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産総研ほか、「OpenHRP3」をオープンソースで配布開始
~ソフトウェア再利用によって開発コスト低減を目指す


 6月18日、独立行政法人産業技術総合研究所、国立大学法人東京大学、ゼネラルロボティクス株式会社は、ロボットソフトウェアプラットフォーム「OpenHRP3」をオープンソース・ライセンスでユーザーに配布開始するとアナウンスし、共同で記者会見を開いた。

 「OpenHRP3 (Open-architecture Human-centered Robotics Platform version 3)」は、科学技術連携施策群次世代ロボット連携群のテーマの一つである「分散コンポーネント型ロボットシミュレータ」プロジェクトにおいて次世代ロボットの共通基盤技術となるシミュレーション・ソフトウェアとして開発されたソフトウェア開発・シミュレーション用統合ソフトウェア・プラットフォーム。CORBA(Common Object Request Broker Architecture)を用いた分散オブジェクトからなるシステムとして構成されており、それぞれの機能を提供するサーバーを別々のマシンで走らせて計算負荷を分散させることができる。

 「OpenHRP」を用いることで、ユーザーは独自のロボットモデルと制御プログラムを動力学シミュレーションで検証できるようになる。他のシミュレーターに比べると計算速度や精度もロボット開発において実用的であり、さまざまな種類のロボットに対応可能な統合的な環境として提供している点が異なっているという。またロボットのソフトウェア開発に活用可能な各種のソフトウェア・コンポーネントと計算ライブラリも提供する。これまでは限定ユーザーに対して配布されていたが、今回、オープンソースで一般配布開始となった。対応OSはLinuxとWindows。

 各機能を提供するソフトウェアは、産総研が主に推進し国際標準化団体「OMG」によってインターフェイスが標準化されている「RTコンポーネント(RTC)」という部品として構成されており、RTCを組み合わせることでロボットの動力学シミュレーションや視野画像シミュレーションの計算を行なえる。

 「RTC」は産総研が開発しているロボット用ミドルウェア「OpenRTM-aist」のソフトウェアモジュールの基本単位でもあり、「OpenHRP3」は「OpenRTM-aist」のシミュレータとしても使える。また開発したソフトウェアモジュールはRTミドルウェアのコンポーネントとしても利用可能だ。このような仕組みを使ってソフトウェア資産を共有・継承することで、個々のハードウェアや実現したい機能に応じて多数のさまざまなソフトウェアが必要となるロボット開発の手間が削減でき、開発の効率が可能になるという。


産総研知能システム研究部門ヒューマノイド研究グループ・中岡慎一郎氏(右端)、東京大学情報理工学系研究科知能機械情報学専攻の中村仁彦教授(中央)、ゼネラルロボティクス代表取締役社長・五十棲隆勝氏(左端) シミュレーターを使うことでロボット開発・運用が効率良く行なえる 他のシステムとの比較

ソフトウェアはRTコンポーネントという部品としてモジュール化されている 【動画】動力学シミュレーションの様子 【動画】視野画像シミュレーション

 「OpenHRP3」では動力学計算エンジンに東大中村・山根研究室グループが開発した「ADA(Assembly-Disassembly Algorithm)エンジン」と産総研が開発した「ABA(Articulated Body Algorithm)エンジン」の2種類の計算エンジンを新規に開発して実装した。

 東大グループが開発したADAは閉リンク機構を含む剛体リンクのシミュレーションが可能であり、ロボットの身体の自由度が増えて複雑になっても対応できる点が特徴。計算誤差が大きくなりがちな指先と腕のように小質量と大質量とが混在する物体でも、精度良く計算できる。かつ、リンク間の相互作用を複数CPUを使って並列計算を効率よく行なえるという。このような特徴により東大版のADAは自由度が非常に多いロボットに対して効率的であり、いっぽう産総研版のABAは、比較的自由度が少ないロボットに対してはより高速に動くというふうに使い分けができるという。

 衝突や接触の処理には複雑な接触条件においても安定かつ効率的に解を得られるアルゴリズムを開発し、厳密な計算が行なえる「拘束条件法」による反力計算を採用した。多くの接触を伴うシミュレーションも行なえるようになった。

