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「第11回かわさきロボット技術交流会」レポート
~タカラトミー「i-SOBOT」キット化案も


 3月14日、川崎市産業振興会館にて「第11回かわさきロボット技術交流会」(第15回かわさきロボット競技大会説明会)が行なわれた。かわさきロボット競技大会の説明会のほか、タカラトミーの渡辺氏らが技術発表を行なった。


基調講演・タカラトミー「i-SOBOT」の製品開発コンセプトと今後のマーケティング戦略

株式会社タカラトミー戦略開発グループグループリーダー渡辺公貴氏
 まずはじめに基調講演として株式会社タカラトミー戦略開発グループグループリーダーの渡辺公貴氏が「i-SOBOTの製品開発コンセプトとマーケティング戦略について~タカラトミーが目指すロボットの今後の展望」と題して講演した。

 「i-SOBOT」の生みの親・渡辺公貴氏は同志社大学工学部機械工学科を卒業後、株式会社精工舎にて時計の設計製造、工場立ち上げなどに携わった。その後、株式会社ハズブロージャパンに入社、マーケティングに携わる。その後、ハズブロージャパンがトミーと提携してトミーに入社、その後、トミーとタカラが合併し、タカラトミーになって現在に至っている。おおよそ時計のエンジニアとしてのキャリアとおもちゃ関連とのキャリアが半分半分だという。

 2007年10月25日に発売されたタカラトミーの「i-SOBOT」は税込価格31,290円の二足歩行ロボットトイである。17個のサーボモーターを持ち、量産されているなかでは世界最小の二足歩行ロボットである。およそ180のアクションパターンのプログラムは予め内蔵されており、ハードウェアも組み立てた状態で販売されている。同梱されている赤外線コントローラーを使って、買ったらすぐに遊べる。また15くらいの音声を認識することで、声でコントロールもできる。実はもっと多くの言葉を認識することもできるという。

 強みでもあり弱みでもあるが「i-SOBOT」の動きはゆっくりしている。安全でもあるし、安定した歩行やアクションを実現するためにはゆっくり動いたほうが失敗が少ないためだ。おもちゃである以上、安定して動くことが求められるのである。また現在の電源は3.6Vだが、実際にはモーターの実力は6Vくらいまで上げることは十分可能だという。

 「i-SOBOT」は「世界でもっとも小さな量産されている2足歩行ロボット」としてギネスに認定されているだけではなく、2007年にはインターナショナルギフトショーでグランプリを受賞した。エントリーしていなかったにも関わらずグランプリを獲得したことに、スタッフも驚いたという。また、まだ決定ではないものの、洞爺湖サミットでの各国首脳へのお土産候補にもなっているそうだ。


i-SOBOT仕様 4つのモードで遊べる

29日に発売されるブラックバージョンの「i-SOBOT」 【動画】歩行デモ

 機能面から見ても価格面から見てもかなりのレベルにあり、市場優位性をかなり長く保てるのではないかと自負しているという「i-SOBOT」。「i-SOBOT」はなぜタカラトミーから誕生したのか。トミーはかつて、オムニボットというロボットを開発していた。国内よりもむしろ海外を中心に販売しており、コピー品、類似品も多く出回る人気ぶりだったという。また、17年前には世界はじめてサーボモーターを積んだおもちゃも発売していた。価格はプロポコミで5万円だった。i-SOBOTを生んだタカラトミー・米田陽亮氏が作ったものだ。

 またマイクロペットやウォーキービッツのような小さな商品もあった。おもちゃの企画においては、大きいものを小さくするのが商品化の手法の基本である。そこで、ロボット系で何ができるのかと考えたときに、世界最小の2足歩行ロボットを作ろうというのはごく自然な発想だったという。

 ただ、どうしてロボットを始めたのか、本当のところの結論は渡辺氏自身のなかでも出なかった。社内でも企画当初、「これは何をするロボットなのか」と問われることが多かったそうだ。それに対して渡辺氏らは「小さくてすごいね」といって買ってもらうことがベストで、所有してもらうことそのものを喜びとすることがコンセプトだ、と答えていた。

 実際の開発が始まったのは2004年11月。米田氏が飛行機用のサーボモーターを集めて動くものを作ったのが1カ月後。だがそれは「よちよち歩き」しかできず、社内でなかなか理解を得られなかったという。そのような形で、試作したもののお蔵入りするものはおもちゃメーカーではかなりあるのだそうだ。それに再びスタートをかけたのがタカラ会長だった佐藤慶太氏である。

 当初2万円を目指していたが、実際に販売されたi-SOBOTは約3万円。サーボモーターの開発に予想以上にコストがかかったためだ。それとプログラム、そして電池の問題があり、発表時よりも発売が遅れた。だが一番の理由は、アメリカで先に発売するために、アメリカ分の生産を先に行なったからだという。

