愛知県豊田市のトヨタ本社に隣接するトヨタ会館には、トヨタパートナーロボットが常時展示されており、デモンストレーションを間近で見ることができる。
トヨタ会館は、1977年11月にトヨタ自動車の創立40周年を記念して設立された。「環境」「安全」に対するトヨタの取り組みを中心に、企業姿勢や活動を展示物と映像で紹介している。
先月蒲郡で開催された「がまごおりロボット講演会」で講師の高木宗谷氏(自動車株式会社理事・パートナーロボット部)から、「トヨタ会館で、ロボットバンドの生演奏を聴くことができる」と伺った。万博の時は、広いステージを上から見下ろすようにしてロボット演奏を聴く形だったのが、トヨタ会館ではステージから客席までが3mと、ごく近い距離で音楽を楽しむことができるという。
そこで夏休み前に、トヨタ会館へロボット達に会いに行ってきた。本稿では、トヨタ会館で見てきたロボット達をレポートする。
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トヨタ本社(愛知県豊田市)
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本社に隣接するトヨタ会館
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● シアターショーでロボットバンドの生演奏
トヨタ会館内のシアターでは、平日にロボットバンドの演奏が行なわれる。シアターの客席は80席。ステージ間近でトヨタパートナー・ロボットの生演奏を鑑賞できる。
真っ暗なステージに、ルパン三世のテーマを合奏しながら4体のロボットが登場した。このロボット達には、それぞれちゃんと名前がある。リズム感抜群のドラムス「リッチー」、力持ちのチューバの「チャック」、二輪タイプのトランペット演奏ロボット「デイブ」、バンドのリーダーで二足歩行ロボット「ハリー」だ。
ロボット達は、電子化した楽譜をメモリーとして持っている。金管楽器を吹くロボットは、メモリーを参照して身体の中にある肺の役割をするポンプから空気を送り、人口唇をふるわせ、人と同じようにロボットの指が楽器のピストンバルブを押して演奏している。この人工唇の開発と、リズムに合わせて動く指の開発に時間を有したという。
開発の途中で、学生時代にチューバを吹いていた人がメンバーに加わり、自分が演奏している時の唇をメカ的に解析した。これで、唇の振動を楽器に共振させるというメカニズムを、機構的に再現することができたそうだ。最初のうちは「ピー」とか「ガー」という音だった。そこから人が吹く音に近づけるのに1年くらいかかったという。
先日のロボット講演会で、高木氏が「トランペットロボットの演奏を披露した当初は『上手すぎる。お腹にテープレコーダーが入っているみたいに聞こえるから、もっと下手に吹いた方がいい』と、大勢の方に言われた」というエピソードを披露していた。実際にこうして演奏を聴くと、そういいたくなるのも分かる気がする。
ロボット達は、体全体でリズムをとりながら実に楽しそうに活き活きと楽器を演奏する。ハリーが足でリズムを取り、チャックとデイブがそろってハリーの方に向きなおるところなど、本当に息がぴったり合った演奏だ。
このタイミングの取り方は、万博当時は各ロボットの体内クロックを微調整し、互いの演奏のタイミングを同期させていた。今はロボット間で通信し、それぞれの状況を確認しながら同期するという制御技術を搭載しているそうだ。
楽団メンバーは続いてジャズのメドレーを演奏。そして最後の曲「世界に一つだけの花」は、ハリーの周囲をメンバーが楽器を演奏しながら動きまわるという、派手なデモンストレーションだった。
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【動画】司会の女性がバンドメンバーの名前紹介
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【動画】ドラムス「リッチー」とチューバの「チャック」の演奏
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【動画】二輪タイプのトランペットロボット「デイブ」の演奏
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【動画】体全体でリズムをとりながらジャズの演奏をする
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【動画】最後の曲では、ハリーの周囲をメンバーが楽器を演奏しながら動き回る
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シアターショーでの合奏は1日に1回だけだが、エントランスホールに展示されているパートナーロボットは、1日に3回トランペットのソロ演奏を行なう。
演奏時以外の静展示中は背中を支柱に支えられているが、演奏時は自立して、展示ボックスの中でステップを踏みながらトランペットを演奏していた。本当に目の前で、手を伸ばせば触れるくらいの距離でロボットの動きを見ることができるのが嬉しい。もちろん、ロボットに触れることは厳禁なのは言うまでもない。
間近で見ると、トランペットのピストンバルブを押す指先は、他の指と材質が違うことが分かる。ロボットが演奏する金管楽器は、マウスピースから空気が漏れないように加工してあるが、ベースはヤマハの市販楽器だ。
トヨタがパートナーロボットのデザインで一番悩んだのは、表情だったという。ハニワや能面を参照して、日本の「和」の文化を取り入れ、見る方向が変わると表情が変わって見えるデザインで、かつ親しみやすいイメージを大切にしている。
