革において、企業側から見てどのようなシステムを期待するか?
4) ゆらぎプロジェクトはこれからどのように挑戦していくのか?


 まず、企業だけではできない真のイノベーションとは何かについて、パネラーから感想が述べられたあと、川合教授がさらに企業側が期待することについて問いかけた。三菱重工業の日浦氏は「日々色々な視点に触れられる。今までと違う視点を入れるというのは価値があること」と述べた。村田製作所の河野氏は「生体は1個1個は結構いい加減な素子が寄せ集められて面白いことをしている。ゆらぎという言葉はふところが広く仲間を作りやすい。だけど、そのぶん分かりにくいところがある」と述べた。

 それに対し川合氏はそこが気になると突っ込んで、このような新しい視点の取り組みに会社としてどこまで力を入れるべきなのか、そのときにどんな決断を企業はするのかと問うた。

 NTTの篠原氏は「近未来の最適化的な研究だけをやっていては、リターンも小さい」と応え、ゆらぎプロジェクトのように、ハイリスクだがハイリターンがあるかもしれないプロジェクトにもおびえずに進捗状況に合わせて取り組んでおり、その態度は企業として揺らいだりはしていないとこたえた。

 オムロンの今仲氏は、ゆらぎプロジェクトの研究案件に対して、その成果はほとんどの商品に関係があり、「もし実用化できれば我々の製品もがらっと変わる」と応えた。また、中国の学生たちの活力と上昇志向を見ていると、今の日本は簡単に追いつかれるのではないかと懸念を述べ、その先の仕込みとして、ゆらぎのようなアプローチに期待していると続けた。

 NTT篠原氏も、「情報通信の世界では学生の人気は非常に低い。ケータイの価格はタダになってしまい、技術の価値はなかなか認められていない。将来に向けた大きなインパクトを作ることが大事なのではないか」と、人材育成の観点からもゆらぎプロジェクトのような新しい視点の研究は必要だと述べた。

 村田製作所の河野氏は研究の出口の出し方について答えた。「10年後にこんなものを世の中に出したいというときに、そこに至るまでに派生した小さな出口もある。それは社内でやる。それをやらないと続かない場合もある。ロングレンジのことをやりたければやりたいほど、足腰の強さが必要だ」という。


オムロン株式会社 執行役員常務 技術本部長 今仲行一 氏 三菱重工業株式会社 神戸造船所 先端製品・機械システム部 主任 日浦亮太氏 日本電信電話株式会社 情報流通基盤総合研究所所長 篠原弘道氏

株式会社村田製作所 材料開発統括部 機能材料研究部 主席研究員 河野芳明氏 司会・コーディネーターの大阪大学産業科学研究所 川合知二教授

大阪大学大学院生命機能研究科 柳田敏雄教授(左)、大阪大学大学院工学研究科 石黒浩教授(右)
 大阪大学側からは、柳田氏は直接の担当者は個人的にはポジティブな人が多いが、企業内のプロセスになると、どうしても5年後の実用化が求められ、トップまで行くとなかなか難しいところがあるのではないかと雑感を述べた。石黒氏は、企業から期待されていることは人材交流が大きいのではないかと感じているという。

 ゆらぎプロジェクトに期待することとしては、オムロンの今仲氏が「エネルギーを20%削減しろということは企業ではなかなか難しい。だが、半分にしろと言われると意外とできる」と紹介し、ゆらぎプロジェクトのような新規の取り組みに対しては、さらに二桁三桁の変化を期待していると述べた。他のパネリストからも、従来の考えを打ち破るようなものに対して期待するという声が上がった。特に持続可能という視点から、エネルギー削減が重要になっているという。

 それに対して石黒氏は「私はわりと楽観的。こういう方向性は必ず起こるだろう」と述べて、逆に別の角度から問題点を提起した。「10倍のパフォーマンスが出せるようになったら、全体の消費エネルギーはそのままで、10倍使ってしまうのが人間ではないか。エコを目指して本当にエコにいくのか、それとも産業力を出すのか。我々の生活環境設計は技術開発とはまた別に考えなければならないのではないか」とし、「技術を持ったときに何を為すべきかと考えることも大学では必要なのではないか」と述べた。これに対して村田製作所の河野氏は、「使う側の論理に立っていればそんなにむちゃくちゃなことにはならないだろう」と答えた。


大阪大学理事・副学長 西尾章治郎氏
 新しいものに取り組むための大学や企業のシステムがどうあるべきかということについては、特に知財を整理するためのパテントプールを作ってもらいたいという声が上がった。特にプロジェクトに参画するためには相応の対価がはっきり分かるシステムがれば、企業は参画しやすくなるという。ただ、開発が進んでいくと、特に業種が近いところではどうしても知財の取り合いが始まってしまう可能性もあるという。

 最後に大阪大学理事・副学長の西尾章治郎氏が「ゆらぎプロジェクトは大阪大学が打ち出した基本コンセプトのさきがけ的なものとして位置づけていきたいと思っている」と閉会の挨拶を述べて、シンポジウムを締めくくった。


URL
  ゆらぎプロジェクト
  http://www.yuragi.osaka-u.ac.jp/

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( 森山和道 )
2008/10/10 12:47

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