 部品の組み立ては中国で行なっているが、クラッチ機構のばね部品などは日本の工場で作っている。またジャイロセンサーなども日本製である。価格を抑えられた理由はサーボモーターを自前で作ったことだという。CPUは「缶ジュース一本にも満たないくらいのIC」が使われているそうだ。そして、世界で販売することで日本市場の5倍の量を販売できたことが安くできた理由である。適正部材を使うことが安くするためにもっとも重要なことだという。

 今後、5月にヨーロッパで販売が始まる予定だ。アジア圏では人気。類似企画商品はまだなかなか出て来ないようだ。i-SOBOTは電流特性がロボット向きのエネループを電源として採用している。省エネルギー関連のイメージキャラクターとしてもi-SOBOTは使われている。


タカラトミーのロボットの歴史 i-SOBOTの企画書 開発経緯。途中で一時停止した時期も

i-SOBOTの重要部材は日本製 エネループの電流特性はロボット向き 環境教育にも用いられている

 今後の展開だが、注目すべきことが発表された。「i-SOBOTのキット案」である。「i-SOBOT」を安価な学校用教材として提供することで、日本の技術者育成に貢献できないかと考えているという。通常のロボット工学では制御や構造設計を学ぶことが多い。だがその背景にある歯車一つとっても技術の結晶だ。しかしながら工学部でもあまりしっかり細部を学ぶ機会は少ない。電源まわりやモーター性能の使いこなしまで教えるようになると日本の底力はあがってくるという。また、マーケティングや経営の視点もロボットにおいては重要である。

 渡辺氏は同志社大学でプロジェクト科目を担当し、おもちゃの企画開発を教えているという。いま、おもちゃメーカーでも商品企画は自社でやっているのが50%くらいで、他は外部に開発会社があって、おもちゃは作られている。ロボット自体は学生が企画するのは難しい。だが、おもちゃは通常、枯れて安価に手に入り、安定した技術の組み合わせで作られている。つまりこなれている技術のコンビネーションでおもちゃは出来ている。それらは学生でも企画書は書けるという。そこで学生におもちゃを企画してもらい、もし良いものがあれば、企画を買い上げたり、ロイヤルティを払うといったようなことを教えているそうだ。提案してもらえればありがたいという。

 現在の「i-SOBOT」の主な購入者層は40代、50代の男性だそうだが、今後はもっと安くより身近な形でロボットを提供していきたいという。自社開発のサーボを使った新たな商品にも期待出来そうだ。


i-SOBOTのキット化案 玩具作りから学べることは多い

第2部 技術発表・技術紹介

株式会社テクノロード代表取締役社長 杉浦登氏
 続けて、株式会社テクノロード代表取締役社長の杉浦登氏が「ロボット開発支援シミュレータの紹介」と題して講演した。

 「ROBO-ONE on PC」で2回連続優勝したことで知られる杉浦登氏の株式会社テクノロードは2006年10月に設立された若い会社だ。現在は企業や大学からの試験装置等の受託開発と、シミュレータの受託開発、ロボットシミュレーションソフトウェアの開発を行なっているという。

 今回発表された二足歩行ロボットシミュレータは、ほぼ実時間で動かせる物理シミュレータだ。重心位置やZMP位置を表示したり、摩擦や重力の設定を変えたりできる。シミュレーション自体は直方体の剛体を組み合わせた形で行なわれている。ロボットの姿勢はポーズエディタを使うことで任意の位置に変えられる。もちろんおかしな角度にすると、ロボットは重力に引かれて倒れる。動きを登録してモーションを再生することもできる。

 実機でモーションを作っているとモーターを壊したりケーブルを切ってしまったり、本人が怪我をしたりしてしまうこともあるが、シミュレーションであればそのような危険性はない。実物がないところでモーション作成の腕を上げることもできる。

 このシミュレータの開発にはマルチプラットフォームで使えるフリーの物理演算APIの一つ「ODE(Open Dynamics Engine)」が使われている。さまざまなフリーの物理演算APIの中から「ODE」を採用した理由はユーザーが多く、情報が多いからだという。長所はシミュレーションを高速に演算できるところ、短所は厳密な精度は保証されていないところ。よって、高精度な検証には使えないが、システム全体の評価やソフトウェアのデバッグを行なうには有効だという。

 ロボット用ソフトウェアはフィードバック制御を使っているために単純な入出力値だけでは評価できない。またコマンドによる状態遷移などが複雑、整数演算の要求、評価するための力学、電気、制御の知識などなどの問題があり、ソフトウェア開発者だけでは検証や評価が難しい。またハードウェアへの適用は納期ぎりぎりの時が多く、かなりの時間をハードのエラーにとられてしまい、ソフトウェアのバグ取りには時間がないことがある。

