7月22日(日)、ロボスクエアで小型二足歩行ロボットによるサッカー大会「第20回ヒューマノイドカップ・サッカー大会」が行なわれた。これは20日にリニューアルオープンしたロボスクエアのオープニングイベントの一つとして開催されたものだ。九州を中心とした全国から12チーム(1チーム3台、総計36台)が参加し、優勝を目指して熱い戦いを繰り広げた。
● 予選のゴールラッシュ
決勝のサッカートーナメント戦に出場できる8チームを決めるため、まず予選のゴールラッシュが行なわれた。
ゴールラッシュは、コート上に置かれた24個のボールを3分の時間内にどれだけゴールに入れられるか競うものだ。24個のボールのうち、箱の上に乗っている4個のプラスティックボールは2点のボーナスポイントボールで、オールクリアすると28点になる。箱を倒す時には腕を使ってもよいが(キーパーとして腕を使う必要もあるため)、それ以外は足でキックしてゴールさせなくてはならない。
このゴールラッシュに1チーム3台で2回チャレンジし、2回の総合得点で決勝トーナメントへの出場が決まる。
ゴールラッシュで高い得点を出すためには、ロボットの能力も当然必要だが、チームワークと「どうボールをゴールに入れていくか」という戦略も重要になってくる。
予選のゴールラッシュからコートの回りには観客が鈴なりになっていた。ロボスクエアがリニューアルオープンしてから初めての日曜日ということもあるが、それ以上に二足歩行ロボットサッカーへの期待が高いということだろう(以前のロボスクエアで、二足歩行ロボットサッカーを見てファンになった人も多かったようだ)。
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TNC放送会館。ロボスクエアのたれ幕が出ている
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試合前にゴールラッシュの練習をするMARUファミリー
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試合開始前にもかかわらず、会場は人であふれていた
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試合の前にはヴイジオン4Gのデモも行なわれた
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自律でボールをシュートしていくヴイジオン4G。キーパーを務めたのは、チーム極のRB2000γ
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ゴールラッシュの開始。ゴールに入ったボールは取り除かれることになっている
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ゴールラッシュが始まると、観客は多いに盛り上がった。ボールを目指してロボットが歩いているだけで歓声が上がり、転ぶと手を叩いて笑っていた。リニューアルオープンということもあってか、初めて二足歩行ロボットの動きを見る人も多いようで、新鮮な反応を示していた。
その雰囲気が変わったのは、九共大チームのファースト・トライだった。九州練習会のリーダーの水井氏が操縦する疾風がいい動きでボールをゴールに入れていき、18点を上げた。その動きに観客はどよめき、最後には拍手も起こっていた。
その記録を塗り替えたのが、1月に行なわれた前回のゴールラッシュで1位となった九州三銃士だ。ワイルダー01の動きがよくなかったのにも関わらず、AutomoNicoと新型スーパーディガーが動き回り、20点を上げて前回1位の面目を保った。
1回目のトライで圧巻だったのは、初めてロボスクエアにやってきたカイザーオールスターズだった。初めてのパンチカーペットコートでありながら、高速でコートを走り回ってボールをゴールを入れていく。ついにボールを1個残しただけという「27点」を獲得。もちろんこれは今までの最高記録で、カイザーオールスターズの運動性能の高さを見せ付けた。
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箱を崩す九州共立大学の疾風
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疾風は後ろからのシュートでもゴールを決めていく
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九州三銃士のファーストチャレンジ。ほとんどのボールがコートの前面に集まっているのがわかる
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後方からキックするAutomoNico
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圧巻だったカイザーオールスターズのファーストチャレンジ。かなり早い段階で、ボールを前面に集めていた
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ゴールのネットの横に転がった1個のボールを残して、すべてをゴールに入れたカイザーオールスターズ
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2回目のトライでは九州三銃士・カイザーオールスターズはそれほど高得点をあげられなかった。高得点を上げて実力を見せ付けたのは、関東からやってきたチーム☆アリウスと関西からやってきたチーム極だった。
チーム☆アリウスは、7月14日に開催された「わんだほー」で総合優勝したありまろ7、同じわんだほーのランブルで優勝したアリウス、それに実はROBO-CUPへの参加も念頭に入れて設計されていたアリキオンと、スミイファミリーの強力な3台がチームを組んでの参加。