 GUIは主にゼネラルロボティックス株式会社が開発した。「アイテム」と呼ばれる各作業に応じたデータ構造と、それを表示編集するための「ビュー」と呼ばれるGUI部品を標準単位としており、ユーザーが独自に開発した機能を追加することも容易になっているという。その他の部分や全体設計については独立行政法人産業技術総合研究所知能システム研究部門のヒューマノイド研究グループとタスクインテリジェンス研究グループが開発した。


東大グループによるADAエンジンを実装 複雑な接触シミュレーションも可能に ユーザーが機能追加しやすいGUI

 OpenHRP3の大きな特徴は、バイナリ配布だったOpenHRP2に対して、オープンソースになったこと。ソフトウェア内部のソースコードを公開することによってユーザーは内部で行なわれている実際の処理過程を見て、不具合があったらそれを自分で修正できるようになった。配布にはEPL(Ecipse Public Licence)を採用した。EPLとは、利用は無償だが改良版などの派生物を作った場合は同一ライセンスが適用されてソースコードの開示義務を負うというもので、これによって改良版もみんなが使える。またソースコードに対して特許権の行使を行なうことはできない。

 OpenHRP3のモデル情報は共通規格で記述しており、剛体で体が構成されているロボットならば車輪型ロボットなどもシミュレーションが可能だ。シミュレータを使うことでユーザーは設計がちゃんと動くかどうかをシミュレータで検証し、問題があるなら設計にフィードバックして、ハードウェアもソフトウェアも問題点を改良してよりよいものにして動かすことができるようになる。

 デモでは産総研 知能システム研究部門 自律行動制御研究グループ主任研究員の喜多伸之氏により未知の障害物を発見・回避しながら新たね経路を自分で見つける車輪型の移動ロボットの研究に、実際にOpenHRP3を用いた例なども示された。


【動画】箱のような物体の落下シミュレーション 【動画】3輪の車輪型ロボットの動きと搭載カメラ(赤い点)からの視野画像シミュレーション 【動画】ロボットが床上の物体をつかむシミュレーション

【動画】RTCをドラッグ&ドロップで繋いでいける 【動画】パイプを使って床上のビデオテープを持ち上げるHRP-3のシミュレーション。実時間シミュレーションではない 実際にはポリゴンとして計算されている

【動画】OpenHRP3を使った車輪型ロボットのシミュレーション 【動画】シミュレーションを行うことで問題を発見し、打つべき対策を検討できるようになる その実際のRTCの構成

 今回発表を行なった産総研 知能システム研究部門ヒューマノイド研究グループ・中岡慎一郎氏は今後について、経済産業省の「次世代ロボット知能化技術開発プロジェクト」(平成19~23年度)の一環として「ロボットソフトウェアプラットフォームの開発」において継続開発を実施していき、次世代ロボット開発の共通基盤技術となることを期待すると述べた。共通化の検証や応用も、このプロジェクトのなかで行なっていくという。

 これまではおおよそ300件程度のダウンロードがあったが、今後はより多くの研究者に使ってもらうことを目指す。簡易なインストーラーも準備中だという。

 研究代表者で産総研 知能システム研究部門 副研究部門長の比留川博久氏は「現在おおよそ10億円くらいかかっている開発金額を引き下げ、3~5億円くらいでロボットを開発できるようにしたい。そうすれば10億円の販売額でも見合うようになる」と語った。


産総研 知能システム研究部門ヒューマノイド研究グループ・中岡慎一郎氏 産総研 知能システム研究部門 副研究部門長 比留川博久氏

URL
  産業技術総合研究所
  http://www.aist.go.jp/
  ニュースリリース
  http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2008/pr20080618/pr20080618.html
  OpenHRP3
  http://www.is.aist.go.jp/humanoid/OpenHRP/jp/
  東京大学 中村・山根研究室
  http://www.ynl.t.u-tokyo.ac.jp/index-j.html
  ゼネラルロボティクス
  http://www.generalrobotix.com/

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( 森山和道 )
2008/06/19 01:08

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