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飛行ロボットで文字を読み取る!
~「第2回全日本学生室内飛行ロボットコンテスト」が開催


小型カメラで文字を読み取る飛行ロボット競技

【写真1】今年で2回目を迎える新しいロボット競技「全日本学生室内飛行ロボットコンテスト」。大田区産業プラザにおいて開催された
 3月24日と25日の両日、大田区産業プラザにおいて、「第2回全日本学生室内飛行ロボットコンテスト」が開催された。主催は社団法人 日本航空宇宙学会、協賛は東京大学21世紀COEプログラム「機械システム・イノベーション」、中小企業支援NPO法人 大田ビジネス創造協議会(OBK)、大田区など【写真1】。

 本大会は昨年初めて開催された新しいロボット競技会。飛行ロボットは、災害時の状況把握や自然環境の観測などを目的に開発が進んでおり、今後の実用化が期待される分野。この大会のテーマは飛行ロボットの研究開発を促進し、設計・製作・試験技術に関する教育を支援すること。飛行ロボット競技会は、総合的な工学教育に適しており、チームワークによる実践的な「ものづくり経験」を体得できる場としても有効だという。

 大会初日は小中学生を対象とした「折り紙ヒコーキ大会」や、コンテストに向けた「機体審査」「プレゼンテーション」などが実施された。ここでは大会2日目に行なわれた飛行コンテストを中心にレポートする。

 本大会のルールは、自作の飛行ロボットに搭載した27万画素の超小型カメラで、床に置かれた紙の文字を読み取り、得点を競い合うというもの【写真2】。超小型カメラにはアールエフ製の「RC‐12」が指定されている。このカメラは防水仕様のため、水中ロボットにも利用できる優れものだ。カメラからの映像は無線で別の場所にある観測ブースに送られ、チームの観測者がモニタごしに文字を判別・回答する方式【写真3】。得点は読み取り文字数、飛行時間、着地回数の有無をベースに、あらかじめ決められた計算式で算出する。

 飛行ロボットをスタート地点からフライトさせ、通過ゲートをくぐり抜け、半径10mの観測フィールドに散りばめられた合計20枚の文字板の上を通過させる【写真4】。試合では2回のトライアルが許されている。飛行ロボット競技は、3次元という空間的な要素が入るため制御がとても難しい。しかし、逆に、これが本競技の面白さでもあり、醍醐味でもあるといえるだろう。また、うまく飛ばすための技術力に加えて、オペレータのテクニックや、それをサポートするチームメイトの協力も重要になる競技だ。

 今回の大会は、「飛行船部門」と「飛行機部門」の2タイプの飛行ロボットに分けて競技が実施された。


【写真2】自作の飛行ロボットに搭載した超小型カメラで、床に置かれた紙の文字を読み取り、得点を競い合う。3次元空間を動き回れる飛行ロボットならではのユニークなルールだ 【写真3】カメラからの映像は別の場所にある観測ブースに送られる。ここにチームの観測者が待機しており、カメラモニタごしに文字を判別し、回答する方式だ 【写真4】フィールドの半ばに設けられた通過ゲート。ここを通り抜け、観測フィールドにある文字板をカメラで読み取る

ジャイロを搭載して姿勢制御をする飛行船も

 飛行船ロボット部門では、大学・高専など合計6チームがエントリーした。前述のように飛行ロボットの制御は難しい。特に飛行船の機体は外乱を受けやすいため、安定飛行させるための高度な制御技術も学術的レベルで研究されているほど。今回の競技では、外乱の影響を極力排除するために、試合中の外部の出入りは厳重に禁止されていた。

 飛行船の機体全長は1.5m以下に収めなければならない。また浮揚気体にはヘリウムを使用することになっている。自作の飛行船ロボットは、推進力を得るためにプロペラを搭載し、方向や高度を制御する機構が盛り込まれている。プロペラは2基付いており、一方をオンオフさせて方向を制御する。高度はプロペラの角度を変えて制御する仕組みがオーソドックス。競技時間は基本4分(最長6分)で、6分以内に帰還できないと失格となる。