2回目のトライでは、ボーナスボールをそのままにして、他のボールをコートの中央前面に集める戦略を取った。その後、ボールをゴールに入れていき、23点を上げて総合点でトップに躍り出た。
チーム極はヴイストンの大和社長の率いるチームだ(大阪からやってきたので、一部からは「Team Osaka」と呼ばれていた)。実はチーム極は、前回の第18回ヒューマノイドカップ・ゴールラッシュ&サッカー大会に参加して予選落ちしている。それが大和氏にとってよっぽど悔しかったらしく、今回は特別機を投入してのリベンジを狙ってきた。
特別機の2台(資料にはRB2000α・RB2000βとなっているが、さすがにRB2000には見えない)は、足踏みしながらの安定した高速移動の可能な機体だ。コートを前後に往復しながら次々とボールを前の方に移動させていく。2回目の得点はチーム☆アリウスと並ぶ23点で総合でも2位につけた。
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チーム☆アリウスのセカンドチャレンジ
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とにかくこのチームは3台とも走り回っていた
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一部からは「Team Osaka」と言われていたチーム極
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RB2000α(左)とRB2000β(右)。2台の特別機は、オムニゼロやヴイジオン4Gのように、大きく足踏みしながら旋回する
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チーム極のセカンドチャレンジ。こちらもボールを中央に集めている
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2台でゴールラッシュに挑んだGパワー☆ナイト+
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見事に7位で決勝トーナメントに進出した福岡工業高等学校情報工学科チーム
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9位は三人のこびと
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九州にもいた家族チームのドカファイターズ
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予選を突破してサッカーのトーナメント戦に進出したのは次の8チームだ。
1位 チーム☆アリウス 44点(21+23)
2位 チーム極 43点(20+23)
3位 カイザーオールスターズ 42点(27+15)
4位 九州共立大 36点(18+18)
5位 九州三銃士 34点(20+14)
6位 Gパワー☆ナイト+ 21点(9+12)
7位 福岡工業高等学校情報工学科 17点(6+11)
8位 九産大チーム 15点(8+7)
この中の「Gパワー☆ナイト+」は1台が直前で故障し、2台で挑んで決勝トーナメント進出を果たした。また福岡工業高等学校情報工学科は、高校生チームながら市販機のRB2000でチャレンジし、見事に決勝トーナメントに進出した。
● 決勝トーナメント
決勝トーナメントはもちろんサッカーによる試合になる。基本的なルールは人間のサッカーに順ずるが、ROBO-ONEサッカーとは違ってボールが出た時はスローインではなくキックインでボールを入れるなどの細かい違いがある。試合は前半5分、後半5分。ハーフタイムは5分間あるが、両チームが合意すればバッテリ交換ぐらいですぐに試合は再開されていた。
試合時間内に決着がつかなかった場合は、先に点を入れた方が勝利するVゴール形式の延長戦が3分間行なわれ、それでも決着がつかなかった場合はPK戦で勝負を決定する。
決勝トーナメントの組み合わせは、予選1位と予選8位、予選2位と予選7位というように予選順位が高いものほど有利となっている。
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決勝トーナメント組み合わせ
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サッカーコートの様子。床面はKONDOU-CUPとは違い、パンチカーペットを使用
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上部のモニターには、コートの様子が映し出されている
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● 第1回戦始まる
第1回戦の最初の試合は九州共立大学 VS 九州三銃士。九州練習会でいつも顔を合わせているチーム同士の戦いとなった。
KONDO-CUPにも参加して、サッカーに慣れている九州三銃士が有利かと思われたが、試合が始まると、九州共立大学の疾風が正面からのシュートで先制点を奪う。これに対して九州三銃士も反撃し、ゴール前に転がったボールをAutomoNikoがサイドステップで押し込み、1-1のイーブンとした。後半は両者とも譲らない緊迫した試合で0-0で終え、結局1-1で1試合目から延長戦に突入した。
延長戦ではスーパーディガーが蹴り込んで勝負を決め、九州三銃士が1回戦を突破した。
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第一試合目の九州三銃士 VS 九州共立大学。一番右が先取点を奪った九州共立大学の疾風
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延長戦でスーパーディガーがVゴールを決めたところ
