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「宇宙ロボットって何だろう?」
~“ロボットづくりのまち”を目指すがまごおりロボット講演会(2)


中谷一郎氏(愛知工科大学 工学部 ロボットシステム工学科教授 工学博士)
 6月7日(土)、愛知県蒲郡市にて「がまごおりロボット講演会」が開催された。主催は蒲郡商工会議所、蒲郡技術科学振興会、愛知工科大学、蒲郡市。

 本稿では、愛知工科大学工学部ロボットシステム工学科教授の中谷一郎氏の講演「宇宙ロボットって何だろう?」をレポートする。

 講演が行なわれた週は、宇宙開発にとって記念すべき2つの大きなイベントがあった。ひとつは、日本の有人宇宙施設「きぼう」の船内実験室が、宇宙飛行士星出さんの活躍により起動したこと。ふたつ目は、米国が2007年8月に打ち上げたフェニックスという火星探査機が、火星に着陸したことだ。こうしたエポックメイキングがあった時に、宇宙に関する夢のある話を聞くことができるとあって、会場は満員となっていた。


宇宙ロボットとは?

 中谷教授は「そもそも宇宙探査とは何なのか?」という説明から始めた。実は探査というのは曖昧な言葉で、いろいろな意味があるという。人によって探査の定義が違い、例えば火星にグライダーを飛ばす、木星に帆掛け船(ソーラーセイル)を上げる、赤外望遠鏡を上げて遠方の惑星を探す……など、いろいろな探査方法があり、意味が込められているのだ。共通しているのは、そうした探査機の全てが宇宙ロボットだということだ。

 一言で宇宙探査ロボットといっても、実は2種類あるという。ひとつは「近地球ロボット」という地球の周囲を回る宇宙ロボット、もうひとつは月よりも遠い水星金星といった惑星にまで行く「深宇宙ロボット」だ。

 近地球ロボットは、宇宙飛行士の活動を支援するマニピュレータなどが中心だが、深宇宙になるとかなり状況が変わってくる。例えば火星まで電波が往復するのに40分程掛かるため、地球から無線で火星上のロボットを操縦することは難しい。そのため、火星探索機には高い自律性が求められる。

 こうしたマニピュレータや探索機というのは、一般には「ロボット」とは認識されにくい。だが、いずれもミッションを果たす自律性を持った立派なロボットだと、中谷教授は講演中に何度も繰り返した。

 宇宙開発に関してニュースが流れる時、TVには宇宙飛行士の活躍がクローズアップされるが、その影では人の活動をロボットが助けて大活躍しているのだ。


近地球軌道上で活動する宇宙ロボット 月や惑星上で活動する深宇宙ロボット

惑星探査の発展

惑星探査の発展
 惑星探査は、1970年代のフライバイから進歩してきた。1970~80年にソ連(現ロシア)が行なったフライバイは、惑星に着陸せずに傍を観察して通りすぎた。もう少し時代が進むと、周回機で長期間観察をするようになった。だが、世界でも最高の分解能をもつ「かぐや」でも、月の立体地図を10mくらいの精度でしか作成できない。もっと精密にcmやmmといった単位で探索しようとするならば、惑星に着陸しなくてはならない。

 着陸したら、周囲を動き回って調べる必要が生じる。着陸した地点だけを見て判断することはできないからだ。例えば、地球も東京と蒲郡、サハラ砂漠では周囲の状況や環境はまるで違う。蒲郡だけを調べて地球の全てを探査したとは言えないように、惑星の正確な情報を得るためには、広い範囲の観測は必須である。このあたりのミッションから直接探査となり、探査の意味が大きく変わってくる。

 そして次のステップは、探索機が惑星のサンプル(表面の物質)を地球に持ち帰ることで、これは現在、科学者の夢になっているという。今、日本の小惑星探査機「はやぶさ」が小惑星「イトカワ」のサンプルを採取して、地球に帰還しているところだ。


 宇宙探査にロボットの活躍が期待される理由は、いくつもある。現在の段階では、人が惑星に行くのは危険だから、まずロボットが行くほうがよい。ロボットには、空気も食べ物も水も不要で、真空や高温・低温、放射線などの環境要因も人より融通が利く。またロボットは、機能を限れば人より作業効率がよく、顕微鏡を必要とするようなマイクロな作業から、非常に大きな構造物建築作業までこなすことができるという利点がある。

 こうした宇宙ロボットは、アニメのような人型ロボットである必要はない。人の代わりの機能を果たす知能機械であればよいと中谷教授は言う。必要なのは打ち上げ時の震動や衝撃に耐えること、460度という金星の高温や、-180度のタイタンの低温、厳しい放射線環境、真空・高圧、微小重・高重力といったさまざまな極限状態に耐える機械であることだ。

 そしてトラブルがあった時には、人がロボットの元までメンテナンスに行けるわけではないので、ロボット自身が故障診断をして回復する機能、不測事態に対して柔軟に対応するなど高度な人工知能が要求される。