 飛行船部門で特に印象的だったチームは、東京都立科学技術大学の「じんべえ」【写真5】【動画1】と筑波大学の「筑波 Two Month」【写真6】【動画2】の2チーム。いずれも機体が安定しており、スムーズに飛んでいた。


【写真5】東京都立科学技術大学の飛行船ロボット「じんべえ」。機体にジャイロを搭載し、姿勢情報をフィードバックして制御をかけている 【動画1】じんべえの競技の模様。方向の切り替えもスムーズ。オペレータ以外にサポータが、どの文字板を読み取ればよいか的確に指示を出している

【写真6】筑波大学の「筑波TwoMonth」。徹底的な軽量化を図ったという飛行船ロボット。こちらもチームワークがよく、スムーズな動きで得点も高かった 【動画2】筑波TwoMonthの競技の模様。こちらも素早い動きだ。やはりオペレーションにはある程度慣れも必要

 じんべえの特徴は、機体にジャイロを搭載し、姿勢情報をフィードバックして制御をかけているところ。高さ方向を制御するために超音波トランスデューサも使用する予定だったそうで、基板回路にはすでに専用チップも載っていた。またドライブ用のMOSFETもスイッチング効率の良いものを選んだという。このチームの機体は近い将来、自律飛行もできるようになるかもしれない。操作方法も凝っており、市販の操縦桿とスロットルを段ボールのボードに載せ、コントロールできるようにしてあった【写真7】。操作信号はバックパックに入れてあるPCに入力され、無線アンテナ経由で飛行船に飛ばす。オペレータはサイバーな感じで、なかなか格好よかった。

 一方、後者の筑波 Two Monthは、機体を軽くするために、徹底的な軽量化を図ったという。まず基板がとても小さい点が特徴【写真8】。基板裏側にあるマイコン(AVR)は表面実装品を使っている。これを手作業でハンダ付けをした器用さには驚かされた。機体のレシーバには、飛行機などのラジコンで用いられる双葉電子工業の「PCM1024」を使用【写真9】。ヘリウムガスを充填する素材にはアルミ蒸着の特殊品を業者から手に入れたそうだ。


【写真7】東京都立科学技術大学チームのオペレータ。市販の操縦桿とスロットルでコントロールできるように工夫している。こちらは飛行機ロボットの競技にも使えそうだ 【写真8】筑波TwoMonthに搭載されていた小さな基板。モータ駆動用に使われる3つのFETが見える。コントロール系のデバイスは裏面に実装されている。マイコン(AVR)は表面実装品を手ハンダしたという。器用だ 【写真9】機体のレシーバには双葉電子工業の「PCM1024」を使用。飛行機やヘリコプターなどのラジコンで用いられるもの

 外観が面白かったものとしては、早稲田大学の「Airframer」【写真10】【写真11】と電気通信大学の「さかな」【写真12】【動画3】が挙げられる。前者は2つのバルーンを組み合わせている。また後者は名前のとおり魚の形をしており、尾びれをパタパタさせて動く。残念ながら推力をうまく発生できなかったものの、とてもユニークな発想だと感じた。このほか、防衛大学校【写真13】や青森職業能力開発短期大学校【写真14】の機体も善戦した。


【写真10】早稲田大学の「Airframer」。飛行船の双胴機タイプという発想がとても面白い 【写真11】Airframerの中枢部。カメラは下向きに取り付けられている。プロペラの駆動にはサーボモータを利用。調整用ボリュームがむき出しになっていて、手作り感が漂う

【写真12】電気通信大学の「さかな」。尾びれをパタパタさせて動く。推力をうまく発生できなかったものの、楽しい発想に脱帽 【動画3】さかなの動き。尾尻の角度を制御して方向も変えるしくみ。これで必要な推進力さえ得られればバッチリだ

【写真13】防衛大学校の「ELLIPTICAL SHIP」。今回は思うように動かなかったようだが、来年に期待! 【写真14】青森職業能力開発短期大学校の「東日流号」。こちらも来年こそリベンジを果たそう

