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ロボット工学セミナー
~ロボットのつくりかた2007レポート(後編)


センサの選択肢を知る上で重要なメーカーカタログの読み方

【写真1】2日目の実習の講師を務めた埼玉大学大学院の琴坂信哉准教授
 5月31日と6月1日の両日、東京工業大学において、日本ロボット学会の主催により第65回講習会「ロボットの作り方2007」が開催された。ここでは、前日に実施された講義に引き続き、2日目の講義と実習の内容についてレポートする。講師は埼玉大学大学院の琴坂信哉准教授【写真1】。

 午前中の講義は、ロボットに使うセンサの選定方法という話題を中心に進められた。初日第1話を受けて、まずロボットでよく使用されるセンサが紹介された。たとえば、変位センサは、エンコーダであればロボットの関節角を検出する。加速度センサやジャイロセンサはロボットの姿勢を検出するためのもの。歪センサや力センサはロボットの手首や足裏のZMPを測定するためなどに用いられる。これ以外にも距離センサなどさまざまなものがある。

 琴坂准教授は「センサはいずれも物理量を測定するものだが、計測原理が異なるため、これらの違いを心得たうえで、目的によってセンサを選定することが基本。そのベースとなるのがメーカーのカタログやデータシートだ」と説明し、変位センサを例に挙げて、その原理とカタログの読み方について解説した。

 まず変位センサとしてのポテンショメータは、ロータリー型やリニア型などのタイプがあり、角度や移動距離に応じて抵抗値が変わるようになっている【写真2】。計測に使う場合は、リニアリティ(直線性)に優れたものを利用することになる。小型・軽量、安価という特徴がある。

 デジタルエンコーダは、ロボットにおいて関節角度(位置)の計測のために良く利用される。磁気式と光学式に大別され、精度も高く、そこそこの価格で手に入る【写真3】。デジタル出力でノイズにも強く、絶対角度(位置)を検出できるアブソリュート型と、初期位置からの相対変位(位置)のみを検出するインクリメント型がある。産業用ロボットでは電源が切れても位置が分かるアブソリュート型が一般的に用いられている。

 レゾルバは絶対角度の検出が可能だが小型・軽量の製品が少ない。またLVDT(差動変圧器)は、直動の変位を検出する。「レゾルバは最近ではあまり使用されていないようだが、LVDTは海外製品では良く使われている」という【写真4】【写真5】。

 次に、琴坂准教授は、それぞれのセンサに関するカタログの読み方について説明。「センサ全般では、まず原理に関係する測定の方法から選ぶ。直線か回転型か、回転型の場合には一回転でよいのか、あるいは多回転型なのか。さらに接触型か非接触型かなど、各メーカのカタログを見ながら、どのような選択肢があるのか知っておく」と注意点を述べた。


【写真2】変位センサの種類その1。ポテンショメータは抵抗値の変化によって変位を測定するもの。ロータリ型とリニア型がある 【写真3】変位センサの種類その2。デジタルエンコーダ。ロボットの関節角度や位置の検出に最もよく利用される。アブソリュート型とインクリメント型がある

【写真4】変位センサの種類その3。レゾルバは絶対角度の検出が可能。ただし、最近ではあまり使われていないという 【写真5】変位センサの種類その4。LVDT(差動変圧器)は米国製品でよく利用されているという。磁性体ポールを抜き挿しするとコイルに流れる電流が変化する。これを利用し、直線の変位を測定する

 たとえば、エンコーダの場合であれば、信号の出力方式だけでも、「差動出力型」「オープンコレクタ型」「TTL出力型」の3タイプがある【写真6】。差動出力型は、ノイズに強く長距離(カタログスペックでは1.2km)での信号伝送に向くが、接続には差動アンプが要る。

 出力側トランジスタのコレクタがオープンになっている「オープンコレクタ型」の伝送距離は50mほど。接続する際には回路にプルアップ抵抗を入れる。コンピュータのTTL入力やパラレル入力ポートにそのまま接続する場合には「TTL出力型」が手軽だ。ただし、伝送距離は50cm~70cmぐらいと短い。

 このように、出力方式でも一長一短があるので、状況に応じてどのタイプを利用するのか考える必要がある。このほかに、カタログから、使用モータと組み合わせた場合の長さ、要求仕様を満たす分解能、出力方式とピン配置、計測原理などを洗い出しながら選択していく【写真7】。