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2試合目はチーム極 VS 福岡工業高等学校情報工学科。福岡工業高等学校情報工学科チームはRB2000を使っているため、同じ流れを汲む「特別機 VS 市販機」の戦いとなった。やはりその性能差は大きく(F-1マシーンと市販の自動車くらいの差はありそうだ)、チーム極が高校生チームを圧倒。前半3-0、後半3-0と大差のついた試合になってしまった(なお、チーム極のRB2000βは全得点をたたき出し、ヒューマノイドカップサッカー大会が公募制になってから5台目のハットトリック達成機体となった)。
それでも高校生チームは最後まで諦めることなく果敢に戦った。その健闘はたたえられるべきものだ。
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福岡工業高等学校情報工学科 VS チーム極。福岡工業高等学校情報工学科チームはリボンで機体の識別をしているようだ
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性能差はいかんともしがたく、次々と点を取られてしまう
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3試合目はカイザーオールスターズ VS Gパワー☆ナイト+。Gパワー☆ナイト+は、Gパワーローダーネクストとホワイトナイトという九州の誇る高速ツートップのチームだ。だが、大会開始直前にキーパーが故障し、なんとか修理したもののほとんど動けない状態。これでは高い運動性能を誇るカイザーオールスターズの圧倒的有利は否めない。
しかし、試合が始まると敵陣に攻め込み、試合を作ったのはGパワー☆ナイト+の方だった。特にGパワーローダーネクストには「その場足踏み高速転回」という技があり、カイザーオールスターズがその動きに戸惑っている感じがあった。
善戦するGパワー☆ナイト+だったが、前半の終了近くにGパワー☆ナイト+の2台が転倒。抜かれてしまうと後は無人のゴールが待っているようなもので、カイザーオールスターズのThunderが1点を先取。それから均衡が崩れ、後半にはFireに2点を追加されて勝負を決められてしまった。Gパワー☆ナイト+はキーパーの不調があまりに痛かった。
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序盤は攻め込んでいたGパワー☆ナイト+
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流れを変えられた1点
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1回戦最後の試合は、チーム☆アリウス VS 九産大チーム。九州でも高い人気を誇るスミイファミリーのチームと、第19回ヒューマノイドカップ・バトル大会で決勝トーナメントに進出するなど最近調子を上げてきている九産大チームの戦いだ。
チーム☆アリウスは、アリウスとありまろ7の2台が高速でコート内を走り回る。これに対して九産大チームは、「ロボット産業マッチングフェア北九州」にも出ていた白金の動きは割とよかったが、もう1台のFWのNo.3の動きがぎこちない。この差はどうしても出てしまい、前半にスミイお父さんの操縦するありまろ7が1点、後半にはアリナお嬢さんの操縦するアリウスが2点を奪取。おまけに九産大チームはオウンゴールでもう1点献上してしまい、番狂わせはならなかった。
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九産大のコートに上がってきたチーム☆アリウスのツートップ
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九産大はチーム☆アリウスのスピードにかきまわされていた
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一回戦の結果は次の通り
・九州三銃士 1-1 九州共立大学× (延長戦で九州三銃士)
・チーム極 6-0 福岡工業高等学校情報工学科×
・カイザーオールスターズ 3-0 Gパワー☆ナイト+×
・チームアリウス 4-0 九産大×
● 僅差の準決勝
準決勝の第1試合は、九州で唯一残った九州三銃士と、前回のリベンジに燃えるチーム極。特に九州三銃士は今回で解散が決まっており(ワイルダー01の勝野氏が九州を離れるため)、ぜひとも決勝戦に進出したいところだ。。
試合は攻守がめまぐるしく変わる緊迫した試合となった。どちらもナイスセーブを連発し(チーム極のキーパーは側転セービングなんてものもやっていた)、ボールはゴールラインを割らない。前半0-0、後半0-0で延長戦に突入。ここでチーム極のRB2000βが均衡を破ってゴールを決め、決勝戦に進んだ。
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チーム極 VS 九州三銃士
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延長戦の様子。キーパーのワイルダーは必死にセーブするが、この後押し込まれて勝負を決められた
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準決勝の第2試合は、カイザーオールスターズ VS チーム☆アリウスという、関西と関東のファミリー対決となった。運動性能の高い機体同士の試合なので、どちらも譲ることのない熱闘が繰り広げられた。
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カイザーオールスターズ VS チーム☆アリウスのファミリー対決。カイザーオールスターズのMARUファミリーが着ているのはガンバ大阪のユニフォーム
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この試合、チーム☆アリウスは3台で壁を作ることが多かった
