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神戸サンボーホール
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7月6日、神戸市の神戸サンボーホールにて自治体消防60周年記念アールエスコンポーネンツ杯「第8回レスキューロボットコンテスト」の予選が開催された。主催は、レスキューロボットコンテスト実行委員会、兵庫県、神戸市、株式会社神戸商工貿易センター、読売新聞大阪本社、神戸からの発信ネットワーク。
今年は自治体消防60周年記念事業として、総務省消防庁、財団法人日本消防設備安全センターが特別共催している。
● レスキューロボットコンテストとは
レスキューロボットコンテストは、1995年の阪神淡路大震災後に救命救助機器の技術的課題を検討する中で誕生した。参加者がコンテストの課題に取り組むことで、レスキュー活動の重要さや難しさを考える機会とし、また、広く一般にレスキューシステムやロボットの必要性を広報することを目的としている。
コンテストは、架空の「国際レスキュー工学研究所」内で、レスキューに関する技術評価と訓練のために技術や操縦を競うという設定で実施される。競技は、大地震で倒壊した市街地を模擬した1/6スケールの実験フィールドで行なう。
被災地は二次災害の恐れがあるために、レスキュー隊員は立ち入ることができない。被災地に取り残された要救助者(公式愛称をダミヤンという人形)を、大小さまざまなガレキの中から、遠隔操縦によるロボットで救い出すことが課題となっている。
その際、単に救出のスピードを競うのではなく、ダミヤンをいかに優しく助けるかが重要となる。救出中にダミヤンにケガを負わせたり、負荷を与えた場合はポイントが減点される。
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開会式で「ダミヤンを助けるぞ!!」と気合いを入れる参加者達
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レスキューロボットコンテスト実行委員長 升谷保博氏 (大阪電気通信大学)
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競技フィールド。大震災の被災地現場を1/6スケールで再現している
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ロボットはロボットベースから出動する。ベース内に収まり、ゲートをくぐれなければならない
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【動画】ロボットベースからゲートをくぐり抜けて、現場へ向かうロボット達
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要救助者役の人形「ダミヤン」。大小のサイズがある。写真は大で、身長300mm、質量約1kg
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競技の流れを紹介しよう。競技開始前に参加者によるレスキューに対する考え方や、ロボット開発時に工夫した点などをアピールするプレゼンテーションが行なわれる。
次に被災現場にヘリコプターを飛ばした設定で、上空のヘリから送られてくる映像を元に、レスキュー方針を決定する3分間の作戦会議が行なわれる。
作戦会議が終了すると、12分間の持ち時間で被災地から要救助者を発見し、ロボットベースまで搬送するミッションを開始する。
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各競技前にスピーカー(広報担当者)がロボットの特徴や、レスキューに対する考え方のプレゼンテーションを行なう
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【動画】作戦会議。中央にあるグレーのコントローラーでヘリテレを動かして上空からの情報収集をしている
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● 今大会から特殊ガレキが追加され、難易度がアップ
今大会からルールの変更があり、競技の難易度がアップしている。昨年度までは、チーム内に“ヘリテレ”と呼ばれる、フィールドを俯瞰してビデオで撮影した映像をコントロールルームへ送る役割があったが、今年から遠隔操縦のカメラに変更された。昨年のヘリテレは、撮影者が目視で撮影ポイントを選ぶことができたが、今年からは被災地を目視で俯瞰することができなくなった。
また、昨年度は予選時にはコントロールルームからフィールドを見て、ロボットの操縦をしていたが、今大会では本選と同様に、コントロールルームとフィールドは隔壁で遮断された。
フィールド上には“特殊ガレキ”と呼ばれる屋根型のガレキが追加された。大規模震災時には建物が垂直に崩れ落ち、倒壊した建物の中に被災者が取り残されていることがある。そうした状況を想定して、今回は屋根型特殊ガレキの下にダミヤンが配置された。