また、二足歩行ロボットの軽量でスリムなボディは、安全面に配慮したもので、男性の成長パーセンタイルで比較すると、身長145cm、体重40kgのサイズは、ちょうど10歳の男の子と同じくらいであり、他社のロボットと比較してかなり軽いという。
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エントランスホールには、トヨタパートナーロボットが常時展示されている
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トランペットは市販品でマウスピースだけをロボット用に改造している
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顔のデザインは能面をモチーフにしている
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【動画】至近距離でパーソナルロボットの演奏を聴くことができる
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【動画】トランペットのピストンバルブを押さえる指先は、素材が違っている
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【動画】情感を込めて体全体でリズムをとり音楽を表現している
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● 案内ロボット「ロビーナ」のデモンストレーション
トヨタ会館には、昨年8月から館内の案内係として働くロボット「ロビーナ」がいる。以前は実際に館内の展示物を案内していたが、最近エントランスでのデモンストレーションに変わったそうだ。
ショーの時刻になると、受付横のオフィス通路からロビーナが登場した。駆動系はスカート状のボディに隠れていて見えない。音もなくスルスルと動く。ロビーナは来場者に日本語で挨拶した後、流暢な英語でも挨拶をした。トヨタ会館には海外からの訪問者が多い。特に中国や韓国、インドの方がツアーで訪れるそうだ。
デモンストレーションの内容は、クイズと障害物を検知した自律走行、ペンで紙にサインするという3項目だった。
クイズはロビーナが三択問題を出題し、観客が答えるというもの。1~3の数字で答えると、ロビーナが音声を聞き取って「正解です」と拍手し、回答に関する説明を補足してくれる。「近い将来は、もっと言葉を覚えて楽しく会話ができるようになったらいいなぁ」とロビーナが言っていた。
次に、自律移動性能をアピールする歩行のデモンストレーションを行なった。前述のようにロビーナは以前、来場者と一緒に館内を移動し、展示物の案内していた。トヨタ会館のように広いスペースを自律で動く時に、事前にロボットへマップ情報をインプットするというやり方は実用的ではない。
ロビーナは自分で館内を2~3周すると、どこにどんな展示があるのか、通路内の壁の位置などを記憶し、自分自身でマップを作成する。マップに従って移動する際に人がいれば、ちゃんと避けて動くことができる。
今回のデモンストレーションは、ロビーナに搭載された移動技術の一端を披露した。フロアに低い障壁で通路を作り、その中をロビーナが壁を避けて移動していった。帰りは、壁を取り払って人が立った。ロビーナは「近くを通ります」と声をかけながら、人を避けて移動した。
最後に右手にマジック、左手に色紙を持ち、自分の名前をサインした。ロビーナの指は3本で、親指に当たる指は2本の真ん中に正対する位置にある。マジックは、2本の指の間に親指が入るげんこつ握りだ。
このように色紙を手に持ったまま文字を書くと、紙がたわむため制御が非常に難しいという。ロビーナは腕の力をセンシングして筆圧を調整してサインを書いているそうだ。ロビーナのサインを見た来場者は、「うまいなぁ」と感心していた。
ショーが終わると、ロビーナはさよならの挨拶をする前に「カメラをお持ちですか? よかったら撮ってください」と、記念撮影のポーズをしてくれた。
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【動画】ロビーナがクイズを出す。簡単な会話の認識ができる
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【動画】センサーで障害物を検知して、自律で移動する
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【動画】人をよける時には、声をかけながら移動する
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【動画】色紙の上においたポストカードにサインをするロビーナ
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3本の指でペンを握ることができる
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色紙は2本の指で支え、上からしっかり押さえている
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ロビーナのサイン。来館者から「うまいなぁ」と感心の声があがっていた
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ロビーナの手のひら
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後姿