創意工夫が凝らされた多数の飛行機ロボットがエントリー

【写真15】飛行機ロボット部門も基本的には飛行船部門と同じルール。ただし、移動速度が速いためか、飛行時間は基本2分(最長3分)と短めに規定されている
 飛行機ロボット部門も基本的には飛行船部門とルールは同じ。床に書かれた文字を、飛行機に搭載されたカメラで読み取っていく【写真15】。ただし飛行時間は飛行船より短く、基本2分(最長3分)。それまでにフィニッシュラインまで戻ってこれなければ失格となる。競技のポイントは、できるだけ落ちないように安定した機体を作ることだという。飛行船の場合には心配はないが、飛行機の場合は速度も速く、墜落すると機体が壊れてしまうことがあるからだ。実際にこの大会でも致命的なダメージを受け、次の試合に参加できなくなるチームもいたようだ。

 また、高度の制御も重要だ。あまり高すぎるとカメラのピントが合わず、肝心の文字を読み取ることができなくなってしまう。機体を操作するための練習として、事前にフライトシミュレータを利用して、みっちりと訓練してきたチームもあった。さらに、規定時間内に帰還しなければ失格になるため、文字読み取りの時間配分も戦略上のポイントになるだろう。

 エントリーされた19機の飛行ロボットは各チームごとに個性がいかんなく発揮され、バラエティに富んだモノが勢ぞろいしていた。数が多いため、以下に特徴的だった機体をチョイスして紹介する。

 名古屋大学の「カワセミ」【写真16】は、ブーメンランのように主翼だけしか構成要素を持たない全翼機と呼ばれるもの。このタイプは水平尾翼の機能も主翼に設けた舵面で代替しなければならない【写真17】。無駄な要素がないため、重量が軽く、空気抵抗も小さい。その一方で、少ない構成要素で機能を実現させるために、1つの要素に複数の機能を兼ね備える工夫が必要。うまく飛ばすためには、機体設計から離陸テクニックまでハードルが高い。カワセミはこれらをクリアし、安定した飛行を実現していた【動画4】。


【写真16】名古屋大学の飛行機ロボット「カワセミ」は全翼機タイプ。構造が簡単になればなるほど設計が難しくなり、高度な技術レベルが要求される 【写真17】WAYPOINTの超薄型軽量な「Ultra-Micro Servo」を利用して、主翼に設けた舵面を制御することで、機首の上げ下げを行なう。舵面はセロテープで補強しているという 【動画4】カワセミの動き。なんだか本当のブーメランがぐるりと回っているようなイメージで楽しい。実際にうまく飛行していることがよくわかる

 また、東京大学の「飛悠人」(ひゅうまん)【写真18】も機体が特徴的だった。主翼とVテールを結合したジョインド・ウイング方式(結合翼式)を採用。この形態は、翼端で主翼とVテールが互いに支え合って頑丈になる構造だが、その飛行技術は大変難しい。機体の調整やスラスト軸の合わせ方、精度のよい組み立てができないと飛ばすこともままならないというが、見事にうまく飛んでいた【動画5】。


【写真18】東京大学の「飛悠人」(ひゅうまん)。主翼とVテールを結合したジョインド・ウイング式(結合翼式)を採用 【動画5】ユニークな形状で目をひいた飛悠人の競技内容。難易度の高い飛行を見事にクリア!

 東京都立航空工業高等専門学校の「鴎」【写真19】や「IGA」【写真20】【動画6】はフレーム構造で軽量化され、スムーズなフライトを可能にした機体。同じような構造としては、福岡工業大学の「Slow Flier」や、日本大学大学院の「Libellen-07」【写真21】【動画7】もあった。Libellen-07はカメラが可動式になっており、文字の読み取りにもひと工夫していた。


【写真19】東京都立航空工業高等専門学校の「鴎」。名前のごとく、かもめのようなフライトであった 【写真20】同じく東京都立航空工業高等専門学校の「IGA」。制限重量150gをクリアするように、機体を軽くする工夫が凝らされている 【動画6】「IGA」の競技の模様。鴎と同様に、こちらもスムーズなフライトを実現