予選では、屋根ガレキは1棟しかなかったが、本選では複数の屋根ガレキが配置される。ヘリテレからでは屋根に遮断され、ダミヤンの位置が特定できないので、ガレキの下をサーチするロボットが必要となる。特殊ガレキの下のダミヤンが追加されたため、今大会から3体のダミヤンを救助することになった。
全体的に「ロボットを遠隔操縦してレスキュー活動を行なう」というコンテストの基本が徹底されるルールとなっている。ただし、予選に限り“ウォッチャー”と呼ばれるメンバーが、実験フィールド外からフィールドを目視して、コントロールルームにトランシーバーで情報を伝達することが認められている。
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コントロールルームと実験フィールドを隔てる壁に、被災地の上空を飛んで情報収集するヘリコプターを模したカメラが設置されている
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ロボットに搭載されたカメラから、コントロールルームに送られてくる映像。この映像を見てロボットを操縦する
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ウォッチャーがトランシーバーでコントロールルームに情報を伝える
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レスキューロボットの中には、1機でガレキ除去、救助、搬送の機能を併せ持つ万能型ロボットもあるが、各機能を分散させてロボットが協調して救助にあたるタイプもある。
救命ゴリラ!(大阪電気通信大学自由工房)は、万能型ロボット3機を製作した。しかもそれぞれが特徴あるロボットだ。競技中は3機がほぼ同時にダミヤンの元に到着して、全ダミヤンを救助した。今回の予選で唯一、3体の救出に成功したチームだ。
ミノーズ(岐阜高専)は1号機がガレキ除去、2号機が救助と搬送、3号機が情報収集とそれぞれ機能を分けている。専用機にすることで、ロボットの機能がシンプルになるという利点がある。各ロボットの連携が見事だった。
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救命ゴリラ!(大阪電気通信大学自由工房)。各ロボットがそれぞれ1体ずつのダミヤン救助に成功した
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【動画】救命ゴリラ!の2号機。1機でガレキ除去、ダミヤン救助、搬送まで行なっている
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救命ゴリラ!は、3台全てが違う機構の万能型ロボットだ
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【動画】ミノーズ(岐阜高専)の1号機が、ダミヤンの周囲にあるガレキを除去すると、すぐに2号機がやってきて救助を行なう。その間に1号機は次のダミヤンの元へ移動する
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ミノーズ2号機がダミヤンをレスキューする間、3号機がサイドから地面近くの映像を撮影してコントロールルームに情報を送った
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ミノーズの3号機。左車輪の下側にカメラを搭載。救助中は旗を立てて周囲に救助活動のアピールもする
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ダミヤンの救助方法は、多くのロボットがアームでダミヤンを持ち上げて、ロボット本体をベッドに乗せていた。ダミヤンを高く持ち上げずにベッドに移したり、アームを空気圧の人工筋肉で制御し、パワーの加減をできるようにするなど、各チームともダミヤンに負担を掛けないように工夫を凝らしている。
各チームのロボットがどのようにダミヤンを救助したのか、写真と動画で紹介しよう。
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TRRL(津山高専 電子制御工学科)の2号機。ダミヤンをアームで持ち上げて、ベッドに乗せる。ダミヤンが高く持ち上げられると、見ている方もハラハラする
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【動画】なだよりあいをこめて(神戸市立科学技術高校 科学技術研究会)の4号機。ダミヤンを高く持ち上げずに、コンベア式のベッドに乗せて救出するタイプ
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【動画】太助隊(産業技術短期大学)。車輪ロボットに人型ロボットを搭載している。現場についたら、車から降りてダミヤンを抱き上げて車に戻る予定だった
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【動画】O.U.S.桃太郎(岡山理科大学 知能機械工学科)。空気圧で伸展する6本のアームを使ってダミヤンを救助する。搬送用ロボットに乗せてレスキュー成功!
