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トヨタ「パートナーロボットとつくる未来のカタチ」
~“ロボットづくりのまち”を目指すがまごおりロボット講演会(1)


産業用ロボットで培ったノウハウの転用

高木宗谷氏(トヨタ自動車株式会社理事・パートナーロボット部)
 6月7日(土)、愛知県蒲郡市にて「がまごおりロボット講演会」が開催された。主催は蒲郡商工会議所、蒲郡技術科学振興会、愛知工科大学、蒲郡市。

 蒲郡市は昨年、産官学の連携により市の経済を支え伸展する産業創出を期待して、“ロボットづくりのまち”を目指すことを表明した。昨年12月には蒲郡のRT(ロボットテクノロジー)産業に関わる人たちをパネリストに迎えシンポジウムも実施している。

 この蒲郡市は、ホテルのロビーで働くロボットの開発などにも取り組んでいるが、まだ市民の中にロボットがビジネスとして浸透しているとは言い難い。今年は市民へ一層の定着を期待し、ロボット技術の最先端の取り組みついて紹介することを目的に、講演会を行なった。会場は満員で、後方に補助席が用意されるほどの盛況ぶりだった。本稿では、トヨタ自動車株式会社理事・パートナーロボット部の高木宗谷氏の講演についてレポートする。

 高木氏は、2005年に開催された「愛・地球博」でトヨタが披露したトランペットを吹く二足歩行型のロボットや、2007年12月に発表した「バイオリンロボット」、モビリティロボット「モビロ」などの開発を手がけ、現在はパートナーロボットの実用化に取り組んでいる。

 今回は「パートナーロボットとつくる未来のカタチ」と題して、2001年から始めたトヨタのパートナーロボット開発の経緯や開発コンセプト、万博以降のパートナーロボットの実用化に向けた取り組みについて語った。


トヨタの産業用ロボットの取り組み トヨタの考えるパートナーロボットのビジョン パートナーロボット開発コンセプト

 そうして誕生したロボットが、2005年の万博「愛・地球博」でデビューした、楽器を持った7台のロボットバンド「コンチェロ」と、お喋りをするロボット、搭乗型ロボットの「i-Foot」だ。愛知万博では、トランペットを吹く二足歩行ロボットが3体と、ドラム、トロンボーン、ホルン、チューバを持ったロボット4体で聖者の行進などを演奏する、10分程のステージショーを披露した。

 万博の期間中は1日14~15回、185日間で2,555回の公演を行なった。大体1時間おきに際限なくステージがあるため、舞台裏では戻ってきたロボットを充電して、すぐ次の出番に送り出した。まるで、車の製造ラインのようなカタチでロボットを運用したという。厳しいスケジュールだったが、会場で4~5時間も待ってくださるお客様のために、ステージを中止することはできず、ロボットの信頼性には気を配ったと高木氏は言う。

 このような信頼性確保については、トヨタが長年培ってきた生産ラインの考え方が基本になっているという。工業製品は下の【図1】が示すように、時間の経過とともに故障率が変化する。これはバスタブ曲線と呼ばれ、縦軸が故障率、横軸が経過時間を示している。この図のように装置や設備というのは、初期の故障率が高い。この時期にバグの出にくいソフト開発、電機ハード部品のロバスト設計など品質の作り込みを行なう。また、ロボットを200~300km歩かせて、耐久試験や故障モードの影響分析も行ない、不具合を徹底的に直していく。

 そうして、ある程度故障率が一定に落ち着いたところで装置を運用する。しかし、接触不良や異物噛み込みなどの偶発故障はいろいろな形で発生する。それに対しては、定期メンテナンスで予防保全をする体制を取った。

 このようにしてロボットの信頼性を高め、万博の期間を乗り切って、266万人に見てもらうことができたという。


2005年愛・地球博で披露されたトヨタ・パートナーロボット パートナーロボットのデザイン・コンセプト 楽器演奏ロボットの技術

愛・地球博でのステージの運営。ライン生産のようなスケジュールでこなしていたという 【図1】長期間展示での信頼性確保の考え方。生産ラインの経験を基本としている 偶発故障対策。耐久試験・故障モードの影響分析を徹底した