宇宙は厳しい放射線環境だ 金星の表面は460度と高温 土星の月(タイタン)は-180度

日本の宇宙探査ロボット

 日本でも火星探索機「のぞみ」や、金星の気象観測「Planet-C」水星探索計画「BepiColombo」、計画段階のプロジェクトで太陽電力セールプロジェクトなどが、さまざまな宇宙の謎に挑戦している。


水星探索計画「BepiColombo」 太陽電力セールプロジェクト

 その中のひとつに、前述の小惑星探査機「はやぶさ」がある。

 「はやぶさ」に搭載された小さな探査ロボット「ミネルバ」は、「はやぶさ」から小惑星「イトカワ」に投下され、地表を動き回り探索をするロボットだ。この「ミネルバ」の移動方式は、中谷教授がいた研究室の大学院生のアイデアが元になっているという。

 小惑星「イトカワ」の重力は、地球の重力と比較すると1~10万分の1と非常に小さい。重力がないところでは車輪は働かないので、ミネルバはジャンプで移動する方式を採用した。円筒形の本体内部に搭載したモータを回転させると、ロボット本体には逆向きのトルクがかかって回転する。超微小重力の惑星上で地表を押して飛び上がるという、新しいタイプのアクチュエータを考案したのだ。「ミネルバ」は、他にもチャレンジングな機能が搭載されていたロボットだという。

 「イトカワ」は、長辺がわずか530mのジェリービーンズのような形をした小惑星だ。これだけ小さいと惑星に探査機を落とすのが大変難しい。残念ながら「ミネルバ」の投下は成功しなかったが、今は2号機に再びミネルバを搭載するために検討を重ねているという。

 一方「はやぶさ」は、小惑星「イトカワ」のサンプルを採取する機能を搭載している。惑星に着地した瞬間に射出器から弾丸のようなものを惑星に打ちつけて、表面が硬ければ飛び散った破片を、砂状なら巻き上がった砂を採取するタッチ&ゴー方式だ。中谷教授は、はやぶさがサンプルを採取する方式をシミュレーションと、実験装置の動画で紹介した。


小惑星探査機「はやぶさ」。惑星のサンプル(表面の物質)を地球に持ち帰るミッションに挑んでいる 「はやぶさ」から撮影した小惑星「イトカワ」の写真 探査ロボット「ミネルバ」。てのひらにのるほど小さなサイズだ

【動画】「ミネルバ」の無重力空間での動作テスト ミネルバの内部モーターで本体を回転させると、その反動で地表を蹴ってジャンプする 【動画】「はやぶさ」の着地時のシミュレーション

【動画】「はやぶさ」着地の地上実験の様子 【動画】「はやぶさ」のサンプル採取機構。「イトカワ」に着地した瞬間にサンプルを採取する

 月探査ロボットも、月周回衛星「かぐや(SELENE)」が非常にいい成果をあげているという。「かぐや」は月を周回軌道上から観測しているが、計画中のSELENE2号は月面に降りることを検討していて、科学者の間でどこに着陸するか、活発に議論しているという。現在は画像航法による着地や、着地時のシミュレータ実験、5輪の月面ローバーの走行実験を実施しているという。

 この5輪ローバーは、カメラで周囲の状況を撮影し、地形や障害物を認識して環境マップを構築、自己位置を推定して自分でルートを計画し行動する知能を搭載している。月面にいるローバーを地表からコントロールすることはできないため、ローバー自身が人間のように自分で径路計画やセンシング、科学観測計画を立てて動くロボットだ。


月周回衛星「かぐや(SELENE)」のミッション SELENEの後継機を検討中 着陸地点の候補がいくつも上がっている

5輪月面探索ローバー 【動画】5輪月面探索ローバーの不整地走行 【動画】5輪ローバーは、真ん中の車輪を使って段差を登っていくことができる

夢が広がる宇宙探査ロボット

 中谷教授は、他にも研究開発中の宇宙ロボットにはさまざまなものがあると、紹介した。


火星にグライダーを飛ばして探索するロボットの研究 惑星に穴を掘って内部の探索をするロボットの研究 NASAの火星ローバー

木星の月(エウロパ)の氷の下の海を探索する構想 土星の月(タイタン)にパラシュートで軟着陸する構想

 このように月や惑星探索には、ロボット技術が非常にたくさん使われている。今後より賢いロボットが必要になり、ますますロボットの人工知能開発が重要になってくるだろう。宇宙のような極限状況で使われるロボット技術は、地上でも役に立つ技術であるという。

 日本の宇宙飛行士は精鋭がそろっており、2020年代には月面基地に行くことになるだろう。中谷教授は、近い将来に人間とロボットが協調して宇宙で活躍する時代になるだろうと、講演を締めくくった。


URL
  愛知工科大学/愛知工科大学自動車短期大学
  http://www.aut.ac.jp/index.html

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( 三月兎 )
2008/06/25 17:52

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