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スキューズ、ロボットハンド・マーケティングセミナーを開催

~人の手と同等以上の機能を持つ世界一のロボットハンドを目指して

 6月26日、ファクトリーオートメーション(FA)と独自に開発したロボットハンド事業を進めているスキューズ株式会社は新丸の内ビル内にある同社東京事業所にてマーケティングセミナーを行なった。

 本誌でも既にレポートしているとおり、スキューズは産学連携で空気圧駆動による五指のロボットハンドを開発している。把持力は重量1kg程度のペットボトルを持てる程度だが、難しい制御を必要とせず、柔らかいものであっても形に添うように把持できる点が特徴だ。


スキューズ株式会社代表取締役 清水三希夫氏
 まず最初に代表取締役の清水三希夫氏が同社のロボットマーケティングについて述べた。

 同社は「まずは世界一の能動義手メーカーを目指す」という。「まずは」というのは、能動義手は通過点に過ぎないと捉えているからであり、「世界一」を目指すのは、ナンバーワン以外は覚えてもらえないからだという。

 スキューズのロボット分野はもともとFA、オートメーション工場で動く機械に関する事業を母体としている。機械化・自動化が進んでいるものの、生産工程現場ではまだまだ人手の作業が多く残っている。また、生産現場は人と機械がもっとも近づく場所でもある。そんな中、変わらず活用されている「人間の手」は、機械にはない器用さや繊細さをもった、作業効率の高い道具であると捉えることもできる。

 同社は、生産工場とは24時間365日止められない、限定された作業が行なわれる場所であり、訓練された人間との協働の場所であると考えた。これは、人間が使う義手に比べれば「低い要求」だという。人間の義手は、熟練してない人間によって、一生涯使われるからだ。よって「生産現場で運用されないロボットハンドが義手として使えるわけがない」、つまりまずは生産現場で使える義手を作ろう、と考えたのだそうだ。

 まずは開発コンセプトを立てた。ものを掴むだけなら5本指はいらないが将来を見越して5本指とし、器用さ、繊細さを備えた人型サイズ、そして人間と接触しても安全、安心なボディ、軽量、かつ携帯性を備えたものとした。

 なお同社のハンドは基本的に指一本一本が独立した構造なので、指の本数はニーズによって容易に変更することが可能だという。人の手と似させている理由は、まずは頂点として人間の手を捉え、そこにトライしたからだと述べた。

 こうして開発されたスキューズのロボットハンドの特徴は、握り、つかみ、そしてつまみ動作ができること。ハンド内部には骨格があり、ものの形によらないしっかりした掴み動作ができる。いっぽう、独自開発の空気圧アクチュエーターを使い、やわらかくモノの形に沿うことができる。制御は基本的に空気を入れるか入れないかのオン/オフだけで行


電力を使わず、エアタンクとメカニカルバルブで動かせるデモンストレーション用のロボットハンド 握手することができる。力加減はごく軽い感じ ロボットハンド内部の骨格。指部分は中空になっていて中に空圧アクチュエーターが入る

【動画】実際に人間の手を握る様子 【動画】開閉する様子

 ハンドの内部には小型の低圧エアアクチュエーター(人工筋肉)が22個、組み込まれている。ハンド内部に能動アクチュエーターを22個内蔵したものは他に例がないという。また、5気圧程度の低圧で駆動するため、小さなコンプレッサーで動かせる。小さいため空気も低容量ですむ。アクチュエーターは同志社大学の辻内研究室と共同開発したもので他の空気圧アクチュエーターと違って線形特性を持ち、最大40%という高収縮率を誇る。3cmタイプ、2気圧のもので2kgの物体を持ち上げることができるという。

 システム構成もシンプルだ。基本的に制御装置で弁をオン/オフするだけである。また電空弁を使うことでゆっくりと手を開閉することもできる。電空弁を使った義手と握手したところ、より人間の腕の筋肉のような感触だった。

 デモンストレーションではボール、紙コップ、水の入ったペットボトル、生卵などを握って持ち上げ、指先がモノに添う様子が実際に示された。いずれも、単に「握る」という動作を行なっただけで、力の制御などは行なっていない。もともとアクチュエーターそのものが柔らかいため、適度なところで力が拮抗した状態で把持することができるのだという。

 強い力を出すものであればアクチュエーターは、モーターのほうがいいが、スキューズでは、柔らかい物体を器用に操作するハンドの開発を目指していくという。

 今後は、このロボットハンドの器用さや速度を上げたり、外装の改良等を行ないつつ、視覚システムやロボットアームと組み合わせたシステムの開発を、他社とも共同して進めていく予定だという。


スキューズのロボット事業部技術担当 平野正徳氏。手に持っているのが空圧アクチュエーター 【動画】アクチュエーターの動き 小型、柔軟、低圧駆動、線形特性、高収縮率、無電磁波、無音といった特徴を持つ

【動画】ボールを握る 【動画】紙コップを潰さずに握る 【動画】水が入ったペットボトルを握る

【動画】生卵を握る 【動画】ペンを握る 【動画】電空弁を使えばジワジワと力を出すことができる

【動画】ロボットアームとスキューズのハンドを組み合わせた例 【動画】別のタイプのハンドと視覚システムを組み合わせた実験

スキューズ株式会社とは?

