5月10日、独立行政法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC)横須賀本部にて一般公開が行なわれた。一般公開では研究室公開や講演のほか、水中ロボットの公開も行なわれた。ロボットを中心にレポートする。
● 大深度小型無人探査機(ABISMO)
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JAMSTEC海洋工学センター 先端技術研究プログラム 高性能無人探査機技術研究グループ 大澤弘敬グループリーダー
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JAMSTECでは世界最深部の生命圏の理解、海底地殻変動の把握等をめざして、水深11,000mの大深度下で調査観測等が可能な大深度小型無人探査機「ABISMO(Automatic Bottom Inspection and Sampling Mobile)」の開発を進めている。講演では「世界最深部マリアナ海溝への技術試験」と題して海洋工学センター 先端技術研究プログラム高性能無人探査機技術研究グループの大澤弘敬グループリーダーが講演した。大澤氏は以前は波力発電装置「マイティホエール」開発に従事し、いまは東京海洋大学連携大学院准教授も兼任している。
潜水機には有人型と無人型がある。そして無人型にも人間が遠隔操縦する遠隔操縦型無人潜水機(ROV)と、自律で動作する自律型無人潜水機(AUV)がある。「今年のロボット大賞2006」を獲得した「うらしま」は後者である。大事なことは、水中では電波が使えないということだ。だからROVの場合は送電だけではなく操縦のためにもケーブルが必要になる。
AUVにはオペレータが不要、母船上に大がかりな設備を必要としない、ケーブルの影響がないといったメリットがある。デメリットはその逆で、大容量動力源、正確な位置情報の獲得が困難、自律航行のための複雑な制御システムの必要性、そしてリアルタイム観測が困難であることだ。一度潜ってあがってくるまではデータがとれない。
ROVはその逆だ。人が操作するので複雑な制御は必要ではない。ケーブルで繋がっているので、高解像度の映像を見ながらリアルタイム観察することも可能で、マニピュレータ作業ができる。電力は母船から供給できる。運用時間制限も受けない。デメリットはケーブルによる運動の制限、母船が不可欠、母船上に大掛かりな設備が必要となることである。たとえばケーブルウインチも大掛かりなものが必要となる。
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潜水機の種類
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自律型無人潜水機のメリット・デメリット
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遠隔操縦型無人潜水機のメリット・デメリット
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深海探査機はだんだん進歩し、どんどん深いところに潜れるようになった。だが本当に深いところはまだほとんどフロンティアだ。JAMSTECの大深度ROVはこれまでナホトカ号の発見、H2ロケットエンジンの発見、水深約11,000mでの好圧性の未知の生物の発見などを行なってきた。
ではどんな技術開発が必要なのか。個々の技術、要素技術は細分化されているが、潜水機には3大技術課題がある。耐圧技術、音響技術、光学技術である。
深海では常に圧力が作用している。それに対してどのような技術開発をしているのか。1つ目はケーブルである。かいこうの場合はランチャーから切り離されてビークルが探査を行なう。中間ランチャー方式をとっている理由は運動性能を上げるためだ。母船からランチャーを繋ぐケーブルを1次ケーブル、ランチャーとビーグルを繋ぐケービルを2次ケーブルという。ケーブルは軽くて強くなければならない。もう1つは浮力材である。熱硬化型の樹脂のなかにガラスマイクロバルーンを使った軽石のような構造になっているという。
ABISMOは、これまで開発された要素技術を組み合わせて作られた。人間がコントロールするROVである。名前にはスペイン語で深淵という意味がある。支援母船は「かいれい」。2003年南海トラフにて1万m級のROV「かいこう」がケーブル切断により失われてしまったため、その一部機能を補う役割も持つ。ビークルにはクローラーが付けられている。海底で自重よりも重たいものを動かすときに使うという。
これまでに3度潜行テストをしているが、今月の5月26日~6月8日にも、試験潜行を行なう予定だ。「マリアナの最深部(チャレンジャー海淵)で試験をしたい」という。そのため現在ABISMOは分解整備中で、今回は残念ながら公開はなかった。なお1万mの潜行にかかる時間は、片道おおよそ3時間程度だという。
そのほか「ABISMO」に関してはJAMSTECの広報誌に詳しい。水中探査機における位置誤差補正技術や、ROVのマニュピュレータ自律制御技術についても触れられている。
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ビークルの構成
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操縦システム
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● 深海生物追跡調査ロボットシステム「PICASSO(ピカソ)」
深海生物追跡調査ロボットシステム「PICASSO(Plankton Investigatory Collaborating Autonomous Survey System Operon、ピカソ)」の公開も行なわれた。ハイビジョンカメラや深海現場調査用実体顕微鏡(ビジュアル・プランクトンレコーダー:VPR)などを搭載でき、水深1,000mまでの深海に生きる浮遊生物や、マリンスノーなどの様子を追跡・観察するためのロボットだ。
当日、解説を行なっていた極限環境生物圏研究センター海洋生態・環境研究プログラム研究員のドゥーグル・リンズィー氏によれば、バッテリ持続時間はおおよそ6時間程度。現在はUROV(Untethered Remotely Operated Vehicle)形式の探査機でバッテリは内蔵だが操作は人間が光ファイバー経由で行なっている。将来的には画像による生物認識や自律追跡航行機能などの開発をさらに進め、AUVとする予定だという。複数台協調も視野に入れているそうだ。
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深海生物追跡調査ロボット「PICASSO」。ボディ下半分はほぼバッテリ