トヨタが目指すパートナーロボットの方向性

 日本は急速に少子高齢化社会に向かっている。このまま進めば2055年には総人口が減少し、生産人口は半数近くまで減ると予測されている。

 高木氏は、日本が少子高齢化やエネルギー資源・環境の制約などの問題を解決することができれば、今後同じ状態がでてくる中国や韓国などに対し課題解決先進国となり、国際社会のモデルケースとしてリードしていけるのではないかという。

 もちろんこうした問題解決にあたっては、子育て支援や雇用制度など社会制度の面から問題解決をはかることも重要である。その一方で、高木氏は「技術屋として、エネルギー技術や情報技術という科学技術からのアプローチで課題を解決して、社会の活性化を手伝っていきたい」という。その一つとして、ロボット技術があるというスタンスだ。

 労働人口の減少に対しては、技能や知識のある方が歳をとってもできるかぎり働けるように環境の整備が必要だ。そのために、老後の負担になるような力仕事などをロボットで軽減しながら、シニアの方が技能や知識を生産に活かせ続けられるように整備する。

 高齢化に伴い体力が低下しても、若いときと同じように活動できるようにサポートする、新しいモビリティも必要になるだろう。一方、女性の社会進出も重要となる。そのために、男性も女性もゆとりをもてるように家事をサポートしなくてはならない。

 このようにニーズが多様化・高度化していき、従来の機械では対応できないことが多くある。


少子高齢化・エネルギー資源、環境問題などの解決へのアプローチ 多様化するニーズと課題

 こうした背景を元にトヨタが考える人の役に立つパートナーロボットとは、大きく3つのジャンルに分類される。

 ベースとなるのは、製造ものづくりの現場での負担軽減や、技術スキルのアシストをするロボットだ。そのほかパーソナル移動支援や、介護福祉支援、家事支援など家庭福祉の領域で役に立つパートナーロボットの開発を目指していくという。

 製造モノづくりの現場では、重量物の組付けや勘合作業などスキルや力をアシストするウエアラブルなロボット。またロボットにより、熱処理作業など劣環境作業の代替を行なう。こういったことを進めていきたいと考えているという。

 パーソナル移動でのRT活用としては、ドアtoドアならぬ“ベッドtoベッド”を考えているという。つまり、朝ベッドから起きてロボットに乗って外へでて、街中を若い人と同じ目線で道路を安全に移動でき、ショッピングやアウトドアで楽しむことができる移動手段としてのロボットだ。

 介護医療では患者さんの支援として、届かないものを取ってあげたり、案内や歩行の介助を行なう。看護士の支援として、抱きかかえ介助や身体の清拭、リハビリ支援などにロボットを役立てたいと考えている。


製造業におけるRTの活用シーン パーソナル移動におけるRTの活用シーン 介護・医療におけるRTの活用シーン

 このようなロボットを開発する要素技術として、人と協調する技術、移動技術、全身運動能力、道具を使う能力、知能技術の開発を進めている。

 人と協調する技術に関しては、既に車の生産ラインの中でこれまで2人の作業員が阿吽の呼吸で行なっていた作業を、ロボットと人が協調して行なう装置を実現しているという。また、熟練が必要な緻密な作業をアシストする、ウェアラブル装置の開発も行なっている。例えば、ガラス面に接着剤を塗布する作業は、マシンのノズルを押して塗布する溶剤の量を均一に出しつつ、一定のスピードで波線の軌跡を整えて一筆書きしなくてはならない。初心者では、一度にいくつもの条件に気を配りながら正確に作業することは難しい。ウェアラブル装置を装着することで軌跡は機械の誘導に任せ、量とスピードのコントロールだけに集中できるため、熟練者と同じように作業が可能となるという。

 こうしたウェアラブルアシストは、介護シーンなどでも有効になる技術である。ウェアラブル装置を実用化するために、軽量化および人との接触や衝突時の安全性を考えて、ワイヤー駆動技術のロボットも開発している。


人と協調する技術のロードマップ ウェアラブルアシスト。装着型のロボットで動作のアシストやパワーアシストをする ウェアラブルの実用化を目指し、ワイヤー駆動技術を開発。阿波踊りを踊るワイヤー駆動型ロボットを製作した

