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リネン類搬送支援ロボット
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2月27日、松下電器産業株式会社は、「ユニバーサル・シティウォーク大阪(TM)」内にある「ホテル近鉄ユニバーサル・シティ」にて、同社がこれまで開発してきたポーターロボットと、新規に開発した搬送支援ロボットの実証実験を実施すると発表し、一部デモンストレーションを報道公開した。実証実験の期間は2月28日(木)から3月2日(日)まで。「大阪社会実証実験イニシアティブ(ORi)」が支援を行ない、株式会社住商アーバン開発の協力を得て行なう。
実証実験は2種類。1つ目は搬送支援ロボットを使ったもので、こちらはホテル客室フロアの廊下にて行なう。ロボットは9F客室フロアにおいて客室清掃の手伝いをする。シーツ、タオル、アメニティグッズなど交換用備品を積載して自律でフロア廊下を巡回し、客室で作業する清掃係に配達するためにリネン室と各客室を往復する。実証実験日は2月28日(木)~29日(金)。
2つ目はポーターロボットを使ったもので、こちらはロビーフロアにて、ポーターロボットが玄関でホテルに到着した客を迎え、荷物を受け取ってフロントまで客に追随する。実験日は3月1日(土)~2日(日)。
ロボットが将来的に活躍する現場により近い場所での実験を通して環境計測、走行系メカニズムなどナビゲーション移動データ、未知障害物の回避移動などのデータを取得し、操作性、安全性などの技術的な問題を検証する。また、実際にロボットを使ってみたユーザーからの聞き取りなどにより、使い勝手や機能などの検証を行ない、今後の開発につなげていく予定。
なお、今回の実証実験は一般公開されていない。以下、報道陣前で公開されたデモンストレーションを紹介する。
● デモンストレーション
ポーターロボットは以前、関西空港で実証実験をしていたものと同じロボットで、高さ130cm、幅60cm、重量60kgの倒立2輪方式のロボットだ。基本移動速度は0.6m/秒だが、最大1.6m/秒でも移動でき、早歩きの人にも遅れない速度を実現しているという。倒立2輪方式をとったのも小回りが効くからという。
同社開発グループでは「キー」と呼んでいる超音波を受発信するトランスポンダをユーザーが持ち、そのあとをロボットがついていくというのが基本的な使い方だ。まずロボットの口相当部分から超音波が発せられ、それを「キー」が受けて超音波を返し、さらにそれをロボットがステレオマイクで音源定位してユーザーのあとをついていく仕組みとなっている。
そのほか頭部に全方位カメラ、本体下部に測域センサー他を備え、周囲の障害物を複数のセンサーで認識し、衝突を回避する。ロボットの前後にはバンパーもつけられている。
バッテリはニッケル水素で、電動機付自転車のバッテリを転用しているという。駆動時間はおおよそ1時間~1時間半程度。可搬重量は20kg程度だが今回の実験では10kg程度で行なう予定だ。
デモではユーザーが「キー」をとり、そのあとをついていくことで玄関からフロントカウンター前をいったり来たりする様子が披露された。ロボットはユーザーが荷物を載せる前、運んだあとには頭部を下げて会釈動作を行なう。また、荷物の見張りをさせることもでき、「キー」を持っていない人物が荷物を持ち上げると警報を鳴らす様子もデモ紹介された。
かわいいデザインのため、小さな子供がロボット上の荷物を載せる部分に乗りたがってしまうのが実は悩みの種そうだ。将来、ポーターロボットを実現させるまでには、それもまた解決する必要がある問題だろう。
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ポーターロボット
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全方位カメラ付きの頭部。口部分から超音波を出し、ステレオマイクで定位する。左肩部分におかれているのがユーザーが手に取る「キー」
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荷物を積んでいない状態
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ロボット下部を前から
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ロボット下部を後ろから
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デモの模様
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【動画】キーを手に取ったユーザーに対して会釈してデモ開始
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【動画】犬のようにあとをついていく
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【動画】キーの方向にターンして加減速する様子
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【動画】ロボットの前に子供が飛び出してくる。こんなシーンも実証実験では起こりえる
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【動画】キーを持っていない人が荷物を取ると警報で警告・周囲へ注意を喚起する
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搬送支援ロボットは高さ125cm、幅60cm。重量は75kg。移動速度は0.3m/秒(最大1.6m/秒)。こちらも駆動輪は2輪だが、前後に1輪ずつ大きなキャスターがつけられている。このキャスターにより、高さ2cm程度の段差ならば乗り越えることが可能だという。事前に作った地図をロボットに入れることで、タッチパネルで指示するだけで決められた経路を自律移動できる。そのときに通路上に未知の障害物があっても、ロボット全体につけられた超音波センサーで発見して回避することができる。
またロボットの首部分の後ろにはカメラがつけられており、天井につけられたビジュアルマーカーを読むことで自己位置を判断している。今回は白黒のビジュアルマーカーだが将来的にはスプリンクラーや照明など、既につけられている設備そのものをマーカーとすることで、自己位置を決めさせたいという。