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【動画】アームの爪は空気圧で動くため、圧力を加減してダミヤンを優しくレスキューできる。ベッドが上手に出なくて、救出に失敗してしまった
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チューブ内に空気圧で動くゴム人工筋肉が入っている。空気を入れると人工筋が収縮する
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【動画】六甲おろし(神戸大学)の3号機。ダミヤンの両脇にアームを差し入れ、抱き上げるように車体に乗せる独特の救助方法
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Rescation(広島大学 教育学部)の2号機。前方の大きなアームでダミヤンを包み込むように救助する
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新たな課題である屋根ガレキに対して、各チームが対策を施していた。大きく分けると、屋根ガレキを押して取り除くタイプ、持ち上げて除去するタイプ、屋根の下からダミヤンを救助するタイプの3パターンがあった。
ちなみにこの屋根ガレキは約3kgと重いが、実行委員会は、ロボットが簡単に屋根ガレキを除去できるとは予想していなかったらしい。本選ではもうすこし屋根の除去が困難になるようにする、ということだった。
屋根下のダミヤンを救助する場合、ロボットが親子型になっていて、子機が屋根の下に潜ってダミヤンを引っ張ってくるタイプが多かった。この時、単一カメラでは奥行きを把握するのが難しく、ダミヤンのボディにアームを掛けるのに手間取るチームが多かった。
そうした中で、ミノーズ(岐阜高専)は、親子型ロボットの3号機が屋根下のダミヤンを救助する際に、サイドからの映像を2号機がコントロールルームに送り、正確で素早い救助活動に成功した。
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屋根ガレキは、歩道橋が邪魔をしてヘリテレでは映らない位置にある。ロボットから送られる映像だけで救助しなくてはならない
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MS-R(金沢工業大学 夢考房)の4号機。小さなロボットだが、てこの原理で屋根ガレキをひっくり返して除去した
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【動画】六甲おろし(神戸大学)は、屋根ガレキを押して取り除いた。ダミヤンの上をロボットが通過するのは見ていて怖い
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【動画】救命ゴリラ!(大阪電気通信大学自由工房)の3号機。親機が屋根を押し避けて、子機がダミヤンの洋服を掴んで救助した
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【動画】おかQ(岡山大学ロボット研究会)の2号機。屋根の下のダミヤンを子機が救助しようとするが、アームがつかえて潜り込むことができない
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【動画】親機が屋根を持ち上げて、子機がダミヤンを救助することができた
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【動画】ミノーズ(岐阜高専)。3号機がサイドから撮影した映像で、2号機のレスキュー活動をサポートしている
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ロボットの駆動方法にも、各チームで工夫が見られた。唯一の高校生チームだった、なだよりあいをこめて(神戸市立科学技術高校科学技術研究会)は、ホバークラフト型のロボットを製作した。車輪型より速く移動できるため、フィールド内の偵察を担当するという。
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なだよりあいをこめて(神戸市立科学技術高校科学技術研究会)。本選までに、ホバークラフトロボットの旋回性能をアップしたいと語っていた
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六甲おろし(神戸大学)の3号機。今大会最小ロボット。四輪駆動で、その場で旋回するなど小回りが利く
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MS-R(金沢工業大学 夢考房)の1号機。車輪ではなく脚式で移動する。ガレキ上の走破性が高いという
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レスコンの面白さは、コントロールルームでチームメンバーが力を合わせ、複数のロボットや機材を使ってダミヤンの救出に当たっている点にある。
今年から全ロボットがレスコンボードを使用するようになり、1台のロボットにカメラを3機まで搭載し、映像の切り替えができるようになった。だが、転送できる映像は1つに限られている。1機のカメラでは視野が狭く距離感もつかめないため、ガレキ除去やダミヤンの救出が困難だ。そのため、ヘリテレや他のロボットからの映像で情報を補完しながら、活動することになる。
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【動画】Rescation(広島大学 教育学部)の2号機は、機体トラブルで救助したダミヤンを被災地に残して一度ベースに戻り、再びダミヤンを救助に向かった