 また、加速度センサに関する説明もなされた。半導体技術を利用したMEMS式(ピエゾ、静電容量、熱検知)、ファラデーの法則を利用した動電式、抵抗変化を利用する歪ゲージ式、加速度で変形すると電荷を発生する圧電式などがある。特にMEMS技術によるセンサ技術の向上には目覚しく、安価な製品が数多く登場している【写真8】。「携帯電話やゲーム機などの普及にともなって、加速度センサ、ジャイロスコープなどの大幅な小型化や高性能化がみられる」(琴坂准教授)という。


【写真6】エンコーダの出力方式。「差動出力型」「オープンコレクタ型」「TTL出力型」の3タイプがあるが、最も伝送距離が長いのは差動出力型 【写真7】エンコーダのデータシートの読み方。使用モータと組み合わせた場合の長さ、分解能、出力方式とピン配置、計測原理などから製品をチョイスする 【写真8】MEMS式加速度センサの種類。MEMS技術の革新には目覚しいものがあり、安価な製品が数多く登場している。ただし、周波数応答はあまりよろしくない

 加速度センサのカタログを読む場合に特に重要な点は周波数特性だ。またダイナミックレンジや耐衝撃性にも注意する。測定レンジが広すぎると、測定したい肝心の信号がノイズと同じレベルになって分からなくなってしまう。また衝撃そのものに弱いと、使い方によってはセンサ自体が壊れてしまうこともあるからだ。

 ロボットの姿勢制御に用いられる角速度センサもさまざまなものが出ている。角速度センサを搭載するジャイロスコープには、コリオリの力を利用する振動式、コマの高速回転によるジャイロ効果を利用する機械式、レーザー光による光学式、熱線温度で検知する流体式などがある。こちらも測定範囲はもちろん、応答周波数やリニアリティなどから選定する。また1方向のみだけでなく、アレイシステムへの要求もある。XYZ方向の3軸加速度センサのほか、最近では方位も知るために、地磁センサと加速度センサを組み合わせた製品も出ているそうだ【写真9】。

 力センサは、ロボットが物をハンドリングする際だけでなく、二足歩行ロボットの足裏にかかる力や、人と触れ合う際の触覚でも必要になってきている。安価な感圧抵抗式から、一般的な歪ゲージ式、小型・軽量な静電容量式、光ファイバー式などがある。

 このうち、歪ゲージは耐加重性もあり、応答周波数帯域も広いため、ロボットに一般的に利用されているが、センサアンプは比較的高い。静電容量式は小型ロボットやポインティングデバイスなどに利用されている。また、光ファイバー式は研究者の間で注目されている最新方式だ。

 「人間の皮膚に相当するものをロボットに装備したい場合に光ファイバー式が使えるということで、さかんに研究されている」(琴坂准教授)。いずれも、測定すべき力やモーメント、応答周波数、耐加重、サイズや重量などから選定していく【写真10】。


【写真9】地磁気センサと加速度センサを複数組み合わせた姿勢センサの例。3軸のほか、モーメントも検出する6軸タイプの製品もある 【写真10】歪ゲージ式力センサのデータシートの読み方。多軸タイプの製品は国内では2社しかない。測定すべき力、応答周波数、耐加重、サイズや重量などから選定

実習キットの組み立てとプログラミング環境の構築

 このようなセンサ選定の知識を学習したうえで、いよいよ午前中後半から実習が始まった。今回の実習で使用するキット【写真11】のメインボードは、シリアルインターフェイス、フラッシュROMライター、電源回路などが組み込まれたベースボード(秋月通商製)に加え、16ビットワンチップマイコン「H8/3694F」(ルネサステクノロジ製)を搭載【写真12】。このほかに、TTL出力やA/D入力端子などが付いた拡張ボード、可変抵抗器(ポテンショメータ)、RCサーボモータなどが含まれている【写真13】【写真14】。

 前準備として、これらを接続する。メインボードはシリアルインターフェイスでつなげるが、最近のノートPCはUSBインターフェイスが一般的なので、USB-Serial変換器を介して、ノートPCに接続する【写真15】【写真16】。


【写真11】実習で使用するキット。ベースボードはあらかじめ組み立てられており、ハードウェアのセッティングはとても簡単だった 【写真12】メインボード。シリアル通信用ICや電源回路、フラッシュROMライターなどが組み込まれたベースボードに、16ビットワンチップマイコン「H8/3694F」(ルネサステクノロジ製)が搭載されている 【写真13】拡張ボード(上)、ポテンショメータ(下)、RCサーボモータ(左)。拡張ボードには入力時の過電圧保護、インピーダンスマッチング、ローパスフィルタなどの機能がある。ここにポテンショメータとRCサーボモータを接続する