 そのため、ハードと組み合わせる前に、オフラインでソフトウェアの検証を行なうことができれば、効率よく開発することができる。前述のような理由でODEは厳密な力学シミュレーションには向かないが、ソフトウェアの機能検証には有効だという。ただし、物理演算APIには多くのパラメータがある。使いこなすためには適切なパラメータ値の設定が必要だそうだ。それと、繰り返しになるが実世界での挙動とは異なっていることを頭の隅に入れておいて使わなければならない。要は使いようということである。


杉浦氏は「ROBO-ONE on PC」優勝経験者 ODEを使った二足歩行ロボットシミュレータ ソフトウェアのオフライン開発が目標

大阪大学産業科学研究所特任准教授 齋藤敬氏
 大阪大学産業科学研究所特任准教授の齋藤敬氏は「大学発かわさき系ロボット技術の波及効果異分野へ、海外へ、そして宇宙へ」と題し、自身の本業であるバイオ系の研究とかわさきロボコンに出場している「しろやぎ(Whitegoat)」の開発経緯、そして事業化の可能性などについて講演を行なった。

 齋藤氏の本業は医療工学。医療工学では実用性が重視される。「しろやぎ」においても、設計コンセプトは脚型の実用志向ロボット。とにかくちゃんと動くこと、実用重視と、可搬性能の高さを重視した。

 「しろやぎ」はもともと、齋藤氏らが行なっていた神経インターフェイスにおける全身義体の1つとして想定されたものだそうだ。「しろやぎ」にネズミなどの小型動物を載せ、その動物にタングステンの針を指して電極とすることで信号を取り出しロボットを直接制御させる、ということを考えたのだという。現在も神経インターフェイスの研究自体は継続しており、たくさんの細胞に多くの電極を刺すことを狙った、自己組織化材料を使った大規模集積型神経電極の開発や、高効率で多くの細胞の細胞膜に微小な穴を開け、細胞に遺伝子等を導入する研究を行っている。

 さて2000年に一号機がロールアウトした「しろやぎ」は、その後、改良を続けている。ウェイトの割りに押したり引いたりが強い脚型ならではの特徴を活かし、かわさきロボコンだけではなく、ロボカップレスキューや雪下ろしロボットなどにも参加した。

 本業のほうでは、ロボット技術はロボット顕微鏡など自動化バイオ系ロボットへの開発に繋がっているという。また、第13回かわさきロボットで出した伸縮腕は、その応用可能性に注目した日本飛行機株式会社との「宇宙用伸展ブーム機構の開発」として共同研究も行なっているそうだ。かわさきロボットに要求される軽量化、小型化スペックは、宇宙機にも共通する課題だという。

 大学は研究資金も人材も限定されている。限られた経営資源で勝つためには、とにかく相手の土俵にのらないことだという。事業化においてもロボットはバイオに比べれば規制が少ない。また「事業化に適した人材はロボット分野にいる」という。ロボット競技大会出場はプロジェクト管理に似ているところがある。齋藤氏は、ロボット競技大会参加者の多くには、プロジェクトマネージャーとしての能力があると語った。


「しろやぎ」 【動画】「しろやぎ」の歩行デモ 「しろやぎ」を使った雪下ろしロボットの研究開発も

「かわロボ」から生まれた伸縮するマニピュレータ 伸縮腕の用途開発研究 かつて齋藤氏らが進めていた神経インターフェイスを使ったロボットハンド制御の研究

目標は神経インターフェイスとロボティクスの融合 ロボティクスをバイオに応用する研究も行なっている

バイオ、ロボティクス、神経インターフェイスを組み合わせた用途を研究目標としているという ローテクでも高性能な「破壊的イノベーション」を目指す

第15回かわさきロボット競技大会開催概要

 脚・腕構造を持つラジコン型ロボットによる格闘技戦「第15回かわさきロボット競技大会」は川崎市産業振興会館にて8月22日~24日に行なわれる(22日:小中学生対象のJr.ロボット競技/B予選会、23日:バトルロボット予選トーナメント、24日:48チームによる決勝トーナメント)。優勝者の賞金は50万円。エントリー募集期間は4月1日~5月9日。大会ホームページで必要書類をダウンロードし電子メールで申し込む。

 今回から高さは70cmに制限される。安全性に配慮し、リチウム系電池の使用も禁止とされている。アームに用いるモーターにおいても、自由回転するモーターを使用する場合は委員会が規定するモーターの使用が義務づけられた。

 またロボットの設計図に対して審査・評価する「技術賞 企画部門」が新設される。すべてのチームが審査対象となる。賞金は5万円。

 かわさきロボット競技大会の説明を行なった芝浦工業大学教育支援センター准教授で大会実行委員長の佐藤氏は「『かわロボ』はロボットを作るための技術を実践的に学べる場だと考えている。がんばって頂きたい」と述べた。


芝浦工業大学教育支援センター准教授で大会実行委員長の佐藤氏 第15回かわロボのリンク図イメージ

URL
  かわさきロボット競技大会
  http://www.kawasaki-net.ne.jp/robo/index.htm

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( 森山和道 )
2008/03/18 00:25

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