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搬送支援ロボット
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背面。タオル類などを運ぶ
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正面から俯瞰
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側面
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ロボット上面
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ロボット全体に超音波センサーが備えられている
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ロボット下面。前後のキャスターが見える
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タッチパネルでルートを入力
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タッチパネルの画面に表示されたホテルの見取り図。地図は事前に作成したものを与える
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リネン類の搬送支援がアプリケーション
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首後ろのカメラで天井に付けられたビジュアルマーカーをとらえる
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ビジュアルマーカー。将来はスプリンクラーなど既存インフラをマーカーとすることを目指すという
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【動画】ホテルの廊下を移動するロボット
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【動画】ロボットの移動の様子。障害物を探しながら移動できる場所を探索しているため、ややふらつく
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【動画】角をターンして曲がる様子。曲がるときにはウインカーを出す
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ロボットの幅が60cmなのは通路やエレベーター等を通過できるサイズであると同時に、運送業者が用いるダンボールサイズなどを参考にしているという。
なお「大阪ロボット社会実証実験イニシアティブ(ORi)」とは、大阪府と大阪市が連携し、大阪府下全域でのロボット実証実験を支援するために2005年に設立された組織。拠点はロボットラボラトリー内にある。ORiは、松下電器産業ほかロボット関連企業等が組織する「公共空間における移動支援ロボットコンソーシアム(SSR)」の活動を支援しており、これまでにも関西国際空港での実証実験のマッチングなどを行なっている。
「大阪ロボット社会実証実験イニシアティブ(ORi)」事務局長でロボットコーディネータの北村勝則氏によれば、リネン運搬を提案したのはORiで、ホテル内でのロボットニーズをリサーチした結果だという。リネン運搬サポートを本格的にロボットにやらせるのであれば、決められたルートの巡回よりも、むしろ人間の作業者が呼ぶことで任意の部屋に移動するといった使い方のほうが現実的だ。松下電器産業によれば、それもまた将来の検討課題だという。
松下電器産業株式会社ロボット開発室 開発第三チーム 主任研究員の松川善彦氏によれば、今回の実験は、リネン運搬というアプリケーションもさることながら、実環境での移動技術の検証に主眼が置かれているという。ホテルの床に敷かれたやわらかいカーペット上でロボットを動かしたのはデモ当日がはじめてとのことで、報道陣前でのデモンストレーションのときにも、車輪が微妙に滑ったりして壁にかなり接近する様子も見受けられた。このあたりを実証実験を通じてデータをとり、移動ロボットの技術を向上させていくのだろう。
松下電器産業株式会社ロボット開発室 開発第三チーム 主幹技師の後藤誠氏は、本誌の取材に対して「これからは高齢化社会の時代が来ることもあり、サービスロボットのニーズは大いにあると考えている」と答えた。実用化に関しては、具体的な数字やスケジュール等はあかされなかった。
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大阪ロボット社会実証実験イニシアティブ(ORi)事務局長 北村勝則氏
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松下電器産業株式会社ロボット開発室 開発第三チーム 主任研究員 松川善彦氏
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松下電器産業株式会社ロボット開発室 開発第三チーム 主幹技師 後藤誠氏
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ポーターロボットの解説をする松下電器産業株式会社生産革新本部生産技術研究所 解析・評価技術開発グループ主任技師・岡本球夫氏
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なお、同じ松下グループの松下電工では2007年の「今年のロボット大賞」にも選ばれた血液検体搬送ロボットを作っているが、そちらとも技術的交流はあるそうだ。
■URL
松下電器
http://panasonic.co.jp/
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( 森山和道 )
2008/02/28 00:20
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