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しかし、0-0で前半終了かと思われた時、カイザーオールスターズのシュートがチーム☆アリウスのゴールに飛び込んだ(なんと前半終了3秒前!)。チーム☆アリウスは、後半戦の最後はキーパーのアリキオンまで上がって攻め込んだが、ゴールを奪えず、1-0でカイザーオールスターズが勝利した。
・チーム極 0-0 九州三銃士× (延長戦でチーム極)
・カイザーオールスターズ 1-0 チーム☆アリウス×
● 3位決定戦
決勝戦の前には3位決定戦が行なわれ、九州三銃士とチーム☆アリウスが対決。前半は0-0だったが、後半に入り、アリウスがボールを押し込んでゴール。これで決まったかと思われたが、ここで九州三銃士のスーパーディガーが意地を見せてシュートを決め、1-1で試合は延長戦へ。だが、延長戦でアリウスがボールをワイルダーごとゴールに押し込み、3位の座を獲得した。九州三銃士は3試合とも延長戦にもつれ込む粘りを見せたが、地元福岡の大会で入賞を逃した。
・チーム☆アリウス 1-1 九州三銃士× (延長戦でチーム☆アリウス)
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3位決定戦の九州三銃士 VS チーム☆アリウス
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延長戦のVゴール
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● 決勝戦
決勝は、チーム極 VS カイザーオールスターズという関西同士の対決となった。かなり興味深い対決となったが、試合はサッカー経験の差が出たのか(カイザーオールスターズは全員がリアルサッカーの経験者)、前半でカイザーオールスターズが2点先取した。これに対してチーム極もカイザーオールスターズのキーパーの頭を越えるようなループシュートを放つが、どうしても得点を上げられない。カイザーオールスターズは前半の2点を後半も守り抜き、初出場にして初優勝を決めた。
・カイザーオールスターズ 2-0 チーム極×
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決勝戦のチーム極 VS カイザーオールスターズ
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前半、カイザーオールスターズのFire(11番)がゴールを決める
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カイザーオールスターズのキーパーの開脚セービング。キーパーのみ物をつかめるハンドがついており、これで相手の機体をつかんで注意を受けていたりした
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後半、3枚の壁でディフェンスするカイザーオールスターズ
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優勝が決まった瞬間
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トロフィーと共に記念撮影
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インタビューでカイザーオールスターズのNao氏は「(MARUファミリーの)子供たちが一番目に好きなのはサッカー、2番目に好きなのがロボット。だからロボットサッカーで優勝できたのは本当にうれしいです」と語っていた(キングカイザーのチームがロボットサッカー大会で優勝したのはこれが初めて)。
試合後にNao氏にカイザーオールスターズが優勝できた理由を聞いてみた。その理由は「運」「操縦技術」、そして「守りの技術」との答えが返ってきた。特に三番目の「守りの技術」こそ最大の理由だろう(カイザーオールスターズは今回1点も取られていない)。KONDOU-CUPではあまり動きがよくなかったとされるカイザーオールスターズだが、その後、守りの技術を磨いたそうだ。一例を挙げると「ボールを止めただけではだめで、ボールを止めた後に素早く次の動作に移れるようにしました」とのこと。
またカイザーオールスターズは、180度開脚による壁を作っての防御(最初に行なったのはヒューマノイドカップ・サッカーにおけるKHR-1、広めたのはROBO-CUPにおけるハジメロボ)がかなり有効で、敵チームがボールをドリブルで持って上がってもこの壁の前に阻まれてしまい、動きを封じられることが多かった。これを突破するためには、ループシュートを打てるようにするか、横方向に流すしかない。
実はいくつかのチームがセンタリングによる攻撃を試みていた。いずれもボールに追いつかずに失敗しているが、これができるようになるとロボットサッカーの戦術も変わってくるだろう。
今回の大会は大いに盛り上がった。たとえばシュートコースが空くと、子供たちだけでなく大人たちも「行けー!」と大騒ぎになっていたし、親から帰りを促されて「まだ見るー」と泣いている子供もいた。これは競技としてのロボットサッカーが成り立つようになってきたということだろう。これからのロボットサッカーの進化に注目だ。
なお、8月25日26日にはロボスクエアで、第21回ヒューマノイドカップ・スプリント&バトル大会が行なわれることが決定している。
■URL
ロボスクエア
http://www.robosquare.org/
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( 大林憲司 )
2007/07/31 00:35
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