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髪型がアシンメトリーなためか、角度によって表情が違って見える
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【動画】デモンストレーションが終わると、ポーズをとって記念撮影に応じてくれる
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【動画】最後の挨拶
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● 未来のコンセプトユニット「i-unit」
エントランスには、「i-unit」も展示されている。
i-unitは低姿勢モードのときのサイズが全長1,100×全高1,800×全幅1,040mm。重量は180kgのパーソナルモビリティだ。走行スピードによって車高を変えることができ、ゆったり走る低速姿勢モードのときには、搭乗者の視線は立っている人と同じ高さになるように設計されている。
一方、高速姿勢モードでは、前輪がグッと前に出るとボディを支えるフレームが下に沈みこみ、搭乗者は席にすっぽり包まれた形でソファでくつろぐような姿勢になる。低重心の姿勢で、高速走行でも安定した操作性を確保している。
i-unitの前輪は左右独立で操舵制御されている。また、後輪はインホイールモーターを採用。左右それぞれ逆回転させることができる。その場で回転するデモンストレーションのときには、回転方向の前輪の向きを変えてくるくる回っていた。
2階のi-unitの展示コーナーでは、i-unitが未来の街を走るCGが流されている。筆者が小学生の頃、元旦の新聞には「21世紀の街」の想像図が掲載されていた。超高層ビルの間をチューブが縦横無尽に張り巡らされて、その中を車が走り回っているようなイラストだ。しかし、21世紀がちょっと遠い未来ではなく、リアルな将来になってからそうしたイラストを見る機会はなくなった。
トヨタ会館の中には、そんな懐かしいような映像がいくつもある。子どものころに見たイラストは、SFチックな夢物語だったが、実際に動くi-unitと一緒に、未来のモビリティCGを見ると、もう少し先の未来には、こうした風景が実現するのだろうか。今も多くの技術者がこのような未来を実現するために、研究開発を続けているのだと感じられて、わくわくしてくる。
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エントランスに展示されているi-unit
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【動画】i-unitは、指紋認証で搭乗者を確認する
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後方からみたところ。搭乗者の頭の位置が、立っている人と同じくらいの高さになるよう設計されている
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【動画】i-unitの通常走行
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【動画】回転方向前輪の向きを変えて、その場で旋回
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【動画】高速モードに変形して、走行する
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高速モードを左後方から見たところ
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i-unit展示ルーム
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【動画】i-unitが走る未来風景
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トヨタ会館にはロボット以外にも、トヨタが取り組んできたハイブリッドカーやエコカーの展示、トヨタ生産方式の説明など、様々な展示物がある。
夏休みに親子でトヨタ会館を訪れて、最新ロボットやRT(ロボットテクノロジー)が搭載された車の解説を間近で見てはいかがだろうか?
トヨタ会館の開館日は月曜~土曜日(8月9日(土)~8月17日(日)は夏季休暇)の9:30~17:00。見学無料。ロボットの実演スケジュールは以下の通り。
[エントランスショー]
・トランペット演奏(所要時間3分)
月~金 10:00 10:45 11:45 13:15 13:45 14:15 14:45 15:45 16:15
土 10:00~16:00の毎時00分
・i-unit実演(所要時間5分)
月~金 10:50 13:20
・ロビーナ実演(所要時間10分)
月~金 15:15
[シアターショー]
・ロボット合奏(所要時間15分)
月~金 11:15
※ショースケジュールは変更になることがある
■URL
トヨタ会館
http://www.toyota.co.jp/jp/about_toyota/facility/toyota_kaikan/
トヨタ自動車株式会社
http://www.toyota.co.jp/index.html
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( 三月兎 )
2008/07/23 00:59
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