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大阪にて、富士通・ATRらがサービスロボットに関するセミナーを実施
~商業・流通を変えるロボットテクノロジーソリューション


 3月17日に、大阪のホテル京阪ユニバーサル・シティにおいて、RTを活用したビジネスセミナー「商業施設・流通を変えるロボットテクノロジーソリューション」が開催された。主催は、ロボットラボラトリー。


「enon」の実証実験からみるサービスロボットの実用化

富士通研究所のサービスロボット「enon」
 まず、富士通研究所の取締役内山隆氏が、同社が開発したサービスロボット「enon」の実証実験から見えてきたRTサービスビジネスについて語った。

 富士通研究所は、1980年代に産業用ロボットの開発をスタートし、極限ロボットや宇宙ロボットの開発に携わってきた。1990年になり高齢化社会が問題になったことを受けて、福祉ロボットなどヒューマンフレンドリロボットの開発にシフトしてきた。

 その後、ロボットの二足歩行が重要な技術課題となり1998年に国家プロジェクト「ヒューマノイドロボットプロジェクト」がスタートした。その成果の活用を事業化するため、小型ヒューマノイドロボット「HOAP-1」を富士通オートメーションと共同開発し、2001年に大学など研究機関向けに販売した。HOPEは進化を続け、HOPE-3が2007年度の「今年のロボット大賞」でサービスロボット部門優秀賞を受賞している。


1980年から富士通が開発してきたロボット HOAPはHOAP-3まで進化した

HOAPは自律分散制御システムを採用している HOAPの二足歩行アルゴリズムと従来法の比較

 その一方で、2005年からサービスロボット分野のロボット開発を進めてきた。「enon」にはサービスロボットとして、ロボットに新しい考え方を適用したいという目的があったという。

 工場内で稼働する産業用ロボットと違い、サービスロボットが提供するサービスは多彩だ。ユーザーの希望に応じてそれぞれ作っていては、開発が追いつかない。そこで、同社はサービス内容を“案内・搬送・巡回”の3パターンに分類した。ロボットのハードウエアを共通化し、搭載するソフトウエアを変えて、目的に応じたサービスを提供する考え方だ。

 enonは、身長130cm、体重50kg、移動速度は意図的に人間より遅い時速3kmに設定してある。事前に活動エリアの地図情報を入力しておくと、二眼立体視で三角測量の原理を使って奥行きを測り、周囲の状況を認識して自律走行が可能。音声やタッチパネル付液晶モニタ、モーションなどを用いてユーザーと多彩なコミュニケーションがとれる。


サービスロボット「enon」が想定するサービス内容 enonの特長 enonの構成とサイズ

 一般のショッピングセンターなどで動くため、安全性については特に重視している。enonは、NPO安全工学研究所の安全鑑定を受けて、合格判定を取得している。

 安全性のテストは、車の分野でよく使われる審査方法で実施。子どもが近寄ってロボットがよじ登った時などを想定し、万一、ロボットが倒れても頭などに致命的な怪我をしないようにという観点で試験を行なっているという。会場では、ダミー人形を使った安全性テストの様子が動画で紹介された。

 ロボットの安全性について、センサを使ってフィードバック制御などをするのは認められていない。センサが壊れた時にも、安全確保ができるような設計が求められているためだ。enonは、腕の隙間などに手を挟んでケガをしないように、モーターのパワーを80ワット以下に制御している。

 このように安全性を確認した上で、ショッピングセンターでの実証実験に取り組んできたという。

 実際にショッピングセンターのフロアにenonを配置すると、ロボットの存在そのものが来店者を、特に子どもを引きつけることが判ったという。enonを食品売り場のフロアに配置した時、来店客の50%以上が近づいてきてなんらかの興味を示したという。この時、実際にタッチパネルを操作する人は33%になったという。

 イオン八千代緑が丘店で、ロボットが人と一緒に販売サービスをする実証実験を行なった時は、通常ではほとんど購入に結びつくことがないのに、1時間で10袋以上の購入があった。また、WAONカード販売促進サポートでは、通常1日に10枚程度のところ、50枚の実績をあげたという。このように、「ロボットから人に対して働きかけた時の反応が高い」と内山氏は言う。