【写真14】RCサーボは、ミニスタジオ有限会社の「MiniS RB50」を使用。トルク0.8kg・cm、電源電圧4.8V。入力信号のデューティ比が目標角度になる 【写真15】メインボードにUSB-Sirial変換器のコネクタを接続したところ。フラッシュライター、ターミナルソフトの使用時にはCOMポートの設定が必要 【写真16】キットのモジュールをすべて接続したところ。RCサーボモータやメインボード用電源としてアルカリ乾電池も取り付ける

 次にC言語のプログラムを扱うため、ノートPCにベストテクノロジーの「GCC Developer Lite 1.9.1.6最新版(以下、GDL)」をインストールする【画面1】。GDLは無料で配布されているもの。GDLによって「コンパイル」→「ビルド」を選び、Cプログラムをコンパイルし、フラッシュライタによってメインボードに搭載されているH8マイコンにマシンコードを書き込む【画面2】【画面3】【画面4】。

 ここでの主な設定は、プログラム書き込む際に必要なメインボードのジャンパの変更と、ノートPCやフラッシュライター、ターミナルソフト使用時のCOMポートの選択など【画面5】。

 セッティングがすべて完了したら、テストプログラムを用いて、キットがうまく動作するかどうか確認する。GDLのメニューから「ツール」→「SimpleTerm」を選んで起動。メインボードと通信を行なって、プログラムを実行し、結果を表示させる。プログラム実行時にはメインボードのジャンパーピンの設定を元に戻す。テストプログラムでは、「hello」を10回分表示した後、簡単な四則演算をする【画面6】。


【画面1】ベストテクノロジーから無償で提供されているGCC Developer Lite 1.9.1.6最新版をノートPCにインストール 【画面2】テスト用のCプログラムをコンパイルする。「コンパイル」→「ビルド」を選ぶ 【画面3】コンパイルが無事終了すると、「フラッシュライタ(FW)を起動しますか?」というメッセージが出るのでOKをクリック

【画面4】フラッシュライタが起動し、H8マイコンのフラッシュROMにマシンコードが書き込まれる 【画面5】プログラムを書き込む際には、フラッシュライタのCOMポートの設定を確認すること 【画面6】「ツール」→「SimpleTerm」を選んで、これを起動し、メインボードと通信を行って、プログラムを実行。この際にはメインボードのジャンパーの設定を変更する

センサを利用して、RCサーボモータのマスタ・スレーブ動作の実習も

 2日のメインとなるセンサ実習は午後から実施された。RCサーボモータのマスタ・スレーブ動作、ポテンショメータ出力のモニタリング、グラフ出力による波形観測などの実習が行なわれた。

 マスタ・スレーブ動作の実験は、ポテンショメータ(マスタ)によってRCサーボ(スレーブ)の回転角を制御するというもの。配布プログラムを実行し、ポテンショメータを回すと、それに同期してRCサーボが回転する【動画1】【画面7】。

 ポテンショメータを固定していても、RCサーボは常にガタガタと動いている。この原因として考えられる点は、「RCサーボ自体の制御特性や、モータ自体からノイズを発生していたり、外来ノイズ、H8マイコンによるノイズなども考えられる」(琴坂准教授)という。ゼロに固定したポテンショメータの出力をSimpleTermでモニタリングすると、実際にA/D変換後の数値にかなりバラつきがあることが分かった【画面8】。

 この出力のバラつきを失くすために、もう1つの配布プログラムによる実習が行なわれた。このプログラムは、移動平均法によってフィルタ処理を施すプログラムで、ある時刻から遡って数個分のデータを平均して現在のデータとしてみなすもの(ただし移動平均法は周波数特性がよくないので、実際の計測には推奨しないという)。

 このプログラムを実行し、同様にポテンショメータの出力をモニタリングすると、前回より出力変動の幅が小さくなり、RCサーボの動きも若干滑らかになったことを確認できた【画面9】。


【動画1】マスタ・スレーブ動作の実験。ポテンショメータを回すと、それに同期してRCサーボが回転する 【画面7】ポテンショメータを動かしながら、簡易グラフィック出力ソフト(千葉工業大学 林原靖男助教授作)によって出力をグラフ表示させる

【画面8】ポテンショメータの出力をSimpleTermによってモニタリング。マイコン内蔵のA/D変換器は10ビット(0-1023)の分解能をもつ。ゼロにポテンショメータを固定しても0から100ぐらいまでと、数値にかなりバラつきがあり、ノイズが乗っていることが分かる 【画面9】移動平均法によってフィルタ処理を施すプログラム(4つのデータを平均)を書き込み、RCサーボの動きを比較。画面はSimpleTermで表示されたA/D変換後の数値。数値は0から14までとバラツキが小さくなり、RCサーボの動きもあまりガタつかなくなった

