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アイランドシティのシーマークビル。この1階と2階に福岡ビジネス創造センターはある
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6月15日、福岡市のアイランドシティにある福岡ビジネス創造センターにおいて、第17回次世代ロボット研究会が行なわれた。
次世代ロボット研究会は、長田正九州大学名誉教授を座長とした福岡市の運営委員会が開催する、ロボットに関する産官学連携の研究会だ。今回の研究会は、福岡市香椎照葉のアイランドシティにビジネス創造センターが6月4日に開設されたことを記念し、そこに入居しているロボット関連の団体が講演を行なった。
講演を行なったのは、ロボットタウンコンソーシアム、SEREN、株式会社スキューズの三団体。
● ロボットタウンの実現に向けて
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九州大学の村上剛司工学博士
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ロボットタウンコンソーシアムは、九州大学、九州システム技術研究所、安川電機、九州NECソフトウェアの4者からなる研究機関で、ロボットタウンの研究を続けている。今回の講演では、研究の中心である九州大学大学院システム情報科学研究院の村上剛司氏が講演を行なった。
ロボットタウンは、人間の暮らす社会環境にロボットが動けるための情報ネットワークを組み込んだシステムだ。わかりやすく言うと、人間が暮らしている日常環境にセンサーを埋め込んでロボットのためのインフラを整備し、人間とロボットが共に活動できる街を目指そうというものだ。
ロボットが人間と接触しながら活動できるようにするために、ロボット自体に無数の高性能センサーを装着させるとすれば、莫大な費用が必要となる。
それに対してロボット自体には必要最低限のセンサーしか搭載せず、代わりに街や住宅の各所に多数のセンサーを取り付けて環境の情報を収集。収集した情報をタウンマネジメントシステム(TMS・ロボットタウンの中央コンピューターのこと)で管理し、ロボットタウン内のロボットに環境の情報を伝達することにより、「ロボットには活動しやすく、人間には快適な環境」を実現することが、ロボットタウンの目標である。
具体的には、ロボットタウン内の各所に電子タグ(RFIDタグ)を埋め込み、ロボットが自分のいる位置を確認。環境内における情報(人間などがどの位置にいるかなど)は「分散ビジョンシステム」と呼ばれるカメラを使用して把握する。これらの情報が無線LANでタウンマネジメントシステムに集められ、ロボットタウン内におけるロボットの活動を容易にする。
ロボットタウンコンソーシアムでは、ロボットタウンの雛形を目指して、アイランドシティ内で実証実験を行なっている。ビジネス創造センターの近くにモデル住宅があり(「アイランド花どんたく」というイベントで、環境に配慮した素材を使ったモデルハウスとして建築され、そのまま残ったもの)、この家の内部およびその周辺に電子タグとセンサーを取り付け、ロボットを動かして実験を行なっている。今年の1月には、ロボット車椅子にスロープを登らせる公開実験を行なった。
この実験計画は3年計画で実施され、今後は実験ハウスの前にある道路にも電子タグを埋め込み、実験範囲を広げる予定。将来的には日本全国からロボットを持ち込むことのできる実験施設にしたいとの話も聞くことが出来た。
また今年度中には、このモデル住宅で公開実験を行なう予定が発表された。
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ロボットタウンのシステムイメージ
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今年の1月26日に行なわれた自律車椅子が荷物を運ぶ公開実験の様子
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講演会の後、特別に見せていただいた実験用モデルハウス
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公開実験で自律車椅子が使用したスロープ。実験の時は電子タグが貼り付けられていたが、今は撤去されていた
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内部の様子。奥にあるのはサービスロボットのただのパネル。ハウスはロボット実験用に作られたわけではないので、2階に上がるエレベーターなどはない
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カーペットの裏には電子タグが貼られている
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● 福岡のロボットデザイナー
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SERENの西山俊一氏
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SERENは、ロボットのデザインを行なっている、地元福岡県の会社だ。SERENの西山俊一氏はこれまでに、北九州市のゴミ拾いロボット「OSR-01」「OSR-02」(安川情報システム、九州工業大学などが共同開発)、名古屋の「ロボス」などのデザインを手がけている。