 他にも、アンケートに答えるとロボットが一緒にワインを選んでくれるサービスの提供などを行なった。ロボットが、ユーザーとコミュニケーションをとって情報提供する仕組みに対しては、来店者だけではなく店舗スタッフからも好評だったという。

 この時は、店舗から「バックヤードとの連携がほしい」という要望があったという。ユーザーが興味を持ったワインをロボットに見せた時、ロボットが瓶のバーコードを読み、ネットワークでデーターベースから該当するワインの産地や味をお客さんに説明する機能だ。

 また、自律移動できるロボットの特性を活かして、「移動するサービスカウンター」として働いてほしいという要望も出ているという。

 こうした実証実験結果から、ロボットが販促サービスに利用できる可能性は高いと内山氏は語った。その際、ロボットが人間らしい反応をすると、滞在時間や提供情報の関心に影響すること、また、子ども向けのコンテンツは広告内容の吟味が必要であることにも注意を促した。


ショッピングセンターへの適用 実証実験から得られたサービスロボットの集客力 アンケート形式のワイン選びのサービス概要

店頭端末情報とロボットによる集客効果の比較 内山隆氏(富士通研究所取締役)

「環境情報構造化プラットフォーム」

 次にATR知能ロボット研究所所長の萩田紀博氏が、1月下旬からユニバーサルシティウォーク大阪に設置された実証実験環境「環境情報構造化プラットフォーム」の説明を行なった。

 「環境情報構造化プラットフォーム」とは、ロボットがサービスを提供する場所における人々の位置・行動、混雑する時間帯などの環境情報を取り出せるネットワーク環境のことをいう。

 例えば、ITサービスを開始する時には、ブロードバンドでテストを行なうことが常識になっている。サービスロボットの開発も、ロボットを製作した後に、実際の現場でユーザーに使ってもらい反応を検証する必要がある。

 その際、ロボットが稼働する実環境の情報が重要になってくる。新しいロボットをユニバーサルシティウォーク大阪にもってきた時、すぐに環境情報を取得できれば、その情報を使って高度な会話やサービスを提供できるだろう。

 ただし、ロボットが具体的なサービスを提供するためには、建物の構造や店舗位置という既存の情報だけではなく、人の位置情報が必要不可欠だ。人の位置情報があれば、座っている人に飲み物を勧めたり、走り回っている子どもに注意をするなどのサービスが可能となる。だが、人の位置を座標で取得しても、その人が何をしているのかは判断できない。


萩田紀博氏(ATR知能ロボット研究所所長)

 環境情報構造化プラットフォームでは人の行動パターンのキーワードを「行動プリミティブ」、場所特有の統計・履歴情報のキーワードを「空間プリミティブ」と呼ぶ。環境情報は、物理的な量と、行動・空間プリミティブという質的データからなる階層的構造で表現されている。

 もし、「“山田花子”(ID認識)さんが、“人が往来する場所”(空間プリミティブ)で、“立ち止まっている”(行動プリミティブ)」のように言葉で情報を伝えることができれば、サービスを提供する側がロボットの動きをプログラムすることができるだろう。

 既に、デジカメで人の顔を自動的に認識するのは、当たり前の技術になっている。同様に空間を認識して、その中から「意味」の情報を取り出せる時代になってきている。つまり、「人が往来する場所で立ち止まっている人は、道が判らなくて困っているのかもしれない」という“意味”が空間情報から読み取れるようになるということだ。その時、その情報を用いて、新しいサービスを考えられるようになる。

 例えば、マーケティングの面からいうと、「うろうろしている人はどういう行動をとるか?」とか、サインの設置場所の検討、時間帯によって異なるサービスの提供などのための具体的なデータが取得できるようになる。


ロボットがサービスを提供するために、人の位置や行動に意味づけをする 空間の意味や行動の情報が言語で表現されることで、新しいロボットサービスが誕生する 環境情報4階層モデル

 「次世代ロボット連携群の環境情報構造化プロジェクト」では、それをユニバーサルシティウォーク大阪(TM)で実現しようとしているという。

 環境情報は4階層になっている。センサデータ層では、RFIDやカメラ、レンジファイダなどのセンサに依存したデータになる。それがプリミティブ層になると、センサの情報より構造化した“立ち止まっている”“うろうろしている”という言語表現に置き換えた情報となる。

