夏休み最終日の9月2日、福岡市早良区にあるロボスクエアで、第5回国際宇宙ロボット(火星ローバー)コンテストが開催された。
これは火星に見立てた全長17mの不整地コースを、手作りのロボット探査車(ローバー)で走破するロボコンで、ロボスクエアで年に2回ほど開催されている。宇宙にチャレンジということで、宇宙航空研究開発機構JAXAが後援しているコンテストでもある。
第1回の国際宇宙ロボット(火星ローバー)コンテストは、2005年10月15日、16日に福岡市博多区にある福岡マリンメッセで行なわれた国際宇宙会議(IAC)内のプログラムの一つとして開催された。
この時はメインのリモートコントロール部門で予選を勝ち抜いた10台のうち7台が完走し、表彰式では宇宙飛行士の若田光一氏がプレゼンターを務めるなど、第1回に相応しい大会となっていた。
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参考写真。国際宇宙会議(IAC)会場内部に作られた、第1回大会のコース
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参考写真。第1回大会の表彰式でプレゼンターを務める若田宇宙飛行士
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名称に「国際」とあるように当初は国際宇宙会議(IAC)の開催に合わせて世界各地で開催する予定もあったようだが、結局はロボスクエアで年に2回ほど開催される福岡ローカルのロボットコンテストになっている(ただし、一度だけ金沢で開催されたことがある)。
また一般成人が参加しても構わないのだが(年齢制限は別にない)、中心となって指導している中村講介氏が福岡県の中学校の先生ということもあってか、参加者は小中学生が多い。
● 実はかなりの難コース
火星ローバーが走破する約17mのコースは、宇宙船に見立てられたボックスをスタートし、火星最大の山であるオリンポス火山に見立てられた山の麓までがゴールとなっている。しかし、その途中には壁、砂利道、坂、それだけでなくシーソー、ターンテーブルまである難コースだ。
しかも途中で「標本採集」としてボールを取り込まなくては前に進むことはできない。ボールは1個でも取り込めばOKで、その後落としても失格にはならない。ただし、ボールをゴールまで落とさずに運べば、ボール1個につき5点のボーナス点が加算される。
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火星ローバーのコース
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コースを逆から見たところ
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試合前に模範走行を見せるトライクル(第1回大会のローバー大賞機体)
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オリンポス火山の下がゴール
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このコースを5分(300秒)以内にゴールし、なおかつアンテナに見立てたものを稼動させる「アンテナパフォーマンス」を行なって、やっとミッションクリアとなる(クリアした場合、残り時間がそのままポイントとなる)。
コースアウトやローバーが動かなくなった場合は、何度でもスタート地点からリスタートすることが可能だが、その場合も時計は止められずに競技は続行される。当然、300秒以内にゴールすることができなければ、タイムアップとなる(その場合は到達した面が記録となる)。
これに小中学生が手作りのローバーでチャレンジするわけだから、その難しさはわかってもらえるだろう。
なお、ROBO-ONE高松大会決勝トーナメント出場権を獲得したスーパーディガーが、去年の11月5日に開催された第4回大会にエキシビジョンとしてこのコースにチャレンジしたことがある。しかし、坂の前の砂利道コースに沈んでしまった(ただし、旧機体のスーパーディガーでのチャレンジ)。
当時のスーパーディガーはアキバロボット運動会2006アスリート部門で同率1位となっており、日本でも有数の運動性能を誇る機体だった。そのスーパーディガーですら、坂の手前までたどり着けなかったのだから(今のところ、二足歩行ロボットではこの坂を登るのは不可能なようである)、やはりこのコースはただものではない。
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参考写真。第4回大会で、火星ローバーコースにチャレンジするスーパーディガー
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参考写真。連続回転で砂利道コースを抜けようとするスーパーディガー。しかし、この後、コースから転落し、タイムアップ
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● もう一つの火星ローバーチャレンジ「自律制御部門」
開会式の後、操縦ではない自律制御部門のコンテストが行なわれた。さすがにこちらは不整地コースは使わず、簡単な迷路を自律制御でクリアするコンテストだ。簡易マイクロマウス競技といえなくもないが、小中学生では使えるセンサーと制御ボードに限界があるので、主にタッチセンサーを使用して「コースの壁に当たったら、向きを修正」する方式でチャレンジする機体がほとんどだった。
この自律制御部門には7台が参加し、そのうち3台がゴール。優勝は41秒でゴールした「新宮ーズ」だった。
ゴールはならなかったものの、「東中技術部5号」は全くセンサーを使わずに「どこの地点でどう動くか」のみをプログラムしてチャレンジ。ゴール寸前までたどりついたが、壁にぶつかってしまい、惜しくも完走はならなかった。
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自律制御部門のコース。黒いライン内から出発し、右奥がゴール。スタートにいるクローラー機体は3位のFUTAJIMA-TT
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左右に突き出たタッチセンサーで、進む角度を変えながらコースを進むマッキー
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41秒でゴールに飛び込んだ新宮ーズ
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センサーを搭載せずにチャレンジした東中技術部5号
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● メインのリモートコントロール部門
参加者が一番多いのが、火星ローバーを有線で操縦するリモートコントロール部門だ。この部門には22台が参加し、そのうち11台が完走した。
優勝はボール7個を取り込み、206秒残しでクリアした「チェリーの友だち」。2位の「東中技術部2号」は最多のボール10個を取り込んだが、180秒残してのクリアで惜しくも2位。3位には前回優勝者の「トロピカルバナナ6世」が入った。
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宇宙カプセルを模したボックスの中がスタート
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モニターには残り秒数が表示される。数字の背後に流れている映像は、火星探査の想像CG。最後の方になると、火星ローバーのCGが出てくる
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リモートコントロール部門で優勝した「チェリーの友だち」。壁コースの石に乗り上げて転倒したが、この後、バケットを動かして根性で復活した
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ボールを一気に取り込む「チェリーの友だち」。製作者が女の子なので、可愛いディスプレイになっている。チロルチョコレートも貼ってあるような気が……