 次に、ロボットで利用されるさまざまなセンサの実験が行なわれた。利用したセンサは角速度センサ、赤外線センサ、曲げセンサ、衝撃センサ、加速度センサなど【写真17】【動画2】。このほかに、信号発生器によってサンプリング周期とエイリアシング現象を観測する実験もあった。

 角速度の計測には、近藤科学のジャイロセンサユニット「KRG-3」などが使われた。これは、2足歩行ロボットの姿勢制御に用いられるセンサとしてよく知られているもの。検出範囲が±300deg/secで、角速度に比例した電圧を出力する。

 実験では、メインボードのポテンショメータの代わりにジャイロセンサユニットを接続し、センサを手で振って、その出力値をモニタリングしたり、RCサーボの動きを観察した【動画3】。また浅草ギ研の曲げセンサも同様に取り付けて、RCサーボの動きを確認【写真18】。センサを曲げると曲げに応じて、RCサーボが動き出すというものだ【動画4】。


【写真17】実習で使う各種センサ。角速度センサ、赤外線センサ、曲げセンサ、衝撃センサ、加速度センサなど 【動画2】琴坂研究室で製作したロボットハンドのデモンストレーションも。指に障害のある人をサポートするもので、曲げセンサを利用し、小指を動かすだけで、500mlのペットボトルを把持できるという 【動画3】角速度センサ(ジャイロユニット)の実験。センサ長手方向を軸として振って、角速度の出力値を計測する

【写真18】浅草ギ研の曲げセンサ。曲げると抵抗値が変化する。通常は10kΩほどだが、曲げの度合いによって30~40kΩになる 【動画4】曲げセンサの実験。拡張ボードに曲げセンサを取り付け、それを手で曲げると湾曲に応じてRCサーボが動き出す

 一方、赤外線センサによる実験では、SANYOの赤外線リモコン受信モジュール「SPS440-1」を使って、テレビリモコンなどでチャンネルを選択し、そのときの信号波形をデジタルオシロスコープで観測した【写真19】。サンプリング周期やローパスフィルタの関係から波形が矩形波ではなく、かなりなまって見えていることが分かった【写真20】。

 衝撃の実験では、PCB PiezotronicsのICP型水晶衝撃用ロードセルやKISTLERの加速度センサ「K-SHEAR」を取り付け、デジタルオシロスコープで加速度を表示させた【写真21】。いずれもセンサの出力を増幅させるアンプが必要になる。

 また、信号発生器によるサンプリング周期とエイリアシング現象の観測では、H8マイコンに正弦波を入力し、波形の周波数を1Hzから徐々に変化させた【写真22】【写真23】。

 徐々に波形が歪みはじめ、さらに周波数を高くすると元の波形に戻る。しかし、この波形はエイリアシングによるもので、実際には存在しない波形。配布プログラムではわざとサンプリング周期を100msと遅くしており、1秒間に10回ずつデータを取っている。


【写真19】赤外線センサによる実験。テレビリモコンなど(ここでは携帯電話)でチャンネルを選択し、信号波形をデジタルオシロスコープで観測 【写真20】デジタルオシロスコープで観察した波形。本来ならばキレイな方形波が出るが、ここでは波形がなまっている。左側のギザギザの波形はチャンネルを区別するための信号 【写真21】加速度センサ「K-SHEAR」による実験。測定レンジは5,000G。周波数応答の関係からデジタルオシロスコープで波形を観測した。通常、柔らかいものを落とすと100Gぐらいの衝撃になる。交通事故などでは10,000G以上になることもあるという

【写真22】信号発生器によるサンプリング周期とエイリアシング現象の観測。H8に正弦波を入力する 【写真23】信号発生器で周波数を1Hzから徐々に変化させていく。周波数を高くしていくと、本来はない波形が見えてくる

 サンプリング定理では本当の波形を観測できるのは周波数の半分であり、ここでは原理的に5Hzの波形までとなる。これ以上、周波数を上げると、観測される波形は実際とは異なるサンプリング点の軌跡(エンベロープ)を取ることになってしまう。波形を測定するときはエイリアシングを発生させないように、サンプリングの周波数に注意しなければならないことが説明された。

 2日にわたるセミナーは、ロボットで利用されるセンサの基礎的な講義から応用に加え、実習による体験もできて、とても有意義なものであった。


URL
  日本ロボット学会
  http://www.rsj.or.jp/

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~ロボットのつくりかた2007レポート(前編)(2007/06/07)



( 井上猛雄 )
2007/06/08 00:04

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