11月7日~8日の日程で、東京・市ヶ谷にあるホテルグランドヒル市ヶ谷にて防衛省技術研究本部による「平成19年度研究発表会 ~防衛技術シンポジウム2007~」が行なれた。防衛省技術研究本部は将来の防衛装備品に適用可能な技術分野の研究を行なっており、今回の研究発表会は大学、独立行政法人、民間企業が初めて参加して一般公開形式で行なわれた。
今回の研究発表会では事前にプログラムが公開され、展示セッションのなかに「ガンダムの実現に向けて(先進個人装備システム)」という言葉があったことから、インターネットを中心に話題を呼び、一部新聞でも記事として取り上げられた。本誌では噂の「ガンダム」を含む展示セッションのレポートをお送りする。実際に展示を見てみると、研究されていたのはウェアラブルコンピューティングや無線アドホックネットワーク、そして小型の偵察用ロボットなど、お馴染みのものが多かった。
● 小型偵察ロボット
展示会場では、偵察を目的とした小型ロボットがデモを行なっていた。車体本体とアーム部分からなるクローラ式のロボットで、車体本体の大きさは67×48×12cm。重さは本体が22kg、作業アームを含めると34kg。最高速度は時速10km。45度までの傾斜を踏破でき、階段を上れるという。
遠隔操縦で動かすロボットで、いわゆるレスキューロボットと機能的にはほとんど変わらない。アーム先端にカメラもついているが、基本的には人間が見ながら操縦することをベースにしているようだ。展示のときにはタブレットPCを使って操作していた。なおボディの長さは階段をクローラでよじのぼれるように、車高は車の下に潜り込めるように決められているという。
この手のロボットとしてはiRobot社のPackbotがよく知られているが、こちらは独自開発。特に各ユニットに分解して、人力で運べる点が特徴だという。クローラだけではなくホイールもつけられる。
また、小型のカメラを搭載した偵察ロボットも合わせて展示されていた。
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偵察を目的とした小型の移動ロボット
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実際にはこのようにパッキングされるという。中に入っているのはホイールユニット
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分解して運んだり、ユニットを組み合わせられることが特徴
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【動画】動き始めたロボット。立ち上げには数分かかっていた
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【動画】動き回る小型ロボット
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【動画】アーム先端につけられたハンドで不審物の紙バッグを持ち上げようとする
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【動画】把持して運搬する
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カメラ搭載の小型ロボット。残念ながらバッテリー切れでデモは見られなかった
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● 先進個人装備システム
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装着イメージ
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ロボットが撮影した画像はウェアラブル機器をまとった兵士に送られる。これが「ガンダムを目指した」とされていた先進個人装備システムだ。無線LANのアンテナが突き出た統合型ヘルメットに暗視用の近赤外線ライトやカメラ、単眼式のヘッドマウンテッドディスプレイ(HMD)などをつけ、耳には心拍数や体温など身体情報をとるためのイヤホン型機器、GPSやコンピュータ、無線機器を内蔵した防弾チョッキ、そしてビデオカメラをつけた銃である。総重量は9kgとのことだ。偵察ロボットからの画像なども、HMDに提示される。
ただこれらは先進機器の塊ではあるが、よく見るとほとんど民生品である。実際に「秋葉原で買ってきた(展示の説明員)」ものを組み合わせて研究開発は行なっているという。壊れてしまっても民生品を買って付け替えたりしながら開発していくほうが安上がりということらしい。
この装備をベースにして、小型無線機器を使ったマルチホップのアドホック・ネットワークの研究開発などを行なっているという。移動端末を使った情報共有システムだ。アプリケーションは防衛だが、研究そのものは他のIT関連の展示会で見かけるものと、驚くほど共通していた。なお、実際の装備化についてはまだ予定はないという。
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先進個人装備システム
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このような画像情報が提示される
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チョッキのなかはケーブルの束状態で、いかにも開発途上
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耳にはバイタルをとるための機器をつける。耳ではかる体温計と似たような機器
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より簡単に身につけられる空中配線も研究中
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左胸につけた小型無線装置でのアドホックネットワークによる「次世代近接戦闘情報共有システム」の研究も
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概念図。将来構想を見るとさらなる装備が検討されている模様
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89式小銃につけられたムービーカメラ。このように民生品をそのまま使用しているものも多い
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壁透過レーダも展示されていた。壁の向こう側にいる移動人物・静止の検知が行なえるという。主な適用アプリケーションはテロリストや市街地での武装兵の検知だが、災害地での生存者検知にも使えるという。
偵察用の小型自律飛行機は、防衛だけではなく最近は広くお馴染みである。実際に飛行実験を行なった実機が展示されていた。材質は発泡スチロールで重量は400g。全幅60cmの無尾翼機だ。手投げで発進させ、プリプログラムに沿って飛行し、着陸までを完全自律で行なう。航続時間は約30分。主にひらけた場所で高度をとって偵察することを目的としている。無尾翼機となっているのは、できるだけ小型にして持ち運べるものを目指しているため。
このほか、全長5.2m、全幅2.5mの中型無人機の研究開発も進めているという。
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壁透過レーダ
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60cm級携帯型飛行体。偵察用の小型自律飛行機
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中型無人機の模型
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8月に各メディアで話題となった国産先進技術実証機「心神(しんしん)」の展示なども行なわれていた。
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国産先進技術実証機「心神」のRCS(レーダー断面積)検証モデル
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実証機として、ステルス性、高運動性、新複合材料、アフターバーナー付きエンジン、各種センサー技術などの技術検証が行なわれる
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後方から
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心神のイメージパネル
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完成イメージモデルも展示されていた
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推力偏向ノズル周りの構造
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心神搭載用に開発中の実証エンジン「XF5-1」の模型。国産初のアフターバーナー付きエンジンとして開発されている
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プラズマテレビのパネルなどにも使用されているITOコーティングが施されたキャノピー。コクピット内に入り込んで反射した電波をキャノピー表面で散乱させることで、ステルス性を向上するという
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■URL
防衛省技術研究本部
http://www.mod.go.jp/trdi/
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