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ボールを7個取り込んでゴールに向かう
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2人でチャレンジする東中技術部2号。リモートコントロールは、どうしてもコードが邪魔になるので、コードを取り扱うメンバーがいた方が有利になる
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黄色い部分のみコースを横切ることが許されている
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最多の10個のボールを取り込み、東中技術部2号は2位に
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第4回大会に続いての連覇はならなかったトロピカルバナナ6世。操縦者はこの大会の司会も担当していた
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猫をモチーフにしたアジア秘密警察A。取り込んだボールは1個だったが、214秒残しの最速タイムでコースをクリアした
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ペットボトルを使ってボールを取り込んだFUTAJIMA-SH
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● 参加の少なかったラジオコントロール部門
リモートコントロール部門に比べて、ラジオコントロール部門の参加者は毎回少なく、今回も3台のみの参加だった(3位まで表彰されるので、今回はコースをクリアしなくても入賞が決定)。
これは、電波を扱う難しさもあるが、ラジコン用のプロポなど無線操縦に必要な機械が意外と高いため、敬遠されているところがある。
その中で「火星老婆」は、火星ローバーにHotproceed製のTEC-2を組み込み、プレステ用のコントローラーで操縦していた。競技ではうまくコースをクリアしていったが、最後の難関であるターンテーブルに捕まり、コースアウト。リスタートするもタイムアップし、クリアはならなかった。
しかし、TEC-2とプレステコントローラーの組み合わせはラジコンのプロポより安いので、あるいはこれがラジオコントロール部門発展のきっかけになるかもしれない。
ラジオコントロール部門で唯一完走したのは「オリンポスRC」。ローバー車の中では珍しくクローラーを使った機体だ。壁コースでは、なんと壁の外の尾根を越えて走行するという離れ業を見せて会場を驚かせ、取り込みボール5個、残り時間147秒で文句なしの優勝。
なお、壁の外の尾根を越えたのは、第1回の時、千葉の火星ローバー大会の優勝機体が行なったデモ以来で、もちろん参加者では初めての快挙だ。
この火星ローバーコンテストでは、すべての参加機体の中から特に印象に残った機体が「ローバー大賞」に選ばれる(ロボコンにおけるロボコン大賞のようなもの)。今回はリモートコントロール部門から、大きな車輪が印象的な「GO GO FISH」が大賞に選ばれた。
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火星老婆のチャレンジ。一般成人のチャレンジに見えるが、実はファミリーで無線・有線それぞれに参加。有線の「マーズペンギンリベンジ」は163秒残しでゴールしている
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砂利道コースを行く火星老婆。小石に見えるものはエキシポパテで全部張り付いている
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「時空時計」と名づけられたターンテーブル。この後、火星老婆はコースアウトに……
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壁の外を乗り越えたオリンポスRC
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オリンポスRCが乗り越えたのは、こんな場所
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シーソーも余裕でクリア
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「火星ローバー大賞」を受賞したGO GO FISH。海をモチーフとしたディスプレイが綺麗だ
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砂利道コースを大きな車輪で越えていくGO GO FISH。ちなみに鯛はパフォーマンス用のアンテナ
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「ゴムの間にボールをはさむ」ユニークな取り込み方法も評価されたらしい
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競技後の1コマ。ラジオコントロール部門3位のDREMER(左)とチェリーの友だち(右)。DREMERは本番でもこの面から抜けられず、タイムアップ
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● 遠隔操縦実験も
今回の大会ではコンテストだけではなく、「遠隔地からのローバー操縦実験」も行なわれた。コースに置かれたローバーをネットを通じて遠隔地から操縦しようとするもので、将来は地球から火星に送り込まれたローバーを操縦することを考えてのものだ。なお、操縦実験の通信には財団法人 九州システム情報技術研究所の木室第3研究室が協力した。
実験では、ベルリンの日本人学校と名古屋の一色中学校からコース上に置かれたローバーを操縦。時間はかかったが、どちらも坂を登り、シーソーを越えることに成功した。
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遠隔操縦実験のローバー。正面にカメラがついている
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モニターに映っているのは操縦者側にも伝えられている映像情報。右は火星ローバーコンテストの中心人物である中村先生
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遠隔操縦先に映像を送っているカメラ
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時間はかかったが、なんとかシーソーをクリア
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表彰式。表彰しているのはJAXAの小口美津夫氏
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国際宇宙ロボット(火星ローバー)コンテストは福岡ローカルのロボットコンテストだが、それぞれが創意工夫をこらしたユニークな機体で火星の難コースにチャレンジしていた。回を重ねていけば、福岡県のロボット教育のレベルの高さを物語るコンテストと言われるようになるのかもしれない。
●ローバー大賞 「GO GO FISH」
●自律制御部門
優勝 「新宮ーズ」
2位 「マッキー」
3位 「FUTAJIMA-TT」
●リモートコントロール部門
優勝 「チェリーの友だち」
2位 「東中技術部2号」
3位 「トロピカルバナナ6世」
●ラジオコントロール部門
優勝 「オリンポスRC」
2位 「火星老婆」
3位 「DREMER」
■URL
ロボスクエア
http://www.robosquare.org/
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( 大林憲司 )
2007/09/07 17:43
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