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【動画】Rescationのコントロール室。バックでロボットベースに帰還する2号機のオペレータを、メンバーがサポートしている
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【動画】TRRL(津山高専電子制御工学科)の2号機。競技終了時間間際に、ダミヤンを救助しようとしている
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【動画】その時のTRRLコントロール室の様子。壁に映っているのはヘリテレの映像。オペレータはロボットからPCに送られてきた映像をチェックし、周囲の指示を受けながら操縦している
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● コンテストを通じ、レスキュー活動について考える
競技結果は救出状況と、救出中にダミヤンに与えたダメージを総合した得点で評価される。救出状況は、ダミヤンに辿り着いた(現場到着)、ダミヤンを道路へ救出した(救出完了)、ダミヤンをロボットベースまで搬送(搬送完了)の3段階で評価する。この時に、ダミヤンを乱暴に扱ってダメージを与えると減点される。本選ではダミヤンの体内にあるセンサーで判断するが、予選では、審査員がダミヤンのダメージを判定する。
競技を見ていると、ダミヤンが救出中にロボットに轢かれたり、アームからこぼれ落ちたり、搬送中に路面に落とされたりと可哀想な状態になることもあった。そうした“事故”以外にも、アームで高くもちあげられたダミヤンがフラフラ揺れたり、頭を下にして持ち上げられたりするのを見ると、ハラハラしてしまう。
人形だと分かっていても、ついついダミヤンに感情移入して「痛いっ」と呟いたり、無事に救助されるとほっとする。それというのも、参加者が本気でダミヤンを救助しようとしているのが、観客席にまで伝わってくるからだろう。
例えば、搬送中のダミヤンが被災地の状況を見てショックをうけないように、ベッドの周りを柔らかい色のカーテンで囲んだチームがあった。逆に、ガレキの中から救助された後に狭いベッドで搬送されたら、閉所恐怖症になるだろうと、スケルトンのカバーをつけたチームもある。
Rescation(広島大学 教育学部)の2号機は、車体後方に自力移動できる負傷者が乗り込めるスペースを用意した。また、阪神大震災被災者から「不安な時に、声を掛けてもらって力づけられた」という体験談を聞き、ロボットにスピーカーを搭載した。救助中にコントロールルームからダミヤンに話しかけ、不安や緊張を取り除く配慮だ。
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桜菜(日本大学 波多野研究室)の2号機。搬送中のダミヤンに被災地を見せないように、ベッド周りをカーテンで囲っている
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Rescation(広島大学 教育学部)の2号機。車イスの被災者もロボットで搬送できるように、車体の後にスロープをつけた
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太助隊 (産業技術短期大学)。人型ロボットで優しくダミヤンを抱き上げて救助したいと考えた
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そうしたダミヤンに対する気配りは、競技の得点に直接影響するわけではない。本選のダミヤンは体内のセンサーで痛みを感じるが、今はまだ恐怖心や安心感を検知できるレベルではないのだ。
他にもMS-R(金沢工業大学 夢考房)は、「ヘリテレは、被災地の大まかな状況把握はできるが、実際の救助活動時に詳細な映像データを送ることはできない」という考えから、あえてヘリテレを使わずに、ロボットからの映像だけでダミヤンを救出した。
このように参加者達は、単に競技の課題をクリアするだけではなく、レスキューロボットを開発する過程で、より深くレスキュー活動のあり方について考えている。
現実の世界でも、災害現場で活躍するレスキューロボットの研究開発が進められているが、一般の目に触れることは少ない。8月9日(土)~10日(日)に、同会場で本選が開催される。誰でも自由に見学できるレスキューロボットコンテストを見て、レスキュー活動やレスキューロボット、防災について考える機会としてほしい。
本選出場チームは以下の通り。
●上位8チーム
・救命ゴリラ!(大阪電気通信大学 自由工房)
・ミノーズ(岐阜高専)
・桜菜(日本大学 羽多野研究室)
・O.U.S.桃太郎 (岡山理科大学 知能機械工学科)
・レスキューHOT君(近畿大学 産業理工学部)
・六甲おろし(神戸大学)
・おかQ(岡山大学 ロボット研究会)
・MS-R(金沢工業大学 夢考房)
●チャレンジ枠 (審査員推薦)
・TRRL(津山高専 電子制御工学科)
・レスキューやらまいか(静岡大学 ロボットファクトリー)
●地元推薦枠
・なだよりあいをこめて(神戸市立科学技術高校 科学技術研究会)
・太助隊 (産業技術短期大学)
■URL
レスキューロボットコンテスト
http://www.rescue-robot-contest.org/index.html
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・ アールエスコンポーネンツ杯「第7回レスキューロボットコンテスト」予選レポート(2007/07/12)
( 三月兎 )
2008/07/10 00:16
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