【写真21】日本大学大学院の「Libellen‐07」。こちらは飛行機部門で見事に優勝を果たした機体 【動画7】「Libellen‐07」は可動式カメラを備えており、文字の読み取りもひと工夫ガ凝らされている

 金沢工業大学の「弐号機」【写真22】は、オーソドックスなタイプながら、リベンジを果たすべく入念な準備を進めてきた機体だ。昨年の設計データを基に機体バランスを熟考し、機体の改良に努めてきたという。その成果が大会でも十二分に発揮され、安定した飛行を実現【動画8】。日本工学院専門学校の「ILLUSION_68」【写真23】【動画9】も同様に安定していた。こちらはクローバ型の水平尾翼が目立った。新居浜工業高等専門学校の「Double Fault 2nd」【写真24】は、機体後端にプロペラを備えている点が特徴。機体を水平に保ったままでの離陸ができないため操作にテクニックがいる。

 このほか、主翼や胴体を2つに分け、運動性が増したり、安定性を向上させる工夫も見られた。要素が増えた分だけ抵抗が増えるが、デザイン的には面白かった。早稲田大学の「昴」【写真25】は双胴機タイプで、重量が分散されるため、主翼の負担が軽減される。また、主翼が2枚ある古典的な複葉機として、東京都立科学技術大学の「ぺけとんび」【写真26】【動画10】もあった。


【写真22】金沢工業大学の「弐号機」。黄色い機体が印象的。この大会のために、入念な準備を進めてきたという 【動画8】弐号機の競技内容。1回目、2回目ともに安定したフライトで着実に文字を読み取っていた。同校のもうひとつの機体「D.Wada」もスムーズに飛んでいた

【写真23】日本工学院専門学校の「ILLUSION_68」。クローバ型の水平尾翼が目をひいた 【動画9】ILLUSION_68の競技。方向転換と高度のコントロールも滑らか。オペレーションがうまいと感じた

【写真24】新居浜工業高等専門学校の「Double Fault 2nd」。機体前にプロペラを備えるものが多い中で、こちらは機体後端に取り付けている点がミソ 【写真25】早稲田大学の「昴」は双胴機タイプ。水上から離陸するような競技があれば活躍できるかもしれない

【写真26】東京都立科学技術大学の「ぺけとんび」。主翼が2枚ある古典的な複葉機 【動画10】ぺけとんびの競技。主翼が2枚あるぶん、機体に抵抗がかかるが、滑らかに飛び、見ていて気持ちがよかった

将来的には国際大会も視野に! プレゼンも英語で実施

 2回のフライトのあと、前日のプレゼンテーションなどの内容を加味して、入賞チームが発表された。以下に各部門の入賞チームを紹介する。

【飛行機部門】
1位 Libellen‐07(日本大学大学院)
2位 弐号機(金沢工業大学)
3位 鴎(東京都立航空工業高等専門学校)
4位 ILLUSION_68(日本工学院専門学校)
5位 IGA(東京都立航空工業高等学校)
6位 Slow Flier(福岡工業大学)

【飛行船部門】
1位 じんべえ(東京都立科学技術大学)
2位 筑波TwoMonth(筑波大学)

【特別賞】
・プレゼンテーション賞 Libellen‐07(日本大学大学院)
・ベストデザイン賞 カワセミ(名古屋大学)
・ユニークデザイン賞 さかな(電気通信大学)
・ベストクラフト賞 飛悠人(ひゅうまん 東京大学)
・ベストパイロット賞 筑波TwoMonth(筑波大学)


【写真27】東京大学大学大学院の鈴木真二教授による閉会の辞
 最後に、大会委員長の鈴木真二氏(東京大学大学院教授)が、本大会の実現に尽力された関係各位に対し謝辞を表し、閉会の辞を述べた【写真27】。「第3回大会は、ぜひ国際大会にしたいと考えている(インドネシアチームが参加する予定)。その際にはプレゼンテーションも英語で実施されるので、今から準備しておいて欲しい」と語り、大会の幕を閉じた。


URL
  全日本学生室内飛行ロボットコンテスト実行委員会
  http://www.indoorflight.t.u-tokyo.ac.jp/


( 井上猛雄 )
2007/03/27 11:35

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