 スキューズの東京事業所は今年設置されたばかりで、本社は京都にある。1997年に清水氏が起業した会社で、FA事業部とロボット事業部がある。もともと産業用の硬いハンドは扱っていたが、逆の発想でロボット事業部を生み出したのだという。

 もともとFAの会社であるため、工場現場での運用まで行なえる点が特徴。「こだわっているのは制御ソフトの設計開発で、仕様設計から現場の運用までできる。売りっぱなしではない」と清水氏は述べた。FA事業部によって、会社の利益が生み出され、ロボット技術を生み出すエンジニアを育てることができるのだという。

 ロボットハンドを製造業に限らず、一般環境で使ってもらうことで見えてくることがあるはずだと考えているそうで、今後、このロボットは非常に安価に製作していく予定だという。


スキューズ取締役 ロボット事業部長 市川裕則氏
 スキューズ取締役でロボット事業部長の市川裕則氏は同社の今後1年間の予定について述べた。まず研究機関などを対象に50体のサンプル販売を行ない、ユーザーの声を拾う。そしてハンドを中心とした事業を考える「ハンドソリューション事業」をパートナー5社程度とビジネスとして始める。エンドユーザー導入実績も少なくとも1社作るという。

 具体的には回転寿司業などで、人が行なっている最終工程部分を、ロボットハンドなどに置き換えることを狙っているそうだが、まだ具体的には決まっていないようだ。

 人工筋肉アクチュエーターのOEM供給も1社検討中だという。この空圧アクチュエーターは、化学メーカー、繊維メーカーとも共同で開発しているもので、それらのメーカーにとってはロボット事業に参入する手がかりになるのだと述べた。

 中期計画としては、BtoC商品の開発、また義手のプロトタイプ開発および導入を目指していくという。


世界最高の義手を目指して

東京大学精密機械工学専攻准教授 横井浩史氏
 最後に、同社らが目指す目標としての義手について、東京大学精密機械工学専攻准教授の横井浩史氏が講演した。横井准教授は人・機械が融合したシステムの研究を行なっている。筋電義手の研究が有名だ。「スキューズのハンドは素晴らしいと思った」という。非常に軽いからだ。

 なお横井氏らの研究については本誌過去記事「脳と機械を繋ぐテクノロジーのいま」なども参照されたい。

 手は指の根元に既に2自由度あり、中間に1自由度、先に1自由度ある。つまり指1本だけで4自由度必要だ。手全体では20自由度、手首で3自由度。そしてものをやわらかく握るために手のひらを曲げる必要がある。全部で24自由度ある。また、日常で使えるものとするためには、指先ピンチ力(指先でものを挟む力)で最低10kg程度は必要だという。

 また重量物や長いものを持つためには5本指が必要だという。そういうものを持つときにはわれわれは薬指と小指で握りこみ、人差し指や中指で制御しているのだという。

 これだけの自由度を持ったロボットハンドをモーターで作ろうと思ったら非常に重たくなるし、手先にアクチュエーターを集中させることは難しい。横井氏らは干渉駆動を使って力を出せる義手を開発しているが、その点、スキューズのロボットハンドならば軽く作ることができる。もちろん課題はまだまだ多いのだが、今後、横井氏らの筋電を使った制御手法とスキューズのシステムを組み合わせた義手を開発する予定だという。


東大・横井研究室の筋電義手 【動画】動作の様子 【動画】義手で人の腕を掴んでぶら下がれるくらいの把持力がある

 現在、横井氏らの手法では筋電で10パターンの信号を取ることができる。だが将来は筋電だけではなく、神経系の活動を非侵襲で取ることが目標となるだろうと述べた。脳だけではなく、具体的に運動制御信号をコードしていると考えられる筋肉・骨格系の活動を光または電気で取ることが望ましいという。

 現在、横井教授は、ロボットハンドをつけて訓練することで、人間の脳の活動がどのように変化するかも調べている。従来型のハンドだと視覚フィードバックを使いながら動かしているが、触覚フィードバックを与えると、脳の負荷は減るという。ただし、3カ月程度では新しい道具としての感覚は抜けないようだ。


義手と自分たちの手それぞれで握手する東京大学精密機械工学専攻准教授 横井浩史氏(左)とスキューズ代表取締役の清水三希夫氏(右)
 横井氏は、2020年くらいにはわれわれの感覚を代行する機械は販売されるだろうし、2050年代には人と機械が自然なインターフェイスによって分かちがたく結びつくようになるという。つまりサイボーグである。そうなってくると、新たな倫理的問題も生じる。たとえば腕をさらに何本か付けられるようになったら、身体感覚だけではなく、数の概念も変わるだろうという。

 実用的な義手の開発は世界レベルで見ても、まだまだ開発途上にある。また非常に高価だ。今回のロボットハンドも、現時点ではまだあらゆる点で人の手に遠く及ばない。だがスキューズの市川裕則氏は「日本の技術を結集させれば世界最高の義手を開発できる」と述べた。ビジネス、研究開発双方の面で今後に期待したい。


URL
  スキューズ
  http://www.squse.co.jp/
  東京大学・横井研究室
  http://www.arai.pe.u-tokyo.ac.jp/dcm/index-j.htm

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( 森山和道 )
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