 移動技術に関しては、ロボット自身がマップ情報を持ち、自律移動ができたり、雑踏を通り抜けるために障害物回避や、段差のあるところも走行できるなどを課題に開発を進めている。

 トヨタは既に搭乗型ロボットを開発しているが、これまでのロボットは平地しか歩行できなかった。これを解決するために、2輪がそれぞれ独立して動くスイングアーム方式を採用し、斜面や波状路、左右で段差のある路面であってもシートを常にフラットに保つ技術を開発している。

 その他、持ち運び可能な「パーソナル・ムーバー」も開発している。家から駅までは手持ちできるモビリティに乗り、長距離の移動は電車を使い、降りたらまた目的地まではモビリティを使うというロボットと公共交通機関とのマッチングの提案などを検討しているという。

 自律技術を活用したロボットとしては、介助犬ロボット、音声対話で施設内の案内をするロボットなどの研究開発を進めているという。ロボットの全身運動能力に関しては、歩行から走行へとフェイズが進んでいる。道具を使う技術に関しても、指だけの動きで可能だったトランペット演奏から、両手両腕を協調動作させる必要があるバイオリン演奏にと進化している。


移動技術のロードマップ スイングアーム方式で不整地も走行できる倒立2輪ロボット技術 持ち運びできる小型のパーソナル・ムーバー。公共交通機関とパーソナル・ムーバーの融合を提案

自律移動できるロボットによる、要介護者サポートのデモンストレーション。欲しいものを取って来てくれる 障害物や部屋に入ってきた人などを避けて、目的地へ移動することができる 音声認識ロボットによる施設案内ロボットの開発。トヨタ会館でツアー・ガイドを実演している

全身運動能力のロードマップ 脚につま先関節をつけ、蹴る力で40mmくらいのジャンプが可能になった つま先関節を利用し、高い跳躍が可能になり走ることができるようになった

道具を使う技術のロードマップ ロボットハンドを操作して、トランペットを演奏 両手、両腕の巧みな協調動作でバイオリン演奏を実現した

パートナーロボットの実用化にむけて

 ロボットを構成している技術は、メカ設計、電気、システム統合化技術など、トヨタが車製造の中で培った技術と似ているところが非常に多いと高木氏は言う。ITSや意図推定の技術といった車の先端技術と、ロボット特有の物体認識や生体模倣など、広い総合的な技術がインテグレーションされて、ロボットが成り立っている。

 だが、トヨタだけでロボット開発の全てをできるとは思っていない。産官学の連携がロボットの実用化には非常に重要である。トヨタもグループ企業や世界各国の大学や研究機関とコラボレーションしながら、技術開発している。特に東京大学(先端融合領域イノベーション拠点)とトヨタのもつモノづくりの技術を融合させて、先端的なロボットを作っていこうとしている。

 また産産連携としては、保険やリース、販売、コンテンツや運用保守サービスなどソフト産業との連携の中で、ユーザーの方々に役に立つロボットを提供していくというトータルな産業の仕組みがこれから必要になっていく。

 現在は産業用ロボットは安全に対する規格体系ができているが、人と協調して動くロボットに関してはまだそういったものができていない。きちんと法整備をしていくことが、安心してロボットを運用する上で大事だと思っていると述べた。

 今後の研究開発については、介護ロボットは今年の末からいろいろな場所で実証実験を行なっていくという。将来は、住居と職場が近接したシステムタームの中で、暮らしの世話役としてのロボット、歳を取っても若いときと同じように移動できるモビリティ手段を目指して、201X年に皆さんに使っていただけるように開発を進めていこうと考えていると語った。


実用化に向けて、幅広い先端技術の統合が必要である ロードマップを共有し、産官学の連携がキーとなる トヨタの研究コラボレーション

産学連携によるIT(情報技術)RT(ロボット技術)の融合による基盤技術創出 産産連携によるバリューチェーン 産官連携によるパートナーロボットの安全規格策定

2008年、介護・医療支援の実証実験を開始。201X年にパートナーロボットの実用化を目指す 人とパートナーロボットが協働する未来の暮らし

URL
  トヨタ パートナーロボット
  http://www.toyota.co.jp/jp/tech/robot/p_robot/index.html

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( 三月兎 )
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