西山氏は自動車のデザインをやっていたが、ロボットのデザイナーに転進。ロボットデザインの難しさを「ロボットは動く部分があるので、どうしても外装が干渉する部分が出てくる。できれば機械的な部分は全部隠したいが、(外装が干渉して)動きに支障をきたしてもいけないので、どうしても難しい部分がある」と語っていた。またロボットの重量を軽くするために「外装をできるだけ薄くしなくてはならなかった」など、ロボットならではのデザインの苦労を話していた。
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西山氏がデザインしたOSR-01
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同じくOSR-2
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● リアルなロボットハンド
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スキューズの市川裕則氏
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スキューズは京都が本社の会社で、福岡ビジネス創造センターには福岡事業所を置いている。その理由について「(技術・ソフトウェアなどの)情報の統合は福岡が優れていると思う」と、取締役でロボット事業部長の市川裕則氏は述べていた。
講演の内容は、今一番力を入れている工業用ハンドについてのものだった。少子化で労働人口が減るにつれ、今まで以上に工業用ロボットの出番は必要になってくると予想しているが、「現場から求められているが、これまでのロボットハンドでは不可能なものも多い」とのこと。
その中の一つに「生のケーキをロボットハンドで箱詰めできないか」という要望があったそうだ。現代は菓子メーカーによる賞味期限の偽装が問題になったり、食に対する安全が問われている。そこで「すべての工程をロボットで行なう」発想が出てきたようだ。しかし、現在の工業用ロボットハンドでは不可能な作業で、そのような作業も可能なロボットハンドを開発しようと、スキューズは研究を進めている。
現在、開発中の五指ハンドは、外装にシリコンの皮膚を使った人間の右手にそっくりなものだ(見た目は、はっきり言ってホラー映画の小道具)。ただ、市川氏いわく「うちは化学メーカーや繊維メーカーと付き合いがあったので、今までのロボット義手とは別のアプローチでハンドを作ることができた」と語っているように、随所に新しい機軸が見られる。
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五指ハンドのデモビデオ
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どことなく怖い五指ハンドセット。このセットで稼動させることは可能(ただし、カメラやロボットアームがついてないと、やはり単独では作業不可能)
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五指アームのアップ。親指と人差し指の間の裂け目は親指を内転させるためのものだが、傷に見えてちょっと痛々しい
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スキューズの五指ハンドは、サーボーモーターを使わず空気圧アクチュエーターの人工筋肉で動いている。だが、人工筋肉だけで五指ハンドを構成しているのではなく、人の骨に当たる部分に板を配置し、それに添う形で人工筋肉を配置している。それにより人工筋肉だけでは出せない力を発揮しているという。
あまり詳しくは語られなかったが、空気圧アクチュエーターの膨らみを制御する網についても特殊な繊維を使用しているようだ。
特に市川氏が強調していたのが「親指の内展」だった。人間の手を見てもらえばわかるが、人間の親指は手の内側方向に大きく曲がる。その自由度が人間にとってさまざまな作業を可能にしているが、サーボーモーターを使用しているロボットハンドでは限界があった(親指の付け根に軸数を増やさねばならない)。それを可能にしているのが空気圧アクチュエーターを使ったスキューズのロボットハンドだという。
その特徴として、あいまいな大きさのものでも視覚センサーと感圧センサーを併用して掴むことが可能。実用化すれば今までにできなかった作業も可能となってくるだろう。なお、手首から先(当然ロボットアームはなし)の状態で「150万円くらいを目指している」とのことだった。
福岡ビジネス創造センターはロボットに限った施設というわけではないが、福岡市はロボスクエアと並ぶロボットの拠点の一つと考えているようだ。ここで生まれた技術がロボット産業を前進させていくのかもしれない。
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福岡ビジネス創造センターには「ロボット等作業スペース」も存在する
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作業スペースの工作機械。なお、作業スペースは入居者以外にも1時間3,000円で貸し出している
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■URL
アイランドシティ
http://www.island-city.net/
福岡市 ロボット関連産業の振興
http://www.city.fukuoka.jp/industry/kougyo/10.html
( 大林憲司 )
2007/06/22 17:48
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