 この言語表現と実際の位置情報を組み合わせて、ロボット開発者が自分が提供したいサービスのソフトウェアを開発できるようになるという。

 ユニバーサルシティウォーク大阪(TM)は、常時BGMが流れていてロボットが音声認識を行なうには、非常に難しい環境だ。また、プラットフォームが設置されたのは、晴れた日は光が入ってくるが日陰になると真っ暗になる場所だ。「騒音と光の明暗が厳しいという技術的課題の宝庫であり、実用化実験をするにはいい場所だ」と、萩田氏は言う。

 今回開発したプラットフォームには、環境側にカメラ(16台)、レーザーレンジファインダ(6台)、無線タグリーダ(9台)のセンサ群を設置した。それらが協調・連携して、同時に10~20人の位置データをリアルタイムに取得できる。レーザーレンジファインダとカメラを相互的に使用して、個人の位置を特定している。また、他の人と重なって見えなくなった場合は、他の方向からカメラがフォローするアルゴリズムが入っている。

 特別なアプリケーションを開発したい時に新たなプリミティブに関する要望がある場合は、一緒に検討して考えていきたいと萩田氏はいう。

 萩田氏は、このプラットフォームをインターネットの検索エンジン“グーグル”になぞらえて「環境グーグル」と呼んでいる。“その場に行くといろいろな情報を取得できる”という意味だ。


【動画】10~20人の軌跡と行動パターンをリアルタイムで計測できる 各種センサを連携させて、人の位置を計測する うろうろしている、立ち止まっているなど行動の意味を判別する方法を実現

 環境情報を元にソフトウェア開発するための規格の標準化もプロジェクトの目標の一つだ。標準化については、アメリカのOMG(オブジェクト・マネージング・グループ:オブジェクト指向の標準化推進のための業界団体)に人の位置と姿勢に関するデータの標準化案を申請している。

 次世代ロボットの実用化には、異種ネットワーク環境との連携が必要だ。だが、異種ネットワークに関しては、統一的な考え方がない。そのため、どんなネットワークとも切り替えて接続できるようにするのが標準化のポイントとなる。

 そして、標準化以外にも、安全性や国策、経済団体、法律的な面もクリアしなくてはならない。なによりユーザーの認知が一番大事になってくる。実証実験の場を確保して、ユーザーから批判や意見を受けなくては、サービスロボットの実用化につながらない。

 萩田氏は、「高齢化社会はRT技術だけでは解決できない。法律や自治体など国の施策が必要となる」と指摘した。

 今後、次世代ロボット実用化の発展シナリオとして、2010年にロボシティコアが、北梅田にオープンする。それに向けて、大阪では2008年から産官学が連携し、次世代のロボット人材育成を行なう。この4月からスタートするロボットビジネスを意識した教育プログラム「EPEER(Education Program for Engineers and Enterprisers in Robotics) Project」だ。

 EPEERでは、要素技術について大阪大学や奈良先端科学技術大学院大学で学習する。2年目に実際のロボット開発を行ない、最終的には、ユニバーサルシティウォーク大阪(TM)の環境情報を使って具体的なマーケティングまでを実習する。EPEERの6月にスタートするエンタープライズコースは現在、受講生を募集中。

 ユニバーサルシティウォーク大阪(TM)の実証実験環境「環境情報構造化プラットフォーム」は6月頃からロボット開発をしている企業に貸し出すという。


次世代ロボット実用化の鍵は、技術の確立と国の施策にある 次世代ロボット人材に求められる技術力 EPEERプログラムでロボット産業を開拓する人材の育成を行なう

EPEERプログラムのカリキュラムと養成される人材 ロボットサービスイニシアチブが標準化への課題となる

URL
  富士通フロンテック
  http://www.frontech.fujitsu.com/
  富士通サービスロボット「enon(エノン)」
  http://www.frontech.fujitsu.com/services/products/robot/servicerobot/
  ATR
  http://www.atr.jp/
  ニュースリリース(1)
  http://www.atr.jp/html/topics/press_08012201_j.html
  ニュースリリース(2)
  http://www.atr.jp/html/topics/press_08012202_j.html

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次世代ロボット連携群、環境情報構造化プラットフォームの実証実験を公開(2008/01/24)


( 三月兎 )
2008/04/01 15:56

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