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先端にはハイビジョン他テレビカメラを搭載
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前面にはLEDライト。深海の魚には赤い光は影響を及ぼさない
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後ろから。細い光ファイバーで繋がれているだけなので航行の障害にならない
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上面からボディ中央のスクリューを覗く
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● かいこう7000
無人深海探査機「かいこう7000」の実機公開も行なわれた。「かいこう7000」は最大潜行深度7000m、ランチャー/ビークル方式の無人探査機である。高知沖で水圧による材質劣化でケーブルが破断、行方不明になった無人深海探査機「かいこう」の代替機として試験機「UROV 7K」をベースに改造した。0~1.5ノットの速力で探査ができる。ビークルのマニピュレータでサンプル採取もできる。支援母船は「かいれい」。
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「かいこう7000」。左がランチャー、右がその下に付くビークル
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母船とランチャーを繋ぐ1次ケーブル(左)と、ランチャーとビークルを繋ぐ2次ケーブル(右)
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ランチャー
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ビークル
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先端部のマニピュレータとカメラ、サンプルバスケット
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先端部のマニピュレータとカメラ、サンプルバスケット
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カメラ部分のアップ
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ビークルを後ろから
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そのほか、水中ラジコン公開や、深海調査曳航システム「ディープ・トウ」の潜航支援、海底の構造探査などを行なう「かいよう」の体験乗船なども行なわれた。各種展示について、まとめて写真でご紹介する。あいにくの雨だったが、多くの人が海洋科学技術の先端に触れて楽しんでいた。記者が横で聞いていた限りの話だが、質問内容もかなりレベルが高く、マニアックなことを聞いていた人が多かったように思われた。
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南海トラフを中心に掘削調査を行なっている地球深部探査船「ちきゅう」の模型。将来はマントルまで掘る
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ちきゅうは「コア(地層サンプル)」を取り、地震の原因や過去の気候変動そのほかを探る
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【動画】「ちきゅう」のドリルビットがコアを堀抜く様子
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コアの一部には温度センサーや歪みセンサーを設置して地殻変動を計測する
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孔内観測装置の模型
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駿河湾の鳥瞰図+「鯨瞰図」
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体験乗船が行なわれた「かいよう」
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「しんかい6500」は模型でも大人気
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1983年に製作された無人探査機「ホーネット500」
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【動画】水中ラジコンの様子
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【動画】水中ラジコンの様子
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株式会社グローバル環境ソリューションのMicro ROV。水中カメラロボット
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操縦装置
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海底地震計
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内部。3軸の加速度の変化を捉える
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しんかい2000。こちらはかつて実際に活躍していた実機
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先端部のカメラとマニピュレータ
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■URL
JAMSTEC
http://www.jamstec.go.jp/j/
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( 森山和道 )
2008/05/13 14:24
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